買収騒動に揺れた「大戸屋」、株主が選んだ答えは「効率よりも味」

買収騒動に揺れた「大戸屋」、株主が選んだ答えは「効率よりも味」

大戸屋をめぐる騒ぎの発端は創業者の急逝であった。

◆揺れに揺れていた「大戸屋」をめぐる争い

 揺れに揺れていた大手和食チェーン「大戸屋」(大戸屋HD、本社:東京都武蔵野市)の買収騒動が6月25日に「決着の日」を迎えた。

 騒ぎの発端は2015年に大戸屋の創業者である三森久実氏が急逝したのち、2019年に創業家が外食チェーン経営の「コロワイド」(本社:神奈川県横浜市)に大戸屋HDの保有株式を譲渡したこと。

 コロワイドは大戸屋を傘下に収めるべく6月25日開催の大戸屋HDの株主総会で取締役の刷新を求める株主提案を提出。しかしその提案は否決され、大戸屋は「現経営陣の続投」が決まった。

 大戸屋HDによると、議決権を行使した株主のうち、約7割が現経営陣の続投を支持したという。

 果たして、今回の騒動は一体どういった経緯で起きたものだったのか――これまでの大戸屋の動きと、コロワイドとの対立の構図を振り返る。

◆買収騒ぎの発端は「創業家と経営陣の御家騒動」

 買収騒ぎの端緒となったのは、大戸屋の創業家と現経営陣による「御家騒動」だ。

 大戸屋は1958年に三森久実氏の叔父・養父である三森栄一氏が池袋駅東口に開業した大衆食堂「大戸屋食堂」を起源に持つ。

 三森栄一氏は子供がおらず、養子となった三森久実氏が大戸屋の事業を引き継ぎ、1990年代に入ると「健康な和食」を掲げてチェーン化に挑んだ。そして、2001年には現在のJASDAQに上場(当時は店頭市場への登録)。日本国内に約350店舗(2020年現在)、そして東アジア各国・アメリカ大陸にまで展開する一大和食店へと成長させた。

 三森久実氏が肺癌により急逝したのは2015年7月のこと。社長には三森久実氏の従弟である窪田健一氏が就任していたものの、業績が悪化しつつあった大戸屋HDは、創業家に対して保有株の相続税対策として支払われる予定であった「功労金」を巡って久実氏の後継者と目されていた息子・三森智仁氏、久実氏の妻・三森三枝子夫人と対立。智仁氏は2016年に大戸屋の役員を辞任したものの、2017年5月の株主総会において大戸屋HDが創業家に2億円の功労金を支払うことで騒ぎは一旦決着し、三枝子夫人と智仁氏は、2019年に保有していた株式の全てをコロワイドに譲渡した。

 これにより、コロワイドは大戸屋HD株の約19パーセントを保有する筆頭株主となった。

◆大戸屋、業績悪化で窮地に……。コロワイドによる再建に「NO」

 御家騒動を切り抜けた大戸屋であったが、業績の悪化は止まらず、2018年から2019年にかけて商品の値上げを実施。しかし、値上げによる客離れを引き起こしたうえに「御家騒動」によるイメージの悪化もあって2019年度中間期決算では上場以来初の赤字に転落した。巻き返しを図るべく臨んだ2019年後半にはサンマの不漁により看板メニューである「生さんまの炭火焼き定食」が販売延期となり、さらに2020年には新型コロナウイルスの感染拡大が追い打ちをかけるかたちで、2020年3月期通期(連結決算)は11億4700万円の最終赤字に転落することとなってしまった。

 大戸屋HDの筆頭株主となっていたコロワイドは、大戸屋を買収して経営の立て直しを図ることをめざした。コロワイドは6月25日開催の大戸屋HDの株主総会において現在8人の取締役を12人に増やし、そのうち7人はコロワイド側とする株主提案を提出。しかし冒頭で述べた通り、これは否決されてしまうこととなった。

「飲食チェーン再建のプロ」として知られるコロワイドの提案は一体なぜ受け入れられなかったのであろうか。

◆大戸屋に「調理方式の合理化」を提案していたコロワイド

 コロワイドは1963年に創業。1977年に現在の主力業態の1つである居酒屋「甘太郎」の1号店を開店させた。居酒屋を祖業としながらも、2000年代以降は全国各地の多様な業種の飲食チェーンを次々に傘下に収めており、2020年現在は回転寿司の「アトム」「かっぱ寿司」、ステーキファミレス「ステーキ宮」、焼肉「牛角」、ハンバーガー「フレッシュネスバーガー」など、様々な有名チェーンがコロワイドの傘下となっている。それらの多くは経営再建の過程でコロワイドの傘下に入ったもので、同社が「飲食チェーン再建のプロ」といわれる所以でもある。

