新型コロナとホームレス。炊き出し自粛、ネカフェ閉鎖で追い詰められる社会的弱者

新型コロナとホームレス。炊き出し自粛、ネカフェ閉鎖で追い詰められる社会的弱者

「新宿ごはんプラス」では、弁当配布のほかに支援制度や健康状態の相談なども定期的に行っている

 新型コロナウイルスの影響により炊き出しの自粛や、ネカフェの休業で居場所を失い、さらには日雇い仕事も減少中とホームレスたちの生活が追い詰められている。コロナの感染により社会が混沌としていくなか、彼らは何を思っているのだろうか。実情に迫るべく、ホームレスを直撃してみた。

◆コロナに感染するよりも仕事と食料を失うのが怖い

 政府から緊急事態宣言が発出される3日前。民間団体の「新宿ごはんプラス」が運営する炊き出しには、食料を求めて100人近くの生活困窮者が集まっていた。彼らはコロナ禍でどんな危機に直面しているのか。まず、仲間と並ぶ人たちが多いなかで、ひとり静かに待っている若い男性(31歳)に声をかけてみる。彼は1週間前に上京して、ネカフェ生活を送っているという。

「大阪で建築現場の日雇い寮にいましたが、コロナで仕事が半減して。それで東京のほうが仕事があると思って上京したその日に新宿の公園で野宿したら、貴重品を盗まれてしまって……。今はSNSで募集されるパチンコ店の引き子(一回2000円)で凌いでます。今はコロナの感染より寝る場所を確保するほうが俺には大事です」

 生活保護を受ける別の小太りの男性(32歳)は、「コロナの脅威は感じない」と楽観視している。

「対策しても感染するときはするんだから、何も考えてないですね。今のところは生活保護で最低限の生活が送れているんで、職探しはコロナが終息してから考えます」

 今はコロナ対策として衛生面に配慮し、炊き出しも弁当配布に切り替わっている。隣には健康相談のブースもあるが、弁当をもらうと足早に去っていく人がほとんどだ。

◆最悪、ゴミ漁りの可能性も。でも食わないと死ぬ

 そんななか、歯がボロボロの男性(53歳)は、「栄養も取れてないし、体調が悪い」と話しながら咳き込んでいた。3月までは日雇い労働を月に4日こなして3万円ほどの収入があったが、4月に入ってからはその仕事もゼロになった。

「炊き出しが中止になった場所から、食べ物を求めてくるヤツも多いんだ。品切れのときもある。俺は一食を3回に分けて食べて、あとは公園の水で腹を膨らませてる。これ以上、炊き出しが減ったらゴミを漁る生活だな……。衛生環境は悪いけど、食わなきゃ死ぬだろ」

 2月から風呂に入れていないという無職の男性(49歳)は、「路上に座っていると若者に『コロナに感染するから消えろ!』と罵詈雑言を浴びせられた」らしい。

「アルミ缶や古本を拾って換金して生活してたけど、コロナで買い取り価格が一回3000円から500円に下がっちゃってさ。国が30万円を給付するらしいが、俺らにも10分の1ぐらい配ってもらえないだろうか」

 コロナに楽観的な人もいれば、今後の生活に不安を感じる人など、意見はさまざまだった。炊き出しの弁当を夢中でかき込む姿を見ていると、彼らにとってはコロナの情報よりも、食うものが重要であると認識させられた。

◆数千人のネカフェ難民がホームレスになる可能性も

 4月7日、政府は東京、神奈川、埼玉など7つの都府県に緊急事態宣言を発出した。これを受け、東京と大阪にあるネットカフェ「バグース」をはじめ、「DiCE」「自遊空間」など臨時休業を発表した施設も多い。これにより居場所を失うと言われているのが、ネカフェ難民だ。「東京都にいる4000人のネカフェ難民が行き場を失い、路上へ放り出される」と話すのは、ほっとプラス代表理事の藤田孝典氏。

「基本的にホームレスは路上だけで生活している人より、路上と簡易宿泊所を行き来している人のほうが多い。ネカフェ難民の正確な数字は調査されていないが、全国で見たら最低でも東京都の10倍、4万人以上はいてもおかしくない」

