検査法の原理を知ればあり得ない「検査をすると患者が増える」エセ医療・エセ科学デマゴギー(前編)

検査法の原理を知ればあり得ない「検査をすると患者が増える」エセ医療・エセ科学デマゴギー(前編)

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◆一斉に消えた「ベイズ推定をするとPCR検査は60%が偽陽性」論

 ここまで5回(1,2,3,4,5)に渡って、「検査をすると患者が増える」「検査をすると医療崩壊」「検査をすると人権侵害」といったジャパンオリジナル・国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーについて実際の世界の統計と照合することによってそのペテンを暴いてきました。

 面白いことに、連載開始前はネットで大暴れしていた「ベイズ推定をするとPCR検査は60%が偽陽性」とか言ったジャパンオリジナル・国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーのブログ、まとめサイト、Togetterまとめが蜘蛛の子を散らすように消えてしまいました。幾つかは保存していますが、ニセ科学批判・ニセ医療批判では、そこそこ知られた方々がこのデマゴギーに翼賛し、半年間暴れ回った挙げ句そっと消してしまったのには、その不誠実さに心底呆れています。

 これらの方々が、なぜ仮説の検定や、仮説と事実との照合という科学のイロハのイを怠ったのかは謎です。どのような見かけ上権威の発言であってもどのような仮説や仮定も科学的検証を必須とします。

◆いまだにエセ医療・エセ科学デマゴギーに捕らわれる教条主義日本、大量検査で前進する全世界

 しかし、いまだに医師、医学研究者、医系技官、厚労省官僚による「検査をすると患者が増える」「検査をすると医療崩壊」「検査をすると人権侵害」といったジャパンオリジナル・国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーは健在で、彼らは嘘を書き散らしています。

 例えば、ある都内保健所所長である医学博士による根本的に誤った発言。(発言は7/31になされ、厳しい批判を浴びた結果、削除されている。魚拓は残されている。)

”コロナ感染者が0.1%存在する人口10万人の町があるとします。感度が70%、特異度99.9%のPCR検査を全住民に行うと、170人が検査陽性と判定されます。計算上、検査陽性170人のうち本当の感染者は70人のみ。陽性的中率(検査の正確性)は、70÷170= 41%となります。”

”理論上、陽性的中率は、検査前確率が高くなるほど高くなり、逆に、検査前確率が低くなるほど低くなります。”

 この発言は、本邦を汚染し尽くしている「いち、じゅう、ひゃく、せん、たくさん、いっぱい、わかんない」という一万円札を上限として5桁以上の数が分からない暗記パン医者、暗記パン医学研究者、暗記パン医系技官に共通の誤りであることは指摘してきました。

 まず、感度の過小評価は、感染研の推奨する検体採取手順を知っていればこのような誤りは犯しません。三種三検体採取で、合成感度は97%以上、検査陰性でも症状が出れば再検査で合成感度99.9%以上というのは、高校数学の話です。感染研のマニュアルを読んでいないのでしょうか? 「検査陰性は、必ずしも非感染の証明にならない」など世界の常識です。防疫上は、接触履歴のある人は、接触から二週間の自己隔離をセットにすれば良いだけで、運用の問題です。世界では、PCR検査の精度など問題になっておらず、日進月歩で運用の改善とさらなる大規模検査がなされています。

 特異度99%や、99.9%というのも尾身茂博士らが持ち出した国策エセ医療・エセ科学デマゴギーであり、全く根拠がありません。詳しくは過去3回の記事(これとこれとこれ)をお読みください。高校生でも理解できます。日常的に報じられている様々な国と本邦におけるCOVID-19に関する統計情報を自分で検算してみるという中学生でもできる基本的手順を一度でも行えば、このような荒唐無稽な数字では現実を一切説明できないことが10分程度で分かります。

 現実を説明できない仮説は、科学的に棄却されます。これにはケプラーも苦しみ、惑星の軌道を真円から楕円として、ケプラーの法則を確立した重要な切掛けとなっています*。

〈*ケプラーは当初、惑星の公転軌道を真円として仮説を組み立てたが、これではティコ・ブラーエの残した精密な惑星運行の観測値を説明できなかった。そして、惑星運行の予測精度は天動説による予測に劣った。ケプラーは、公転軌道が真円という仮説を棄却し、楕円軌道を導入したところ、極めて精度良く惑星運行を再現し、予測できるようになった。科学では、事実を説明できない仮説は、棄却される。それによって真実に近づくことができる。事実を説明できない仮説への固執は典型的なドグマティズム(教条主義)である〉

 これらの現実を説明できないが故に科学的にも論理的にも棄却される仮説は、医師国家試験の例題としてよく目にするものであり、わざとおかしな結果を導出するために作られたものであって、PCR法の説明に用いることには科学的にも論理的にも全く無根拠であり根本的な誤りです。

