ネット誹謗中傷対応困難でマストドン有力サーバーが終了。ネット誹謗中傷は発言の場も潰し得る

ネット誹謗中傷対応困難でマストドン有力サーバーが終了。ネット誹謗中傷は発言の場も潰し得る

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◆連綿と続くネットの誹謗中傷問題

 インターネット経由の誹謗中傷で痛ましい事件が起きた。原因は、テレビ番組の『テラスハウス』にあるが、実際の攻撃をおこなったのはネット経由の人々だった。本気で殺す気で書き込んでいた人もいるだろう。しかし、多くの人はそこまでの殺意はなかったのではないか。しかし、少しずつの攻撃でも、多数の人がおこなえば集団リンチになる。ネット経由の誹謗中傷の恐ろしいところだ。

 たかが1、2行程度の言葉だと思うかもしれない。しかし、それを読んだ人は、1、2分そのことについてモヤモヤと考える。100件来れば、100分から200分、そのことについて悩む。そうした日々が続けば、心が病んでしまう。ヘッドフォンを付けて罵倒を流され、拷問を受けているのと同じ状態だ。

 実際には気にする時間は1、2分では済まない。私自身、たまにそうした言葉を投げ付けられることもある。その際、なぜこの人はこんなことをするのだろうかと長い時間考える。その日は憂鬱に過ごしたりする。

 なぜ、人は攻撃的なメッセージを他人に送るのだろう。何かに過剰に反応して攻撃的になる人は、精神が病んでいたりストレスを抱えていたりすることが多い。あるいは無知な正義感に支配されている場合もある。どちらにしろ、他人への攻撃は卑劣な行為だ。

 こうしたネット経由の誹謗中傷は、昔から存在していた。芸能界で有名な事件としては、スマイリーキクチ中傷被害事件がある。お笑いタレントのスマイリーキクチ氏が、誹謗中傷を受け続けた事件である。犯人たちは、彼が「女子高生コンクリート詰め殺人事件」の実行犯であるというデマを、1999年頃から延々と流し続けた。2009年にこの中傷被害と一斉摘発が各種メディアで報道された(参照:47NEWS)。この事件は、まだ完全に収束しておらず、2017年に殺害予告がおこなわれたりしている(参照:産経ニュース)。

 最近では、「けものフレンズ(1期)」や「へんたつ」などの作品を手掛けた、たつき監督がネット経由で脅迫を受けていて容疑者が逮捕された(参照:ねとらぼ)。去年の秋になるが、スクウェア・エニックスを脅迫していた容疑者も逮捕されている(参照:AUTOMATON)。

 こうしたネットリンチやネット脅迫は、同一線上にあると言ってよいだろう。カジュアルな攻撃と、偏執狂的な脅迫は地続きになっている。誰かに石を投げる行為は、当たり所が悪ければ人が死ぬ。多くの人が行えば、相手は簡単に絶命する。そして石は容易にナイフになり銃になる。自分の書き込みが、ネットの向こうの誰かに対して銃口を向けているということは、誰もが自覚する必要がある。

 ネットリンチや、ネット脅迫の存在は、社会的に認知され始めている。逮捕者もぽつぽつと出ている。今後、よく見られる犯罪として、加害者は法的な裁きを受けていくだろう。こうした社会の変化の背後で、知っておかなければならないことがある。なぜ、ネット経由の攻撃の加害者が特定されるのか。その仕組みについて少し書く。

◆発信者情報開示請求とはなにか?

