共通テスト、2つの日程設定で戸惑う受験生。公平性に疑問も

共通テスト、2つの日程設定で戸惑う受験生。公平性に疑問も

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◆大学入試センターは3つの日程を用意

 来年の大学受験生、特に現高校3年生はこれまで「役人」「有識者を名乗る人」達によって散々振り回されてきました。これらは、すぐにわかる重要事項の不備を発見できずに決定したことによります。

 まず、来年の1月から実施される大学入学共通テストについて一通りの現状を整理しておきましょう。以下の内容は、6月30日に大学入試センターから発表された「令和3年度大学入学者選抜に係る大学入学共通テスト実施要項」を元に整理したものです。

第1日程(1月16日、17日実施)

高校3年生および高卒の受験生が受けることができます。

第2日程(1月30日、31日実施)

高校3年生で「学業の遅れ」が理由でそれを学校長が認めた人に限り受験ができます。高卒の受験生は最初からは第2日程を申し込めません。なお、第2日程は第1日程を申し込んでおいたものの、病気等の理由で受験できなかった人の「追試」の役割もあります。

第3日程(2月13日、14日実施)

第1日程、第2日程のいずれかを受験予定であったが、病気等の理由で受験できなかった人のための「追試」です。「特例追試」と呼びます。第3日程の試験問題は、現行課程に変わるときに作成した予備の問題をもとに出題される予定です。

(ただし、「第1日程」のような呼び方は発表された実施要項にはありません。)

 これまで通りであれば、第1日程の1月16日、17日に本試が設定され、その1週間後の1月23日、24日に追試が設定されますが、新型コロナウィルスの影響による「学業の遅れ」に配慮してこのような日程になりました。ところが、この「よかれ」と考えた配慮が逆に受験生を混乱させることになります。

◆第2日程の設定は意味があるのか

 文科省では、これまでに6月19日にも同様の令和3年度の入試に関する通知が出ていますが、ここには第2日程は、「学業の遅れ」を理由に選択できるとあります。しかし、その後、学校長の承認を必要とするなど第2日程の受験資格のハードルを上げてきました。「学業の遅れ」に配慮して選択肢を増やしたものの、第2日程にまわってほしくないという考えが透けて見え、「本当に『学業の遅れ』がある場合だけだよ」と念を押したように見えます。

 さて、この「学業の遅れ」対策のための第2日程ですが、本当に必要だったのでしょうか。まず、「学業の遅れ」のためにどれだけ効果があるのかが疑問です。

 その一つは、共通テストで「学業の遅れ」を救ってくれたとしても国立大学の個別学力試験(2次試験、以下2 次試験と記す)の日程は変わらないからです。結局は例年通り2月25日、26日に2次試験は実施される見込みで、国立大学を受験する高校3年生はこの日までに高校の学習内容を終えないといけないからです。(私立大学受験の場合も同様です。)

 加えて、数学の場合は、国立大学を受ける多くの高校3年生は高校2年生までに共通テストの出題範囲は終えており、共通テストを2週間遅らせてもその効果は小さいと言えます。(もちろん、高校3年生のときに「数学B」(2単位)を学習するケースもあります。)

 では、国立大学の個別学力試験および私立大学の入試も今から実施日を延期したり、出題範囲を縮小したり、今から選択問題を増やしたりすればよいではないかと考える人もいるかもしれませんが、それは簡単なことではありません。それは、会場確保の問題と人的な問題があります。

 まず、今の段階から、すべての国立大学が一斉に全受験生を収容できる会場を探すことは困難です。そして、変更した日程に試験を採点するかなりの人数の大学教員を今から確保できるかが大きな問題です。大学教員は、そもそも忙しい中、入試の採点日には予定を入れないようにしているので、毎年、採点日に集まることが可能なのです。

 また、出題範囲の変更や選択問題を機械的に増やすことは不可能ではないかもしれませんが、問題の質の確保となるとかなり厳しい教科もあるのです。特に、選択問題は(すでに実施している大学もありますが) 公平性には疑問をもちます。(今後、学生募集に苦労する一部の大学が、「出題範囲を狭くするからうちの大学を受けてね」とアピールすることは考えられます。)

 なお、受験者は少ないでしょうが、第3日程(特例入試)では大学入試センター試験(以下、センター試験)の予備の問題を使うようです。従来は課程の変わり目に用意するもののようなので、2013年〜2015年ころに作成した問題です。今度の共通テストでは、試験の形式が大きく変わったのにも関わらず「課程の変わり目でないから用意しなかった」という話も聞こえてきますが、もしもこれが事実ならば大学入試センターの怠慢です。結局、第3日程の問題は、問う内容もかなり違いますから第1日程、第2日程の問題との比較はさらに困難です。

◆必ず第1日程と第2日程の難易の差ができてしまう

 センター試験のこれまでの出題経験者によると、「センター試験の本試と追試は同じ難易になるように作成するよう依頼されている」といいます。(そのような依頼はされていないという人もいます。) そして、同じ難易度になるように厳しいチェックが入るとのことで、出題者が、これまで本試と追試の難易が一致するように努力してきたことは認めましょう。

