8月は8店舗も閉店。売り上げ減にテナント撤退で苦境の百貨店。そんな中、敢えてコロナ禍に「全館改装」する店舗も

8月は8店舗も閉店。売り上げ減にテナント撤退で苦境の百貨店。そんな中、敢えてコロナ禍に「全館改装」する店舗も

シャッターを下ろす福島市唯一の百貨店・中合。 8月31日、再開発に合わせて19世紀からの歴史に幕を下ろした。

◆8月、8つの百貨店が閉店を余儀なくされた

 マスクをした人波に見守られながらゆっくりと降りるシャッター。

 国内で2020年8月中に閉店した百貨店は、東は福島市の「中合本店」から西は北九州市の「井筒屋黒崎店」まで、実に8店舗にも上る。

 その理由は経営難のみならず、中合のように「再開発に起因するもの」や、井筒屋黒崎店のように「入居していたビルの経営破綻」など様々だ。これによって福島市、大津市、徳島市の3市は「百貨店が立地しない県庁所在地」となってしまった。

 一方で、閉店に至らずとも、コロナ禍により「危機的状況」に陥っている百貨店は全国に数多くある。

◆売り上げ減は「大都市中心」、テナント撤退は「地方中心」

 8月のとある地方百貨店。この店舗は閉店する訳ではないものの、閑散とした館内の紳士服・婦人服売場では至るところに「閉店」「特別セール」の赤札が並ぶ。

 近年、「レナウン」「オンワード」「ワールド」など百貨店・総合スーパーを中心に展開する老舗アパレルが不振に陥っていたのはいうまでもないが、新型コロナ禍はこうした各社の経営に打撃を与えた。かつてのアパレル業界世界最大手でありながらコロナにとどめを刺されたかたちで経営破綻した「レナウン」をはじめとして、いずれの企業も店舗整理を急加速させており、この夏は様々な百貨店や総合スーパーで「アパレルフロアの至るところでセールのポップ広告が踊る」状況が見られた。

 コロナ禍の直接的影響をとくに大きく受けた店舗は、大都市の都心部にある大手百貨店であった。大都市の都心部やターミナル駅は「密」になりやすいためそうした立地の店舗が避けられたのはもちろんのこと、近年大都市都心部の百貨店内に訪日観光客向け免税店が増えていたことも追い打ちをかけた。

 例えば、大手百貨店「大丸」では、4月から8月の5ヶ月間の売り上げが、大丸東京店で約62パーセント減、大丸心斎橋店で約66パーセント減、大丸梅田店で50パーセント減となるなど、都心の旗艦店が軒並み厳しい状況となったのに対し、神戸市郊外にある地域密着型店舗の大丸須磨店は改装中のフロアがあるにも関わらず約21パーセント減、高知市中心部にある同県唯一の百貨店・高知大丸では約35パーセント減にとどまっている。

 その一方で、老舗アパレル各社による「店舗整理」の対象となったのは、売上減少幅が大きい大都市の百貨店内…ではなく、もともとの売り上げ規模が小さかった地方都市や郊外の百貨店、地方の総合スーパー内にある店舗が中心だった。

 例えば先述した大丸では、心斎橋本店など旗艦店の撤退テナントは経営破綻したレナウンのブランドなどごく一部のみにとどまったのに対し、地方店の高知大丸ではこの夏一気に30店以上のテナントが撤退。地場企業が運営する地方百貨店の状況はさらに深刻で、西日本のある地方百貨店ではテナントの撤退が相次いだこともあり売場を集約・一部フロアを完全閉鎖。また、東日本で複数の店舗をチェーン展開しているある地方百貨店では、ほぼ全店舗に出店していたレナウン系・オンワード系ブランドの約8割が撤退し、多くの系列店のアパレル売場で「空き床が目立つ」状況に陥っているところさえもある。

