「コロナのアホボケカスー!!」。300円の「お母さん応援 お子様弁当」に込めた思い

「コロナのアホボケカスー!!」。300円の「お母さん応援 お子様弁当」に込めた思い

お母さん応援お子様弁当。これで300円

 コロナで学校が休みになって、子どもが一日中家にいる。給食がないからお昼ご飯も用意しなくちゃいけない。そんな毎日が続いて頭を悩ませるお母さんは少なくないのでは? いや、お父さんも悩んでいるかもしれませんが、まだまだ現実には「食事の用意はお母さん」という家庭が多いでしょう。

 そんなご家庭に「お母さん応援 お子様弁当」はいかがですか?

◆「お母さんを応援したい」という気持ちから生まれた300円の弁当

 大阪の大通り、谷町筋と千日前通りが交差する谷町9丁目、通称「谷9(たにきゅう)」。その交差点の南東角にあるお店「BATA2(バタバタ)」で「お母さん応援 お子様弁当」は販売されています。

 このお店、普段は夕方5時から深夜3時まで営業するスタンディング・バーで、20代30代の若者を中心に賑わっています。ところがこのコロナ禍で通常営業をとりやめ、昼11時からのテイクアウト&デリバリーのお弁当販売のみの営業に切り替えました。

 そこまでは全国いたるところで見られる光景ですが、その先にちょっとしたアイディアがありました。

 私がそのことに気づいたのは、ちょうどお昼時に店の前を通りかかった時でした。谷9は私が住む上本町とは目と鼻の先で、この店にも以前からよく通っています。ふと店の入り口の上を見ると「お母さん応援 お子様弁当」の文字が目に入ったのです。

 私は店長のシュージ(33歳)に声をかけました。

――何なの? このお弁当は?

シュージ:ああ、これはですねえ。コロナで子どもたちの食事の用意が大変なお母さんを応援しようという意味で、特別に用意してるんですよ。普通のお弁当は500円ですけど、これは応援特価で300円です。

◆「エール飯」をヒントに、原価ギリギリで提供

――どうしてこれを思いついたん?

シュージ:いや、コロナで苦しい飲食店を応援しようっていうんで、いろんなところで「エール飯」というのが始まってるじゃないですか。

――ああ、お客がテイクアウトした料理の写真をハッシュタグ付けてSNSに載っけて拡散するという、あれね。

シュージ:エール飯の記事をしばらく前から見ていて、ぼくらも微力ながら社会の役に立てることができたらいいなあと思いまして。それで、休校や休園でストレスのたまったお子さんと、そのお世話でストレスのたまるお母さんのためにということで始めました。

――偉い! お前も二人の子の父親になって、少しはオネーチャンじゃなくお母さんの気持ちもわかるようになってきたということやな。するとこのお弁当はお母さんとお子様限定やね?

シュージ:まあ、実際に食べるのはお子様限定にしてほしいんです。なにせ300円というのは材料の原価ギリギリですから、調理の手間賃や光熱費も出ません。

――そうなんや。売れてもお店に利益は出ないんや?

シュージ:利益どころか、マナブくん(調理担当・38歳)が疲れるだけですね(笑)。でも、もともと社会の役に立ちたいということで始めたことですから。

――実際、どのくらい売れてるん?

シュージ:だいたい1日に10個くらいですかね。でもこの前の休日は20個以上も売れました。うれしい悲鳴です。

◆「バタバタ」ならぬボッタクリバー「ボタボタ」

 テイクアウトのみの営業なので、店内にお客は入れていません。小窓からお弁当を受け渡ししています。カウンターにベルが置かれ「二回鳴らすと男前出て来ます」と書かれていますが、すぐ下に「注)イメージと異なる場合がございます」と但し書きがあるのにご注意を。

 今の時期、みんなが触るベルを鳴らすのに抵抗のある方もいらっしゃるでしょうが、すぐそばに消毒アルコールも置いてありますのでご安心ください。

 そしてこの店は本来バーですので、生ビールなど酒類のテイクアウトもしています。店で普段扱っている酒なら何でもいけるそうです。店先でグッとあおるのもアリだとか。

シュージ:相澤さん、どうすか? いつものテキーラは?

――そうやな。じゃあせっかくだから頂くか、1杯。

シュージ:え〜? 1杯だけですか? ぼくらの分は?

 この店はもともとすべてのメニューが500円均一です(一部100円メニューもあり)。どんな酒も1杯500円。だから高い酒を頼んだ方がお得ですが、彼らはこうして客にたかってきます。それによって売り上げの帳尻を合わせるのです。私はこれを指して「この店は『バタバタ』じゃなくて、ボッタクリバー『ボタボタ』だ」と言っています。

――しゃあないなあ。じゃあシュージとマナブくんと私の分で3杯!

シュージ:まいどあり!

