Netflixオリジナル『監視資本主義』が暴くSNSの恐ろしさ

Netflixオリジナル『監視資本主義』が暴くSNSの恐ろしさ

Netflixより

 Netflixで独占配信中のドキュメンタリー映画『監視資本主義:デジタル社会がもたらす光と影』(原題:『The Social Dilemma』)は、現代の私たちが大いに怖がるべき、様々な示唆に富む内容だった。

 本作ではソーシャルメディアおよびSNSが、人間にどれほどの危険な影響を及ぼすかについて多角的に論じられている。具体的にそれがどのようなものであるか、以下に記していこう。

◆監視資本主義の意味とは

 邦題の「監視資本主義(Surveillance Capitalism)」とは、ハーバード大学の名誉教授ショシャナ・ズボフによる造語。それは個人のデータが商品となり、その収集と生産が、インターネットの大規模な“監視”に依存しているという、市場主導型のプロセスを説明しているものだ。

 こう書くと難しく感じるかもしれないが、YouTubeでおすすめの動画を紹介したり、SNSを利用して表示される広告が、その人向けに“最適化”されているという状況を例にとればわかりやすい。

 いわば、プロフェッショナルのIT技術者たちが構築したシステムに沿い、スーパーコンピューター(AI)がスマホを見ている人々の行動を監視どころか、「次はこの動画を見たいと思っているな」「この広告を出せばきっとクリックをするぞ」という“予測”までしている。それは、大企業および広告主が儲かるように、システムが構築されているということでもあるのだ。

◆スロットマシーンや違法薬物に例えられる危険性

 劇中では、監視と予測がされているソーシャルメディアおよびSNSを利用する過程を、“スロットマシーン”や“薬物依存”にも例える。

 自分が望むものが表示され、それを嬉しいと思い、広告や動画のクリック、Twitterのタイムラインの更新を繰り返すという流れは確かにスロットマシーンのようであるし、テロップでは「顧客をユーザーと呼ぶ業界は2つだけ、違法薬物とソフトウェアだ」という格言も表示される。スロットが当たりを引く時の音が連続的に聞こえ、瞳孔が縮小・散大するという薬物の症状のイメージを映し出されるという、非常に恐怖感を煽る演出もされている。

 ソーシャルメディアおよびSNSをスロットマシーンや違法薬物に例える、というのは人によってはオーバーに思われるかもしれないが、利用する者に対して監視と予測が行われ、行き過ぎれば中毒になる者もいて、それは元締め(広告を出す大企業)の利益につながる、というのは事実。つまるところ、監視資本主義の考えにおける、個人(のデータ)が“商品”になっているという言説も、正しくはあるだろう。

 他にも違法薬物に例える大きな理由がある。もともと人間には他者と繋がりたいという生物学的な欲求があり、人類はずっと共同体で暮らしてきて、その欲求を満たしてきた。だからこそ、瞬時に“いいね”がもらえて、他者とすぐに繋がれるように作られたソーシャルメディアおよびSNSに、人間が中毒になるのは当たり前のことではないか、と。

 普段ソーシャルメディアおよびSNSを利用している時には、そうしたことを気にとめることはない。人間の深層心理にまで浸透していることを鑑みれば、こうした過剰でもある(しかし間違っていない)スロットマシーンや違法薬物の例えと演出は必要だったのだ。

 その他にも劇中では様々な理論が展開するが、「ソーシャルメディアは道具ではない」にも大きなインパクトがあった。例えば、自転車そのものを批判する人はほとんどいない。それは自転車が道具であり、ただ存在し、使われるのを待っているからだ。しかし、道具ではないものは要求してくる。誘惑し、操り、何かを引き出そうとする。目標を持ち、それを追求する手段があり、人の心を操る。だから、ソーシャルメディアは道具ではないのだと。

 この認識も確かに重要だ。単にソーシャルメディアおよびSNSを「便利な道具」と思っていると忘れがちな、人類が未だかつて知り得なかった危険性が、そこにはあるのだから。

◆人の生き死ににも関わるSNS

 本作で描かれる危険性はネットやSNSの中毒だけに止まらない。劇中では「SNSは人を殺したり、自殺を招いている」とも、はっきりと言い切っている。

 若者が「帰宅して最初にSNS」のような依存状態になっていること、恋愛やデートの比率も下がっていて、10代の少女の自傷行為や自殺までもが増加傾向にあることがデータとして語られている。彼女たちは「美しい自撮り」が自分のアイデンティティーにまでなっており、短絡的な“いいね”を儚い人気に過ぎないと気づいていない、それが大きな価値や真実だと勘違いしている、とも示されている。

 はたまた、SNSが社会の分断を招き、暴動につながったり、悪意のある軍団に利用されたり、また新型コロナウイルスのフェイクニュースや陰謀論の拡散にも繋がったりと、完全に人の生き死に関わる、大規模かつ深刻な事態も例に挙げられている。劇中ではジョークのように、「何が一番怖いかと言われれば、直近で一番は、内戦かな」とも語られていたが、ちっとも笑えない。

