辺野古でジュゴンの鳴き声を4か月連続で検知。しかし防衛局は「人工物の音」ということにしたい!?

辺野古でジュゴンの鳴き声を4か月連続で検知。しかし防衛局は「人工物の音」ということにしたい!?

ジュゴンの鳴き声が検出された大浦湾「K4地点」(中原貴久子氏提供、2020年6月12日)

 政府が新基地建設工事を進める辺野古の海で、絶滅危惧種ジュゴンの鳴き声が今年4月・5月にも検出された。工事を実施する防衛省沖縄防衛局の調査によると、今年2月から連続4か月で確認されている。しかし防衛局は7月、風によって海上の人工物から出ている音である可能性も示唆した。

 これまで防衛局は、「ジュゴンの鳴音(めいおん)の可能性が高い」と海洋生物の専門家から意見を得たとしてきた。しかし、なぜ今になってこのような「ドタバタ劇」が起きているのか。防衛局にとって「辺野古・大浦湾にジュゴンがいることが不都合だ」と思われても仕方がない、不可解な行動をまとめてみた。

◆4か月連続で鳴き声検出、しかし工事再開

 まず、ジュゴンの音声が検出された場所は、大浦湾の西側に位置する、埋め立て予定海域付近だ。防衛局はジュゴン生息調査のために工事施工区域内に水中録音装置を2か所設置しているが、そのうちの一つの「K-4地点」で検出された。

 4月は7日間で74回、5月は10日間で70回の合計144回検出された。そのうち工事が行われたのは4月3日と6日だけだった。4月17日から6月11日までは新型コロナウイルスの関係で工事が中断された。その影響もあってか、2月と3月の検出回数の計42回と比較すると、3倍以上に。しかし工事は、沖縄県知事や市民の反対の声を無視して6月12日に再開された。

 4か月連続でジュゴンの鳴き声が検出されたことについて、日本自然保護協会主任の安部真理子さんはこう批判する。

「記録された音声がジュゴンの鳴き声ならば、日本政府は絶滅危惧種を絶滅に追い込んでいることになります。国際自然保護連合(IUCN)などの国際機関から責任を問われてもおかしくありません。本来は、ジュゴンの鳴き声らしき音が記録された時点で、すべての工事を止めるものです」

◆急浮上した「人工物の音」説

 しかし防衛局は7月末、同局が設置する環境監視等委員会で、この音声を「人工物による音」である可能性を示した。委員会資料によると、「鳴き声が検出された時間帯には北東から東寄りの風が吹く傾向があり、風による影響を受ける人工物として施工区域を仕切るフロート等が音を出していると考えられる」と報告したのだ。

 水中録音装置は工事施行区域内2地点を含む沖縄島北部20地点に設置され、24時間の連続観測を行っていると防衛局は胸を張る。前述の安部さんは「水中録音装置は多額のお金を注ぎ込み、鳴り物入りで行なわれてきました。そんな装置が、ジュゴンの鳴き声とそうでない音の区別もつかないのであれば、世界の笑いものでしょう」と厳しく指摘した。

 7月の環境監視委員会の資料を読むと、まず、ジュゴンの鳴音である可能性は認めている。しかし「監視船、ヘリコプターによる航空機調査、さらに季節毎に行うセスナによる重点海域調査を大浦湾で行ってもジュゴンの姿を認められなかった」と強調。そして検出時刻、潮の干満との関係などの分析、最後に風向・風速との関係の分析を示して「鳴音の検出時には、北東から東寄りの風が卓越して吹いていることがわかり、風による影響を受ける主なものとしてフロート等が考えられる」と締めくくっている。

「ジュゴンの姿が見つからない」ことを理由に、「検知された音声は、ジュゴンの鳴き声ではない可能性がある」という論理は飛躍しすぎではないかと筆者は考える。ジュゴンの鳴き声が見つかったのであれば、本来はあらゆる方法でジュゴン生息確認の努力をし、そして音声そのものの分析をするべきではないだろうか。

◆沖縄防衛局、音声データ公開を拒否

 そもそも、防衛局はジュゴンの鳴き声と見られる音声を公開していない。ジュゴン保護キャンペーンセンターの吉川秀樹さんは今年7月、防衛局に、沖縄選出の赤嶺政賢衆議院議員事務所を通してジュゴンの鳴音データの公開を求めた。

 しかし、音声データは「調査を委託している業者との契約に含まれていない。専門家による識別・解析結果の提供のみが契約となっている」という理由で公開を断られたという。

 吉川さんは「調査の依頼元が沖縄防衛局なのに、なぜ業者に出させることができないのか、理由が不明瞭です。防衛局は風による音などと言い訳をして、ジュゴンの鳴き声だと認めたくないように見えます。いま防衛局がやるべきことはジュゴンの音声データを公開し、国内外のジュゴン専門家に知見を仰ぐことです」と指摘した。

 ジュゴンの鳴き声は、国内で唯一ジュゴンを展示飼育する鳥羽水族館(三重県)のウェブサイトでも公開され、誰でも聞くことができる。ジュゴンの生態を研究している京都大学フィールド科学教育研究センター・市川光太郎准教授の著書『ジュゴンの上手なつかまえ方』(岩波書店)によると、ジュゴンは「ピヨピヨピーヨ」などと鳴き、「挨拶のように鳴き交わして互いの距離を保っているのだろう」と説明している。

