中国で感染症抑止を理由に導入される社会信用システムと健康コードに潜む危険性。健康状態をスマホ経由で掌握し、行動追跡・制限も可能

中国で感染症抑止を理由に導入される社会信用システムと健康コードに潜む危険性。健康状態をスマホ経由で掌握し、行動追跡・制限も可能

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◆中国でコロナ感染抑止に使われた「社会信用システム」

 社会信用システムとは、個人や団体の信用度を評価し社会で共有、利用するためのシステムである。新しい取引先が信用に足る相手であるかを確認する調査を信用調査と呼ぶように、資産の状態、ビジネス、法規制の遵守、トラブルの有無などが信用を構成する要素となる。これを尺度化したものが、いわゆる信用格付けとなり、企業や金融商品、時には国家の信用度を表すものになる。

 ムーディーズやS&Pなどの格付け機関は金融商品などの信用を格付けという形で開示する。日本では全国銀行個人信用情報センターが消費者金融に関わる個人信用、シー・アイ・シーはクレジットカードに関わる個人信用を開示している。Amazonや楽天には出店者の評価があるし、食べログには飲食店に関する評価が開示されている。あらゆるものの信用度がさまざまな仕組みを介して公開されている。

 この社会信用システムを利用してコロナの感染を抑止する試みが中国で行われている。(参照:「野村総研」、「COMPASS」、「ダイヤモンド・オンライン」)

 本稿では世界でも類を見ない中国の社会信用システムをご紹介したい。その概要は2014年6月14日に公開された「国?院?于印?社会信用体系建????要(2014?2020年)」に示されている(英訳は下記)。これを読むと広範な社会活動や個人生活カバーする網羅的な監視とスコア化が進んでいることがわかる。企業の経済活動や金融サービスはもとより、教育、医療、観光、社会保障、教育、司法、エンターテインメントなどあらゆる分野における活動が評価の対象となる。(参照:”Planning Outline for the Construction of a Social Credit System (2014-2020)”2014年6月14日、China Copyright and Media The law and policy of media in China”edited by Rogier Creemers)

 中国の社会信用システムの主体は大きく、政府、地方自治体、民間企業の3つに分かれる。政府内各部局、地方自治体と民間企業は個々に異なる社会信用システムを構築しており、機能や用途は異なる。そして必ずしも相互に接続されているわけではない。それゆえ全体像をつかむのが非常に難しいものとなっており、部分的な紹介は誤解を招き安い。たとえば中国の社会信用システムとしてAliPayを紹介すると、それはごく一部を紹介しているにすぎない。全体を簡単な表にまとめたのが次の表である。

 このうち今回のコロナ騒動に関係する健康コードを開発、運用しているのは地方自治体と民間企業である。これらは中国政府の監督下にあるが、中国政府自身が健康コードを運用しているわけではない。

◆住民の移動を追跡する健康コード

 上の表をご覧いただくとわかるように、地方自治体や民間企業がコロナ抑止のための健康コードを社会信用システムに組み込んでいる。特にコロナの感染拡大を受けて、多くの中国の地方自治体が住民の位置と移動を監視し、感染者の足取りを追跡するようになった。

 健康コードは健康状態を表し、その状態によって移動や設備の利用が制限される。コードは、緑(自由に移動できる)、黄(7日間の自己隔離)、赤(14日間の自己隔離)の3種類の色で表示される。判定のアルゴリズムは公開されておらず、ある日突然黄や赤になってとまどうことも少なくないという。

 学校や商業施設、病院、行政機関、スーパーマーケット、交通機関、道路などにあるヘルス・チェックポイントでコードをスキャンしなければならないため、自己隔離の対象になっている黄と赤のコードの人物はこれらの施設を利用することはできない。チェックポイントでのスキャンの記録によって当局は利用者の移動状況を正確に把握できる。(参照:「BusinessInsider」、「BusinessInsider」、「New York Times」)

 AliPayやWeChatなどの民間企業のアプリを利用する地方自治体もあった。AliPayは9億人、WeChatは11.6億人のアクティブユーザーを持っており、そこに機能(ミニプログラム)を付加することで利用を促進する狙いだ。

