美しくない男を派遣する革新的サービス「レンタルぶさいく」を直撃した

美しくない男を派遣する革新的サービス「レンタルぶさいく」を直撃した

「自分はパワータイプのぶさいく」と語るレンタルぶさいく氏

◆4万以上の「いいね」を獲得したある男性のツイート

 7月中旬、ある男の呟きがツイッターを席巻した。

 「【レンタルぶさいく】と申します。合コンの負け役、社交場の引き立て役、イケメンだと緊張してしまう女性のデートの練習相手、ぶさいくでも着こなせる服のファッションモデル等なんでもお待ちしております。交通費のみで伺います。ぶさいくいじりはOKですが過度ないじりはNGでお願いします。」(原文ママ)

 このツイートは一夜のうちに電脳の海を駆け巡り、4万以上の「いいね」がつくこととなった。レンタルぶさいくとは、「ブサイク」な容貌をした人間が、ユーザーが必要とする場面に出張するといった出張型サービスである。

 このサービスを開始したレンタルぶさいく(以下、ぶさいく)とは一体、何者なのか? 本人を直撃してみた。「レンタルぶさいく」を始めることになったきっかけとは何だったのか。

 「『ブサイクばかりで会社作ったら面白いんじゃね?』と仲間内で話しているときに、じゃあ具体的に何をするのかということになり、反射的に『レンタルぶさいく』というアイデアが出てきた。これをコンテンツ化したら面白いのではないかと思い、試しにサービスを開始してみたというのが経緯です。サービス自体は面白い自信があったのですが、『いいね』が1000程度付けばいいかと思っていました。注目されるコンテンツになる自信はありましたが、予想以上でした」

◆大学時代、親しかった女性の一言が今に繋がる

 ぶさいく氏が自身の容貌を売りにしようと考え至るまでには、いくつかの段階がある。そのうちの一つが、大学時代の経験だ。

 「電車で見ず知らずの人に写真を撮られる等のことも珍しくなかったので、自分の顔がおかしいことには早くから気付いていました。そんな中、大学時代のサークルに、僕にやたらと話しかけてくる新入生の女子がいたんです。そうやって仲良くなって二か月めあたりに、ついに『ご飯いきませんか?』と誘われたのですが……」

 「もしかして、俺のこと好きなのかな」と淡い期待を抱いたぶさいく氏。だが……。

 「その子は相貌失認という、人の顔が全部同じに見える脳機能の障害を持っていたんです。卒業写真を見ると気持ち悪くなっちゃうとかで。しかし、そんな中で僕の顔だけ他と違って見えたので、安心して話しかけられたのだと言っていました。ちなみに彼女はその後、ほかに彼氏ができました」

 自身が「明らかにブサイクであることを認識」したのはその少し後だった。

 「25歳で初めての彼女ができたときです。それまで自分をブサイクだと思ってはいなかったし、それが原因でいじめられたこともないのですが、何故かそのときに『もしかして今まで彼女ができなかったのはブサイクだったからなのでは。そして、周囲も俺にブサイクだと言えなかったのでは』と極端な思考に陥りました。そこから、ブサイクに関する諸問題について四六時中考えるようになったんです」

 そうやって思索を重ねた結果、ぶさいく氏は一つの結論に辿り着いた。

 「ブサイクだと、普通に生きてたら損することのほうが多いですよね。恋愛はもちろん、就職にだって『顔採用』があるのは否めない。その時から、ブサイクをさらけ出すことで楽しいヤツだと思われる生き方に変えた。この世界をひっくり返すために、ブサイクの需要に着目するようにしたんです」

◆ブサイクが必要とされる場面は、必ずある

 ぶさいく氏の考える、ブサイクの需要とは何か。

 「物事には、ブサイクが必要とされる場面が必ずあります。ホラー映画では犯人や殺され役、日常ではたとえば合コンの引き立て役。ブサイクを下げて、自分が相対的に目立ちたい時には僕のような存在が必要です。あと切実なのは、ファッションですね。どの服も、モデルがかっこいいから様になるのであって、実際に購入して着た場合に落胆することが非常に多いです。ブサイクなファッションモデルがいないのは、本当に腹立たしいことです。あとは、デート慣れしてない女性の練習相手にもブサイクは求められています。イケメンだと緊張しちゃうという女子の言葉は、これまでたくさん耳にしました」

 これまで、人間のレンタル系サービスには家族、恋人、第三者、おじさん、はたまた「何もしない人」などあらゆる属性が登場しているが、「ぶさいく」については、既にありそうで存在していなかった。

 それについてぶさいく氏は、「確かに、レンタルぶさいくを思いついた人は過去にもたくさんいたと思います。しかし、ブサイクにはどうしても虐げられる存在であるというネガティブな固定観念がついて回ります。発案した人たちは、そこが拭えず実際の活動に至らなかったのでは」と分析する。ブサイクである自己をありのままに肯定したことが、サービス実現に繋がったといえる。

