輸送効率で犠牲にされるドライバーの居住空間。「人権なきトラック」ショートキャブの問題点

輸送効率で犠牲にされるドライバーの居住空間。「人権なきトラック」ショートキャブの問題点

ショートキャブ車内。荷物は休息ごとに座席の上に移動させ、シートも前にずらしている

◆「ショートキャブ」は長距離ドライバーに嫌われている!?

「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。

 前々回と前回では、トラックの車内にカセットコンロ、冷蔵庫、電子レンジなどを置いているドライバーがいることや、それらで作る「トラック飯」について紹介したが、今回と次回はトラックドライバーにとって大切な生活空間である「キャビン」について話していこうと思う。

 今回は、そこから「長距離ドライバーがショートキャブ*を嫌う理由」について紹介したい。〈*トラックの居住空間が最も小さな形式のトラック〉

 トラックの車体のうち、ドライバーが運転する部分を「キャビン」という。分かりやすくトラックの形を「亀」に例えると、いわゆる「頭」の部分に当たる場所だ。

 このキャビンは、トラックドライバーの「仕事空間」であるのはもちろん、1週間、中には1か月以上家に帰れないこともある長距離トラックドライバーにとっては、毎日の「生活空間」にもなる。

 だからこそ、長距離を走るトラックのキャビンには、前回までに紹介したような風呂セットや調理道具などの生活用品が数多く積まれているのだ。

◆長距離トラックなのに寝台がついていないという地獄

 また、こちらも前回までに紹介した通り、長距離トラックのキャビンは、運転席後部に大人1人が寝転がれるベッドスペース(寝台)が付いている「フルキャブ」と呼ばれるタイプがほとんどで、ドライバーは1日の業務を終えると、この寝台で睡眠を取っている。

 仕事中の居眠りが「上司からの叱責」や「減給」だけでは済まない彼らトラックドライバーにとって、質のいい睡眠や休息がどれほど大事なものかは、ドライバーでなくとも想像に難くないはずだ。

 本来ならば、こんな「暑い・狭い・うるさい」に翻弄されることのない宿泊施設でしっかりと体を休ませたいところだが、残念ながらトラックドライバーが気軽に泊まれる施設は日本に充実しておらず、彼らは結局大型車が停められる駐車場や、出来る限り邪魔にならない路上スペースを探して車中泊をする。

 そんな窮屈な車内生活を送る長距離トラックドライバーだが、実は現在のトラックには、彼らにとってこの環境以上に過酷なタイプのキャビンが存在する。それが「ショートキャブ」と呼ばれているトラックなのだが、なんとこれには「寝台」が付いていない。積載量は多く、輸送効率はいいので荷主や会社にとってはいいが、その分客室の機能が削られているわけだ。

 それゆえ長距離を走るドライバーたちからは、

「人権なきトラック」

「ベッドレスのショートキャブほど乗りたくないクルマはない」

「寝台を設置しないというのは、ドライバーに寝るなと言いたいのか」

「ショートキャブで長距離走らせる運送業者には絶対に転職しない」

「もし今の会社がこのトラック買ったらすぐに会社を辞める」

「日本のトラックは荷主や会社、輸送コストの事しか考えておらず、ドライバーの身体の事は無視」

といった声が頻繁に聞こえてくるのだ。

 現在このショートキャブで長距離を走っているという、ある30代の路線ドライバーは、

「寝るたびに狭いスペースにベッドを作らなければならない。手間だけでなく、毎度の設置で素材もヘタりやすくなるためベッドの土台が安定しなくなり、斜めになった状態で寝ることになるため、色々工夫しなければならない」

と話す。

 寝台のスペースは、先述のような生活用品を置くためのスペースにもなる。が、ショートキャブの場合、それができなくなるため、生活の質、ひいては労働の質もが落ちてしまう。

 毎度寝るたびに荷物を大移動させ、運転席・助手席のシートを前にずらし、「斜め」にならないよう緩衝材を出し入れして微調整する。肉体労働で体力が疲弊している彼らにとって、この作業ほど無駄な肉体労働はない。

◆やむなく坂道に駐車して車体ごと斜めにして休むドライバーも

 また、このショートキャブの場合、運転席の後ろがすぐ壁になっているため、リクライニングシートを後ろに倒すことすらできないというさらなる弱点もある。

 トラックドライバーには、4時間走ったら30分休憩しなければならないという規則が存在するほか、到着した荷主の元でも長時間(時には半日以上)待たされるのが常なのだが、その時間、車内ではリクライニングを倒せないまま待機せねばならなくなるのだ。

 筆者自身も現役時代はよくこのリクライニングが倒れないトラックで長時間待機をしていたのだが、運転時とは違い体と脳が「休息モード」になるため、同じ体勢でもよりきつく感じる。

 実際、今回聞いたトラックドライバーからは、「寝づらい」という意見以上にこのリクライニング問題に対する不満が多かった。

 そのため、少しでも楽な体勢を取りたいと、「上り坂を前向きに駐車して車体ごと斜めにし、足をハンドルに上げて体を倒した状態にしている」というトラックドライバーも存在した。

 さらに、寝台のないトラックで前に追突してしまった場合、ダイレクトに後ろの荷台に押しつぶされ死亡事故に繋がるという懸念もある。

 これはショートキャブが多い小・中型トラックでも同じことが言えるが、長距離を走るトラックの場合、スピードの出やすい高速道路を利用する機会が多いため、その分リスクは高くなるのだ。

◆ドライバーを圧迫する、ショートキャブの「利点」

 そんな声が長年聞こえてくる中でも、道路からショートキャブの大型トラックがなくならないのには、やはり理由がある。「輸送効率」がいいのだ。

 大型トラックの全長は、キャビンと荷台合わせて最長で12メートル以内という法的制限がある。こうした中で、少しでも多くの荷物を運ぶためには、キャブを短くし、荷台を長くするしかない。つまり、多くの荷物を運ぶために、ドライバーの荷物スペースが犠牲になるというなんとも皮肉な構図が車内にでき上がっているのだ。

 ドライバーがショートキャブを「人権なきトラック」という理由はここにある。

 トラックを製造するメーカーの中には、「ショートキャブは輸送効率や労働生産性が上がることでトラックドライバーの負担を軽減させることができる」と堂々と謳っている社もある。

 しかし、ドライバーが長期間家に帰れず車中泊していることを知ったうえで寝台を取っ払い、リクライニングすら倒せないようにしたクルマが、果たして本当に「ドライバーに優しいクルマ」だと言えるのだろうか。

 次回、「2階に寝台があるタイプのトラック」に続く。

<取材・文/橋本愛喜>

【橋本愛喜】

フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto

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