全国各地を巡る旅慣れたトラックドライバーは、なぜ「各地方の名店」を教えられないのか

全国各地を巡る旅慣れたトラックドライバーは、なぜ「各地方の名店」を教えられないのか

全国の風光明媚な観光地を通るドライバーといえど、名店を把握しているわけではない

「トラックドライバーが一般ドライバーに知っておいてほしい“トラックの裏事情”」をテーマに紹介している本シリーズ。

 前回までは、人権なきショートキャブのトラックについて紹介してきたが、今回は、トラックドライバーによく寄せられる「日本の名店を紹介してください」という要望に、彼らが応じられない理由を紹介したい。

◆トラックドライバーによく寄せられる要望

 日本各地を走る長距離トラックドライバーには、非常によく寄せられる要望がある。

 それは、

「日本全国で名店だと思う食堂を教えてください」

というものだ。

 筆者もこれまで多くのメディアから「トラックドライバーが選ぶ名店トップ10という企画をやりたい」といった類の相談を何度も持ち掛けられてきたのだが、その度に「難しいと思いますよ」という、事情を知らない相手にとってはなんとも「釣れない答え」を出し続けてきた。

 最近もある媒体から同じような企画協力の依頼があり、Twitterで現役トラックドライバーたちにダメ元で意見を求めてみたところ、写真付きで答えてくれたドライバーも一部いたのだが、以前当サイトでも紹介した「トラック飯」という固有名詞が存在するほど「食」にこだわりがある人の多いトラックドライバーの特性に鑑みると、やはりその割合は少なく、多くが同じような「釣れない答え」に終わった。

◆なぜ全国各地を回ってても答えられないのか?

 なぜ彼らが各地の名店を答えられないのか。

 それには以下2つの理由がある。

1.停める場所がない

 彼ら長距離トラックドライバーが名店を紹介できない1つの要因は、その「車体の大きさ」にある。

 「長距離輸送」は、運送コストの面からできるだけ多くの荷物を一度に運ぶ必要がある。さすれば必然的にトラックの種類は、輸送能力の高い「大型車」ないし「中型車」がデフォルトになるのだが、これらのトラックにおいては、全国的かつ慢性的に「駐車場」が不足しており、ドライバーは食事の際はおろか、荷主先への時間調整時やトイレに行きたい時すらもトラックをなかなか停められずにいるのが現状なのだ。

 「名店」に大型車専用駐車枠があることは非常に稀だし、普通車のようにコインパーキングに停められるわけでもない。

 そのため、はるばる東北から広島に配達し、せっかくだからと「お好み焼きの名店」にふらっと立ち寄る、ということは非常に難しい。

 つまり、トラックドライバーだからといって、名店の名を数多くポンポン挙げられるわけではないのだ。

 これを裏付けるように、一部のドライバーたちが紹介してくれる「名店」や「ご当地料理」のほとんどは、大型トラックでも安心して長時間停車できるサービスエリアかパーキングエリア、道の駅内にあるレストランの定食で、中には同じような理由から「ドライバーにとっての名店はセブンイレブンかファミリーマート」、「コンビニのパスタを車内で食べるのが一番。時間も路駐違反も気にせず安心して食べられる」などと皮肉に答える人もいる。

 彼らが名店に足を運ぶのには、まず「駐車場問題」という関門を突破しなければならないのである。

◆答えられないもう一つの理由は??

 そしてもう一つの理由が、これである。

2.教えたくない

 トラックドライバーの答えにもう1つ多いのは、「名店は知ってはいるが教えたくない」というものだ。

 上記のような駐車場不足という問題はあれど、長距離を走るだけあって、名店を「1つも知らない」というわけではない。先述通り、食にこだわりを持つ人が多いトラックドライバーには、やはり「自分の名店」を持つ人が多い。

 が、そこを「人には教えたくない」とするドライバーが非常に多く、今回のアンケートで店を紹介してくれた中にも、「口外禁止でお願いします」や、「本当は教えたくないんだけど」という断りや躊躇心を添えるケースが目立った。

 彼らが名店を教えたくない理由は、「店に行けなくなるから」だ。

 せっかく見つけた「トラックでも通える名店」。そこを紹介することによって客が増え、トラックを停めにくくなれば、自分で自分の首を絞めることになる。

 「名店を人に教えたくない」は、トラックドライバーでなくても働く心理ではあるが、彼らの場合は前出の駐車スペースの問題から、それに輪を掛けて教えたくないのである。

◆「教えたくない理由」もトラックドライバーならでは

 「もとはトラックドライバーのためにとやっていたお店が、テレビで紹介されて観光客が倍増し、トラックが入りにくくなってしまうお店を多々知ってます。行けなくなったら寂しいもん」(40代長距離中型)

 「店を教えることで客が増えれば食事が出てくるスピードも遅くなるし、トラックを停めることもできなくなる。路駐するトラックが増えれば結果的に店に迷惑を掛けてしまう」(50代長距離大型)

 全国を走る彼らが知る名店はホンモノで、実際紹介すると一気に客が増える。

 筆者自身、今回トラックドライバーたちから寄せられた各地の「名店」をここで紹介したいところではあるが、彼らが選ぶ「名店」には、必然的にトラックが停められる場所があることが分かっている以上、残念ではあるが、やはり今回も「釣れない答え」しか出せないのである。

<取材・文・写真/橋本愛喜>

【橋本愛喜】

フリーライター。元工場経営者、日本語教師。大型自動車一種免許取得後、トラックで200社以上のモノづくりの現場を訪問。ブルーカラーの労働環境問題、ジェンダー、災害対策、文化差異などを中心に執筆。各メディア出演や全国での講演活動も行う。著書に『トラックドライバーにも言わせて』(新潮新書) Twitterは@AikiHashimoto

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