ネット炎上による自殺。事例の多さで先を行く韓国の研究に見るダメージ治療の実際

ネット炎上による自殺。事例の多さで先を行く韓国の研究に見るダメージ治療の実際

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 リアリティ番組に出演していた女子プロレスラーの木村花さんが5月23日、22歳で死去した。生前、ネット上で誹謗中傷を受けていたことが影響したとされており、ネットマナーに対する論議が活発化している。

 これを受けて菅義偉官房長官も25日、インターネット上の誹謗中傷をめぐる法規制について国会で検討することを示唆した。

 SNSをはじめとするネット上での誹謗中傷は、有名人でなくても誰にでも起こりうる。

 議論をする、知名度を上げる、炎上させてアクセスアップを図るなど明確な目的でSNSを利用している場合はダメージが少ないが、そうでない場合に誹謗中傷を受けると自尊心が損なわれやすい。

 時にそれが人命を奪うという事例を多く示してきたのが、お隣の韓国である。

 ネット炎上によりこれまで多くの有名人が自殺に追い込まれ、その苛烈さは「指殺人」と揶揄されるほどである。日本で大ヒットした元KARAのク・ハラが自ら命を絶った件も記憶に新しい。

◆ネット誹謗中傷被害によるダメージ治療の研究が進む韓国

 韓国放送通信委員会と情報化振興院が発表した「2019年サイバー暴力被害実態調査」によると、調査対象となった9025人中3人に一人がネット上で加害または被害経験があると回答した。中でも学生の加・被害経験率は減少しているのに対し、成人は54.7%で前年比11.6%増加。特に、30〜40代の加・被害経験率が前年比19.3%増と大幅に上昇していた。

 社会の多様性が乏しく同調圧力が日本以上である点を考慮すべきであるが、韓国ではその分、サイバー暴力のダメージ回復についての研究も進んでいる。

 韓国・湖西大学校のトゥ・キョンヒ教授は、サイバー暴力被害経験のある8人(平均年齢24歳)のその後の認知的変化と、回復のために行った対処について調べた。

 8人は被害後、自責感情と人間不信、世界に対する無力感、いつでも攻撃されうるという警戒心と恐れを強めていた。そして同様の事件を見ると恐怖心が再浮上してきたり、テキスト画面が思い浮かんで眠れないなど、日常生活に支障をきたすなどをした。

 彼らがそのような症状から回復する上で最も助けとなったのは擁護するコメントを書き込んでくれたり、実生活で相談に乗ってくれるなどといった「社会的支持」の存在であった。トゥ教授はこれについて「結局、自分を守ってくれる人がいることを確認することが、最も大きな助けの源泉となるのではないか」と分析している。

 また、その次に効果があったのは、自分には何ら落ち度がないことを認識し自身の価値を肯定的に見直すことであった[1]。

 ネット上の被害と現実世界を区別し、自身への再評価を行うことがダメージ回復に有効であることは他の事例からも示されている。サイバー暴力被害経験のある237人の学生を対象に行われた調査では、ネット誹謗中傷の被害経験が自身をより強い人間に導いた、自己成長に繋がったと解釈する「肯定的な再評価」を多く行うほど、ストレス値が下がる結果が見てとれた[2]。

 被害を受けた場合はすぐに、近しい人に気持ちを聞いてもらうことが重要であるほか、こうした「社会的支持網」はネット上でもある程度構築が可能であると筆者は考えている。インターネット心理においては「傍観者効果」が働き、目に余る炎上を見かけても自身には無関係だとしてスルーしてしまうことが多い。だが、お節介でも時にボランティアとして「仲裁」に入ることは人命救助に繋がるかもしれないのだ。

◆特定の信仰心が誹謗中傷からのダメージ回復に繋がった例

 そしてもう一つは、通常の心理療法に加えて「信仰心」を利用した事例だ。

 韓国のとあるキリスト教会のカウンセリングに訪れた被害者のA氏は20年前大企業に入社し、その5年後に転職。それから再び10年後、当初の大手企業への復職を検討していた。

 すると当該大手企業で勤務していたBはA氏に嫉妬し、社内のオンライン掲示板に彼が犯罪を犯したなどというデマを書き連ねた。

 BはIDを何度も変えA氏の被害者のふりをして書き込み、数百人の社員がそれを信じた。A氏についての情報は海外支社にも伝播し、やがて家族の生活をも脅かすまでになった結果、A氏は復職を断念。職を転々とし収入は半減、子供たちは学校以外の教育(塾など)をすべてやめるところまで追い詰められた。

 来談に訪れた当初のA氏は、頭痛や腹痛などの身体症状とうつ、強い不安などの精神症状を訴えていた。

 カウンセリングでは一般的な認知行動療法で用いられる手法とともに、「神の観点、聖書の言葉」による不安心理の払拭と認知の再構造化が実施された。

 A氏は貧しい幼少時代の経験から成功を渇望し、それがサイバー暴力被害によって完全に閉ざされたことによる自尊心の低下、羞恥心、事件再発への強い不安を抱えていたが、カウンセリング担当者が随時聖書の内容を引用しエンパワメントを行った。自身が有能でなければならないという思い込みに対しては、そのような考えは傲慢であり、神への不信の現れだと諭した。

 結果、今後どのようなことが起きても神が守ってくれるという信頼感を得たことがA氏の回復に繋がった[3]。

 特定の信仰対象がなくても、 上記の事例からは、大切な人物や故人との肯定的な思い出や、心の支えとなっているものがネットの誹謗中傷被害から回復するための糸口になる可能性も考えられる。