 SNSやブログ、ネット掲示板に書き込んだのが誰かを知るには、2つの情報が必要になる。サイト管理者が持つ記録と、インターネット接続業者(プロバイダ)が持つ記録だ。

 前者は、SNSやブログ、掲示板に書き込んだ際のIPアドレス(ネット上の番地)の情報になる。この情報が分かれば、ネット上のどこから書き込んだかの情報が得られる。そして、インターネット接続業者の記録が分かれば、そのIPアドレスを利用している人が、現実世界の誰なのかが判明する。

 誹謗中傷している人を特定するために、こうした情報を手に入れるのが発信者情報開示請求になる。その背景には、プロバイダ責任制限法という法律が存在する(参照:総務省)。

 実際に、相手を特定するためには、迅速な対応が必要になる。各事業者は、情報を無限に保存しているわけではない。インターネット接続業者では、だいたい3ヶ月分しか記録を残していないと言われている。そのため、素早く手続きをおこない、開示の前に情報の保全をおこなわせるなど対応しなければならない。

 知識のない素人がいきなりおこなうことは難しく、多くの場合、手続きに慣れた弁護士に依頼することになる。また、ネットに公開されている手続きのやり方を見ながら、進めるという方法もある(地方在住弁護士|note)。いずれにしても、簡単にできることではない。また、SNS企業の多くが海外にあることを考えると、手続きは手間がかかる。とはいえ、きちんとした手順を踏めば、結果を出すことができる。

 ネットで他人に攻撃をおこなっている人は、自分の行動を省みて欲しい。匿名で書き込んでいるつもりかもしれないが、期間に上限があるとはいえ記録は残っている。また、記録の保全が依頼されていれば、インターネット接続業者側で情報を残している。ネット経由で書き込んでいることは、道の往来で、スマホのカメラを向けられながら叫んでいるのと同じだということを自覚しておいた方がよい。

 また、世の流れに応じて「SNSで名誉毀損、電話番号も開示 総務省年内にも実施」というニュースも6月4日付けである。今後は、ネット経由の誹謗中傷は、より簡単に逮捕されるという認識で行動するべきだ。

◆msdtn.jpやmastodon.cloudが「対応が困難」としてサービスを終了

 ネットの誹謗中傷に対して、被害者側の立場から、どう加害者を特定しているのかということを書いた。この問題は、被害者と加害者の立場以外にも関係する人々がいる。サイト管理者やインターネット接続業者だ。

 こうした事業者は、自動化されたシステムがなければ個別の案件に人手が発生する。既に自動化している企業ならともかく、そうでない場合は、今後案件が増えれば対応コストが増大する。

 今回の『テラスハウス』の件で、そうしたことを感じさせる話も、ネットで見ることになった。「mmsdtn.jp / mastodon.cloud サービス終了について」という情報だ。mmsdtn.jp、mastodon.cloud の両者は、分散型SNSとして一時期注目を浴びた mastodon の有名サーバーだ。

 以下、記事内容が、今後保全されるか不明なので転載をおこなう。

> 【重要: msdtn.jp / mastodon.cloud サービス終了について】

> ここ最近、インターネット上おける誹謗中傷に対する対応について、各社のニュース・SNS等で話題となっております。

(中略)

> これらの影響に伴い、今後、訴訟や開示請求がより一般的となることや、政府機関からの対応強化の指示、並びに法制強化などが実施される可能性が予想されます。

>

> しかしながら、弊社の現在の体制ではそのような場合の事務負担増に耐えきれず、適切な対応が困難なことから、mstdn.jp ならびに mastodon.cloud について、2020年6月30日をもってサービス提供を終了することにいたしました。

 その後、譲受希望の問い合わせが複数あり、米国の企業へ譲渡することを決定したという情報が同ページに出ている。どちらにしろ、手放すタイミングを計っていたところに、「誹謗中傷対応のコスト増」という言い訳ができたのだろうと想像できる。

 ちなみに、記事執筆時点の mmsdtn.jp 、 mastodon.cloud の運営元は、合同会社分散型ソーシャルネットワーク機構である。この会社は、前の所有者である合同会社きぼうソフトから、2019年07月16日付けで設立された新会社だった(参照:ITmedia NEWS)。そして、合同会社きぼうソフトは、2019年12月5日の時点で破産手続きをおこなっている(財経新聞、倒産情報-JC-NET)。

 今後、SNSやブログ、ネット掲示板は、こうしたコストを適切に払える企業のみしか運営できなくなっていく可能性がある。健全なことではあるが、野良の活動が減り、大手のさらなる独占や寡占の追い風になるかもしれない。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。

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