 一方で、コロワイドの蔵人金男会長は2017年には牛角を運営するレインズに対し「生殺与奪の権は、私が握っている」とした文章を出すなど、経営再建に関わる企業に対して厳しい態度を採ることでも知られていた。

 コロワイドは大戸屋に対して、業績の立て直しのため工場で半調理した食品を各店舗に配送するというセントラルキッチン方式への転換などといった調理方式の合理化を提案。しかし、大戸屋は店内調理でできたてを提供することを社是としており、セントラルキッチン方式を採る多くのファミリーレストラン等との差別化によって成長を遂げてきた企業だ。そのため同社の経営陣は「調理の効率化」に猛反発。窪田社長が5月25日に開いた記者会見で「大戸屋の最大の差別化要因である『店内調理』という強みは絶対に変えない」と発言するなど、対立が深まっていた。

 さらに、株主総会を前にした5月ごろからは、現経営陣とコロワイドの双方が大戸屋HDの株主に対して「議決権行使に関するお願い」を送り合い、さらに株主に対して個別に電話をかけるローラー作戦を行うという異例の事態へと発展していた。

◆効率を取るか、味を取るか…選択を迫られる飲食店

 こうした「調理の効率化」による業績の拡大を狙った飲食チェーンは数多くある。「長崎ちゃんぽん」で知られる「リンガーハット」もその1つだ。

 リンガーハットは2005年から2007年にかけてほぼ全店舗をオール電化にし、麺や具材、スープなどをセントラルキッチンで半調理された冷凍のものへと切り替えた。また、調理器具の自動化も進め、これにより、どこの店で誰が調理しても同じ味のちゃんぽんを以前よりも短時間で提供することができるようになった。

 一方で、これまでの「中華鍋で生野菜から炒める」という「伝統的なちゃんぽん」と同じ調理スタイルに慣れた客からは「元の作り方のほうが本格的で美味しかった」という声が多く聞かれるようになり、「調理の効率化」直後は業績が悪化。効率化による業績の拡大をめざしたにも関わらず、2009年2月期通期には約24億もの赤字を計上することとなってしまった。

 大戸屋HDは株主に対して5月に送付した「議決権行使に関するお願い」に続いて、6月に大戸屋の「素材」と「店内調理」のこだわりに関する葉書を送付するなど、コロワイドによる買収とセントラルキッチン導入などによる調理の効率化に対する異議を唱え、コロワイド側の株主提案に反対するように呼び掛けた。

 その思いが伝わったのか、6月25日の株主総会では議決権を行使した株主のうち約7割が大戸屋側に賛成。大戸屋HDの株主の多くは大戸屋の味に親しんでおり「現在の手法を変えて欲しくない」という思いが強かった、といえる結果となった。

 もう1つ、株主が大戸屋側につく大きな要因となったと思われるのが、コロワイド側が提案した「取締役候補者」の内容だ。実は、コロワイド側が提案した取締役候補者のなかには、現経営陣と対立関係にあった創業者の息子・三森智仁氏が含まれる。智仁氏が再び大戸屋HDの役員となることで起きる可能性がある「再度の御家騒動」を望まない株主が多かったことも、大戸屋側にとって有利にはたらいたのではないだろうか。

◆業績次第では先行きはまだわからない

 一方で、コロワイド側はこれによって「大戸屋の買収を完全に諦める」ということにはならないであろう。先述したとおり大戸屋の業績は悪化が続いており、これ以上の赤字が続くならば「効率化も止む無し」と思う株主が増えることも予想される。

 先述したリンガーハットは、2000年代の調理の効率化後には客離れを起こし業績が大きく悪化したものの、効率化は客の待ち時間の短縮・回転率の向上にも寄与することとなり、さらにオール電化により都市部の狭小店舗やスーパーマーケット等のフードコートへの出店も容易なものとなったため、店舗網を大きく拡大。野菜の国産化によるイメージ向上もあって、2020年2月期の売上高は約458億円と、効率化前の2005年ごろ(350億円台)よりも大きく伸びている。

 もちろん「昔の中華鍋を振っていたリンガーハットの味も懐かしいなあ…」と思う客は少なくないであろうが、約15年前の効率化はリンガーハットにとって成長を遂げるきっかけの1つになったといえる。

 大戸屋は創業地である東京を中心に多くの店舗を展開しているものの、首都圏外ではまだまだ空白地帯も多く、大阪市ですら僅か3店舗のみだ(2020年現在)。出店地域の拡大を図るには、全国各地で様々な業態の店舗を持つコロワイドのノウハウや、同社が全国各地に持つセントラルキッチンを活用したほうが経営効率がいいことは明白である。

 果たして、「手作りにこだわり続ける」という大戸屋HDの選択は正しいものとなるのかどうか――コロナ禍後の大戸屋の業績と、コロワイドの更なる一手に注目が集まる。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

関連記事(外部サイト)