◆自身にとって都合のいい解釈をする人が炎上を招く

 ネット上の罵詈雑言を受けやすく、かつ影響され傷つきやすい人は、愛着に問題を抱えていることも明らかになっている。愛着とは幼い頃に親や特定の人との間に築かれる絆を指し、人間に対する基本的信頼感の基礎となるもので、その後の心の発達と人間関係に大きく影響する要素となる。

 東海学院大学が東海地方の大学生246名を対象に行った調査では、いじめ被害、ネット依存、匿名情報、いじめ加害、対人トラブル、架空請求の6つの因子を設定して愛着スタイルとインターネットトラブルとの関係を分析。

 その結果、他者に対する信頼感と自尊心が低く、対人関係が不安定な「関係不安」型の愛着スタイルを持つ人はよりインターネットに耽溺し、ネット上の対人トラブルを経験しやすく、架空請求などにも関わりやすいという傾向がみられたのだった[4]。

 では一方で、「加害者」はどんな特徴を持つ人々なのか。

 誹謗中傷に耽溺する人は性格がサディスティックであったり、何かのストレスや生活不安を抱えているというのが定説となっているが、ここではもう一歩踏み込んで考察する。

・余計な火種を撒き散らす「読解力の乏しい人」

 ネット炎上は、「誤読」が関係しているケースも多いが、文章読解には受け取り手がもともと持っている「信念」が関係することがわかっている。

 特定の強い信念や偏見を持つ場合、いかなる内容の文であっても自身に都合の良い解釈をするということだ。たとえば「安倍政権」「韓国」など特定のイデオロギーが強く関わる記事に付くコメント欄では、その傾向が特に顕著に見られる。

 読解における信念には、「書き手の意図に忠実に読むべき」と、「読み手側がいかようにも読んでよし」とする二つの信念があるが、それが科学論文の要約にどのように影響を与えるかを調査した事例がある。

 調査では大学生、大学院生、社会人31名に質問紙への回答と、500文字での科学論文要約を求めた結果、 「書き手の意図に忠実に読むべきとする信念が強いほど、要約がうまくできなくなる現象が見られた。一方、読み手がいかようにも読んでよしとする信念が強いほど、要約した文章がわかりにくくなる傾向が見られた。

 この調査は質問項目が科学論文の要約に適さないものであったという制限はあったが、信念が情報の要約に大きな影響を与えることが示唆されたのだった[5]。

 この結果に則ると、書き手の意図に忠実であろうとする人ほど、文字情報を鵜呑みにしやすく嫌がらせや罵詈雑言への耐性が低いと考えられ、読み手側にそうした自律がない場合は、解釈に問題を抱える可能性が高いと推察することもできる。

 また、書き手のジェンダーに関する主観的主張が記された文章に対し、統語論的レベル、意味論的レベル、実用論的レベルの3つの基準で読解程度を測定した研究では、文章内容を支持するジェンダー観を持っている場合は、より深く読解することが確認された[6]。

 読み手の信念と文章内容が一致していれば理解度はさらに増すが、当然その逆もありうるということになるのだ。その上、SNSでは深く考えずにコメントができてしまうため、火種は絶えず生み出されていく。

◆「正義」を振りかざす人は、自分の欠点を直視できない人

・外在化しがちな人

 外在化とは己の中の受け入れ難い要素を自分以外の対象に投影し、嫌悪する態度を指す。

 ヘイトはもちろん、“正義”を大義名分にネット私刑を行う「ソーシャル・ジャスティス・ウォーリアー」が表裏一体である点はすでに多くの人が感じているものと思われる。

 バランス感覚を欠いてまで何かを批判したくなった時は、自分の中の「悪」や弱さを直視できず、外部に転嫁しているのだと知れば、凶器を振りかざす側になることを防ぐことができよう。

・過去の怒りが昇華されていない人

 木村さんへの誹謗中傷は、リアリティ番組で激情をあらわにし、乱暴な言葉遣いをしたことが不興を買ったことが発端と言われている。

 それはあらゆる意味で視聴者の感情をゆさぶる映像だったかも知れないが、だからといってわざわざ誹謗中傷をしない人も大半なのである。

 加害者となった人々は、かつて誰かから似たような態度と言動で傷つけられた経験があるはずであり、そのときにできなかった反撃を、ネットの向こう側にいる無関係の女性に対して行ったのだ。もし罪の意識があるならば、一生をかけて自分自身の問題を解決してほしいと願う次第である。

<文/安宿緑>

(参考文献)

[1] Kyung Hee Du(2015) Analysis of affecive, cognitive changes and behavioral responses of the victims of cyber bullying

[2] Chung,Yeo-Ju,Kim-Dong-Il(2012) Experienced Cyberbullying Victimization and Emotion Regulation

[3] Chung, Heyoun & Kim, Jun(2019) Intervening Anxiety of Cyber Violence Victims: A single case study in christian perspective

[4] 工藤与志文(1997) 文章読解 における「信念依存型誤読」の生起に及ぼすルール教示の効果―科学領域に関する説明文を用いてー 教育心理学研究 45(1)

[5] 大関嘉成(2009) 読み手の価値判断基準となる信念と読解水準との関係 東北大学大学院教育学研究科研究年報 57(2)

[6]宮本邦男(2014) 愛着スタイルがインターネット・トラブルに及ぼす影響 東海学院大学紀要8

【安宿緑】

ライター、編集、翻訳者。臨床心理大学院在学中。 韓国心理学会、韓国女性心理学会正会員。日本、韓国、北朝鮮など北東アジアの心理分析に取り組む。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」(現在準備中)に参加。ライター安宿緑のブログ

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