◆ドラマパートによりディストピアSF映画にも見えてくる

 劇中ではTwitter、Facebook、Instagram、YouTubeなど、そうそうたるテック企業で働いてきた元社員たちが、前述してきたソーシャルメディアおよびSNS、そして監視資本主義の社会の危険性について語っている。それと並行する形で、ごく平凡な家族の姿を通じて、若者がいかにソーシャルメディアおよびSNSに依存しているかという例を見せるドラマも描かれている。

 このドラマパートは全体からすればごく短く、またシンプルなものだが、だからこそ身近な恐怖として映る。例えば、一家の母親は「ご飯を食べている時はスマホ禁止」として、タイマー式のケースの中に家族みんなのスマホを入れたりするのだが、思春期の娘はそのことに耐えられない。

 また、高校生の息子は母親から「一週間スマホを我慢できたら、割れた画面を直してあげる」という条件を告げられ、劇中では「残り時間」も示されたりもする。スーパーコンピューター(AI)が“3人の男”として擬人化され、彼に何とかしてスマホを使わせようともする。それをもって、「ソーシャルメディアおよびSNSは現実世界での行動と感情をユーザーに気づかれずに操れる」という恐怖も呼び起こす。

 このドラマパートのおかげもあり、現在進行形の現実の世界を示しているはずなのに、まるでディストピアSF映画を観ているような感覚にも陥る。劇中では『ターミネーター』(1984)の例を出して「武器を持って襲ってこなくてもAIは人間を支配しているじゃないか」ということ、『トゥルーマン・ショー』(1998)のように「ソーシャルメディアおよびSNSも個人の人生を管理し支配しているのかもしれないぞ」ということも示唆される。

 ディストピアSFは往往にして「現実の先に起こり得る最悪の未来の世界」を示しているのだが、「まさに“今”がディストピアSFになっているじゃないか」という皮肉めいた現実が、そこにはある。

◆必要なのは批判と議論

 監視資本主義の問題について、序盤からこう語られている。「1人の悪党のせいではない。問題を特定するのは難しい。議論する必要がある」と。

 言うまでもなく、ソーシャルメディアおよびSNSそれ自体が悪いと言うわけではない。劇中では問題の争点として、例えば「ユーザーの権利ではなく巨大企業の利益と特権が守られていること」や「正しい法整備がなされていないこと」など、やはり全体を統括する“制度”が挙げられている。

 他にも「16歳まではSNSを使わせない」「Google Chromeの拡張機能でYouTubeのおすすめ動画を非表示にする」「(違う意見も知りたいから)SNSで違う視点を持っている人もフォローする」などの、極めて具体的な問題の解決策も示されている。

 もちろん、いずれの解決策も個人の意見であり、それらを鵜呑みにしてしまうのも良くはないだろう。ただ、誰かと議論を交わし、それぞれがソーシャルメディアおよびSNSの向き合い方を今一度考えるのは、非常に意義深いことだ。

 劇中ではこうも提言される。「批判して改善するんだ。批判者こそ、楽観主義者だ」と。この『監視資本主義』ではソーシャルメディアおよびSNSの危険性について徹底的なまでに批判をしているが、それこそが良い未来へとつながると、希望も見せてくれていた。

◆真にゾッとするのはラスト?

 『監視資本主義』は多角的に現代の我々に恐怖を与えてくれる内容だが、個人的に真にゾッとしたことは、映画が終わった後にあった。

 何しろエンドロールが終わった時に、「この映画を観ていた人だけがゾッとするテロップ」が表示されるのだ。すかさず「冗談です」とも表示されるのだが、良い意味で心臓に悪い、「やめてくれよ!」と思うしかない、このテロップはぜひその目で確かめてほしい。

 さらに、その後にはNetflixの機能による「おすすめ作品」を紹介された。ソーシャルメディアおよびSNSにおけるおすすめ動画や広告が、“監視”と“予測”に基づく、スロットマシーンや違法薬物のような依存にもつながるものだと見せられた後に、これは何という皮肉だろうか……。

【参考記事】監視資本主義(サーベイランスキャピタリズム)とは?「デジタル経済メディア Axion」

<文/ヒナタカ>

【ヒナタカ】

インディーズ映画や4DX上映やマンガの実写映画化作品などを応援している雑食系映画ライター。過去には“シネマズPLUS”で、現在は“ねとらぼ”や“CHINTAI”で映画記事を執筆。“カゲヒナタの映画レビューブログ”も運営中。『君の名は。』や『ハウルの動く城』などの解説記事が検索上位にあることが数少ない自慢。ブログ 「カゲヒナタの映画レビューブログ」 Twitter:@HinatakaJeF

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