コロナ消毒で注目される「キッチンハイター(次亜塩素酸ナトリウム)」。その効果と注意点を化学者が解説してみた

コロナ消毒で注目される「キッチンハイター(次亜塩素酸ナトリウム)」。その効果と注意点を化学者が解説してみた

Michael TavrionovによるPixabay

◆強力だが使用上の注意を要する次亜塩素酸類

 前回は、消毒法のうち石鹸など界面活性剤と高濃度アルコールについてご紹介しました。今回より、アルコール消毒に向かない水回りや、患者の吐瀉物(としゃぶつ、要するにゲロ)などの消毒に使われる次亜塩素酸ナトリウムと、一般に次亜塩素酸水として販売されている次亜塩素酸について、アルコールの代わりに使う人がSNSやブログなどネットでは目につきますのでその妥当性について論評します。

 次亜塩素酸類は、体内に取り込むとたいへんに有害で命を落とすこともあります。またクエン酸以上の強酸と混ぜると塩素ガスを発生し、家庭で命を落とす痛ましい事故が何度も発生しています。これら次亜塩素酸類の性質と取り扱い上の注意については、過去記事(1、2をお読みください。

 いつも書いていることですが化学薬品は、我々人類に清潔で快適な生活を提供しますが、使い方を誤ると簡単に人を殺す両刃の剣です。

◆とっても安価でチョー強力、幾らでも手に入る次亜塩素酸ナトリウム

 次亜塩素酸類として広汎に流通しているものは、次亜塩素酸ナトリウムと次亜塩素酸カルシウムです。前者はキッチンハイターとして、後者はさらし粉として一般に流通しています。水道やプールの消毒には次亜塩素酸カルシウムが昔から使われます。次亜塩素酸の殺菌能力は次亜塩素酸イオンClO-や次亜塩素酸HCIOが担っているとされます。次亜塩素酸ナトリウムの場合、pH9 でほぼ完全電離していますので、溶液中に存在する有効塩素は、ClO-です。

 次亜塩素酸ナトリウムはNaClOです。この希釈液は強アルカリ性です。最もよく見かけるのはキッチンハイターなどの台所用漂白剤で、NaClOの5〜6%水溶液に界面活性剤が微量に添加されたものです。但し類似品の中にはNaClOの濃度が半分の2〜3%程度のものもあります。

 入手性と価格、使いやすさでは液体の次亜塩素酸ナトリウムが突出しており、ここでは次亜塩素酸ナトリウム(キッチンハイターおよびその類似品)を取りあげます。

 筆者は、次亜塩素酸ナトリウムが大好きで、水回りは何でもかんでもキッチンハイター(実際は格安の類似品)を薄めた液で消毒しています。但し、強酸との接触は必ず回避しているようにしています。「混ぜるな危険」です。トイレもお台所もお風呂も水回りはシュッシュで、カビは皆殺しです。

 筆者が愛用するのは安い類似品ですが、次亜塩素酸ナトリウム濃度が5〜6%でおなじである限り効果は変わりませんし、2〜3%と濃度の低い製品でも希釈倍率を変えれば良いだけです。値段は税込みでも600mミリリットルあたり税込み100円前後で、いつでも何処ででも入手できます。

 塩素系殺菌剤の利用で重要なのは有効塩素濃度です。それではーコロナウィルス対策としてーどの程度の有効塩素濃度が必要なのでしょうか。

◆消毒に必要な次亜塩素酸ナトリウム濃度と希釈液の作り方

 塩素系消毒剤の強さは、有効塩素濃度で示します。塩素殺菌されている上水道の蛇口での有効塩素濃度は1ppmです*。疫病発生などの緊急事態ではこの有効塩素濃度が2ppmに引き上げられることがあります。WHO(世界保健機関)の勧告では、5ppm以下とされています。

〈*ppmは、百万分の一で1%は、10,000ppm 参照:ppm換算表 ナカライテスク〉

 コロナウィルス対策には、500ppmの次亜塩素酸ナトリウムでドアノブなどの滅菌ができると厚生労働省が公表しています*。この濃度はかなり高めですが、確実にコロナウィルスを破壊するにはこの程度の有効塩素濃度が必要という考えのようです。また吐瀉物や便器の消毒には1,000ppm(0.1%)の次亜塩素酸ナトリウムを推奨しています。これらの推奨値は、医療機関向けと全く変わりません。〈*“ウイルスは物についてもしばらく生存しているため、ドアの取っ手やノブ、ベッド柵にウイルスがついている可能性はあります。0.05%の次亜塩素酸ナトリウム(薄めた漂白剤)で拭いた後、水拭きするか、アルコールで拭きましょう。トイレや洗面所の清掃をこまめに行いましょう。清掃は、市販の家庭用洗剤を使用し、すすいだ後に、0.1%の次亜塩素酸ナトリウムを含む家庭用消毒剤を使用します。” 出典:新型コロナウイルス感染症(新型コロナウイルス感染症対策専門家会議 脇田座長説明)厚生労働省〉