 もはや多くの老舗アパレルは「経営効率がいい大都市の店舗を死守するためには永年付き合いがある地方店であっても『切り捨て』さえ止むを得ない」ほどの状態なのであろう。

◆撤退ではなく「コロナ後」を見据えたリニューアルに挑む百貨店も

 そうしたなか、あえてこの時期に「撤退」ではなく「店舗の全面リニューアル」を選んだ地方の百貨店がある。それは、愛媛県松山市の中心部にある「松山三越」だ。

 松山三越は1946年10月に松山市初の大手百貨店として開店。現在の店舗は1991年に建設されたもので、連絡通路でシティホテル「ANAクラウンプラザホテル松山」内の商業施設「ファッションタウンアヴァ」(BEAMS、DIESELなどが出店)と接続されている。店舗面積は21,420uで、建物は松山三越(自社)が所有する。

 松山市の百貨店は、地元私鉄・伊予鉄道の子会社で大手百貨店・高島屋と提携する「いよてつ高島屋」(店舗面積39,180u、旧・いよてつそごう)が地域一番店で、松山三越は二番店。両店はともに大手百貨店であり、とくに百貨店系アパレルは重複するブランドが数多くあった。

 そのため、いよてつ高島屋の約半分の面積である松山三越は、とくにアパレルに関しては「高島屋のミニ版」といった品揃えであり、2010年に三越伊勢丹から分社化されて以降10年連続の赤字。バブル期に設計されたという三越らしい豪華な建物は、とくに平日は少し淋しい雰囲気であった。そうしたなかの新型コロナ禍は経営を直撃。同店の不振は地元でも広く知られていたため「これを機に撤退するのではないか」との声も上がっていたほどだった。

 しかし、コロナ禍のなか松山三越が打ち出したのは「撤退」ではなく、コロナ後を見据えた「全館リニューアル」だった。

 今回のリニューアルには、道後温泉で旅館を運営する「茶玻瑠」「古湧園」、不動産店やホテルを運営する「三福ホールディングス」、飲食店を運営する「タケシカンパニー」など愛媛県内の地元企業が参画。アパレルの売場は大きく圧縮され、「地元民の声」と「地元企業の力」を活かすかたちで、瀬戸内の旬の食を扱う「フードホール」や「地産地消マルシェ」を設けて土産品やスイーツ、グルメを充実させるほか、ヘルスケア関連の店舗を誘致。さらに、7階・8階は松山市の一等地という地の利を武器にして地元企業とダッグを組んだ宿泊施設を出店させる計画だ。工事は9月から始まっており、客が少ないコロナ禍のなかリニューアルを進めて、来年秋のグランドオープンをめざすとしている。

 松山三越によると、今回の改装は「地元客と観光客の双方をターゲットとしたもの」だという。同社の社長は「選択肢は(店を)閉めるか(改装を)やるか」であったと述べており、コロナ禍のなか「縮小」するのではなく、いち早く「コロナ後」を見据えた改装をおこなうことを決めた同店の動きに業界の注目が集まっている。

◆百貨店の「脱・老舗アパレル依存」、コロナ禍で進むか

 松山三越以外の地方の百貨店でも、少しずつではあるが撤退したテナントの跡地利用が進みつつある百貨店もみられる。

 例えば、先述の高知大丸では県内にアトリエを持つオリジナル婦人服工房「手作り工房 浪漫堂」や、兵庫県の建築事務所が運営するライフスタイル提案型のインテリアセレクトショップ「Kerry’s Living(ケリーズリビング)」が新たに出店するなど、「百貨店向けテナント」にこだわらず、地方の企業が運営する個性的な店舗を誘致した例もあるほか、地場企業が運営する地方百貨店では、人気の季節商品をセレクトした百貨店独自の自主編集売場や、(暫定的な活用かも知れないが)新たにアウトレット的な売場を設けた例もみられる。

 もっとも、この夏に店舗整理をおこなった老舗アパレル各社の店舗はバブル期まで百貨店業界成長の一翼を担っていたものの、近年は百貨店における「業態不振」の象徴的存在となっていた。

 松山三越以外にも、コロナ禍を機にテナント構成を大きく変え、「脱・老舗アパレル依存」を図ることで客層の拡大を目指した意欲的な改装をおこなう百貨店も出てくるであろう。

 老舗アパレルの呪縛から解き放たれた百貨店の、「コロナ禍」後の新たな姿に期待したい。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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