◆ブサイクが短所であるとみなす昨今のルッキズム論争に異議

 その着眼点の正しさは予想以上の反響を得たことで証明されたが、一方で「それほどブサイクではない」というコメントが多かったことには「誇り」が傷つけられたと話す。

 「僕は写真だと割と綺麗に写ってしまいますが、実物で勝負できるタイプ。ブサイクには様々な類型がありますが、僕の場合は他人に不快感や威圧感を与える、いわばパワータイプのブサイク。鼻、口、目といった全部のパーツが大きくてバランスが悪く、声がでかいのに口が閉じられないので、しゃべるたびに唾が飛ぶ。舐められたくなかったです。こんなもんじゃないよって」

 「志村けんがコントでつけているホクロが、僕には最初からついている」と、メリット(?)をさらにアピールするぶさいく氏。その根底には「ブサイクがネガティブであるという考え自体が嫌い」という考えがある。特に、昨今のルッキズムの議論については違和感を覚えているという。

 「もちろん、ブサイクだと言われたくない人もいますし、他人の容姿をあげつらい虐めることは良くないことです。しかし昨今のルッキズム論争は、ブサイクを短所として認識するところが出発点となっており、ブサイクに触れないようにしようとするあまり、ただの言葉狩りに成り下がっている。ブサイクの真の生き方を提示するような動きにはなっていないような気がします」

◆伝えたいのは「ありのまま、ブサイクである自分を認めて生きること」

 「ブサイクはブサイクであることを覆い隠さず、ありのままで生きても良い」ということを訴えたいという、ぶさいく氏。7月末のサービス開始からすでに3件の依頼をこなしている。

 本人の「note」にも掲載されているが、初の依頼は、夫の他に2人の彼氏がいるという30代既婚女性。帝国ホテルでのアフタヌーンティーに誘われ、「狙った男は逃さない」と話す彼女の話を聞くというものだった。

 その方法は男性の腕を掴み「ホテルに行こう」とささやくという直接的なものだそうで、ぶさいく氏も帰り際に誘われ「『ぎょ!!!!!!!!!!!』という大声」(原文ママ)を上げる、ブサイクらしさが溢れる結果となった。

 二件目は、阿佐ヶ谷のイタリアンレストランで女性二人を相手に「恋バナ」をするというもの。ぶさいく氏が二人に自身の恋愛観を話すと、「つまんない」「めっちゃ普通」「底が浅い沼」等の罵声を浴びるも、「でも3Pは向いてそう」と突然の“評価”を得るなど予測できない展開に。最後は二人から交互に誘惑をされ、「1回目に続き痴女のガス抜きの場になりつつある」(原文ママ)と見解を記している。

 三件目は、初の男性からの依頼だった。現在はUber eatsの配達員をしているという男性は、非常に多くの転職歴を持ち、そのさまざまな経験談を聞くことができた。最後に男性から夢は何かと聞かれ、15年来望んできた「長澤まさみに会いたいという夢」を話したぶさいく氏であった。

◆いろんなタイプのブサイクを集めて、「ブサイク業」を始めたい

 ……と、このとおり、すでに個性的な依頼ばかりである。アカウント開設した当初に来た依頼内容も、以下のようにバラエティに富んでいる。

・アニメイトに入りたいが一人で行くのが恥ずかしいのでついてきてほしい

・容姿について悩んでいるので、どうやってポジティブになれたのか教えてほしい

・レンタルぶさいくの曲を作りたい

・行きたいお店に一人で入るのは嫌なので、ついてきてほしい

・ブサイクでも着られる服を作っており、そのモデルをしてほしい

 新型コロナウィルス感染症対策で週に1度しか予約を入れられないが、9月までは当面、無償で依頼を受け付けるという。レンタルぶさいくとしての、最終的な目標は何か。

 「太っている、優しいなどブサイクの類型は無限にあるし、ゆくゆくはたくさんのメンバーを集めて、ジャニーズ事務所の逆版のようなことをやりたい。頑張ってブサイクの需要を証明し、『ブサイク業を営んでおります』と言えるようになるのが夢ですね」

 冗談半分のノリで始まったサービスであるものの、はからずも「ブサイクポジティブの実現」という大きなテーマに挑むことになったレンタルぶさいく氏。彼の今後の活躍がますます期待される。

<取材/HBO編集部 構成/安宿緑(@yasgreen615)>

【安宿緑】

ライター、編集、翻訳者。朝鮮半島問題の他、日本の文化人類学、カルチャー、心理学系を取り扱う。韓国心理学会正会員。心理学的ニュース分析プロジェクト「Newsophia」(現在準備中)に参加。

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