 この有効塩素濃度500ppmの次亜塩素酸ナトリウム水溶液というのはかなり強力な漂白、殺菌作用があり、あの頑強なノロウィルスでも破壊してしまいます。そして、衣服は脱色されてしまう恐れがあります。またアルカリ性なので、皮膚の弱い人は、ゴム手袋か使い捨て手袋の着用が必須です。

 次亜塩素酸ナトリウム希釈液の具体的な作り方は、官公庁自治体のホームページで見ることができるのでそちらをご参照ください。筆者は、目黒区役所のホームページ*がいちばん見やすいと考えています。

〈*次亜塩素酸ナトリウム液の作り方 目黒区 0.1%と500ppmの処方がコロナウィルス向け〉

 覚えておくと良いのは、ハイターのピンク色のキャップは25ミリリットル計量でき、ペットボトルのキャップは5ミリリットル計量できることです。

 従って、500ppmの次亜塩素酸ナトリウム希釈液が欲しい場合は、ペットボトルのキャップ一杯のキッチンハイターを500ミリリットルペットボトル入りの水で薄めれば良いです。水は水道水で全く問題ありません。家庭・一般業務利用では、精製水の利用は全く無意味ですし、ミネラルウォーターの利用は好ましくありません。

【常用500ppm(0.05%)次亜塩素酸ナトリウム溶液の作り方】

●原料

1)キッチンハイターなどの5〜6%程度の次亜塩素酸ナトリウム溶液

(プライベートブランド等に3%など濃度の薄いものがあるので要注意、その場合は薬液を倍にする)

2)水道水(ミネラルウォーターやアルカリイオン水は好ましくない)

●道具

500ミリリットルペットボトル1本

●処方

水500ミリリットル(ペットボトル1本)に5ミリリットル(ペットボトルキャップ一杯)のキッチンハイターを混ぜる。

 1%の次亜塩素酸水が欲しい場合は、ペットボトルのキャップ二杯のキッチンハイターを500ミリリットルペットボトル入りの水で薄めれば良いです。

 日常利用は、500ppmでよいので、市販のキッチンハイター600ミリリットル入りから60リットルの消毒液が作れます。従って一月に2本(200円相当)もあれば十分です。

なお次亜塩素酸ナトリウムは、時間と共に分解して水と食塩になります。このため使用期限を守ってください。キッチンハイターの場合、製造後一年で有効塩素濃度はだいたい半分になり、三年後には1/3になります。次亜塩素酸ナトリウムは、高温と光で分解が進みます。従って希釈液は、冷暗所に保管してください。冷蔵庫に入れる必要はありません。遮光瓶が無い場合は、透明な瓶をアルミフォイルで包めば良いです。アルカリ性の物質は、ガラス瓶に入れないでください。アルカリは、ガラスを溶かします。

厳密には、製造後の劣化=分解に応じたキッチンハイターの推奨希釈量については、花王株式会社のホームページに詳しいです*。〈*花王株式会社 お問い合わせ 花王の塩素系漂白剤で、次亜塩素酸ナトリウム0.05%、0.1%の液は作れるの?〉

◆次亜塩素酸ナトリウム希釈液の使いかた

 次亜塩素酸ナトリウム希釈液は、その極めて強い酸化力から医療機関でも使われています。水回りをはじめとして、様々なものの消毒に使われますが、強力であるが故に注意すべき点も多いです。

1)人体には使えない

 次亜塩素酸ナトリウムは強アルカリのため手指消毒など人体には使えません。

2)強力な漂白力がある

 次亜塩素酸ナトリウムは、極めて強力な漂白剤であるために衣服などに付着すると脱色してしまいます。

3)金属を侵すことがある

 次亜塩素酸ナトリウムは、強アルカリでありかつ酸化剤であるために金属を強く侵すことがあります。取っ手やドアノブの消毒に用いたあとは、必ず水拭きで取り除いてください。

 筆者は学生時代にガールフレンドの指輪が酸化で汚くなったときハイターで再処理したところますます酷くなり、立場が危うくなったことがあります。

4)メラミン樹脂を侵す

 次亜塩素酸ナトリウムは、メラミン樹脂を強く侵します。メラミン樹脂は、黄ばむだけでなく強度も衰えます。

5)耐性菌がある

 次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素系殺菌剤には緑膿菌などが耐性をもちます。かつて平成初期までは、病院などに逆性石鹸や塩素系消毒薬または石炭酸を入れた手洗い洗面器がありましたが、これらは緑膿菌などの培養槽となり、最悪の院内感染源となるために全廃されました。

