「人類共通の表情はたった7つ」微表情研究の世界的権威が語ったこと

「人類共通の表情はたった7つ」微表情研究の世界的権威が語ったこと

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 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。

 この度、表情分析の大家であるディビッド・マツモト(David Matsumoto)博士に表情をはじめとするボディーランゲージについて特別にインタビューする機会に恵まれました。

 本インタビューは、2020年9月26日(土)に株式会社空気を読むを科学する研究所主催で開催された「Matsumoto博士の微表情分析イントロダクションオンラインセミナー」内にて行われたインタビュー及び質疑応答部分を抜粋し、編集し、記事化したものとなります。

 インタビューの内容を2回に分けてお送りしたいと思います。今回は、表情全般について、そして次回は、微表情・微細表情について伺ったことを紹介します。

 最初に、ディビッド・マツモト博士についての紹介を致します。

 ディビッド・マツモト博士は、表情分析、ボディーランゲージ、異文化コミュニケーション、ウソ検知の分野で世界的に著名であり、多産な研究者です。長年、ポール・エクマン博士と共に研究され、現在、サンフランシスコ州立大学の心理学教授として研究されています。

 また、研究者の側面だけでなく、ご自身の会社、Humintellの代表取締役を務め、研究から得られた科学知見を実世界に応用し、法の執行官、ビジネスマン、マーケター、マネージャー含め、あらゆる層の方々に使える科学を教授されています。

 本インタビューでは、表情分析、微表情、表情観察の日常・ビジネス活用法について、初心者から専門家まで幅広く関心を持てる話題についてお話を伺いました。

◆万国共通の表情は7つある

Q.表情を観察することは、声や身体など他のボディーランゲージに比べ、どんな点で優れていますか?

 コミュニケーションは、もちろん、言葉があり、表情があり、姿勢があり、ジェスチャーなど様々な身体動作があり、こうした全てのチャンネルによるシグナルとメッセージを「トータル・コミュニケーション・パッケージ」、TCPと私は呼んでいます。

 TCPに対する貢献度を研究すると、非言語行動の中では表情に情報が最も多く含まれており、次いで、声とジェスチャーが引き分け、同じ情報量だということがわかっています。

 例えば、ウソや感情を推測するとき、表情は約70%、声とジェスチャーは各々約10%、その他は約10%のパーセンテージで貢献してくれます。したがって、表情に注目することが重要なのです。

 しかし、表情が全てというわけではありませんので、コミュニケーションを総体的にとらえることが大切です。

Q.万国共通の表情にはどんな種類がありますか?

 表情だけですと、怒り、軽蔑、嫌悪、恐れ、喜び、悲しみ、驚きの7つです。

 しかし、表情とジェスチャー、表情と身体動作、表情と姿勢とを組み合わせると、万国共通の感情は、恥、羞恥、誇り、歓喜など他にもいくつかあります。

 進化の点から考えると、生存するために、対人距離が近くないと伝わらない感情もあれば、遠くからでも伝わる感情があります。前者が主に表情で、後者が表情+その他になります。

 一方、怒り一つとっても、怒り表情を構成する顔面筋のコンビネーションには、顔全体に表れるものもあれば、顔の上下どちらかに部分的に表れるものもあり、いくらかのバリエーションがあります。

 また、その顔面筋の強度も様々です。そのバリエーションが、怒り、激怒、イライラ、憤りなどに対応するでしょう。

 したがって、万国共通の7表情と言っても、7つの感情しかないわけではなく、代表的な感情のカテゴリーが7つあり、その中に様々な分岐があるのです。

◆表情の万国共通性はないとする研究もあるが……

(筆者)「対人距離が近くないと伝わらない感情」として、例えば、嫌悪などは、何か腐ったモノを食べてしまったとき目の前にいる周辺の人々に瞬時に伝わればよい種類の感情だと理解できます。

 

 「遠くからでも伝わる感情」としては、遠くにいる人々にも伝えたい感情とも読めます。例えば、恥や羞恥は社会的ルールを逸脱した時に感じられる感情ですが、それを表情だけで瞬間的に表すより、身体全体で表した方が、近くだけでなく遠くの人々に一度に伝えることが出来、多くの人々に感情を効率的に伝えることが出来るでしょう。

Q.万国共通の表情を支持する研究と支持しない研究がありますが、こうした研究結果の違いはなぜ生じるのでしょうか?

