万引き犯の微表情を読み取り、反省の弁を引き出した万引きGメン

万引き犯の微表情を読み取り、反省の弁を引き出した万引きGメン

岐阜を中心とした中部地区でR・Tさんは11年にわたり私服保安員として従事している

 みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。本日は、「清水建二の微表情学第84回〜第86回」にて取材協力して頂いた私服保安員の方に再度協力して頂き、実務における表情分析の現在を伺いました。

 本取材に協力頂いた私服保安員の方の具体的な業務は、万引き犯を取り締まることです。テレビの特集などでは、通称万引きGメンと呼ばれています。保安員歴11年の R・Tさん(30代・男性)。最近、表情分析の専門資格であるFACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)を取得されたと伺い、取材させて頂きました。

 Rさんは、「外見からやはり判断されてしまうんですね。」としみじみ言いながら、こんな話をしてくれました。

◆黒髪で清楚な女性万引き犯の余罪

 某書店にて、黒髪で清楚な感じの女性がコミックを2,3冊万引きしているのを発見。女性が店外に出たところで声をかけ、書店の事務所に任意同行。30代前半のOLのようです。彼女の手荷物は、バックとレジ袋。任意で持ち物検査をしたところ、案の定バックの中からコミックが現れ、彼女は素直に犯行を自供。それを見て、店側は警察に通報したとのことです。

 しかし、Rさんは持ち物検査のときにある違和感を抱いたようです。

「持ち物検査のときに、バックの中に缶詰と刺身が袋に入った状態で入っているのに気が付きました。違う店舗で万引きしたものじゃないかと思って。変ですよね。レジ袋じゃなくて、バックの中にパッケージの状態なんて。そこで、警察官に確認をお願いしました。」とRさん。

 警察官が、再度持ち物検査をし、前科が無いことを確認。そして、OLに尋ねます。

警察官:この袋のもの(レジ袋の中のものとバックの中の缶詰と刺身を指して)、お金払っていますか?

OL:(レジ袋の中のものを指して)お金払いました。(バックの中のものを指して)お会計しています。

警察官:そうですか。わかりました。

 警察官はOLの言葉を信じ、Rさんに伝えます。しかし、Rさんは彼女の言葉と表情とに矛盾を抱いたそうです。

◆Rさんが察知した言葉と表情との矛盾

 「彼女は『お会計しています』と言いながら、口元を手で覆い、眉は引き上げられながら眉間に力が入り、目は見開いていたのです。これは恐怖の表情です。お会計しているなら、なぜ恐怖を抱かなくてはいけないのでしょうか。レジ袋のときは、表情に何も変化はありませんでした。バックの中のときだけ、恐怖の表情なのです。」

 Rさんは、OLには聞こえないところで、警察官にもう一度バックの中のことを聞いてもらおうとお願いします。しかし、警察官は消極的です。

Rさん:僕は、バックの中の商品を買っていないと思うので、もう一度本人に聞いてもらっていいですか。

警察官:いやいや、本人『買っている』って言っていますし、何の証拠もないですよ。

Rさん:じゃあ、僕が自分で話します。

 と言い、RさんはOLに話しかけます。

Rさん:僕は、バックの中のものを清算していないと思うんですけど、本当に買っていますか?

OL:あ、いえ、買いました。

 ここで、OLの表情の反応が先と同じことから、バックの中のものも万引きしていると確信しました。

◆心から反省してもらうために出来ること

警察官:本人「買った」と言っていますよ。なぜそんなに「買っていない」というのですか?

Rさん:もし買っているのならば、何をそんなに恐れているのですか?買ってないから、恐れているんじゃないですか?

OL:……。

Rさん:もしこれが盗ったものであったとしても、すぐに逮捕ということになるわけではないので、あなたのためにもここで本当のことを話した方がよいのではないでしょうか。

 Rさんは、こう女性に話しかけた理由を次のように説明してくれました。

「ウソを重ねて最終的に発覚すれば、警察からの心証が悪くなり、悪質で逮捕に至る可能性もあります。また、ウソをつかせたままで終わらせたら、彼女は心から反省できないと思ったのです。このときの彼女の表情は、口角が引き下げられ、下唇は引き上げられていました。つまり、感情を抑制している表情です。そこで、こんなふうに彼女に問いかけました」

Rさん:私は逮捕とかを望んでいるのではなく、もし盗っているのであれば、しっかり謝って代金を支払って欲しいだけなのです。

しばしの沈黙後。

OL:……お金払っていません。

警察官:あなたさっき「買った」と言ったじゃないですか。私にウソをついたのか。

OL:すみません。

 その後、彼女と彼女が食品を万引きした店に行き、謝罪してもらい、万引きした商品の代金を払ってもらったそうです。それから彼女は警察署に行くことになりましたが、逮捕ということにはならなかったとのことです。

◆鋭い観察眼と優しい心で万引き犯を日々説諭するRさん

 レジ袋の中身とバックの中身との表情反応を比べ、疑惑度を推定する、凄いスキルです。また、R・Tさんは、そのとき書店に雇われていた保安員ですので、書籍の万引きを取り締まることだけが業務範囲です。しかし、万引きを犯してしまったOLの更生を願い、積極的な行動をされている姿勢に敬服します。

 ところで、冒頭の「外見からやはり判断されてしまう」というRさんの言葉は、どういう意味でしょうか。黒髪で清楚な感じの女性ゆえに、警察官はコミック以外の万引きについては疑わなかった、という意味でしょうか。このケースに続き、見た目が「ザ・ギャル」の万引き犯のお話を聞かせて頂きました。外見が引き起こす対応の違いとは?次回、清水建二の微表情学にてお送りします。ご期待下さい。

※本取材は、新型コロナウィルスによる緊急事態宣言が発令される前の3月に行ったものです。

※本記事中の画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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