 WeChatの健康コードはすでに9億人(2020年3月10日時点)に利用されており、韓国語、日本語、英語など多言語に対応している。諸外国での利用が進めば、世界的な健康コードとして利用可能になる。健康コードアプリはWeChatのミニプログラムとして開発されている。コロナ騒動が本格化した1月20日から2月13日までの24日間で800個もの医療ミニプログラムがリリースされた。コロナ関連情報の提供、オンライン問診などを始めとする機能が網羅的に提供されている。(参照:「テンセント」)

 AliPayの健康コードは200都市以上(2020年3月の時点)で利用されており、浙江省では人口の90%以上に当たる5千万人以上がアプリに登録したという。そのうち98.2%は緑、つまり百万人近い人々がこの健康コードによって自己隔離を命じられたことになる。(参照:「CNBC」、「ロイター」、「Wall Street Journal」)

 当初、健康コードの利用で課題になっていたのは、各地方自治体が独自のシステムを構築しているため異なる自治体に移動するためには複数の健康コードを持たなければならないことだった。その後、共通の標準インタフェースやデータ共有の仕組みが構築され、対応している健康コードならひとつで済むようになりつつある(普及までの課題は多いようであるが)。(参照:「South China Morning Post」)

◆「健康コード」の問題点

 健康コードアプリを通して住民の感染可能性を迅速かつ広範に判定できる。感染者あるいはその可能性がある者に対しては、位置情報を把握して効率的に自己隔離の状況を確認できる。いいことずくめのようだが、プライバシー保護という観点から見ると重大な侵害に当たる。なにしろ個人情報を掌握されたうえに24時間居場所を把握されるのである。

 また、健康コードのアプリをインストールすると警察に位置情報を含む個人情報が送信されることもわかっている。利用者からすると、自分の情報がどこまで誰に利用されているかわからない。判定アルゴリズムが開示されていないため、恣意的に反体制運動に関わる者を赤にすることも可能である。

 コロナ騒動の前だが、2018年9月1,460万人の”信用度”の低い市民の航空券を購入が禁止された。健康コードは、こうした反体制や人権擁護を唱える人々の行動を抑止するためのもうひとつの手段となり得る。

 さらに中国の国家情報法(2017年成立)は、中国国内の組織ならびに個人は中国政府の要請に応じてあらゆる情報を提供しなければならないというものだ。この法律に従えば、AliPayやWeChatが収集した個人情報は。中国政府からの要請があれば全て提供することになる。

 ただし、テンセントとアリババが人民銀行への個人情報の提供を拒んでいるという報道(2019年9月18日、Financial Times)もあり、先行きはいまだに不透明である。

◆一帯一路、デジタル・シルクロードを通じて広がる社会信用システム

 中国がデジタル権威主義プラットフォームを諸外国に輸出していることは、『世界に拡大する中露の監視システムとデジタル全体主義』(HBOL)でご紹介した。この輸出は一帯一路を通じてより効果的に行われ、デジタル・シルクロードによってデータの共有が図られている。

「“一?一路”国?合作城市信用?盟成立」によれば2018年10月に山東省済南で開かれたイベントで、一帯一路参加国の間で社会信用情報を共有するプラットフォーム「“一?一路”国?合作城市信用?盟」の設立が告知された。参加国は、中国、フランス、イタリア、サウジアラビア、モンゴル、タイ、ミャンマーの7カ国だ。

 また、2020年には中央アジアのカザフスタン、キルギスタン、モンゴルで社会信用システム導入のためのフィージビリティースタディーを行うことになっている。

 中国の社会信用システムは国内に留まらず、国外にまで広がっている。感染抑止という観点では、国境をまたいだ追跡が可能になるのは効果的かもしれないが、世界各国で自分の個人情報を共有され国境を越えても監視が続くと考えるといささか気持ち悪い。

 コロナ流行前にEUは中国の社会信用システムが世界に広がることに懸念を表明していた。パンデミックは中国の社会信用システム普及の追い風になった可能性が高い。そしていったん導入してしまえば、それを止めるのは難しくなる。(参照:「ロイター」、「THE DIPLOMAT」)

◆アフターコロナの世界・第3回

<取材・文/一田和樹>

【一田和樹】

いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている

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