伊藤詩織・大坂なおみ両氏選出で話題のTIME誌「世界で最も影響力のある100人」。他にも注目したい人たち

伊藤詩織・大坂なおみ両氏選出で話題のTIME誌「世界で最も影響力のある100人」。他にも注目したい人たち

Elnur / Shutterstock.com

 米TIME誌が23日、「世界で最も影響力のある100人」を発表した。今年はジャーナリストの伊藤詩織とテニスの大坂なおみも選ばれ、早くも日本で話題となっている。もちろん彼女たちの功績も素晴らしいものであると筆者は思うが、今回はあえて日本のメディアではあまり報道されていない各国の「時の人」を紹介したいと思う。

◆“PIONEERS”部門

 PIONEERとは、日本語で「先駆者」という意味である。すなわち、何か時代の先駆けとなることを成し遂げた人々が選ばれる部門と言えよう。筆者が個人的に気になったのは、Tomi Adeyemi(トミ・アデイェミ)とChase Strangio(チェイス・ストランジオ)だ。二人が残した功績を紹介する。

●Tomi Adeyemi(トミ・アデイェミ)

 トミ・アデイェミはナイジェリア系アメリカ人の作家で、注目を集めている壮大なファンタジー「オリシャ戦記」シリーズの作者である。日本では今のところ「オリシャ戦記 血と骨の子」のみ翻訳されているが、ナイジェリアの神話と現代の世界を融合した斬新な本作はニューヨークタイムズのベストセラー小説にもなり、黒人版「ハリー・ポッター」「ナルニア国物語」シリーズとの呼び声も高い。

 コメントを寄せた俳優のジョン・ボイエガは、「この小説に出てくるキャラクターは非常に人間的な問題を抱えている。物語内での社会的な主張や、魔法と抑圧の描写は私のナイジェリア人としてのアイデンティティや文化に語りかけるものだった」と語る。また、トミ氏を「アイディアの神様」と表現し、彼女の映画業界への貢献についても触れている。

●Chase Strangio(チェイス・ストランジオ)

 チェイス・ストランジオはアメリカ自由人権協会の弁護士で、トランスジェンダーの権利活動家でもある。

 性的指向に基づく差別によって仕事を辞めさせられたゲイ男性とトランスジェンダーの女性が起こした裁判でチェイスは弁護団の一員を務め、今年6月には「セクシュアリティや性的指向によって従業員を差別するのは違憲である」という最高裁判所の判決を勝ち取った。

 俳優兼活動家のラバーン・コックスは、「チェイスは、法制度の混乱した矛盾と限界について明確に語り、同時に最も弱い人々を助けるために制度の力を行使している。現在、彼は史上最大のLGBTQ+の法的勝利に貢献した弁護士として称賛されている。彼が私の友達であることが誇らしい」とコメントした。

◆“ARTISTS”部門

 ARTISTS部門にはTHE WEEKENDやセレーナ・ゴメス、『パラサイト』でアカデミー賞を席巻したポン・ジュノ監督など日本でも人気のある著名人が選ばれたが、今回の記事ではHalsey(ホールジー)とYo-Yo Ma(ヨーヨー・マ)をピックアップしたい。

●Halsey(ホールジー)

 ホールジーはアメリカのシンガーソングライターであり、日本の音楽好きの間ではかなり有名な部類と言っても良いのではないだろうか。そんなホールジーはバイセクシュアルであることを公言しており、VOGUEのインタビューでは「流動性を許さないなんて、この社会がいかに多様なジェンダーを受容することに消極的かという証左です。男は強くあるべき、というようなトキシック・マスキュリニティ(有害な男性性)の問題は、個人に多大な影響を与えますし、男性が女性のようにふるまうことを否定する考えには、本当に心が痛みます」と語っており、性的指向やジェンダーにおいて自由な立場を表明している。

 今回コメントを寄せたのは「SUGA's Interlude」や「Boy With Luv」でホールジーとコラボしてきたBTS。「ホールジーは驚くほど才能のあるアーティストであり、共に楽曲を作るにあたってすべてを誠実に捧げてくれる献身的なパートナーでもある。今後も彼女が世界になにをもたらすのか、見るのが楽しみだ」と語った。

●Yo-Yo Ma(ヨーヨー・マ)

 世界的なチェリストであるヨーヨー・マ。今回の選出にあたって彼の紹介文を書いたのは、日本でもお馴染みのスティーヴィー・ワンダーだ。

「並外れた芸術家であり、真の音楽の天才でもある以上に、ヨーヨーマは愛と生命の証である。彼の音楽は、民族、地理、政治、階級、ジャンルといったあらゆる領域を超えたやさしい理解に包まれている。

