身近な知人が「LGBT嫌悪」を吐露。政府が差別を助長する国で、彼はなぜ憎悪を抱えたのか?

身近な知人が「LGBT嫌悪」を吐露。政府が差別を助長する国で、彼はなぜ憎悪を抱えたのか?

ポーランド語で 'mi?o?? nie jest zbrodni?(愛は犯罪じゃない)' と書かれたプラカード (Photo by Artur Widak/NurPhoto via Getty Images)

 筆者が同年代の知人たち(30代)と話していたとき、LGBTQが話題に挙がったのだが、そのとき同席していた一人がポツリとこう言い放った。

「俺、あんまりLGBTは好きじゃないんだよね」

 それまで和気藹々とビールを飲みながら話しあっていただけに、突然の告白は筆者のみならず、そのほかの友人たちも驚かせた。

◆経済成長の影で止まったままの人権感覚

 筆者がいまいるのは、2000年代に入ってから一度もマイナスになることなく、高い経済成長率を維持している東欧・ポーランド。今年はコロナウイルスの影響があるものの、例年は日本からも多くの観光客が訪れ、親日国としても知られている。そんなポーランドだが、EU内でもっともLGBTQへの差別が根強い国であることは、ここ日本ではあまり知られていない。

 リーマンショック下でもEUで唯一プラス成長を記録するなど、民主化後の90年代、EU加入後の00年代で順調に発展してきたポーランド。その背景にはEUからの多額の投資や補助金も大きく影響している。

 特にウクライナと共催したUEFA EURO 2012以降は、目に見えてインフラの整備が行われており、好景気を肌で感じられるような目覚ましい発展を遂げた。

 その影で、ポーランドは保守的なカトリック信者が多いことや、与党である「法と正義」が反LGBTQ的な態度を貫いていることもあり、いまだに性的マイノリティへの差別・偏見が大っぴらに行われている。

◆国や自治体が公に差別を助長

 例えば、ポーランドでは国土の3分の2にあたる地域で、自治体が「LGBTフリーゾーン(=排除区域)」であることを公言している。これらの地域では寛容性を説くことや平等を謳うNGO団体への資金援助が禁止されている。つまり、LGBTの権利向上に消極的などころか、自治体が差別を助長しているのだ。

 これだけでもEUに所属する近代国家とは思えない有様だが、事態はこれに止まらない。7月末、こういった差別が横行していることを重く見たEUは、これら「LGBTフリーゾーン」の自治体への補助金申請を却下した。それに対し、先日の大統領選で勝利したばかりのアンジェイ・ドゥダ氏率いる「法と正義」は、国がそれらの地域を援助するとしたのだ。自治体どころか、国全体が差別的な仕組みを推し進めているのである。

 ドゥダ大統領はこれまでも「LGBTの権利は共産主義よりも破壊的なイデオロギーである」と述べており、大統領選でも同性パートナーの養子縁組、公立学校でのLGBTQの権利についての授業の禁止などを謳っていた。

 もちろん、ポーランド国内でもこういった差別に対する反発の声は少なくない。8月6日に行われたドゥダ大統領の就任式では、野党の国会議員たちがレインボーカラーのマスクを着け、カラフルなファッションで登庁した。また、同月には首都ワルシャワでLGBT活動家の保釈を求める大規模なデモ行進も行われている。

◆突然知人が反LGBTをカミングアウト

 このようにLGBTQに対しては虹が出るどころか、黒い雲に覆われているポーランドだが、ワルシャワなど一般的にリベラルだとされている都市では、堂々と差別が行われている様子を目にすることはあまりない。むしろ、バルコニーにレインボーカラーの旗を掲げて、LGBTへの支援をアピールする家をよく見るぐらいだ。