 しかしながら、「試験の難しさ」の定義は本来難しく、少なくとも出題者から見た難しさではなく、その試験を受験する人にとっての難しさとして考えなければなりません。実際、作問者がどれだけ試験の難易に気をつけても、そしてそれを厳しくチェックしても問題の難易に差がついてしまうのが現状です。そもそも問題が難しかったかどうかは、受験者が決定することであり、試験の結果を見てわかることなのです。もしも、試験の実施の前にその試験問題の難易が正確にわかるのであれば、年によって各科目の平均点が大きく上下することもありませんし(例えば、「今年のセンター試験は英語が難しかった」などの発言もなくなる)、「科目間の得点調整」などという用語は存在しないはずです。

 したがって、第1日程と第2日程の難易の差は必ずできてしまい、試験にとってもっとも重要な「公平性」が失われてしまいます。これでは、もはや「共通テスト」は共通のテストではないのです。

◆当然、第1 日程と第2 日程のどちらを受けるべきかという問題になる

 高校生が第2日程を選択できる以上、当然起こる問題です。6月30日の大学入試センターの発表では、第1日程と第2日程では得点調整はしないとありますから、いろいろな条件を考えた上で高校生はどちらを受けた方がよいかを悩むことになります。文科省からすれば「学業の遅れが理由の場合」なので自由に選択できないと考えるかもしれませんが、現段階では「やろうと思ったらできる」状態と考えられます。もちろん、いつのまにか「学校長の判断」となって、校長に責任がある形にはなりましたので、今後は校長を通してコントロールする可能性も否定はできません。

 さて、どちらかの日程を選択する場合に重要なことの一つは、2次試験までの時間です。第2日程の場合は第1日程に比べて2次試験までの時間は3分の2になります。

 教科によって異なりますが、数学の場合は、共通テストの勉強が2次試験の対策に直結しないものが多くあります。それは、結果のみを答える共通テストの学習期間が長く続くと答案が雑になることや共通テストで出題されない問題(答案の設計が必要な問題、自らの判断で場合分けをする問題) を解けなくなることがあげられます。逆に、共通テストで試される「太郎・花子」の問題は2次試験ではまず出題されません。

 さらに、数学IIIを必要とする理系の場合は、共通テストに集中している間は数学IIIから離れることになります。そう考えれば、第1日程の方がよいということになるでしょう。

 また、これまでのセンター試験では、本試と追試では追試の方が難しいのではないかと実際解いた上で感じる人も多くいます。それが事実かどうかを確かめるために、各科目につき100人程度、満点が取れない程度の大学生に第3日程(特例追試)までのすべての試験を受けてもらい平均点の差を調査するなどが必要です。

 私も過去に10人ほどですが、センター試験の数学で満点を取れない人に本試と追試の両方を解いてもらいましたが、追試の方が1割程度点数が低いというデータもあります。(ただし、このデータはサンプル数としては少ないことに注意してください。)それから、追試の方が難しくなくても、問題の作り方が雑だと感じる人も少なくありません。そのように考えると第1日程の方がよいと考えられますが、これまで、本試と追試の難易の差はないと考えるのであれば、それをそのまま使うであろう第1日程と第2日程では、(共通テストの結果が重要という人は特に) 第1日程の傾向を見てから第2日程を受けたいという人もいることでしょう。

 結局は、第2日程を設定したことは、「公平性」に疑問があることだけでなく、散々苦しめた高校3年生をさらに悩ますことになってしまうのです。

◆「そもそも共通テストは実施しなければならないのか」の疑問に対して

 これは、長い目で考えると検討しなければならないテーマですが、「大学入試のあり方に関する検討会議」では、これまでにここまで遡って議論されていません。それは、そもそもこの会議は来年の入試ではなく、もっと長い期間での入試のあり方を考える会議だからです。共通テストの存在の是非は重要な問題ですが、来年の試験に関して言えば、今の段階から来年の共通テストを中止するという変更はよいことではありません。それは、再度、受験生の目標を変えてしまうからというのが一つですが、大学側も共通テストが実施されるものとしてスケジュールをたてているからです。これは、共通テストのみで合否の判定をする大学だけでなく、大半の国立大学のように個別試験(2次試験)を課す大学にもあてはまります。

 数学の場合は、従来のセンター試験では、2次試験との役割分担が決まっていて、センター試験では、広く浅く全分野から均等に出題されているので、2次試験ではその年ごとにいくつかの分野に絞り深く考えさせ、思考力を測る問題が出題されているのです。例えば、東京大学では現行課程になってから一度も2次試験で数学Iの「データの分析」という分野から出題されていませんが、これはセンター試験で出題されているので、あえて2次試験で出題しなくてもよいのです。

 また、今の段階で共通テストを中止すると、一部の大学では受験者が集まりすぎることが容易に推測できます。一部の私立大学では、毎年対応できていることでも、この段階での国立大学の急な対応は大変厳しいことも理解できます。

 結論として、制度設計者が共通テストは全員がまず第1日程を受けるようにすることが大切であることに早く気がつくべきでしょう。

<文/清史弘>

【清史弘】

せいふみひろ●Twitter ID:@f_sei。数学教育研究所代表取締役・認定NPO法人数理の翼顧問・予備校講師・作曲家。小学校、中学校、高校、大学、塾、予備校で教壇に立った経験をもつ数学教育の研究者。著書は30冊以上に及ぶ受験参考書と数学小説「数学の幸せ物語(前編・後編)」(現代数学社) 、数学雑誌「数学の翼」(数学教育研究所) 等。 

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