越境化するミドル転職市場。成功の鍵は「経験資源の因数分解」と「成果の再現性」

越境化するミドル転職市場。成功の鍵は「経験資源の因数分解」と「成果の再現性」

画像はイメージです

 コロナ禍により多くの企業や事業者が打撃を受け、同時に働き方も見直されるなか、転職を考え始める中年が増加しているという。そして中高年の転職市場そのものにもあらゆる要因でパラダイムシフトが起きており、従来とは違う方法が求められている。そこで、成功するための方策を探った。

◆産業構造の変化で越境化する40代からの転職市場

 総務省の労働力調査によると、’19年度の45〜54歳の転職者は57万人と、’09年度以来、最多を記録。日本最大級の人材紹介会社・リクルートエージェントが仲介した40〜59歳の転職件数も、’18年度は’09年度比451%と急激に伸びている。

 その背景について、「ミドルの転職」事業部長・天野博文氏は「企業の即戦力へのニーズが高まっていることと、少子化で若手が十分に採用できないことが挙げられます。さらにコロナ禍の影響で産業構造の変化が加速し、ますます社内になかった経験豊かな人材を調達する必要が生じた」と話す。

◆要因の一つは社会の“サービス経済化”へのシフト

 また、リクルートキャリアHR統括編集長の藤井薫氏は「社会が“サービス経済化”にシフトしていることが要因の一つ」と分析する。

 例えば、メーカーは従来のモノだけの販売ではなく、体験価値向上の提案などの付加価値の高いサービスを付け加えることによって継続的に使用料を徴収するというビジネスモデルにシフトしている。

「この影響で、例えば自動車会社が新しいサービスを開発できるUXデザイナーやAIエンジニアのような、新しい職種を募集しているのです」(藤井氏)

 これまで中高年の転職市場での成功事例は、長年積み上げてきた知識やスキルを即生かせる同業種・同職種間に絞られていた。しかし産業構造の変化は多くの「越境転職者」を中高年の間で生み出しているという。

「リクルートエージェントで転職した40〜50代のうちで同業界・同業種内で決定した人は25〜30%程度しかいません」(藤井氏)

 例えば、某大手ECサイトは新規事業として生鮮食料品の販売を開始する際、青果の世界で30年も卸売業に携わってきた40〜50代の人材を採用している。このように前例を打ち破るケースは枚挙に暇がないという。

 中高年の転職で最も強力な武器になるのがキャリアの棚卸しだ。だが、そもそも自分を客観的に見るのは難しく、胸を張るほどのスキルはないという人も多い。

◆「経験資源の因数分解」と再現性あるアピールが肝

 そこで藤井氏が提案するのが「経験資源の因数分解」である。中高年で転職できた人の多くは、仕事の仕方、人との関わり方といった汎用性のある「社会人力」であるポータブルスキルで最も得意な部分を把握することから始める。

「同業界の異職種に行く場合は『業界知識』を、異業界に行く場合は元業界の職種スキルが活用できるといった考え方です。その結果、考えつかなかった意外な求人が浮かび上がってきます」(藤井氏)

 ミドル世代専門転職コンサルタントの黒田真行氏は「ただの棚卸しでは不十分である」と話す。

「企業が採用するのは、自社で利益を出せると判断した応募者です。ゆえに求職者は、その可能性をいかにリアリティをもたせてアピールできるか。つまり成果の再現性を具体的に伝えることが重要です」

◆9割が年収よりも長く働ける職を求める

 しかし、すべての人が越境転職を実現できるとは限らないという。

「産業の中心は、自動車や銀行などの重厚長大産業のオールドエコノミーから、GAFAに代表されるIT系のニューエコノミーに移り変わりつつありますが、近年はそれが加速しています。今まで長くオールドエコノミーにいた人が、ニューエコノミーで働ける場所があるかどうか」(黒田氏)

 オールドエコノミーに残るか、ニューエコノミー側に越境するか。前者は残った椅子はどんどん少なくなるので熾烈な競争を覚悟しなければならない。一方、後者は数多くの若者が参戦するので、彼らもライバルになりうる。

 ただ、年収にこだわらず自分に合った働き方を追求すればハードルは低くなるかもしれない。実際に中高年の転職で年収がアップする例は少なく、9割が年収よりも長く働ける職を求めるという。

 エン・ジャパンが約3000人に対し行った調査でも、中高年の転職で最も多い動機は「仕事の幅を広げたい」というものだ。

「それに次いで、『会社の将来に不安を感じる』『自分の能力を生かせていないから』が多い。特にコロナ禍においては、持続可能な企業とそうでない企業の差を目の当たりにしたことなどから、多くが転職希望を強めています」(天野氏)

40代からの越境転職とは

中高年ならではの業界知識、人脈、マネジメント経験などをポータブルスキルとともに多重活用する転職。結果、未経験の業界や職種で転職が実現する例もある。どの能力が生かせるかは、どれだけ自身の実績や能力の抽象度を高められるかにかかってくる。

【天野博文氏】

エン・ジャパンが運営するミドル世代のための転職サイト「ミドルの転職」、若手ハイキャリアのための転職サイト「AMBI」を統括。

【藤井薫氏】

’88年リクルート入社。リクルートキャリアHR統括編集長。デジタルハリウッド大学などで非常勤講師も務める。著書に『働く喜び未来のかたち』(言視舎)。

【黒田真行氏】

キャリアアドバイザー。’06〜’13年、「リクナビNEXT」編集長。中高年のためのキャリア相談サービス「CanWill」を運営。著書に『35歳からの後悔しない転職ノート』(大和書房)。

<取材・文/週刊SPA!編集部>

関連記事(外部サイト)