リニア実験車両火災事故は、「火花」では済まされない! 5000℃以上の超高温電流が従業員を焼いていた

リニア実験車両火災事故は、「火花」では済まされない! 5000℃以上の超高温電流が従業員を焼いていた

リニア実験線を走行中のリニア車両(山梨県笛吹市)

◆リニア実験車両で火災、作業服が燃えて2人が重傷、1人が軽傷

 JR東海は2027年開通を目標に、東京(品川駅)と名古屋駅とをわずか40分でむすぶリニア中央新幹線(以下、リニア)の工事を行っている。その走行実験を行っているのが、山梨県にあるリニア実験線(全長約43Km)だ。

 2019年10月7日16時7分。その車両基地(都留市)でリニア実験車両が火災を起こした。車両基地から数十mの距離に住んでいる筆者の知人は、「火災直後には都留市消防署の消防車が何台もやってきて、消火作業に当たった」と連絡してくれた。消火には1時間以上がかかったようだ。

 この火災は地元でも大きく報道され、その出火原因は複数の新聞で以下のように報道された。

「断路器(修理や点検時に特定の機器を電気回路から切り離すためのスイッチ✴?10/7、9:43修正)のスイッチを切り、車両データの抜き取り作業の後、再びスイッチを入れたところで『火花が出て作業服に燃え移った』」

 その結果、2人の男性従業員(29歳と31歳)が重傷、1人の男性従業員(41歳)が軽傷を負い、都留市立病院に搬送された。

◆「火花」で作業服が燃えるものなのか? 事故検証結果を情報公開請求 

 これらの報道に、筆者は素朴な疑問を覚えた。「果たして火花で作業服が燃えるものなのか?」ということだ。

 激しく火花が出る溶接作業を行う筆者の知人は「軍手が燃えたことはあったが、作業服が燃えたという話は聞いたことがない」と言う。知人は「燃えるとすれば、ナイアガラ花火のような火花しか考えられない」と語ったが、以後、それ以上の報道は出てこなかった。また、筆者もこの件をすぐに忘れていた。

 ところが今年7月に入ってから、3人の従業員のうち1人の重症者が4月の時点でも入院中との情報が入った。作業の最前線にいた従業員で、事故からもう半年経っても入院しているとは。この情報に驚き、再び「そんな重症の火傷になるほどの火花があるはずがない」との疑問を覚え、筆者はすぐに都留市消防署に連絡を入れた。

「本当に火花で作業服が燃えるのでしょうか? 消火作業後に現場検証をしたのであれば、検証結果を教えてもらえませんか?」

 この要請に対し、消防署職員は「検証はJR東海と一緒にやりました。検証結果はなるべく早く伝えるようにします」と伝えてくれた。

 だが、7月10日、消防署から届いたFAXは筆者の疑問を解消するものではなかった。そこには、「大きなエネルギーの『火花』が発生し、作業服に燃え移った」としか書かれていなかったのだ。

 そこで、消防署が「ここだったらより詳しく知っているかもしれない」と教えてくれた都留市役所の法制広報担当に情報公開請求をかけてみた。

 これは時間がかかった。メールで用件を伝え、その後、FAXで必要事項を伝え、市役所が送ってきた文書に必要事項を書き入れて返送する。その結果、9月4日に回答が来た。

◆「アーク放電現象」が発生したと都留市役所は回答

 回答文書にはこう書かれていた(概要)。

「火災の原因は、ガスタービン発電機の作業中、作業用断路器投入後、加圧された正負極ナイフスイッチにディスコン棒先端部分が接触し短絡したことにより、アーク放電現象が発生し、出火したものと判定する」

 専門用語ばかりで判読不能だ。そこで、読者のためにもまず、単語の解説をしてみたい。

★断路器

 電流が流れていない電路を開閉するための装置。修理や点検時に特定の機器を電気回路から切り離すためのスイッチでいわゆるブレーカー(遮断機)とは異なる。ディスコンとも呼ばれる。

