百貨店の「共同仕入れ機構」が解散!――「独り立ち」迫られる地方百貨店

百貨店の「共同仕入れ機構」が解散!――「独り立ち」迫られる地方百貨店

「全日本デパートメントストアーズ開発機構」の幹事企業の1つである伊勢丹。 A・D・Oは実質「伊勢丹系列」として多くの地方百貨店が加盟していた。

新型コロナウイルスの感染拡大により多くの百貨店が営業時間の短縮や免税売場の閉鎖を強いられるなど苦境に陥るなか、この春には百貨店業界に大きな動きがあった。

 三越伊勢丹が主体となって運営されている日本最大の百貨店共同仕入れ機構「全日本デパートメントストアーズ開発機構」(A・D・O)が2020年3月31日付で解散したのだ。

 半世紀以上に亘って続いた共同仕入れの終焉は、地方百貨店にとって大きな「転機」となるかも知れない。

◆大手店と地方店「win-winの関係」だったデパートの共同仕入れ機構

 全日本デパートメントストアーズ開発機構(以下、A・D・O)は1973年3月に「伊勢丹」が主導する仕入れ機構「十一店会」(1961年発足)と、「松屋」が主導する仕入れ機構「エコー」(1963年発足)が統合して誕生。発足時の加盟企業数は41社、加盟店舗数は60店舗であった。

 当時はこのほかにも1963年に西武百貨店が主導する「日本百貨店経営協議会・JMA日本百貨店共同仕入機構」と三越が主導する「JBジョイントバイイング」が、1971年には高島屋が主導する「ハイランドグループ」と大丸・松坂屋を中心とした「大丸・松坂屋CBS(Central Buying System)グループ」が相次いで発足。これらの共同仕入れ機構に加盟する店舗は、共同での商品調達のほかにも、贈答品カタログ(お中元・お歳暮など)の共通化、相互利用可能な「共通商品券」の発行などをおこなったほか、急成長を遂げていたスーパーマーケットとの差別化を進めるために大手百貨店の専売外資系ブランド(当時は三越が「TIFFANY」「COACH」、西武百貨店が「RALPH LAUREN」、高島屋が「FAUCHON」などと日本国内専売契約を結んでいた)を地方百貨店でも販売できる権利や、大手百貨店と類似した包装紙を使う権利を与えることで加盟店舗を増やし、大手百貨店による地方百貨店の「系列化」が進むこととなった。

 1974年には中小小売店の保護を名目とする「大規模小売店法」が施行されて大型店に対する規制が強化されたこともあり、大手百貨店は新規出店が難しいものとなっていたため、こうした共同仕入れ機構による「系列化」は、大手百貨店にとっては「新規出店を伴わない経営規模拡大」が実現でき、また地方百貨店にとっては「大手の系列」という店舗の信頼性・ブランド力の向上や、販売商品の充実に大きな役割を果たすものであった。

 つまり、共同仕入れ機構の存在は「大手百貨店」「地方百貨店」の双方にとって「win-win」のもとで成り立っていたといえる。

◆役割を終えつつあった共同仕入れ機構

 地方百貨店の系列化を進めることになった大手百貨店主導の共同仕入れ機構であったが、バブル崩壊後は大手百貨店各社も多角化戦略からの転換を迫られることとなり、さらに大手百貨店が国内専売していた外資系ブランドについても、多くがブランド自身の出資による日本法人の設立や契約形態の変更により系列外の百貨店や都市型ショッピングセンターなどに開放されることとなった。

 そうしたなか、さらに大きな転機となったのが1995年の「百貨店共通商品券」発行開始だ。百貨店共通商品券は国内百貨店の殆どが加盟する「日本百貨店協会」が発行するもので、この発行開始によりこれまで日本百貨店協会に加盟していなかった旧・そごうグループの一部地方店舗や地方百貨店の加盟も相次ぎ、2000年には国内ほぼ全ての百貨店で百貨店共通商品券が使用できるようになった。さらに日本百貨店協会は2000年代に入って以降、共同仕入れ機構が担っていた贈答品やハンガーなど「店内備品の共同調達」、さらには「共同販促キャンペーン」や「従業員教育」といった領域にも事業を拡大。役割が縮小した共同仕入れ機構も解散が相次ぐこととなり、近年は三越伊勢丹の「A・D・O」と、高島屋の「ハイランドグループ」の2グループにほぼ集約されていた。