 こうしてほんの少し売り上げに貢献した私ですが、実際にはテイクアウトだけでは普段の売り上げの半分にも届かないというのが実情です。従業員の給料も家賃も払わねばなりません。コロナ禍でどこの店も経営が苦しいことに変わりはありません。

◆コロナに負けるな! テイクアウトメニューを広める「#TakeOutMe」

 そんな中、「コロナに負けるな!」を合い言葉に、売り上げ激減で窮地に立たされる飲食店を応援しようと、SNSを使ってテイクアウトメニューを簡単に広めることのできる無料の支援ツールが登場しました。その名も「#TakeOutMe」(私をお持ち帰りして)。

 仕組みはこんな具合です。まずメニューを拡散したい飲食店が「#TakeOutMe」のウェブサイトにアクセスします。お店の名前、住所、営業時間、いちおしメニュー、写真などを入力し、メニュー画像を完成させます。さらにいくつか手順を経て、その情報をTwitterとFacebookに投稿すれば完了です。

 テイクアウトメニューを調べたいお客が、TwitterやFacebookで「#TakeOutMe」のハッシュタグの後ろに自分が利用したい地域名を入れ、例えば「#TakeOutMe 大阪上本町」などと入力して検索すると、上本町界隈でテイクアウトを行っているお店を探すことができます。

◆「日本の食文化を守りたい」と、収益にならないツールを開発

 この支援ツールを開発したのは「ニジュウニ」という、去年設立されたばかりの東京の会社です。ウェブサイトには事業内容として「社会課題の解決を目指すサービスの企画・開発・運営」と書かれています。「ニジュウニ」という会社名には「22世紀を幸せなミライに」という思いが込められているそうです。

 今回、この支援ツールを開発したのはなぜなのでしょうか? 社長の安川尚宏さんはこう語ります。

「新型コロナウイルスの感染拡大による外出自粛の影響で、飲食店は売上が激減して壊滅的な状況に追い込まれています。この状況が続けば多くの飲食店が閉店に追い込まれて、日本の食文化が失われてしまうことに大きな懸念を抱きました。

 この先、日本はどんな状況になっていくのだろうか? 日本の食文化を守りたいと。そこで、私たちが得意とするWEBサービスの企画開発を通じて、何か力になることはできないかと思案し、開発を決意しました」

 しかし、この支援ツールはお店もお客も無料で利用できる。「会社としてどのように業績につなげていくのですか?」という問いには、以下のような回答が帰ってきました。

「現状はボランティア的な取り組みになっておりましてマネタイズ(収益化)はしておりません。『会社としての実績になればOK』の発想です! 一店舗でも助かるお店が増えたらと思っております」

◆「バタバタ」と「森友事件」の浅からぬ因縁

 谷9の「バタバタ」に話を戻します。私がこのお店に通い始めたのは3年前。まだNHK記者で、ちょうど森友事件の取材に奔走していた時期です。その後、記者を外されてNHKを辞め、そのいきさつを含めて『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由(わけ)』(文藝春秋)という本を出すことになります。本の原稿を書いていたのが2年前の秋。その頃よくこの店のカウンターで立ち呑みしながらパソコンで原稿を書いていました。

 その原稿の中に、この店のことを匿名で書いている部分がありました。それをのぞき込んだ店長のシュージが「相澤さん、お店のこと書くんやったら店の名前も入れてくださいよ」とワガママを言ってきました。

 でも考えてみると、店名を出さないというのは長年のNHK時代のクセ。「もうそんな制約はないので自分が書きたいように書けばいいんだ!」と気がついて、私はその場で「バタバタ」の店名を原稿に書き加えました。

 こうして、同書の49ページに「バタバタ」の店名が載ることになったのです。それを喜んだシュージは、本のカバーのコピーを店に貼り出してくれました。今も貼ってあります。

◆「コロナのアホボケカスー!!」。早く通常営業できますように

 こうした客と店の距離感の近さが「バタバタ」の最大の魅力であり「売り」なのです。狭い店に常連客がひしめきながら立ち呑みし、客同士や店の人間とふざけた会話を楽しむ。まさに「三密」です。

 コロナ禍は、この店の「売り」を「危険」に変えてしまいました。だから「バタバタ」は緊急事態宣言が出される3日前に、いち早く店内営業をやめてテイクアウト&デリバリー営業に切り替えています。

 店の前に出された手書きの貼り紙には、その判断理由を説明するとともに「この自粛期間にも精進を重ね更に皆様に喜んで頂けるお店になるよう、自分達を磨きに磨く決意です!!」と書かれています。そして末尾に「コロナのアホボケカスー!!」。

 早く店内で営業が再開できるようになるといいな。日本中の飲食店がこの苦境を持ちこたえて営業を続けられるといいな。そこで働く人たちがこれからもお店で働けるといいな。そう願わずにはいられません。

<文・写真/相澤冬樹>

【相澤冬樹】

大阪日日新聞論説委員・記者。1987年にNHKに入局、大阪放送局の記者として森友報道に関するスクープを連発。2018年にNHKを退職。著書に『安部官邸VS.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』(文藝春秋)

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