 この七ヶ月間、本邦を汚染し尽くした、「検査をすると患者が増える」「検査をすると医療崩壊」「検査をすると人権侵害」といったジャパンオリジナル・の珍説は、その核心が根本的に誤ったベイズ推定によるエセ医療・エセ科学デマゴギーであり、単に問題集を暗記しているだけで、中身を理解していない、自分で検算すらしない、暗記パン医者、暗記パン医学研究者、暗記パン医系技官に大人気です。繰り返しになりますが、これらのペテンについては、過去五回の記事(1,2,3,4,5)で徹底的に解説し、そのエセ科学・エセ医療ぶりを白日の下にさらしてきました。

 ”感度70%、特異度99%、99.9%で、「PCR法は偽陽性で患者が増える」”という珍説は、地球上に本邦と、トランプ大統領周辺にしか存在していませんが、現実を一切説明できず、科学的には完全にフェイクです。

 従って、合衆国市民に信頼され、大人気のファウチ博士*ら合衆国の専門家は、ホワイトハウスの意向をガン無視し、抗体検査を含め一日あたり100万件足らずという未曾有の大規模検査を行い、更に350万検査/日、500万検査/日を目指しています。100万件の検査規模は、人口比で換算すると日本では約40万件/日に相当する検査規模です。一方、日本の検査規模は、7/22のピーク値を取っても抗体検査を含めてたったの2万件です。なお、本邦の累計検査数は7/27現在で101万件ですから、合衆国は、ほぼ1日で本邦の7か月間累計検査数を実施していることになります。医療と防疫でKamikaze Attackなどという愚かなことは、直ちにやめていただきたいです。

〈*昨季王者ナショナルズ、開幕戦の始球式にファウチ所長 米大リーグ 2020/07/21 CNN、Dr. Anthony Fauci's baseball card just became one of the best selling in Topps' history 2020/07/27 CNN (動画あり)/国立アレルギー感染症研究所(NIAID)のファウチ所長が、ナショナルズ対ヤンキース開幕戦の始球式に招待された。合衆国でのファウチ博士人気はたいへんなもので、ファウチ博士のベースボール・カードは、史上最高の売れ行きである〉

◆大学生向けの説明

 本連載は、普通科高校、実業高校、理文の別なく高校卒業程度の読者を想定して執筆しています。そのため統計的仮説検定(Statistical Hypothesis Testing)を使って説明していません。

 幸いなことに仮説の検定を用いて前々回に扱った島根県の事例と岩手県の事例を説明した方がいますので、ここではその記事の紹介をして大学生向けの説明に変えます。たいへんにわかりやすい説明ですので、読みながら関数電卓で検算すると良いでしょう。

◆PCR検査の特異度の推定について - 豚バラ大根ノート

◆最新の岩手県のデータで「99%仮説」を検定してみる. - 豚バラ大根ノート

 これらの解説から、統計的仮説検定によっても尾身茂博士らが行っている「仮の」説明は、否定されています。

◆そもそもPCR法でベイズ推定を用いて良いのか?・・・・駄目です。

 PCR法の原理を知る人間にとって、確定的事象であるPCR法に、確率的事象を推定するベイズ推定を用いることには強い違和感を抱きます。

 PCR法は、確定的検査法(分析法)ですので、求める遺伝子が「ある」か「ない」かの二元論しか存在せず、結果は「一意に定まる」ために推定する余地はありません。

 従って、原理的にはPCR法にベイズ推定などの確率的評価を用いることは根本的な誤りと言えます。そのためPCR法の黎明期からその測定法を使ってきている専門ど真ん中の科学者からは「この人達は何おかしな事をやっているのだろう?」という厳しい見方をされることになります。

 このことについては、国立遺伝学研究所教授である川上浩一博士(理学)によっても指摘されています。

 PCR法の発展と共に歩んできた、専門家の中の専門家、生き字引と言える人物から見ても、尾身茂博士らの主張するベイズ推定による説明には科学的に全く意味がないことが分かります。

 繰り返しになりますが、そもそも論として確定的事象=数学的には一意に定まる事象に、ベイズ推定を持ち込み、変数をいじくり回すことは、科学的に全く無意味で誤った数字遊びでしかありません。

 だから全地球人類で本邦以外では、このベイズ推定を用いた話は、全く議論にならないのです。本邦では、「検査をすると患者が増える」「検査をすると医療崩壊」「検査をすると人権侵害」といったジャパンオリジナル・エセ医療・エセ科学デマゴギーを核とした教条主義を支えるものとして科学的に完全に無意味なインチキベイズ推定が7ヶ月たっても国策教条主義者である尾身茂博士達によって振り翳されてきたのです。

 それによって本邦市民は国策医療ネグレクトで苦しみ、野垂れ死に、医療関係者は院内感染の脅威にさらされているのです。偶然に本邦を守った謎々効果が無ければ、本邦は四月には破滅していたわけで、単なる偶然のおかげで今があるのですが、1918パンデミック(スペインかぜ)の経験からWHOやCDCによって秋からの第二次パンデミック=第一次を遙かに上回るパンデミックが予想されているためこの偶然はそう長くは続かないと筆者は考えています。