現在ハイランドグループに所属する地方百貨店は少ないため、今回のA・D・Oの解散により、多くの地方百貨店は大手の系列から離れて「独り立ち」することとなる。

◆「独り立ちする地方百貨店」

 共同仕入れ機構の解散によって最も大きな影響を受けるのが地方百貨店だ。

 役割が縮小していた共同仕入れ機構「A・D・O」ではあったが、当初の大きな目的であった「共同仕入れ」は現在まで続いており、その大きなメリットを受けていたのは売上規模が小さな地方百貨店であることは言うまでもない。

 A・D・Oの幹事企業を務める三越伊勢丹は全国各地に多くの店舗を展開しており、単体でも大きな売上がある。それに対し、単体での売上規模が小さな地方百貨店は小ロットでの注文しかできないばかりか、とくにアパレルではトレンド商品が売り上げ規模の大きな大手百貨店のみに優先して入荷されることもあるため、地方百貨店は品揃え自体が見劣りするものとなってしまう。

 A・D・Oに加盟する地方百貨店は業界のなかでも比較的好調な「地域一番店」が多く、百貨店業界が苦境に陥るなかでも21世紀に入って経営破綻を起こした加盟店はなかった。しかし、2020年1月には山形県で唯一の日本百貨店協会加盟店であった「大沼」(1700年創業)が自己破産(閉店セールとして営業再開したのち9月に閉店)。そして、4月から5月にかけては新型コロナウイルス流行の影響により多くの加盟百貨店が営業をおこなうことさえできなくなってしまった。こうしたなかでの共同仕入れ機構の解散は、地方百貨店の経営に大きな影響を及ぼすことは確実だ。

◆転機を「チャンス」に変えられるか?

 その一方で、共同機構の解散は地方百貨店が「独り立ち」する大きな「転機」であるともいえる。

 A・D・Oが解散したことで、地方百貨店は今まで以上に自社単独での経営判断を迫られることとなる。これまでの地方百貨店は、伊勢丹など共同仕入れ機構の幹事となる大手百貨店が提案(仕入れ調達)したブランドや販促キャンペーンを自社なりに解釈し、そしてそれを移植することで多くの売場を組み立ててきた。共同仕入れ機構の存在が地方百貨店の売場や商品を大手に近い水準にまで押し上げるはたらきを持ったことは先述したとおりである。

 一方で、全ての地方百貨店が首都圏の「伊勢丹並み」「三越並み」の売場を維持することは非常に困難なことであり、また一部企業では「大手の系列」という「店格」を維持しなければならないという義務感が、地方の消費者による「ファストファッション」「大手雑貨店」などの導入を求める声への対応を難しくしていたともいえる。

 今回の共同仕入れ機構の解散によって、地方百貨店に対する大手百貨店の影響力が薄まることで、全国各地の地方百貨店たちはより一層「地域の買物客が本当に必要としている品揃え」へと進化を遂げていく可能性もある。

 コロナ禍により苦境を極めるなか、共同仕入れ機構の解散によって「独り立ち」を迫られることになった地方百貨店。

果たして地方百貨店はこの「転機」を「チャンス」へと変えていくことができるであろうか。ポストコロナ時代を生きる地方百貨店の「新たな姿」に期待したい。

<取材・文・撮影/淡川雄太 若杉優貴(都市商業研究所)>

参考文献:

伊勢丹広報担当社史編纂事務局編纂(1990):「伊勢丹百年史 : 三代小菅丹治の足跡をたどって」

多田應幹(2012):「百貨店のマーチャンダイジングの変遷」桜美林論考ビジネスマネジメントレビュー(3)

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【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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