表情分析の専門資格を持つ万引きGメンの仕事の流儀。なぜ彼は万引き犯のギャルの言葉を信じたのか?

表情分析の専門資格を持つ万引きGメンの仕事の流儀。なぜ彼は万引き犯のギャルの言葉を信じたのか?

※写真と本文は関係ありません keyphoto / PIXTA(ピクスタ)

 みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。本日は以前(万引き犯の微表情を読み取り、反省の弁を引き出した万引きGメン)に引き続き、万引きを取り締まる私服保安員歴11年のR・Tさんにお話しを伺いました。

 前述の回でR・Tさんは、万引き犯の表情変化から余罪を見つけ、反省を促した実例を話して下さいました。そして、「外見から判断されてしまう」という言葉を残されました。前回のケースと今回のケースとを比べ、思うところをRさんに語って頂きました。

◆ギャルが万引きをした理由

 目立った茶髪に派手な服装、ヤンチャな感じのギャル。年齢は20代。大型ショッピングセンターにて、つけ爪やつけまつ毛などの化粧品4点とスマートフォン用のモバイルバッテリーやコネクター2点を持ってきた袋の中に入れるところを視認。

 ギャルが店舗の外に出たところ、同僚と声をかけ事務所に任意同行し、ギャルに話を聞こうとすると……。

 ギャル:自分は「盗ってこい」と脅されてやりました。

 ギャルはふてくされた感じで、終始同じ犯行理由を繰り返します。

 Rさん:でもあなたがやったことには変わりないのだから、あなたが悪いんですよ。

 ギャル:仕方なく、命令されてやったの!なんで私がこんな目にあうの!

 そして、同僚の私服保安員(50代・女性)が話に割り込むと、ギャルと口論となり、次第に何を話しかけても無反応になってしまったそうです。こうした様子を見ながら、Rさんは述懐します。

 「『脅されて盗った』という言い訳をしている間の彼女の表情は、眉が中央に引き寄せられ目が見開いた、怒り表情でした。これまで様々な万引き犯から何度も同じ言い訳を聞いてきましたが、ウソの場合、表情の変化がないんです。彼女の怒り表情を見て、『脅されているのは、本当かな』と思うようになりました」

 ギャルは名前も住所も答えず、ずっとふてくされ、腕を組み、うつむき、沈黙。しかし、「どういう人に命令されたのですか?」「脅されてもふつうはやらないと思うんだけど、逆らえない事情があるのですか?」という質問に対し、ギャルは「ある男と女に命令された。」と言います。

◆相手の感情に沿った言葉がけがホンネを呼び起こす

 Rさん:「命令された」と言っても、あなたが犯罪を背負うことになるのだけど、どうして逆らえないのですか?

 ギャル:逆らうことができたら私だってやらないよ。

 「眉の内側が引き上げられ、眉間にしわが生じ、彼女の表情には苦悩がにじみ、次第にパニック状態になりつつあるようでした。それで本来はダメなのですが、彼女が『友達に電話をかけたい』と言いまして、落ち着いてもらえるならばと思い、電話を許可しました」とRさん。

 男友達に電話をかけるギャル。その男友達もRさんと同じようなことをギャルに諭しているようです。「あいつらとは距離を取れ」その男友達の声が電話口から漏れます。

 ギャル:あんたに私の気持ちはわからない。逆らえるならこんなふうになっていない!

 電話中のギャルの表情は苦悩そのもので、目をつむったり、涙をためていたそうです。

◆逮捕されたギャルの言葉をそれでも信じる理由

  こうしたギャルの様子を見て、ギャルの発言は本当だと再度確信を持ったとRさん。電話が終わり、Rさんはギャルに話しかけます。

 Rさん:そんなに二人は怖い存在なのですか?

 ギャル:逆らえばもっと酷いことをされる。

 そうこうしているうちに店から通報を受けた警察官が到着します。ギャルは警察官にも脅されて万引きした旨を説明しました。警察官は半信半疑の様子です。

 警察官:その男女の名前は?

 ギャル:言ったら何されるかわからないので、言えない。

 警察の記録によれば、ギャルは初犯でした。しかし、彼女は逮捕されることになりました。ギャルに手錠をかける前に刑事が確認します。

 刑事:本当に脅されてやったのか?

 ギャル:私がやりました。

 ギャルはうつむきながら、つい先ほどまでの供述を翻し、罪を自白したというのです。そこにいる警察官も同僚の保安員も「やっぱり彼女の話はウソだったじゃない。」という様子。

 Rさん:彼女の話は本当ですよ。

 警察官・同僚の保安員:……。

◆外見で容疑者を判断している警察官たち

 Rさんはなぜ最後までこのギャルの話を信用したのでしょうか?

 「脅されたことが本当ならば、警察は捜査をしなくてはいけなくなる。彼女は、逮捕されること、そして捜査が追及されることを悟って、『自分がやった』のだとウソをついたのだと思います。彼女は、捜査の結果、黒幕が判明し、報復されることを恐れていたのではないでしょうか。警察は彼女のことを全く信じていなかった様子でしたが」

 このようにRさんは説明して下さいました。

 Rさんは、前回のケース「黒髪で清楚な女性万引き犯」と今回のケース「見た目が『ザ・ギャル』の万引き犯」とを比べながら、「現場に来ていた警察官らは、疑うべきところ(前回紹介した黒髪女性が別件の万引きを犯している可能性のこと)は疑わず、見た目に左右され判断しているのではないでしょうか。」と象徴的な2つの事件を通じて、想いを語って下さいました。

 表情の変化を追いながら、動的に万引き犯にかける言葉を変えていくRさんのスキルに改めて感銘するとともに万引き犯の心の深淵を理解しようと意識するRさんの優しさを感じることが出来ました。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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