チェロを通して彼が奏でる音は、聞くこと、感じること、気遣うこと、行動することを私たちに教えてくれる。彼の音楽は私たちを安全な場所へと導いているのだ。(中略)今年は、COVID-19の大流行の中で私たちがこれまで以上に音楽を必要としていることを認識し、彼はハッシュタグ#SongsOfComfortをつけてSNSにビデオパフォーマンスを投稿し始め、他の人々にも参加するよう促した。間もなく、ハッシュタグには多くのアーティストの演奏が掲載された」

https://youtu.be/-yiQbeB7Bk8

 Youtube上には、アメリカの公共ラジオ放送NPR(National Public Radio)が企画する「タイニー・デスク・(ホーム)・コンサート」にヨーヨー・マが出演し、クリス・シーリー、エドガー・メイヤー、ステュアート・ダンカンとそれぞれの自宅からリモート・セッションをした映像が公開されている。コロナウイルスが引き続き流行するこの殺伐とした世の中で、改めて音楽の素晴らしさを実感できるだろう。

◆“LEADERS”部門

 毎年各国首脳をはじめ、その年リーダーとしての役割を担った人が選出される“LEADERS”部門。過去には安倍晋三前首相も選ばれており、今年はトランプ大統領や習近平国家主席、ドイツのメルケル首相も選ばれている。そんな中で筆者が取り上げたいのは、Anthony Fauci(アンソニー・ファウチ)とNemonte Nenquimo(ネモンテ・ネクイモ)だ。

●Anthony Fauci(アンソニー・ファウチ)

 アンソニー・ファウチは米国立アレルギー感染症研究所の所長であり、世界的な感染症の権威でもある。過去にはHIVの研究にも貢献してきた彼は、現在新型コロナウイルスの研究に全力をあげている。

「ファウチ博士は36年間にわたって6人の大統領に助言してきた。(中略)彼は自分の言葉に甘んじることなく、政治家からの圧力を受けることを拒んでいる。彼は真剣に、『命を救う』という一つの目標を持って真実を語る。彼の勇気と率直さは私たちの信頼を得ているし、私たちはこの困難な状況を乗り切る手助けをしてくれる知恵と経験と誠実さを持った彼に救われている」とコメントしたのは、Jimmy Kimmel Liveの司会を務めるジミー・キンメル。

 彼は先月のWIREDによるインタビューの中で、「ワクチンの入手可能時期については今年末か、2021年初頭が最も有力だと考える」と述べている。しばしばトランプ大統領からの罵倒を受けるファウチだが、圧力に屈することなくコロナウイルスの収束に一役買ってほしいと願うばかりである。

●Nemonte Nenquimo(ネモンテ・ネクイモ)

 ネモンテ・ネクイモ。おそらく大半の人にとっては聞き慣れない名前であろう。彼女はアマゾンの先住民、ワオラニ族の指導者だ。ネクイモの紹介文を書いたのはかの有名なレオナルド・ディカプリオ。彼女の功績を、ディカプリオのコメントと共に辿ってみよう。

「昨年、アマゾンは守られた土地よりも燃やされた土地としてよく知られていた。しかし、パスタサのワオラニ族の指導者であり、セイボ同盟の共同設立者であるネモンテ・ネクイモが起こした訴訟は、珍しく明るい出来事だった。画期的な判決が、エクアドルのワオラニ族の先祖たちの家を即時破壊から守ったのだ。この波はあらゆる先住民コミュニティに希望をもたらした。

 ネモンテは戦い続けている。彼女と会話すると明快な目的を目の当たりにし、驚かされる。彼女が『諦めるつもりはない』と言っていたことを覚えている。ずっと戦い続けると。愛する森を産業界や石油会社から守り続けると言うのだ。(中略)私は彼女に出会えてラッキーだし、彼女から学べたことはもっとラッキーだ」

 THE NEW YORKERの記事“An Uncommon Victory for an Indigenous Tribe in the Amazon”を引用してもう少し詳しく彼女の功績を解説すると、彼女らはエクアドル政府がワオラニ族の領土を石油探査のために競売に出したことについて、事前の適切な協議がなかったとして訴訟を起こした。そして、「ワオラニ族の土地を同意なしに石油探査目的で競売にかけることはできない」という判決を勝ち取ったのである。鉱業や伐採、その他産業によって暴力的な扱いを受けがちな少数民族、特に先住民族が勝訴したことは、偉業と言っても過言ではないのである。

◆“TITANS”部門

 TITANには、日本語で「巨匠」や「大物」などの意味がある。そんなTITANSの中からは、日本でも馴染み深いサービスを牽引する二人を紹介したい。

●Eric Yuan(エリック・ユアン)

 まずはエリック・ユアン。彼はコロナ禍で一躍誰もが知るサービスとなった「Zoom」を運営するZoomビデオコミュニケーションズのCEOだ。ユアンを紹介したGoogle Chinaの元社長であり、シノベーション・ベンチャーズの現チェアマン兼CEOのリー・カイフーはこう語る。

「Zoomは世界を一変させたツールとして歴史に残るだろう。いちブランドの名前から動詞として使われるようになるのは、あらゆる製品の特徴だ。(中略)エリックの刺激的だが謙虚なリーダーシップスタイルは、従業員の98%から称賛されているという。Zoomは今年以降も繁栄し、私たちの心をつかむだろう」

