反PCR検査拡充派の間で広まる医師ブログの不自然なデータ引用。「日本に超過死亡はない」の嘘

反PCR検査拡充派の間で広まる医師ブログの不自然なデータ引用。「日本に超過死亡はない」の嘘

Alexandra_Koch via Pixabay

◆東京23区のインフルエンザ・肺炎死亡の調査で確認された「超過死亡」

 新型コロナウイルスの感染爆発からくる大混乱で、新型コロナによる死亡者数の把握すらままならなくなっている。

 一人暮らしの自宅で急死し、警察に変死事案として扱われた後に新型コロナ感染が判明した例(参照:東京新聞)。PCR検査(新型コロナ診断)で陽性判定が出たにも関わらず、軽症とみなされ、自宅療養している間に重症化、そのまま自宅で死亡した例(参照:「FNNプライムオンライン)。そして、新型コロナに感染している可能性のある遺体の法医解剖を担当することになった病理医が、遺体のPCR検査を保健所から断られた例(参照:日本法医病理学会、LITERA )など、死因ごとの死亡者数の正確な把握を困難にさせる事例が多発しているためだ。

 新型コロナに特徴的な重度の肺炎症状で亡くなった人の中には、きっと“新型コロナ感染症”ではなく“肺炎”と診断された例もあっただろう。実際、国立感染症研究所が公表している「インフルエンザ・肺炎死亡報告」によれば、新型コロナ大流行期に入った東京特別区(23区)で、明らかな「超過死亡」*があったことが確認されている(図1)。これは、新型コロナによる死亡例の一部が誤って肺炎と診断されている可能性を示唆している。

〈*“ インフルエンザが流行したことによって、インフルエンザ・肺炎死亡がどの程度増加したかを示す、推定値である。この値は、直接および間接に、インフルエンザの流行によって生じた死亡であり、仮にインフルエンザワクチンの有効率が100%であるなら、ワクチン接種によって回避できたであろう死亡数を意味する”|国立感染症研究所)

◆反PCR検査拡充派で流布するブログ記事の不可解な引用

 この超過死亡について、最近、疑問を挟まざるを得ない情報が流されている。例えば、反PCR検査拡充派の人々の間で流れている、以下のブログ記事が広めた「超過死亡も増えていない」というものだ。

●「本当にPCR検査は必要か?」 医療法人社団悠翔会 佐々木 淳(同ページのアーカイブ)

 このブログ記事の該当箇所には、東京特別区の死亡者数ではなく、「21大都市合計」の死亡者数(図2)が示されているが、その選択が非常に作為的なのだ。何故なら、「21大都市合計」の調査結果はまだ非常に不完全で、最近の死亡者数を著しく過小評価しているからだ。

 「21大都市」に含められている都市のうち、例えば、横浜市や大阪市のグラフを見てみると、2020年の第10〜14週の調査結果がまだ無いことが分かる(図3)。さらに、今現在、「第2波」に襲われ、「第1波」時よりずっと大きい感染爆発が起こっている札幌市に至っては、調査結果がまったく示されていないのだ(図4)。このような不完全な調査結果を合計した「21大都市合計」のグラフが最近の死亡者数を大きく過小評価していることは、言うまでもないことだ。

 上述したブログ記事、「本当にPCR検査は必要か?」は、不思議なことにこの深刻な過小評価の問題に一切触れていない。

◆BuzzFeed Japanでも上掲ブログを紹介

 さらに、最近、PCR検査の拡充に反対している元読売新聞記者で、現在BuzzFeed Japanのエディターとして同サイトの医療系の記事を数多く担当している岩永直子氏は、自身の記事で注記なしにこの極めて不正確なデータ引用をしていると言わざるを得ないブログを参照元として紹介している。

 筆者はこの件について、Twitter上で岩永直子エディターに直接、複数回意見したが、岩永氏からは、それらの意見に対しての回答はない。2019年8月に岩永氏は「命を語るときこそ、ファクト重視で冷静な議論を」というタイトルの対談記事に出演しているが、現在の同氏はこの時の“志”をすっかり忘れてしまったように見える。

 残念なことではあるが、エディターやライターがこのようなアンフェアな行為を繰り返して信用を失うのは、まさしく自業自得・自己責任であろう。

<文/井田真人>

【井田 真人】

いだまさと● Twitter ID:@miakiza20100906。2017年4月に日本原子力研究開発機構J-PARCセンター(研究副主幹)を自主退職し、フリーに。J-PARCセンター在職中は、陽子加速器を利用した大強度中性子源の研究開発に携わる。専門はシミュレーション物理学、流体力学、超音波医工学、中性子源施設開発、原子力工学。

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