シティ派のヤンキーが恐喝未遂で島流しの刑に <裁判傍聴記・第3回>

シティ派のヤンキーが恐喝未遂で島流しの刑に <裁判傍聴記・第3回>

画像はイメージです。

 ヤンキーがとにかく怖い。なにもしていないのに睨みつけられることもあれば、すれ違い際になぜか暴言を吐かれることもある。逆に見ないフリをしていても、それはそれで神経を逆なでしそうである。なにをしたら怒るのか、怒りのポイントがわからないことがいちばん怖い。今回は、東京23区のある地域でブイブイいわせていたヤンキーが恐喝未遂で捕まった事件。不良には不良のルールというものがあるようだが、まさか東京のど真ん中にまだこんな風習が残っていたなんて――。

◆郊外で有名なヤンキーがキレたらこうなる

 東京地方裁判所に行くと、本日は傍聴券の交付がある裁判が行われるようだった。傍聴希望者が多い場合には傍聴券交付手続が取られ、抽選となる。麻薬取締法違反の疑いで逮捕された、有名トレーダー・KAZMAXこと吉澤和真(30)の裁判だったが、初公判から追わないことには意味がない。なんとなく、ある「恐喝未遂」事件の初公判に向かったが、これがなかなか興味深い事件だった。

 被告人のシバタ(仮名)は21歳。高校を中退後、定時制高校に入り直した。しかし、学校にはほとんど通わず、同級生たちとバイクで暴走するのが日課のいわゆる郊外のヤンキー。恐喝でいちど少年院に入所し、傷害でも保護観察を受けている。灰色のスウェットにパーカー姿、黒がところどころ混じった金髪で法廷にやってきた。どうやら、地元ではそれなりに名の知られた不良らしく、シバタに恐れをなしていた不良たちも多かったみたいだ。

 それにしてもシバタの目つきは悪い。ジャックナイフのような表情で下を向きながら、床の一点だけをずっと見つめている。半開きなもんだから、白目が見えず全部黒目みたいになっていて余計に怖い。こんな奴に恐喝なんてされたら財布を投げつけて逃げ出してしまいそうだ。被害者はいったいどんな仕打ちを受けたのだろうか。

◆「コルク被ったら家燃やすし、周りの人間みんな殺す」

 シバタと同じ通信制高校に通う後輩の2人は、原付で道路を走っていると、偶然道を歩いていたシバタに出くわし、呼び止められた。彼らは同じ不良グループに属し、シバタは先輩にあたる。

「お前らだれの許可もらってコルク被ってんの? 10万払えよ。払わないなら家燃やすし、周りの人間みんな殺すから」

 「家燃やす」と「みんな殺す」はこりゃ完全にアウト。不良同士の喧嘩とはいえ、悪いで有名な先輩にこんなことを言われたら不良の後輩でも震え上がってしまう。しかし「コルク」とはいったいなんのことだろうか? 法廷ではスマートフォンを使えないため、結局最後までわからずに聞いていたが、後で調べてみると「コルク半」というヘルメットがあるらしい。野球帽型のヘルメットを指し、以前は緩衝材にコルクが使用されていたため、いまもその名称が使われているという。東京の足立区、大田区、昭島市でも同様の事件は報告されており、「コルク狩り」とも呼ばれるようだ。

 不良の間では「コルク半」は一種のステータスとなっており、目上の人間に見つかった場合、それはすなわち死を意味する――。ちょっと大げさかもしれないが、この世界ではとにかく、コルク被っている奴は生意気で、先輩からするとシメる対象になるのだ。一般人からすると、『ビーバップハイスクール』など80年代の話というイメージであるが、いまだにそういった慣習が残っていることに驚きだ。

◆コカイン、MDMA、LSD……悪すぎるシバタ

 後日、シバタは2人を地元の公園に呼び出し、「次こういうことしたらどうするんだっけ? トンだら全員探し出すし、世田谷の奴らにも連絡してあるから」と再度恐喝。後輩2人がたまらず警察に駆け込み、逮捕に至ったというわけだ。シバタの言い分はこうだ。

「後輩が気に入らない態度を取った場合、10万円の罰金を払うという地元のルールがあった。当時は悪いことをした人間には何をしてもよいという考えがあった」

 またシバタは、「コルク被っている奴らいるけどいいの? ぶっ飛ばせば?」と先輩から指示を受けたこともあり、あくまで地元のルールを守るつもりで犯行に及んだという。

 さらにシバタはコカインの使用による、麻薬及び向精神薬取締法違反の容疑でも別件逮捕。今回は恐喝未遂とクスリのダブル裁判である。16歳から大麻を吸い始め、コカイン、MDMA、LSDにも手を出した。いちどは使用を止めていたものの、1年前に友人たちがコカインを吸っているのを見て、また日常的に使用するように。シバタ、悪すぎである。しかし、そんなシバタの情状酌量を訴えるべく、実の母が証言台にあがる。

◆「モモンガを可愛がるいい子でした」

 弁護士が法廷で見せたのは、小学校時代のリトルリーグの集合写真だった。シバタは中学校でも野球を続け、チームでのトラブルもなく、泥にまみれながら白球を追っていたらしい。いや、弱すぎる。情状酌量を訴えるための素材が弱すぎる。野球をやっていてもグレる奴はグレるし、中学までは野球が上手かったけど、高校に入って部活を辞めたなんてむしろ典型的な不良のパターンではないか。さらに実の母が追い打ちをかける。

「ペットとして飼っていたモモンガをとても可愛がる優しい子なんです。モモンガが亡くなったときは、泣きながらペット霊園に電話をかけて、お花を添えていました」

 これはシバタ、非常に優しい。モモンガがいつ亡くなったのかはわからないが、外でLSDキメて恐喝して帰ってきたあとにモモンガを可愛がっていたとしたら、それはそれで怖くはあるが……。

 しかし、2回の裁判を終え、3回目の判決にやってきたシバタは様変わりしていた。スーツ姿に革靴、髪は黒くなり、ジェルでパリッと七三分け。前回、前々回よりも明らかに姿勢がよく、真っ直ぐと裁判官を見据え、白目もしっかりと見えている。判決を前にシバタはこう語った。

「悪い友人との付き合いを断り切れない自分がいる。これではまた同じ生活に戻るだけなので、携帯電話を捨てました。今回の事件は先輩の指示で後輩を脅しました。今後、立場が下である人を脅している人がいたら、自分みたいな犯罪者になってしまうぞと、諭そうと思います。逮捕されて、被害者の調書というものをはじめて見ました。いままで自分の取っていた行動が相手にどんな苦痛を与えていたかがわかり、ハッとしました。今後、自分が同じ学校にいたら被害者の方は辛いと思うので、いまの学校は退学するつもりです」

 最後に母は、「息子が移動手段として使っていた車は車検が近いので破棄しました。祖母の家が離島にあるので、当分は地元を離れて、その島で暮らしてもらおうと思っています」と裁判官に訴えかけた。判決は懲役2年6カ月、執行猶予5年。恐喝未遂とコカインのダブルパンチということで、さすがにお決まりの執行猶予3年とはならなかった。いまごろ、島でのんびりと暮らしているといいが、あまり泡盛を飲みすぎないようにしてほしい。

<取材・文/國友公司>

【國友公司】

くにともこうじ●1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion

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