 そもそも確定的事象であり、結果は一意に定まるPCR検査に、ベイズ推定を用いることは誤っているのです。

◆技術運用評価、システム運用評価としては確率的手法を使っても良い

 PCR法は、確率的分析法では無く、確定的分析法ですのでベイズ推定のような確率的評価手法を用いることは本質的に誤っています。しかし、システムとして運用するとき、そのシステム全体または確率的事象の介在する部分の運用実績の評価として確率的評価法は使えます。それにより運用上の問題点を評価、検出し、運用成績を大きく向上することができます。これは工学の常識的手法ですし、経営学でも用いられる当たり前のことです。

 技術的産物に絶対はなく、主としてヒューマンエラーの可能性と効果を評価する必要があります。これには、ベイズ推定を用いることができます。しかしその場合の「特異度」は99%(2N)や99.9%(3N)*といった著しく低精度の「いち、じゅう、ひゃく、せん、たくさん、いっぱい、わかんない」という一部の医学・医療の方の世界ではなく、5N,6N,7Nといった全く異なる世界であり、更に多重化によって10Nから12Nという超極高精度の世界でもあります。これは全地球人口よりも一桁から二桁大きな話となります。だからこそ合衆国のように人口3億人を超える国で全市民の検査を行う計画が立案され、実行されているのです。

〈*Nとは、NineのNで、2Nが9が2個、12Nでは、9が12個を意味する。半導体工業などでは、9がたくさん並んで読みにくくなるために使われる。例えば、1N 90%、2N 99%、3N 99.9%、4N 99.99%、5N 99.999%、6N 99.999%、7N 99.9999%、8N 99.999999%、9N 99.9999999%、10N 99.99999999%、11N 99.999999999%、12N 99.9999999999%〉

 要は、半導体工業水準を並みか、それを遙かに超える桁数の話を、「専門家」などを僭称する「いち、じゅう、ひゃく、せん、たくさん、いっぱい、わかんない」という程度の数の概念の人たち*がワチャワチャ完全に無意味な数遊びで大混乱させてきているのです。結果、市民は国策医療ネグレクトで苦しみ、医療関係者は院内感染の危険にさらされるのです。

〈*例えば、ちょうど一年前に経産省による「自分の巣に糞を垂れる」行為として始まった12Nのフッ化水素酸輸出規制であるが、これを「日本SUGEEEEEE(スゲー) 」と狂喜していた人たちが、高々2Nの事象と5Nから12Nの事象の違いが分からず「PCRでは偽陽性GUAAAAAA」と国策翼賛デマゴギーに狂乱していることは滑稽を通り過ぎて醜悪である〉

 PCR法に限らず、システム運用評価において確率的手法を使うこと自体はたいへん正しいことですが、PCR法については2Nや3Nでの評価は誤っています。世界の運用実績から見ても本邦での運用実績から見ても5Nから6Nが基礎的な数字ですし、本邦が、「いち、じゅう、ひゃく、せん、たくさん、いっぱい、わかんない」と足踏みしている間に、全世界は更に前へと進んでいます。結果本邦は、百万人当たりの検査数で世界215ヶ国・地域中157位です*。これが国策エセ科学・エセ医療教条主義の結果です。

〈*Worldometer より2020/08/01閲覧/台湾のように早期にパンデミックを制圧した国は、日本より下位にある〉

 PCR検査法についての科学的に完全に誤った国策翼賛エセ医療・エセ科学デマゴギーを捲き散らかす「いち、じゅう、ひゃく、せん、たくさん、いっぱい、わかんない」という程度の数の概念のお医者さん達は、患者の血管に100回に1度の割合で空気を注入するのでしょうか? この人達が言っていることはそういうことです。そうであるならば恐ろしい藪医者ですし、そうでないならば、ずいぶんと検査部、検査技師そして科学と工学をばかにした考えです。無知蒙昧そのものです。

◆おわりに

 ここまで確定的事象を用いた分析法であるPCR法について、確率的手法を持ち込むこと自体が誤りであることを論じてきました。

 勿論、システム運用評価としての確率的評価法はPCR法でも使えますし、使わねばなりません。しかし、その場合は2Nや3Nといった精々一般試薬程度の数ではなく、5N,6Nを最低として、12N程度までの半導体試薬・ガス程度の精度であり、全く世界が違うことを論じてきました。

 このような極超高精度の話を2Nや3Nで論じるのは、まさに「いち、じゅう、ひゃく、せん、たくさん、いっぱい、わかんない」という程度の数の概念による詐術であり、例えば松前藩がアイヌとの交易で用いた数のごまかし=計数法の詐術*の類いであると言えます。

〈*近世アイヌ民族の社会と生活 小林真人〉

 さて次回は、このPCR法の原理を簡単に紹介します。

◆コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」新型コロナ感染症シリーズ21

<文/牧田寛>

【牧田寛】

Twitter ID:@BB45_Colorado

まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについてのメルマガ「コロラド博士メルマガ(定期便)」好評配信中

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