保育士に十分な給与を払い、子どもにきめ細かな保育と教育を施す。認可外保育園設立に向けた挑戦

保育士に十分な給与を払い、子どもにきめ細かな保育と教育を施す。認可外保育園設立に向けた挑戦

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 「私には保育園の経営経験はありません。しかし異業種からの挑戦だからこそ、できることがあると思っています」ーー。こう話すのは、福岡市でIT企業、イーストシステムソリューションズを経営する東奨一さんだ。3人のパパである東さんは育児を機に保育現場で保育士たちが直面する課題を知り、理想の保育園を作ることを決意。

 保育園の予定建設地は、一大商圏である天神から地下鉄七隈線で約10分の場所にある高級住宅地「桜坂駅」目の前。定員は2歳以上の幼児10人で、保育士に十分な給与を出し、ワンストップで質の高い教育カリキュラムも備える。資金確保を目的として、7月15日よりクラウドファンディングを実施している。

 保育業界は責任の重さに比して大きな利益を生まない。IT業界に長く従事してきた東さんが保育園経営にチャレンジした背景や、今後の展望について伺った。

◆保育業務の多くがアナログ。「これはまずい」

 保育園の現状に疑問を抱き始めたのは、お子さんを自宅近くにある認可外保育園に預け始めた2年前のこと。保育に関わる業務の多くがアナログで処理されていたことに強い驚きを感じた。

「育児に関わる施設には国の補助や助成があり、ある程度のシステムが当然入っているものだと思い込んでいました。例えば監視カメラは当然設置されていると思っていたんです。教育施設での虐待や性加害がしばしば取りざたされますからね。

 それから、業務の多くが人力で行われていたことにも驚きました。職業柄でしょうね、瞬間的に『これはまずい』と感じました」

 厚生労働省は助成金を出し、保育業務のICT化を進めている。しかし現場で長く働く保育士の中には業務の効率化に抵抗を示す人もおり、システム導入が進まないケースが目立つ。現在でも手書きの連絡帳やイベント毎に制作物を作るなどの習慣が残っている保育園があり、保育士の負担を増している。

 例えば、連絡帳が手書きの場合、保育士は連絡帳を保護者がお迎えに来る時間までに書き終える必要があるため、園児の昼寝中に書くケースもある。これでは保育士がまともな休憩を取れない。

◆園長「システム導入は難しい、費用がないから無理」

 だが東さんは当初、「システム化がされていないのは自分の子どもを預けている保育園だけだ」と思っていた。しかし他の保護者にヒアリングしたところ、どの保育園も似た状況にあったことに愕然としてしまう。子どもが通っている園の保育士にアナログ対応を続ける理由を質問したところ、「園長がそういうのが苦手でわからない。難しそうだし、そもそも費用がない」と返された。

 東さんがお子さんを預けていた保育園では、全ての業務と問題解決はリーダ的な保育士さんが現場で考え実施している状況だったという。加えて業務の負担の割に報酬が少なく、月の給与手取りで14万円ほど。保育士たちが園長に改善を求めても、認められなかったという。

 この状況に新型コロナウイルスが追い打ちをかけた。緊急事態宣言の発令に伴い休園となり、自宅待機となったパート保育士の収入は激減。家賃を払えないと訴える人もいた。

 もはや保育士だけの力で状況を変えるのは無理だと東さんは悟り、「そもそも経営者と認可外保育の仕組みが変わらなければこれ以上どうにもならないと」との気持ちから、自分が保育園を作ることを決意した。

◆きめ細やかな保育体制や教育カリキュラムを充実

 保育園には大きく分けて認可保育園と認可外保育園の2種類がある。認可保育園は自治体からの手厚い補助金があるほか、園児の募集も経営者がする必要がない。経営が安定するメリットがあるものの、認可を取得するハードルは高い。

 一方で認可外保育園の多くは自治体からの補助金はないが、規模も保育内容も事業者が自由に決められるメリットがある。認可受諾の難しさと保育内容から、東さんは認可外保育園を選択した。

 また桜坂という立地は高級住宅地であり、所得が高い層が住むエリアだ。高所得者をターゲットにすることで比較的高額な保育料を設定し、経営の安定を図る考えだ。

 具体的には、働く保育士に十分な額の給与を払うほか、最大で5人の子どもに1人の専属保育士を充て、きめ細かな保育を提供することや園内にカメラを設置して保育の様子を保護者に配信し、安心感を得てもらうといった施策を取り入れる。

 日常保育以外には、英語やピアノ、プログラミングといった教育カリキュラムの導入を検討。桜坂周辺に住む保護者は保育園とは別にお子さんを習い事に通わせているケースが多く、保育園にてワンストップで保育と教育をできる環境を整備しようと考えた。

◆異業種出身だからこそ、できることがある

 しかし東さんは保育園経営の経験は全くない。そのことについて東さんは、「たしかに私は保育園を経営したことはありません。その点には悩みましたが、まずは私が行動して保育園を作り、私の理念に共感していただける方に経営をお譲りしたいと考えています。

 ただ現時点では誰も手を挙げていただけていないので、妻と私で経営をするつもりです。むしろ異業種出身だからこそ課題が見えやすいですし、できることがあると信じています」と話す。

 新設の認可外保育園では園内カメラで保育の様子を配信するが、そのアプリ開発には莫大な費用がかかる。しかし東さんはシステム会社を経営しているため、自前で作れてしまうため、かなりのコストカットが可能だ。

◆認可外保育園の良さをもっと広めたい

 東さんは今回の挑戦によって、認可外保育園の地位向上を目指したいと話す。

「現在は認可に落ちたからやむなく認可外に通わせるケースが目立ちます。しかし認可と違い、保育内容や開園時間を自由に決められるのは認可外ならではの良さです。こうしたことを多くの方に知ってもらいたいと思いました」

 また目標を見事達成し、経営が起動に乗ると次のようなメリットがあると東さんは強調する。

「頑張りに見合った給与がもらえれば、保育士のモチベーションは上がります。保育業界では人材不足ですが、それは労働環境に課題を抱えているからだと私は感じています。仕事に強いやりがいを感じる保育士が増えれば、自分も保育士になりたいと思う人の数も多くなるはずです。それに自分の労働環境や報酬に満足していれば、保育の質は自然と上がります」

 また保護者としても保育と習い事を別々にするより、ワンストップで両方を受けられる方が送迎の手間が減るメリットもある。

 

「認可外保育園の経営者は、規制は多いが補助がある認可保育園を目指すか、融資を受けながら延命するかという選択肢を取ることが多いです。しかし私が今回の挑戦で成功すれば、認可外保育園の経営モデルとして類似のチャレンジをする方が出てくるのではないかと思っています」と東さんは意気込みを語ってくれた。

<取材・文/薗部雄一>

【薗部雄一】

1歳の男の子を持つパパライター。妻の産後うつをきっかけに働き方を見直し、子育てや働き方をテーマにした記事を多数書いている。

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