 果たして、ジュゴンの鳴き声は、風を受けたフロートが発する音と酷似しているのか。7月の環境監視等委員会の議事録によると、「ジュゴンの鳴き声と海上人工物が出す音の周波数との違いを把握すれば問題ない」と提案した委員の発言に対し、ジュゴンの専門家と見られる委員は「そういった検討(人工物が出す音の周波数の把握)もすでに考えていると思いますが、しているのですかね」と悠長に回答。議事録を見る限り、これまでジュゴンの鳴き声とされてきた音に混乱が生じている事態に対して明確な反論をしていない。

 ジュゴンの鳴き声であるかどうかを明らかにしたいのであれば、前述の吉川さんの指摘のように海外の専門家に知見を仰ぐこともできるだろう。それをしない防衛局と環境監視等委員会の専門家としての姿勢には大きな疑問が残る。

◆ドローン調査も却下、ジュゴンを見つける気がそもそもない?

 防衛局は、ジュゴンの姿を捉えるために、監視船を3隻から4隻に増やしたとしている。しかし、監視船の目的はジュゴンが工事実施区域に近づかないよう監視することで、海上作業のある日しか稼働していないので限界がある。また、ヘリコプターでの監視は4月に4回、5月に3回、6月に4回実施し、セスナによる監視も5月と6月に実施したとしている。しかしいずれの調査でもジュゴンは見つけられなかった。

 一方、近年ではドローンによる調査が多くなっているようだ。IUCN「種の保存委員会」海牛類専門家グループは沖縄のジュゴンの調査計画策定のために、国内外の専門家による作業部会を昨年9月に鳥羽水族館で行った。

 その後12月に発表したIUCN調査計画によると、「近年ではヘリコプターなどの有人飛行機に代わってドローンを用いる調査が増えている」と2013年の論文を引用し、ヘリやセスナよりもむしろドローンによる調査を提案している。

 調査計画は日本語にも訳され、日本政府、沖縄県にも提出された。大浦湾のような、数十?の小規模調査では、格子状のサンプリング調査を行い、飛行中に連続して静止画像を記録すること、といった具体的な方法も提案されている。

 8月21日、日本自然保護協会が防衛省との交渉で「なぜドローンや環境DNA(※)でもジュゴンの生息調査を行わないのか」と質問したところ、防衛省は「沖縄防衛局が行なっている従来の調査実施方法に問題はない」と回答した。ジュゴンの姿を見つけられていないにも関わらず、だ。これでは、大浦湾でのジュゴンの存在を認めたくないように見えても仕方がない。

※環境DNA調査:生物体から遊離・放出され水中に浮遊するDNAを調べることで、ジュゴンの存否確認を行う。

◆「環境監視等委員会」の監視が必要

 これまで見てきたように、防衛局にとってジュゴンが辺野古・大浦湾に来遊または生息していることは「不都合」なように見える。そして、環境監視等委員会の目的は「辺野古新基地工事が環境に与える影響を低減するために、科学的かつ専門的な助言を、事業者である防衛局に与える」ということのはずだが、それがまったく機能していない。

 環境監視等委員会は1〜2か月ごとに不定期開催されているが、議事録公開には数週間から1か月程度かかる。また、発言者の名前が議事録に記載されていないため、発言した委員と分野を特定することが難しく、助言の信憑性自体が著しく低くなっている。

 委員名簿を見ると、テレビや新聞にも登場する著名な委員もいる。環境監視等委員会が機能するために、専門家が発言に責任を持って科学的・専門的な助言をするためにも、市民による監視が必要だと筆者は考えている。

◆辺野古は「唯一の解決策」どころか、最も新基地を作ってはいけない場所

 沖縄のジュゴンは絶滅の危機にある。日本政府は、米軍普天間飛行場の移設には「辺野古が唯一の解決策」と言い切るが、実は最も作ってはいけない場所ではないだろうか。

 辺野古・大浦湾にはわずか約20?の海域に5334種の海生生物が棲み、そのうち262種はジュゴンも含めて絶滅危惧種である。一方、ハワイの「パパハナウモクアケア海洋国立モニュメント」は151万?(日本面積の約4倍)に約7000種の海洋生物が生息する。そのような世界に誇れる生物多様な海に7万1000本の砂杭を打ち込んで軟弱な地盤を改変し、その砂は外部から持ち込まれ外来種による深刻な悪影響が懸念されている。

「最も基地を作ってはいけない場所」で工事が行われている−−。そのことを最もよく知っているのは、当の専門家たちだ。辺野古のジュゴンの鳴き声にどう対処していくかは、科学者として正しい行いをするかどうかのリトマス試験紙になるだろう。

<文・写真/幸田幸(環境ライター)>

【参考文献】

市川光太郎『ジュゴンの上手なつかまえ方』(岩波科学ライブラリー、2014年)

ダイビングチームすなっくすなふきん編『大浦湾の生きものたち―琉球弧・生物多様性の重要地点、沖縄島大浦湾―』(南方新社、2015年)

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