 その躍進ぶりについては我々が誰よりも知っていることであろう。

●Lisa Nishimura(リサ・ニシムラ)

 リサ・ニシムラは、Netflixのオリジナルドキュメンタリーとコメディ番組のバイス・プレジデントであり、現在はインディペンデント映画の監督もしている。Netflixには自粛生活の中でお世話になったという人も少なくないはずだ。

 彼女にコメントを寄せたのは、Netflixオリジナルの番組『美味しい料理の4大要素』に出演するシェフ兼フードライターのサミン・ノスラット。

「主にアルゴリズムと数字によって動く業界や会社の中で、リサは心で選択をする。Netflixにログインすれば、共感、思いやり、理解を深めることができる彼女のプロジェクトであるかすぐにどれかわかるだろう」と語っている。

◆“ICONS”部門

 ICONは、「象徴的なもの」を意味する。つまり、「世界で最も影響力のある100人」の中で最も「この1年」を表すのがこの部門に選ばれた人々と言っても良いだろう。大坂なおみもこの“ICONS”に選出されている。そんな中で筆者が気になったのはAllyson Felix(アリソン・フェリックス)とFelipe Neto(フェリペ・ネト)だ。詳しく見ていこう。

●Allyson Felix(アリソン・フェリックス)

 陸上競技選手であり、アテネ・北京・ロンドン・リオデジャネイロオリンピックで計9つのメダルを獲得したアリソン・フェリックス。そのうち6つが金だというのだから驚きだ。そんな彼女が昨年、妊娠した女子選手に対しスポンサー料を減らしたとしてナイキを批判し、方針を転換させたことは記憶に新しい。

「彼女が声をあげた後、ナイキは出産する選手の18カ月間の給料を守るために、出産に関する方針を転換した。だが、社会は全ての母親を守る必要があり、私たちは彼女らが生き延びるだけでなく、母親として繁栄するために、妊娠、出産、産後を通して安全で尊敬すべきケアを公平に受けられることを保証する必要がある。アリソンさん、妊娠した母親たちの権利を前に進めてくれてありがとう」と述べたのは、Every Mother Countsの創設者であるクリスティー・ターリントン。ひとりの選手として、そして母親として、妊婦の権利を守るために戦った彼女に拍手を送りたい。

●Felipe Neto(フェリペ・ネト)

 最後に紹介するのはフェリペ・ネト。彼の職業はYouTuberだ。その登録者数はなんと3950万人(9月25日時点)。日本のトップYouTuberであるはじめしゃちょーやHIKAKINの登録者数が900万人弱であることを知れば、いかにこの数字が驚異的かわかるはずだ。日本のインフルエンサーが政治に関する声をあげることはあまりないが、彼は「カリオカのトランプ」という異名を持つジャイル・ボルソナロ大統領の独裁政治を批判し続けている。リオデジャネイロを代表するブラジルの議員であるデイヴィッド・ミランダはこう語る。

「2018年に極右のジャイル・ボルソナーロが大統領に選出されプロトファシストの運動が強化されたため、ネトは自身のブランドと安全を危険にさらし、人気を利用してボルソーナロの最も有力な敵の1人になった。(中略)5月にネトが出した、ボルソナーロの権威主義に対して何も言わない著名人たちを非難したビデオは、何百万人もが視聴した。7月には、彼はボルソナーロがCOVID-19の中世界で最も破壊的なリーダーとなった経緯をニューヨークタイムズの動画で詳しく説明した。ボルソナーロ一家はSNSで彼に頻繁に返信し、後に投稿を削除することもある。

 (中略)フェリペ・ネトが話すとき、何百万人もが耳を傾ける。そして、彼の政治に対する声は、民主主義が危険にさらされている国に強烈に響くのだ」

 またデイヴィッド・ミランダは「ネトは誤った情報を発信したこともある」と述べている。その上で、「過去のあやまちを帳消しにするのではなく、人間が成長し進化する能力を受け入れ、養うべきだ」とも話している。

◆その影響力の方向性はさまざま

 毎年何かと話題になる「世界で最も影響力のある100人」。先述したように、過去には安倍晋三前首相や小池百合子都知事も選ばれているし、今年もトランプ大統領や習近平国家主席、ブラジルのジャイル・ボルソナーロ大統領も選ばれているように、その影響力の方向性もさまざまである。

 とはいえ、1年間に世界で起こった出来事を総ざらいできるチャンスでもあるので、「伊藤詩織さんや大坂なおみ選手が選ばれた!」という話題だけで消費するのではなく、その他の人物にもアンテナを張っておいて損はないだろう。

<文/火野雪穂>

【火野雪穂】

97年生まれのフリーライター。学生時代から学生向けメディアの記事作成などを行う。今春大学を卒業したばかりだが、いきなりのコロナ禍で当惑。

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