コロナ禍で強化される監視カメラや顔認証、ドローンを利用したリアル監視。感染拡大防止とプライバシーの狭間

コロナ禍で強化される監視カメラや顔認証、ドローンを利用したリアル監視。感染拡大防止とプライバシーの狭間

Pexels via Pixabay

 前回は新型コロナウイルス(SARS?CoV21。以下、“コロナ”)対策の名のもとに進んでいるスマホによる監視をご紹介した。今回は監視カメラなどリアルでの監視をご紹介したい。リアルの監視活動は現在わかっている範囲で大きく3つに分けられる。それぞれの内容について見てゆこう。

・監視カメラの顔認証システムで本人を特定、移動を追跡。体温などによって感染可能性を推定する。

・ドローンによって行動を監視、警告を流す。

・感染者に追跡可能な装置をつける

◆監視カメラによる移動追跡

 まずは「監視カメラの顔認証システムで本人を特定、移動を追跡。体温などによって感染可能性を推定する」だ。

 コロナのパンデミックによって顔認証システムの需要が一気に膨れ上がった。これまで生体認証でよく使われてきた指紋認証だとコロナ感染の恐れがあるためと、非接触で体温を確認できるためである。コロナの感染を防ぐため、インドでは警察が民間企業に指紋認証を捨てるように命じた。アメリカでもニューヨーク市警は指紋認証を止めざるを得なかった。DERMALOG社やTelpo社などの生体認証技術を持っている企業はこぞって、この市場に参入しはじめた。すでにDERMALOG社のシステムはタイの国境で使われている。(参照:“Facial Recognition Companies See the Coronavirus as a Business Opportunity”2020年3月18日)

 監視カメラでは中国が世界の最先端を走っている。監視カメラの映像から本人を特定する顔認証システムにはAIの利用が効果的であり、AI監視システムの世界シェアでは中国企業HUAWEIやHikVisionが大きなシェアを持っている。特にHUAWEIは世界各国にソリューションとしてシステムを提供、運用している。(参照:“世界に蔓延するネット世論操作産業。市場をリードするZTEとHUAWEI”2019年10月21日) 

 コロナの監視の話をする前に、中国の現在の監視システムを簡単にご紹介したい。監視カメラなどの技術を駆使して構築された監視システムが中国のSkynet(天網)であり、その拡大版SharpEye(雪亮工程)である。Skynetが都市部、SharpEyeが農村部という解説も見かけるが、私が確認した範囲ではそうではなかった。

 Skynetは2005年に始まり、都市部を中心に拡大した。中華人民共和国国家発展改革委員会が中心となって始まったSharpEyeは山東省臨沂市から始まり、2020年には全ての地区(都市部も含む)とパブリックエリアをカバーする包括的なイニシアチブとなっており、SkyNetはSharpEyeに包含されているという解説が多い。収集したデータはマイニング、顔認証、ナンバープレート認識、自動警告の対象となる。

 それだけでなく、住民の相互監視プロジェクト=「Neighbors Help Each Other」で住民のスマホから情報提供も受けている他、ナンバープレート以外の方法(色、傷など)で車の車体を特定する技術も開発している。今後、テレビなどのIoTもSharpEyeに組み込まれ監視ツールとなるとされている。

 これらから分かるようにSharpEyeは犯罪抑止に留まらず、犯罪の予知も行う総合的な社会管理システムを目指している。SenseNets社がSkyNetにAIを利用した顔認証システムを提供しており、SenseNets社はのちほどご紹介するSenseTime社と世界的な監視カメラメーカーのNetPosa Technologies社が出資して設立された(その後、SenseTime社は株式を売却した)。SenseNets社は情報漏洩事件を起こしたり、特定の民族を追跡するためのシステムを提供したりするなど問題が指摘されている。(参照:“ SHARPER EYES: SURVEILLING THE SURVEILLERS (PART 1)”2019年9月9日、China Digital Times、“China Public Video Surveillance Guide: From Skynet to Sharp Eyes”2018年6月14日、IPVM、“Explainer | SenseNets: the facial recognition company that supplies China’s Skynet surveillance system”2019年4月19日、South China Morning Post)

 SharpEyeについての突っ込んだ解説は長くなるので、稿をあらためてご紹介したい。

 中国の監視カメラ網は一朝一夕でできたものではなく、長期的な計画の一環として構築されており、それが今回のコロナの対策として活用されている。

 BBCによれば、中国ではSenseTime社の顔認証システムによって体温の高い人物やマスクをつけていない人物を特定している。このシステムは北京、上海、深?に導入されている。北京にはSenseTime社以外にMegvii社の同様の顔認証システムも導入されている。四川省の成都市では周囲5メートルに体温の高い人物がいると警告を出すスマート・ヘルメットが導入されている。

 また、北京では病院の予約も転売屋の商品となっており、コロナの蔓延により深刻な問題となっている(”Beijing turns to facial recognition to deter scalpers who sell hospital appointments”、2020年2月22日、South China Morning Post)。