 そんな中で、先日筆者が同年代の知人たち(30代)と話していたとき、知人Pによる冒頭の発言が飛び出たのだ。

 それまで筆者はLGBTQに対して差別的・否定的な人といえば、「LGBTフリーゾーン」を謳う地域に暮らす人、信仰心の厚い高齢者、性的マイノリティに対してのみならず外国人にも差別や暴力行為を働く極右(スキンヘッド)のような人々をイメージしていた。

 それまでそんな素振りも見せず、笑顔で話していた知人Pが突然LGBTに対して否定的な発言をしたことには、正直面食らってしまった。

◆「LGBTで盛り上がってるのは若者だけ」

 いったい、LGBTQの何が彼にとって問題なのか。筆者を含むそのほかの知人たちと、Pとのやりとりはこのようなものだった。

??LGBTの何が嫌なの?

P:「単に好きじゃないんだよ。別に憎んでるわけじゃないけど、関わりたくないんだ」

??誰か知り合いにLGBTの人がいたり、直接会った経験はあるの?

P:「ないけど、テレビでよくデモをしてるニュースとか映ってるだろ。それが嫌なんだよ。観たくないんだ」

??ニュースでは鉄道会社だったり、他にもしょっちゅうデモを取り上げてるけど、それには腹が立たないの? だとしたら、ニュースで取り上げられていることじゃなくて、LGBTに対して何か嫌な感情があるんじゃない?

P:「昔はそんなことなかったのに、最近は若い奴らがうるさいんだよ。LGBTで盛り上がってるのは若い奴らばっかりだろ?」

??つまり、昔はLGBTはいなかったけど、今は“流行ってる”から増えてるってこと?

P:「10年、20年前にLGBTが差別されていて、それで彼らが権利を主張していたのは別にいいんだよ。でも、今は満たされているのに、『もっと寄越せ』って言ってるじゃないか」

??今は公に権利を主張しやすくなったから、増えているように見えるだけじゃない? それに、政府が「LGBTフリー」を推し進めてるみたいに、ちっとも他のみんなみたいに権利が認められてるわけじゃないし。

P:「でも、昔に比べたらもっと権利を寄越せって言ってるだろう?」

??それは他の人たちには当たり前に与えられているものを求めているだけで、何も補助金とかをもらえるように主張しているわけじゃないでしょ? そもそも、LGBTの権利が向上して、Pに何の害があるの?

◆「見えないヘイト」に光を当てるべき

 このやりとりを見てもらえばわかるとおり、知人Pには何か確固たる理由が(そもそも差別を正当化できる理由などないのだが)あるわけではない。本人が述べたようにテレビでの報道や、のちに別な会話のなかで明らかになったのだが、保守的な宗教観で育ったことも影響しているのかもしれない。理由は何にせよ、「なんとなくLGBTが嫌い」という程度のことだったのだ。

 前述のとおり、ポーランドでは与党がおおっぴらに反LGBTQ的な政策を推し進めている。しかし、そういった背景にはこうした隠れたLGBTQへの偏見があるのかもしれない。国民の間に蔓延していた偏見を政府が掬い上げているのか、それとも政府がそれらを助長しているのか、あるいはその両方なのか……。

 ともかく、直接的にLGBTQに対して暴力を振るったり、罵声を浴びせることはないにせよ、漠然とLGBTQに悪感情を抱いている人間が自分の身近にいることはショッキングだった。そして、「法と正義」が大統領選で勝利したことからもわかるように、そうした人物は決して少なくないのであろう。

 そして、こうした「目に見えないヘイト」はポーランドだけの問題ではないはずだ。「お互い関わり合わなければいい」と思う読者の方もいるかもしれないが、昨今のBLM、そして過去の歴史を振り返ってみても、漠然としたヘイトが大規模な暴力に発展することは珍しくない。PがLGBTに対して悪感情を抱いていることも、そもそも話題に挙がらなければ気づかないままだっただろう。

 今回のやりとりを通して、ヘイトは「見えなければいい」のではなく、むしろ積極的に光を当てていく必要があるのではないかと強く感じた。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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