パチンコ業界を誘惑する、旧規制機の設置期限延長という「禁断の果実」

パチンコ業界を誘惑する、旧規制機の設置期限延長という「禁断の果実」

photo by よっしー / PIXTA(ピクスタ)

 コロナ禍に伴う政府の緊急事態宣言による営業自粛に加え、マスコミと世間の厳しい非難により深刻なダメージを受けたパチンコ業界であったが、その一方で本来であれば得られるはずのなかった有用な「果実」も手に入れた。

 旧規則機の設置期限延長という「果実」である。

 そしてこの「果実」が今、パチンコ業界内における火種になっている。

◆新規則機へ入れ替える経過措置期間を1年間延長

 まずはパチンコ業界に関わる基本的な情報について端的に説明する。

 遊技機の「設置期間」について。

 パチンコ機もパチスロ機も法的な設置期間は3年間であり、3年経過時に改めて申請を行い承認されれば更に3年間設置期間が延長される。6年間というのが、法律が許す最大期間である。6年経った遊技機はパチンコ店から撤去されなくてはいけない。

 次に「旧規則機」について。

 2018年2月。ギャンブル等依存症対策の一環として、遊技機の技術的な規格を定める「遊技機規則」等が改正された。目的は射幸性(≒ギャンブル性)の抑制である。パチンコ業界では、この改正を境に、以前の規格のものを「旧規則機」、改正内容に沿った規格のものを「新規則機」と呼んでおり、旧規則機については、本来であれば2021年1月までにすべて撤去されるはずであった。

◆コロナ禍によってもたらされた「禁断の果実」

 しかしコロナ禍により、国家公安委員会は改正した規則を更に改正し、旧規則機から新規則機へ入れ替える経過措置期間を、更に1年間延長したのだ。

 警察庁の松本光弘長官はこのことを以下のように説明している。

 「ぱちんこ等の遊技機については、平成30年2月に風営適正化法施行規則等を改正して、遊技球等の獲得性能に関する遊技機の基準、いわゆる出玉基準の見直しを行い、それに伴い、一定の経過措置期間を設けたところです。今回の改正は、新型コロナウイルス感染症の影響に伴い、改正後の基準に沿った遊技機への入替を経過措置期間内に行うことが難しくなっており、また、入替作業に伴う感染リスクも懸念されることから、経過措置期間の1年延長を行うものです」(2020年5月14日、国家公安委員会委員長記者会見より)

 これが、コロナ禍がパチンコ業界にもたらした「禁断の果実」である。

◆パチンコ・パチスロ産業21世紀会が持ち出した基準とは

 パチンコ業界内の14個の団体で構成される「パチンコ・パチスロ産業21世紀会」(以下、21世紀会)という会議体がある。前述の規則改正の施行日でもある2020年5月20日、21世紀会は「旧規則機の取扱いについて」という文書を全会一致で決議した。

 この決議内容を簡潔に説明するのであれば、

@射幸性の高い遊技機は本来の設置期限をもって撤去する(1年間延長は無し)

A比較的射幸性の低い遊技機は本来の設置期限より7カ月以内に撤去する

Bそれ以外の遊技機のうち、2020年5月20日〜2020年12月31日が設置期限のものは年内に、2021年1月1日以降に設置期限を迎えるものは2021年11月30日までに撤去する。

 というもの。

 そしてこの内容の遵守徹底のため、日本全国すべてのホールに「誓約書」の提出を求めた。

◆業界のダブルスタンダードを示すサラ番問題とは

 パチンコ業界内部の複雑な話なので、業界外の人にはとても分かりにくい話になっているが、ここまでの話を要約すると、

 警察は遊技機の設置期限を1年間延長しているのに対し、パチンコ業界側は(一部遊技機を除き)最大7カ月間の延長に留めている。更には、高射幸性遊技機については、1日たりともその設置期限の延長を認めていない。

 法律では1年間の猶予があるものの、業界側の取り決めはそれよりも厳しいものだ。このダブルスタンダードな決め事が、俗にいう「サラ番問題」に繋がる。

 「サラ番」とは、「押忍!サラリーマン番長 俺に日本は狭すぎるA9」(通称:サラ番)という型式名のパチスロ遊技機であり、パチンコ業界はこのパチスロ機をかねてから「高射幸性遊技機」に指定している。遊技機の設置期限は都道府県公安委員会の許可日により若干ずれるが、例えば東京都内のパチンコ店であれば、同遊技機の最終設置期限は2020年8月10日である。

 21世紀会の決議に沿えば、高射幸性遊技機である同機は本来の設置期限である8月10日にすべて撤去されなくてはいけない。そして東京都のほとんどのパチンコ店から同機は消えた。しかし一部のパチンコ店では撤去されず、11日以降も今までと同様に設置されたまま稼働している。

 これが「サラ番問題」だ。

 遊技機に関する規則(法律)に沿うのであれば、すべての遊技機の設置期限が1年間延長されたので、8月11日以降に営業していても何ら問題はない。しかし21世紀会決議と日本全国のパチンコ店が既に提出している誓約書に従うのであれば「違反」となる。

◆警察とパチンコ業界、どちらに理があるのか

 さてどちらが正しいのか。

 21世紀会の幹事団体でもある全日本遊技事業協同組合連合会の阿部恭久理事長は7月10日の記者会見で以下のように語っている。

 「今回の規則改正は業界の要望を警察庁に受け入れてもらった結果によるもの。これは我々業界側が提出した自主的な撤去を計画的に行うことが前提条件となっている。行政との信頼関係の上で成り立つ取り組みをしっかり行っていかなければ、将来的に厳しい状況に追い込まれるだろう」(PiDEA web)

 要は、パチンコ業界と警察庁との約束は「21世紀会決議」の内容であり、警察庁が1年間も設置期限を延長したのは、新型コロナウイルス感染状況の先行きが不透明な中での保険的措置であるということだ。

 パチンコ業界関係者は言う。

 「今回のサラ番問題は、パチンコ業界の未来に関わる問題だと思っている。確かに法律に従うのであれば問題にはならないかも知れないが、これは警察行政と業界の約束であり、その約束は業界側が持ち掛けたものだ。約束を破れば今後、警察行政がパチンコ業界の要望を聞き入れてくれることが至極困難になる」

◆「禁断の果実」は、業界に何をもたらすのか

 11月には同じ高射幸性遊技機である「ミリオンゴッド−神々の凱旋」が、本来の設置期限を迎える。パチンコ店の収益を支える人気機種が、21世紀会の決議を反故にし、撤去されない事態となれば、問題はより深刻化する。

 「今、ここで問題を収束させなければ、ゴッド凱旋や、年末に撤去予定の沖ドキにまで問題は波及する」(前出の関係者)

 法律の庇護を担保にした設置期限延長の「禁断の果実」は、業界により一層の混乱をもたらすのか、それとも違うなにかをもたらすのか。「禁断の果実」を齧ることは、業界関係者の意に沿うのであれば恥ずべきことなのだろうが−ー。

<取材・文/安達夕>

【安達夕】

Twitter:@yuu_adachi

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