自殺の前段階に表れる、”ある表情”を読み解くことで身近な人を救える可能性

自殺の前段階に表れる、”ある表情”を読み解くことで身近な人を救える可能性

自殺の直前の表情は解析できないが、前段階ならばまだ間に合う可能性がある

◆表情から自殺の兆候はわかるのか?

 こんにちは、微表情研究者の清水建二です。

 有名人の自殺(その可能性を含めた)報道があると、「自殺前に撮影された写真や動画から何か自殺の兆候はわかりますか?」という質問を多々受けます。

 また、友人・知人に自殺した方がいて、「ちゃんと向き合っていたら自分はその兆候に気づいてあげられたのではないか?」とご自身を責められ、二度と同じことを起こさないように自殺の兆候を示す表情を尋ねて来られる方もおられます。

 結論から書きますと、事例的にはいくつか報告はされていますが、「自殺の兆候を示す特定の表情」というものは発見されていません。

 従って、専門家もわからない、科学知見もない。こうした状況ですので、大変悲しいことではありますが、お知り合いの方が自殺されてしまっても、ご自分が直接の原因でない限り、ご自分を責めるのは酷なことではないでしょうか。

◆うつ病が重いときの表情

 現時点の研究の流れとしては、自殺と表情との関係を直接結び付け考えるのではなく、自殺される方に多いとされる精神疾患、特に、うつ病と表情との関係が研究されています。Girardら(2014)の研究から自殺―うつ病ー表情の関係を考えたいと思います。

 大うつ病性障害と診断され、実験参加者として協力してくれた33名の患者の1・7・13・21週時の診断時における非言語行動が観察されました。各期の診断時に参加者は、うつ気分、罪の意識、自殺念慮について質問されました。その様子がビデオに録画され、患者の非言語行動が分析されました。

 分析の結果、次のことがわかりました。

・うつ症状が重いとき、笑顔と悲しみに関連する表情が少なく、軽蔑と羞恥に関連する表情が多く、頭の動きは減少した。

・うつ病の症状が改善されるにつれ、笑顔と悲しみに関連する表情が多く、頭の動きも増え、軽蔑と羞恥に関連する表情は少なくなった。

・怒りに関連する表情については、症状間に違いは見られなかった。

 笑顔と悲しみは、他者に協力し、慰め、他者に助けを求める親和的なシグナルだとされています。軽蔑、羞恥そして怒りは、その逆の非親和的なシグナルだとされています。頭の動きは、他者とコミュニケートする努力を意味し、親和的なシグナルだとされています。

 つまり、うつ病状が重いとき、実験に参加された患者さんらは、親和的行動が減り、非親和行動が増え、人と距離をとろうとする状態になっていたということです。

 臨床心理士や主治医など、うつ病患者さんを診断される方々ならば、こうした質問と患者さんの反応との関係をつぶさに記録することで、自殺リスクの評価などに活かせる可能性があります。

◆正しい観察とお節介で、身近な人を救う

 それでは、専門家でない私たちは、この研究から何を学ぶことが出来るのでしょうか。

 この研究は、あくまでも診断時に特定の質問を受けているときの反応傾向であり、それが日常の行動傾向にまで及ぶかどうかまではわかりません。

 また、最初の有名人の生前の写真や動画で言えば、研究時と条件が異なりすぎて、何も言えないのです。亡くなった有名人の苦悩の痕跡を写真や動画を観ても、何もわからないでしょう。

 しかし、私たちは、こうした具体的な知見を知ることで、「何か様子がおかしい」という段階を超え、周りの大切な人にこの知見を投影し、活かすことが出来ます。

 あるとき、ふと気が付くと、友人の顔に笑顔と悲しみ表情が減り、軽蔑と羞恥表情が増え、一人になりたがるようになった。それがどうもしばらく続いているようだ。

 そんなとき、この友人に声をかけてみる。大きなお節介だと言われてしまうかも知れません。しかし、悩める人が一人、もしかしたら、一つの命が救われるかも知れない。そんなふうに思います。

◆表情からヘルプシグナルを読み取ることは、自分自身にも適用できる

 自殺の直前の兆候を示す表情は特定されていません。しかし、その前の前の段階ならば、表情からヘルプシグナルがわかるかも知れません。

 また、自分の心のモニタリングにも利用できるでしょう。

 コロナ禍で人と距離が遠くなりつつある今日。私たちは、心が行動を生み出すという影響だけでなく、行動が心を生み出すという影響も受けています。

 リモートワークなどで物理的に人との距離が離れることで、心の距離も感じてしまい、自殺やうつ状態とまでは行かないまでも、ふさぎ込み気味になってしまうかも知れません。

 そんなときこそ、自分の心を見つめ、いつも以上に人と関わろうと意識してみて下さい。あなたが救われると同時に相手も救われているかも知れません。

【参考文献】Girard JM, Cohn JF, Mahoor MH, Mavadati SM, Hammal Z, Rosenwald DP. Nonverbal Social Withdrawal in Depression: Evidence from manual and automatic analysis. Image Vis Comput. 2014;32(10):641‐647. doi:10.1016/j.imavis.2013.12.007

 

【推薦図書】自殺予防に関して、表情に特化するのではなく、全体的に観察するアプローチとして書かれている書籍としては、高橋祥友『自殺のサインを読みとる 改訂版』講談社(2008)がおすすめです。

<文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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