 消毒薬は、都度使い捨てにしていちど何かと接触した薬液の再利用は絶対にしないでください。多剤耐性緑膿菌(MDRP)が蔓延すると、取り返しがつきません。

6)ガラスを侵す

 強アルカリ性の物質は、ガラスを時間をかけてゆっくり侵します。アルカリ性の物質をガラス瓶に入れると時間が経過したのちに蓋が溶着して外れなくなります。

7)人体やペット等生体に絶対に取り込まない

 次亜塩素酸類などの塩素酸類は、生物にたいへんに有害ですので食べる、飲む、吸い込む、注射するなどの体に取り入れる行為は絶対にしないでください。大統領がヨシと言っても厳禁です。

 筆者は、スプレイボトル*に次亜塩素酸ナトリウム希釈液を入れて水回りでは日常的に使っています。たいへんに便利な一方で、次亜塩素酸ナトリウムは家庭内での誤飲事故の皇帝と言っても良いほどに誤飲事故が多く、不幸中の幸いで命を落とさずとも、とても苦しく辛いことになります。

 子供やお年寄りなど家族の居る家では、絶対に混同、誤飲しないように厳重に管理と分離をしてください。やはりアルコールを使えば良い場合は、アルコールを使うことを強く強くお勧めします。また次亜塩素酸ナトリウムの恒常的噴霧を行う装置がありますが、耐性菌の問題、事故やものの破損の恐れがありますので、筆者はお勧めできません。塩素系消毒薬は、都度、使うべきところで必要な時のみお使いください。

〈*2020/05/22 21:38追記:スプレイでの消毒薬の運用について読者からの指摘がありましたが、塩素系消毒薬はあくまで毒劇物ですのでスプレイボトルでの運用についてメーカーではQ&A等にて禁止事項にしています。これは次の理由です。

1)かつて消毒薬の噴霧による空間洗浄がたいへんに流行ったが、効果がみられない反面、薬液吸引などによる害が多く有害無益であった

2)スプレイ内部のスプリングなど金属部品が薬液により破損し、思わぬ動作をすることがある

3)眼鏡や保護眼鏡未着用の場合、目に入り失明する可能性が増大する

 従って、安全上の理由から花王株式会社はQ&Aにおいてスプレイボトルでの運用を禁止事項としています。(ハイター・スプレイタイプを使えという指示)

 筆者は、この手の化学薬品の扱いを熟知していますが、その為に安全基準をフールプルーフ(foolproof) 「何も知らない人が使っても大丈夫なように証明されているもの」へ日常的においていません。本記事では、その点の齟齬が現れています。この点は今後の執筆への強い留意点とします。

 従ってこの部分は、一般消費者向けにはスプレイボトルでなく「何らかのプラスチックボトル」にれることを強く推奨とここに注記します。その為に手に薬液が付着する可能性が激増し、別のリスクが大きく増大しますが、失明の可能性は最優先で回避すべきです。

 また薬剤を使う際は、眼鏡、または保護眼鏡を着用することを強く推奨します。筆者は、反応事故で熱強酸を顔に浴びましたが、眼鏡のおかげで大事に至りませんでした。化学薬品は、小さなミスで大きな事故に至ることがあります。とくに目は厳重に保護してください。

 なお容器は、誤飲防止のために絶対に飲食物と混同するようなラベルの無いものを使ってください。小分け瓶による誤認は誤飲事故の最大の原因となっています〉

 また、何度も繰り返しますが、次亜塩素酸ナトリウムなどの塩素酸類を強酸(目安としてはpH3以下、クエン酸を含む)と混ぜると猛毒の塩素ガスが発生します。本邦でも「おうちに帰ったらママがトイレで死んでいた」などの悲惨な事故が多く発生しています。不幸中の幸いで死を免れても肺水腫などを生じて死ぬほど辛い目に遭います。

混ぜるな危険

 絶対に忘れないでください。正しく使えば、コロナ禍においても生活がずいぶん楽になります。

◆手指消毒はどうすれば良いか

 次亜塩素酸ナトリウムは、手指消毒には使えず、アルコールは入手できないという場合、どうすれば良いのでしょうか。基本は石鹸での手洗いですが、それが難しい場合も多くあります。そういった場合に「次亜塩素酸水」が使えるという説があります。

 筆者は、平素の備蓄のおかげでアルコールを潤沢に使えるため、次亜塩素酸水を使ったことがありません。巷では、次亜塩素酸水は強力に効いて安全、次亜塩素酸水はニセ科学のインチキだという諸説が入り乱れています。

 幸い、厚労省と経産省という異なる立場の官庁からコロナウィルス対策について次亜塩素酸水への見解が出ましたので次回から2度にわたり、それらを用いて次亜塩素酸水について解説します。

◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ8

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題についてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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