 ホームレスでも受けられる政府の支援制度はある。主なものは、生活保護、生活困窮者自立支援、生活福祉資金貸付制度、住居確保給付金の4つだ。これらについて自立生活サポートセンター・もやい理事長の大西連氏は、「以前は審査基準が厳しかったが、コロナ対策で少しずつ緩和が進んでいる制度もあります」と話す。

「例えば、『住居確保給付金』は、コロナ感染拡大の影響を受けて3か月から9か月まで補償を拡大した。これは申請が通れば、一度で終わる30万円の給付金より継続して家賃補助をしてくれる。でも、そういう情報すら知らない人たちがほとんどです。支援団体を頼ってもらえばお手伝いできますが、本当に必要な人に届いているのかどうかは難しいところです」

◆クラスター化を防ぐ意味でも対策が必要

 海外に目を向けると、イギリス・ロンドン市ではホテル300室を借り上げて路上生活者を保護したり、アメリカ・カリフォルニア州はキャンピングカー110台を隔離場所にするなど対応が早い。それに比べて、日本の対応はなぜこうも遅いのか。

「欧米だと基本的に居住権の保障が最優先で、住宅を失うと生活が破綻するという考えです。だから緊急事態になったら、ホームレスを保護しながら支援していくという政策が自然にとれる。しかし日本では、家賃が払えなくなったら退去させられるのが当然という考え方。しかも一度路上に出てしまうと住宅の契約すら難しくなってしまう。国民のホームレス支援への関心も低いですし、後回しにされているのが現状です」(藤田氏)

 そんななか、東京都は4月6日に補正予算の12億円を計上して、住居を失った人への一時住宅提供(500室)を発表。しかし、「まったく足りない」とは大西氏。

「東京都は路上に1000人とネカフェ難民が4000人いるので、まったく受け皿になっていないですよ。しかも新型コロナの影響で失業したり減収した人への特別措置なので、まずはそれを証明しないといけない。そもそもコロナが流行する前からホームレス生活だった場合は対象にすらなりません」

 彼らを保護せずに放置すれば、「いつクラスター化してもおかしくない」と藤田氏は警鐘を鳴らす。

「ずっと路上にいるならまだしも、炊き出しや無料の宿泊所に行けば、他者と濃厚接触する機会は必ずありますよね。彼らも生きるためには食料や寝床を求めて動いていくので、一方的に居場所を奪うだけではなんの解決にもならないです」

 今後はコロナ失業も加わって、ホームレスの数が急増していく可能性は大きい。そうなれば、感染リスクが街中に溢れることになる。奪われる命はもはや計り知れない。

◆コロナ禍における制度緩和は?

▼生活保護制度

都内の単身者では生活保護基準である12万円以下の収入と資産を下回ると申請できる制度。コロナによる緩和はないが、条件を満たせば受給することが可能なので申請しやすい

▼生活困窮者自立支援制度

生活保護とは違って就労を目指すための制度。「キャリア相談」や「ジョブトレーニング」などの就労支援や、シェルターに最大で6か月入居することができる。緩和は特になし

▼生活福祉資金貸付制度

通常は審査に1週間ほどかかるが、コロナによる要件緩和で10万〜20万円の貸し付けを最短2日で実施。さらに1年後も住民税非課税世帯まで減収していた場合は返金が免除される

▼住居確保給付金

コロナによる減収や離職、自営業の廃業で経済的に困窮し、住居を失う恐れのある場合に家賃相当分の給付金が支給される。原則3か月だが、緩和で9か月まで延長できる場合も

【もやい理事長・大西 連氏】

自立生活サポートセンター・もやい理事長。貧困問題や生活困窮者への相談支援活動に取り組む。著書に『絶望しないための貧困学』(ポプラ社)

【ほっとプラス代表理事・藤田孝典氏】

反貧困ネットワーク埼玉代表。聖学院大学心理福祉学部客員准教授。著書に『棄民世代 政府に見捨てられた氷河期世代が日本を滅ぼす』(SB新書)

<取材・文・撮影/吉岡 俊 写真/朝日新聞社>

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