 中国ではテンセント傘下のベンチャー企業WeDoctor社が提供する診療予約、遠隔診療などのシステムguahaoが普及しており、転売屋もそのシステムを利用して予約を行っている。そのため当局は2,100の病院に現れる転売屋の顔をデータベースに登録し、転売抑止に役立てているという。病院以外では、北京市内にある公園のトイレットペーパーホルダーには顔認識システムが付けられており、トイレットペーパーの使いすぎを抑止するようにしている。

◆コロナ抑止には使われないが日本の顔認証も世界で売られている

 ロシアでも顔認証システムを利用して感染者の足取りを追跡している。ロシアは中国との国境を封鎖しているが、自国民の帰国は許可している。感染が発覚した場合、顔認証システムを使って利用した公共交通機関や訪れた場所を特定している。また、モスクワ市内に100,000台の監視カメラを設置し、自己隔離を破る者をチェックしている。(参照:“Moscow deploys facial recognition technology for coronavirus quarantine”2020年2月21日、ロイター、”100,000 cameras: Moscow uses facial recognition to enforce quarantine“2020年3月24日、France24)

 イスラエルではAnyVision Interactive Technologies社製の体温計測機能のついた監視カメラがテルアビブの医療センターに設置された。同社のスポークスマンはいずれ病院やショッピングセンターの入り口にこうした監視カメラがあるのが当たりませになるだろうと語っている。(参照:“Israeli Face Recognition Startup AnyVision to Deploy Thermal Cameras at Tel Aviv Hospital”2020年4月7日、the algemeiner)

 すでに日本でも報道されているように、韓国でも監視カメラは活発に利用されている。2014年の時点で800万台が設置され、2010年の調査では平均1日に83.1回以上、監視カメラに撮影されていたという。設置場所は更衣室やバスルームなどにも及んでいる。これらに加えてスマホアプリなどを駆使して感染の可能性のある者を特定し、その情報を一般公開している。かなり個人情報に立ち入った施策であるが、それが功を奏したらしく感染は抑制されている。(参照:“Coronavirus: South Korea’s success in controlling disease is due to its acceptance of surveillance”2020年3月20日、THE CONVERSATION)

 日本では監視カメラを使ったコロナ抑止策はいまのところ行われていないようだが、その素地があることはあまり知られていない。日本のNECは顔認証システムで世界をリードしているのだ。OneZeroの「Carnival Cruises, Delta, and 70Countries Use a Facial Recognition Company You’ve Never Heard Of」(2019年2月18日)という記事よれば、すでにアメリカのアービング警察、ロンドン警視庁、オーストリア連邦警察、デルタ航空、など70カ国以上、1000を超える認証システムを販売したという。

 さらに国内でもローソンやセブンイレブンでの導入が始まっている。NECの顔認証システムに体温測定が加われば日本中のローソンやセブンイレブンの来店客の体温から異常を検知し、本人を特定(顔認証による決済を行っている)することができる。警察および民間企業の保有する監視カメラを利用するようになれば、さらに網羅性のある監視を行うことが可能だ。(参照:“人権侵害の懸念をよそにロンドン警視庁がNEC製の顔認証を導入”2020年1月25日、TechCrunch、“日本で“無人セブン-イレブン”、顔認証で入店 12月から実験”2018年11月13日、ITmedia、“NEC、ローソンが実施するスマート店舗(深夜省人化)実験において入店管理システムやセルフレジなどを提供”2019年8月22日、日本電気株式会社)

◆ドローンによって行動を監視、警告を流す

 ドローンによる監視や警告は、中国、イギリス、オーストラリア、インド、スペイン、ベルギーで導入されている。

 ドローンにはビデオカメラがついていることもあり、ロックダウン中の街の状況観察などに用いられている。多数が集まっているのを見つけるとドローンから警告を発する。顔認証システムを搭載したものや車のナンバープレートを認識できるものもある。(“Drones come in handy for police in enforcing lockdown”2020年4月6日、Live Mint、“WA police to use drones to enforce coronavirus restrictions”2020年3月30日、9NEWS、“Spain's police are flying drones with speakers around public places to warn citizens on coronavirus lockdown to get inside”2020年3月16日、BUSINESS INSIDER)

◆感染者に追跡可能な装置をつける

 前回ご紹介した、コロナをきっかけにした監視の情報を集積しているTO10VPNでは、監視カメラやドローンの利用をカテゴリーにまとめて最新情報を掲載している。そこで取り上げられている追跡可能な装置は、ブルートゥースを利用したものが多く、バーレーンではブレスレット、アメリカのウェストバージニア州では足首に装置をつけさせている。(参照:“Bahrain launches electronic bracelets to keep track of active COVID-19 cases”2020年4月8日、mobile health news、“W.Va. judge allows ankle monitors for virus scofflaws”2020年4月6日、AP)

◆これは氷山の一角に過ぎない

 前回のスマホの追跡もそうだが、紹介しているのはいくつかの実例に過ぎない。もっとたくさんの監視が世界各地で行われている。

 そしてそうした監視をより効果的にするのが社会信用システムである。次回は、コロナによって強化された社会信用システムをご紹介したい。

◆ アフターコロナの世界 デジタル権威主義の台頭・2回

<文/一田和樹>

【一田和樹】

いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている

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