歓迎ムードの「通勤レス」なリモートワーク。社会への普及・定着が招く不都合な未来像とは……?

歓迎ムードの「通勤レス」なリモートワーク。社会への普及・定着が招く不都合な未来像とは……?

UDON-CO / PIXTA(ピクスタ)

◆定着しつつあるテレワーク

 新型コロナによる緊急事態宣言で、自宅からのネットを介した勤務、通称“リモートワーク”を体験した人も多いと思います。フリーランスのライター&編集である筆者も、友人から「お前は、今までこんなに楽に働いてきたのか、ひどい目にあえ」と心温まる罵声を浴びせられました。

 リモートワークが普及し、これから定着するのかについてはこれから精査していく問題かと思いますが、ひとまず現在リモートワークを導入している企業のうち実に8割がコロナ禍を受けての導入であり、調査企業のなんと75%は何らかの形でリモートワークの導入を決断したという。(リンクライブ調べ)

 その調査結果も、導入に満足している人は不満な人に比べて3倍以上を示し、ダルイ終業後の飲み会にも参加しなくてもいいしサイコーというのが大方の実感ということになりそうで、ひとまず「その気持ちわかります」と言っておきます。

 コロナウイルスに対する医学的対策の道筋が依然見えないまま、何となくの終息ムードの現在。リモートワークは一時の勢いを減らししつつも、企業の危機管理の観点からも一定の立ち位置を占めていくことになりそうです。

 そんなこんなで、なし崩し的に普及した形のリモートワークですが、なぜ、大企業を中心にさまざまな問題をはらみつつも短期間に実施できたのかを考えておいてもいい時期じゃあないでしょうか。

◆テレワークはもともと政府主導の“働き方改革”

 「リモートワークってそもそもなんだよ」という混乱もそう起きないまま、どうして書斎もない日本の住宅環境でも比較的スムーズに移行できたのでしょうか?

 

 それは、提言はされたもののあまり進まなかった総務省の“働き方改革”の中、テレワークとして大きなイシューを占めていた施策であったことが要因に思えます。ある一定規模以上の企業では、あらかじめ対応策や導入の道筋が検討されていたがゆえに、今回のようなイレギュラーな事態でもなんとか移行できたように見えのです。

 

 総務省の言うテレワークは、モバイルオフィスや、サテライトオフィスなどの概念を含み、地方での就労・雇用創生の文脈と、ワークタイムバランスの実現の文脈も含まれるのだけど、今回のコロナ禍ではざっくり「通勤の排除」という形で現れたというわけ。

 プレミアムフライデーが盛大にコケた結果、政府主導の労働改革は、大企業だけが実施できる“絵に描いた餅”な印象が強いままです。その中で、社内コンプラがリモートワークでは守らせることができず情報統制がグズグズになったよ、とか問題もはらみつつも、このリモートワークは、コロナの影響でなし崩し的に普及し労働者側も「ラク」という圧倒的なメリットを享受したため、これからの働き方に一定の存在感を示すことになりそうではあります。

 しかし、目の前に転がる「通勤が無くてラク」という巨大すぎるメリットにコロッと転ぶと、数年後にひどいしっぺ返しを食らうのではないかと筆者は強く危惧しているのです。

◆政府主導の労働改革は大体ヤバイ。楽だからと丸乗りするのは要注意!

 筆者はリモートワークの何を危惧しているのか。働き方改革実現会議が平成29年に発表した『働き方改革実行計画(概要)』を見てみましょう。

 そこでは、「雇用型テレワーク」、つまり今回普及したリモートワークと並行する形で、「非雇用型テレワーク」、「副業・兼業の推進に向けたガイドラインなどの策定」が提案されています。近年ビジネス系インフルエンサーが煽っている新しい働き方の花形ばかりです。

 これこそ、現行の労働法上、とても強い立場の正社員という立場をゆるやかに解体し、気が付いたら筆者のような浮草稼業になってしまうメカニズムが潜んでいる「罠」です。

 企業にとって、今回の新型コロナで学んだ教訓は、「リモートワークは便利」だけではない。「リモートワークが普及したら、オフィスの規模も縮小できて効率的」? 少し近づいてきました。

 オフィス規模が縮小できるのが、なぜ効率的でメリットなのか。もちろん、固定費が削減できるからです。そして、企業にとって、もっとも重くのしかかる固定費は当然ながら正社員の人件費です。新型コロナのような事態がこれからも想定される中、次は固定費も効率的に削減できるようにするようにするのは必然でしょう。

 “自由な働き方”の御旗を掲げる「働き方改革」による日本の労働市場のアメリカ化。企業は外聞よく新しい働き方を提案するでしょう。

 その結果どうなるかは、今回の派遣社員の雇止め問題や、いきなり2000万人のレイオフが行われたアメリカの労働市場を思いだしてみてほしい。あの傾向はこれから加速し、現在の正社員にもそのメスが入ることになる。その時に標的になるのは職場にいないものになるのは容易に想像がつくところだ。

 仮に、正社員のまま通勤の無いリモートワーク形態に働き方を変更したとする。すると、職場の雰囲気や人間関係がゆっくりと解体されていき、会社対個人のパワーバランスが、より顕著なものになっていくことは間違いないでしょう。

 そうなると、手取り収入は増えるが成果物あたりの報酬になる業務委託契約を持ちかけられたら拒める人はそう多くないでしょう。人によっては副業規定の枷が外れ手取りも増えると喜々として応じるかもしれませんけど。

 正社員の枠が外れた瞬間、企業にとってその労働者は筆者のような下請け業者になるわけです。業績に応じて切り放題だ!

◆セーフティネットに期待できない日本で、過度な期待は禁物

 80年代のフリーターブーム、90年代の派遣社員という新しい生き方、00年代のフリーランス、10年代の副業解禁……。これら政府が旗を振り、俗流ビジネス書が煽った新しい働き方。その末路がどうなっているのかを今一度思い返してみましょう。

 

 さらに、徐々にその「新しい働き方」の対象が正社員のほうににじり寄ってきていることも分かるでしょう。そして、この提案に乗って成功した人はほんの一握りなのはご存知の通りだ。もちろん、落伍した者へのセーフティネットの整備になると急に対応が悪くなることも。

 正社員だったはずが、気が付いたらリモートワークの業務委託に契約が変更され、数年後に契約切れ、気が付いたらリモートワーク対応の労働者派遣会社と契約することになって、3か月ごとの契約更改におびえる生活……というのは、十分あり得る将来像だと筆者は考えます。

 働き方改革コンソーシアムで、エグゼクティブアドバイザーを務める竹中平蔵氏に、筆者はそれだけ”厚い信頼”を寄せていると言ってもいいです。

 え? そこまで正社員の立場にこだわる筆者はなぜフリーランスをやっているのか、ですって? それは筆者が就職氷河期出身だからです!

 ちなみに就職氷河期世代の対応は、前述の『働き方改革実行計画(概要)』では、「就職氷河期世代や若者の活躍」と20歳以上も差があるのに若者と同じ枠にぶち込まれ、「35歳を超えて離転職を繰り返すフリーター等の正社員化を推進」と投げやりに記載されているのです……。

 20年経っても、セーフティネットを完備しなかった日本の労働改革の実態を、筆者を他山の石として、一見見目麗しいスローガンに乗ってしまわないように老婆心ながら申し上げさせていただきました。

<文/久保内信之>

【久保内信行】

編集・ライター。編プロタブロイド代表取締役。デジタル系からオタク系コラム、経済にコピーライティング全般。著書多数。筆者のnote、Twitterアカウントは@tabloid

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