★正負極ナイフスイッチ

 断路器に電流が流れないように、レバーで上下させて電気のオン・オフを切り替えるスイッチ。

★ディスコン棒

 断路器の操作をする棒。絶縁性能の高い塩化ビニルやFRPで作られている。先端の「金属製」フックを断路器レバーに引っ掛けて、スイッチのオン・オフを行う。

★短絡

 いわゆる電気の「ショート」。ショートすると、過電流が流れて火花が飛び、それが継続状態になると発火する。

 

★アーク放電

 狭い通路に電流が集中し、電子と中性粒子、イオンとの衝突、中性粒子間の頻繁な衝突によって、電気エネルギーが熱エネルギー・光エネルギーに変化。弧状に発生する電流の温度は5000°C以上の高温になる。簡単に言えば、電線ではなく、空気中を走る高電流のことだ。

◆太陽の表面温度のような超高温の電流が従業員たちを焼いた!?

 都留市の開示文書は判りにくいが、以下のように解釈できる。

 たとえば、車のバッテリーにはプラス極とマイナス極がある。マイナス極から出た電子は、車の中さまざまな回路を巡って、最終的にはバッテリーのプラス極に戻ってくる。これが「電流」と呼ばれる。

 もしこのとき、金属製のスパナなどの工具をたまたま直接プラス極とマイナス極とに同時に接触させてしまうと、電子は車の中を通らずに、マイナス極から突然プラス極に移動する。これを「ショート=短絡」という。このときに火花が出る。

 今回の事故は、従業員が断路器をディスコン棒でオンにした。おそらくその後、ディスコン棒の先端が通電しているナイフスイッチに触れてしまい、アーク放電してしまったと推測される。

 もちろん、火災発生時の映像があるわけではない。そもそもアーク放電とはどういう現象なのかを確認するためにインターネットで検索をかけてみると、複数の動画を閲覧できた。

 その現象の激しさに筆者はうなった。アーク放電の温度は太陽の表面温度(約6000℃)とほぼ同じか、それ以上にもなる。そんな超高温の電流が従業員たちを焼いたのだ。

◆JR東海からは事故についての説明なし

 この件で今年4月13日、もとむら伸子衆議院議員(共産党)が国会の決算行政監視委員会で質問に立ち、事故の詳細を尋ねた。これに対して、国土交通省の水嶋智鉄道局長はこう回答した。

「実作業を行っていた1名は現在も入院加療中のため、事故発生当時の状況の詳細な確認がまだ十分に行えておらず、当該作業員の回復を待って今後更に究明をする予定ということでございます」

 では、この従業員はまだ入院しているのか? 筆者は9月17日、国土交通省鉄道局に電話を入れた。

 そこで得た情報は、従業員は全身に火傷を負って入院していたが、コロナ感染を避けるため、数か月前(時期は不明)から自宅療養をしている。今秋のどこかで、治療のために再入院する……ということだった。

 加えてJR東海は「本人からまだ詳細を聞けていない」というので、なぜアーク放電が起こったかは明らかにされていない。

 筆者が確認したいのは、これが単なる作業ミスか、それともリニア新幹線のシステムに起因するのかどちらなのかということだ。

 火災を起こした車両には電源としてガスタービンを搭載していたが、今年デビューした新型車両にはガスタービンがないので、ガスタービンが原因ならば同じ事故は起こらないといえる。何が推測できるかは、今後、科学的な知見を有する識者たちから情報を集めたいと思う。

 だがそういった情報収集は本来、JR東海が行うべきだ。しかし、同社からの事故についての説明はない。ちなみに、鉄道局も筆者同様に火災の原因がアーク放電であることはつかんでいた。だがその情報すらJR東海からは公表されないのだ。

 ともあれ、まずは火災にあった従業員の方の回復を祈るばかりだ。

※記事内、断路器の説明で「ブレーカーのようなもの」「いわゆるブレーカー」とありましたが、ブレーカーは遮断器であり、断路器とは異なるため訂正致しました。10/7、9:43

<文・写真/樫田秀樹>

【樫田秀樹】

かしだひでき●Twitter ID:@kashidahideki。フリージャーナリスト。社会問題や環境問題、リニア中央新幹線などを精力的に取材している。『悪夢の超特急 リニア中央新幹線』(旬報社)で2015年度JCJ(日本ジャーナリスト会議)賞を受賞。

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