クルド人男性へのあまりに酷い暴行。なぜ渋谷警察署に抗議する人が集まったのか?

クルド人男性へのあまりに酷い暴行。なぜ渋谷警察署に抗議する人が集まったのか?

渋谷駅周辺で行われたデモの様子

◆渋谷警察署前の抗議行動に対し、40人の警官が人間バリケード

 5月30日15時。渋谷駅周辺で約200人の市民が「差別警官、懲戒免職!」などと訴えながら、渋谷警察署に抗議の声をあげるデモ行進を行った。

 デモ終了後も200人のほとんどが渋谷警察署前に赴き、「暴力反対」と抗議の声を上げた。これに対し、正面玄関前では約40人の警官が人間バリケードで固めた。

 デモ参加者の一人が、実際は侵入していないのに(映像が残っている)「建造物侵入罪」で現行犯逮捕され、その様子を近くの歩道橋から多くの一般市民が凝視。現場は騒然たる雰囲気に包まれた。

 コトの発端は5月22日。渋谷区内で在日15年のトルコ国籍のクルド人男性チェリク・ラマザンさん(33歳)が車を運転中に職務質問を受けたのだが、足を蹴られたり、首を抑えられるなどの威圧行為を受けたことへの抗議行動だった。

 その様子を車内にいたラモさんの友人がスマホで撮影。その映像がTwitterに投稿されると数日で視聴数が100万回を超えるのだが、それを見た一人である鈴木堅登さんはすぐに渋谷警察署にデモ申請をして、今回の抗議行動が実現した。

◆「日本人として恥ずかしい」。Twitterの映像を見て集まった

 鈴木さんは入管問題に携わり、デモは何度も主宰している。渋谷駅に集まった人たちは、ほとんどが初めて見る顔だったという。何人かのデモ参加者に尋ねてみると、「Twitterで見た映像に黙っていられなくなった」「日本人として恥ずかしい」といった回答が返ってきた。

 5月25日にはアメリカ・ミネソタ州ミネアポリス市で、白人警官が黒人男性を制圧しての死亡事件が起きたことで「今回のことがクルド人じゃなく白人だったら、事件は起きなかったのでは」との関心から参加した人もいた。

◆警官は「オレに勝つと思っているのか」と言って威圧行為

 ラマザンさんの話をまとめると、5月22日には以下のことがあったという。

 15時半頃、渋谷区東3丁目の路上で「歯科医院に行こう」と車を運転していたラマザンさんが、左折レーンで停車中に近くにいた警官と目が合い「お疲れ様です」と挨拶をした。その後、警官は「車の中を見せてくれませんか」と要請。歯科医院に急ぐラマザンさんはこれを断り、車を走らせた。

 するとパトカーがあとをついてくる。不審に思ったラマザンさんは車を停めてパトカーに近づき「なぜついてくるんですか。私は歯医者に行く途中です」と説明して、また運転に戻った。ところがパトカーは、今度はサイレンを鳴らしてラマザンさんに停止を命じた。

 ラマザンさんが外に出ると、警官が近づいてきた。だが警官がマスクをしていないので、コロナ感染を防ぐため「近くに来ないでください」と訴えると、警官は「オレに勝つと思っているのか」と言って威圧行為が始まったという。

◆警察の暴行現場を撮影した映像を、警察がむりやり消去

 その後のことは映像に残っている。

「座れ!」

「何もしてないじゃん。話聞いて」

「座れよ! 座れ!」

 と一人の警官がラマザンさんの足を蹴り、跪かせる。

「何もしてない!」

「おい。いい加減にしろ、この野郎! なめんなよ、おい、なめんなよ!」

 そして、撮影をしている友人に警官が近づいたところで映像は終わる。

 その後、警官は友人に「(映像を)消せ!」と命令。友人が拒否して画面ロックするが、警官は友人の顔をスマホに近づけて顔認証でロックを解除し、映像を消去した。だが映像はスマホ本体に加え、クラウド保存してあったので復旧ができたのだ。

 警官(車のナンバーから東京第一自動車警ら隊と推測される)は渋谷警察署にも応援要請をして、ラマザンさんの記憶では、パトカー10台と警官約30人が集まるほど現場は物々しくなった。

 車の中にあった所有物はすべて路上に出されたが、怪しいものは発見されず、最後に私服警官がラマザンさんの運転免許証の確認をしたところで「行っていい」とようやく解放されることになる。

◆「私に暴力を振るった。謝罪もなく許せない」と訴えるラマザンさん

 この点にラマザンさんは怒りを隠さない。

「現場は私の近所です。そこであんな目に遭ってとても恥ずかしい。それなのに私に暴力を振るった警官たちは謝罪もなくそのままいなくなりました。許せない」

 威圧行為は15分くらい続いたが、首をヘッドロックのように抑えられたラマザンさんは、その後病院で加療1カ月の「頸椎ねん挫」と診断された。

 ただし、警察の主張は異なる。

 筆者はこの件で、渋谷警察署にも問い合わせをした。最初に現場にいたのは東京第一自動車警ら隊なのか、彼らが渋谷警察署に応援要請をしたのか、なぜ職務質問を受けるに至ったのか……。

 回答は「調査中」というだけで詳細は教えてもらえなかった。唯一、あの威圧行為に至った理由が「クルド人が警官の『車の中を見せてください』との職務質問に応えようとせず、車を急発進して逃亡を図った」との説明だけは受けた。

◆「急発進が記録されているか」については「調査中」

 両者の言い分は異なるが、ラマザンさんが職務質問を拒否したことは共通している。ただし、それが「急発進の逃亡」なのかは見解が異なる。

 そこで筆者は、署員に「急発進はドライブレコーダーに記録されているのか?」と質問したが、これも回答は「調査中です」だった。

 

 すべての職務質問がまったく不要とは、筆者は思わない。だが警察側の説明が正しいとしても、問題となるべきは映像に残されたような威圧や暴力の行使だ。相手が暴力的に反抗しない限りは、威圧や暴力は不要だったのではないのか。

 ラマザンさんは5月27日、「特別公務員暴行陵虐致傷罪」で威圧行為を行った警察官2人を刑事告訴。現場には幾人もの目撃者もいたので、どちらの言い分が正しいのか? 今後の裁判が公正に行われ、しっかりと明らかになることを望む。

<文/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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