 非常に複雑ですので簡単には答えられないのですが、私は、表情の万国共通性を支持しない研究のほとんどに目を通しています。それらを理解するには、研究の方法を細かく検討しないといけません。

 研究のタイトルや研究者の主張だけを見ても、信用できません。それがどんな方法で生み出され、どんな結果になり、どんな考察・解釈がなされているか、よく検討する必要があると思います。

 表情の万国共通性を支持しない研究の方法論を観ると、そのほとんどが表情を見てその表情をどう判断するかという判定研究(Judgement Study)であり、表情がどう生じるかということについては何も言えないのです。

 ゆえに「万国共通の表情は生じない」という主張は出来ません。

 私の研究では、@自然な表情が生じる状況で実験・観察されており(Production Study)、A適切にその表情が計測されているか、という条件を満たすことを重視し、研究しています。

 例えば、2004年のアテネオリンピック・パラリンピックでの柔道の試合において、メダル獲得の有無がわかった瞬間の表情を研究したところ、文化差がないことがわかりました。

 そして、もう一つ。

 アカデミックの世界で成功するには、地道に努力する真っ当な方法と、アカデミック界の良くない部分なのですが、有名な学者や有名な説を攻撃する方法があります。

 万国共通性のような有名な説を攻撃することは、研究者として注目を集められるため、そうした研究にドラマチックなタイトルなどが付けられ、流布されているのもあります。

 しかし、研究内容を詳しく観ると、表情の万国共通性を正しく反駁できている研究はないと、私は思います。

◆お酒を飲むと表情はみな同じ?

Q.アメリカの心理学者の中において、基本情動理論(万国共通の感情が存在するという考え)はどのくらい支持を集めていますか?

 数年前に、アメリカだけでなく、世界の情動研究者を対象に、基本情動の有無や表情の万国共通性を信じるかどうかの調査(*)がありました。70%くらいの情動研究者が基本情動や表情の万国共通性を信じると回答しています。

Q.日本人の表情について、アメリカ人と比べて、特徴的な点はありますか?

 色々な場面で日本人の皆さんと交流させて頂き、また45〜55ヶ国の国々の方々とも交流させて頂いた経験から言いますと、だいたい人間は同じところと違うところがあると思います。

 同じになるか同じにならないか状況によります。例えば、6時になり、仕事が終わって飲みに行けば、みんな同じです。アメリカ人も日本人もみんな同じです。日本人は顔には出さないと言われていますが、お酒を一杯飲めば、みんなゲラゲラ笑っています。

 頭の中に、感情をつかさどる同じシステムをみなが等しく持っています。エンジンは同じ。ただそのシステムをどう使うかは、文化差ですね。

◆日本人は実はジェスチャーが多い!?

(筆者)本質問でマツモト博士は日本人のジェスチャーについても言及されていました。どの国にも「我々はこうである」というステレオタイプがあり、それはイデオロギーのようなものだとおっしゃっていました。

 例えば、マツモト博士はある企業の研修で「日本人はジェスチャーをしない」と言われ、「では、実際に計測してみましょう」ということで日本人を対象に3分間のプレゼンテーション中のジェスチャーを計測したところ、ジェスチャーの表現の仕方に大小はあったものの、200回ものジェスチャーを行っていたことがわかったそうです。

 リアリティとイデオロギーを混同しないことが重要だとのことです。

 次回は、微表情・微細表情について伺ったことをレポートします。

※本記事中の画像の権利は、株式会社空気を読むを科学する研究所に帰属します。無断転載を禁じます。

(*)Ekman, P. (2016). What Scientists Who Study Emotion Agree About. Perspectives on Psychological Science, 11(1), 31-34.

<取材・文/清水建二>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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