万引きGメンが声をかけずに犯人に犯行を思いとどまらせるためにすることとは?

万引きGメンが声をかけずに犯人に犯行を思いとどまらせるためにすることとは?

写真はイメージです maroke / PIXTA(ピクスタ)

◆「ことを起こす」前には動きようがない万引きGメン

 みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。

 前々回、万引きを取り締まる私服保安員歴11年かつ表情分析の専門資格を持つR・Tさんからお話しを伺い、万引き犯の表情から感情や思考の流れを読み、余罪を発見したり、反省をうながすケースを紹介してきました。今回は、表情分析を用いた私服保安員の万引き防止術について引き続きR・Tさんにお話しを伺いました。

 Rさんによると、潜在的な万引き犯に万引きを思いとどまらせることは、万引き犯を捕まえることよりも難しく意図的に防止できる保安員はそう多くないそうです。

「防止するにしても保安員は対象者に声をかけることが出来ません。保安員が声をかけることができるのは捕捉するときだけです。そのため、防止する場合は声をかけることなく対象者にこちらの意図をノンバーバル(清水注釈:表情や姿勢、ボディーランゲージなどの言語によらないメッセージのこと)で伝えなければなりません。そして、商品を置いていくように仕向けなければなりません。また、防止するために心理的な圧力を相手にノンバーバルでかけていくのですが、加減を間違えると相手からのクレームとなり、揉めることにもなりますので、絶妙な加減が必要になります」

 そんな、具体的なケースをお話し下さいました。

◆万引き犯が携帯電話を使う理由

「大型ショッピングセンターでの出来事です。私が店内を巡回中、店舗端の死角となる通路で18~20代の女性がイチゴ等の商品をバックに詰めているのを発見しました。イチゴ以外にもバックに商品が入っており、バックはぱんぱんに膨らんでいました。彼女はその後、空になったかごを置いて脇目も振らずにそそくさと出入り口から外へと退店しました。棚から商品を手に取っている状況を確認していないため、声をかけて捕まえることが出来ません。彼女は店舗の外に出てからすぐには敷地の外へは出ず、出入り口手前から店舗の中の様子を窺っていました。この時、彼女はスマートフォンで誰かに電話をかけていました。彼女の口元を見ると誰かと会話しているようでしたが、眼だけが不自然に泳いでいました」

 万引き犯の中には保安員に声をかけられたときに「電波が悪いから電話をしに一度外に出ただけだ」と言い訳ができるように電話をかけたり、かけるふりをする者がいるそうです。Rさんは続けて説明します。

「棚から商品を手に取っている状況が確認できない場合、捕まえることは諦めて、防止に切り替えて対応します。ただ、今回は彼女の行動が素早かったため、防止するチャンスが店内ではありませんでした。通常、一度退店した万引き犯に商品を戻すように仕向けることは至難の業です。一度外に出た時点で犯行自体は成立しているため、退店してすぐに声をかけられなければ犯人の心理としては成功を意味し、それ以上警戒する必要がありません」

 万引き犯が警戒を解いてしまうと、こちらの圧迫に気づかず帰ってしまったり、気づいていたとしても、保安員が声をかけて来ないことから確信がないのだと判断してそのまま逃げてしまうことが多いようです。

◆私服保安員と潜在的万引き犯の心理的攻防戦

「しかし、今回の彼女の場合、彼女は警戒を解いておらず、まだギリギリ防止できるチャンスがありました。私は牽制をかけるために、わざと彼女の顔や商品の入っているバックを凝視して腕を組んだ状態で彼女から私が見える少し離れた位置に立ちました」

 こちらが犯行を見ていたことを対象者に伝えるため顔とバックを凝視するとのことです。万引き犯は他人の目の動きに敏感なため、眉間にしわを寄せ怒りを表現し、目を見開き相手をしっかり見ていることが伝わるように意識的に表情をつくり、相手を見るそうです。

 また、腕を組むのは、店舗敷地内から出られないように、「出たら捕まえる」という心理的な圧力を対象者にかける為に行うと説明して下さいました。

「この状態で微妙に距離をとりつつ相手に視線を向けたまま、相手がどう行動に出るのか様子を見ながら待ちます。微妙に距離をとるのは相手からのクレームを避ける為と、距離をとり、ある程度相手に自由を与えなければ万引きした商品をバックから出すことができないからです。相手との距離は心理的圧力のバロメーターのようなもので、より強く心理的圧力を与えたい場合は相手に近づきます。逆に心理的圧力を弱めたい場合は離れる、というように距離を調整しながら、クレームにならないギリギリのラインで心理的な圧力をかけていき、バックから商品を出すように仕向けていきます」

 冒頭でRさんは、「万引きを防止するには心理的圧迫を絶妙な加減で行う」という発言をされていましたが、万引き犯のノンバーバル行動を観察しながら、自身のノンバーバル行動も適切にコントロールするという、高度なノンバーバルの観察スキルと伝達力が求められることがわかります。

 次回、この万引き犯がどうなったのか、そして心理的圧迫を与えると万引き犯はどんなノンバーバルサインを発するのか、Rさんにお話し頂きます。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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