生活保護費で少女50人を買春した男に下された判決<裁判傍聴記・第5回>

生活保護費で少女50人を買春した男に下された判決<裁判傍聴記・第5回>

写真はイメージ(adobe stock)

◆いかにも不健康そうな男

 ダボダボのスラックスにヨレヨレのワイシャツ。顔色は真っ青で目は半開き。腰を折り曲げながら被告人の男はうなだれていた。ときおり、深いため息をついては大きく肩を落とす。この男、いくらなんでも顔色が悪すぎである。断食に断食を重ね、酒だけを飲み続けたような顔色。体も痩せ細っており、絵に描いたような不健康さだ。

「名前はぁ……〇〇。昭和60年〇月〇日生まれぇ……。北新宿〇丁目ぇ……」

 男は大学を卒業後、アルバイトなど職を転々とし、現在は北新宿のアパートで生活保護を受けながら暮らしている。申し訳ないがその話し方からしても、まともに働くことは無理そうである。

 問われた罪は「東京都青少年の健全な育成に関する条例違反」「公務執行妨害」「傷害」のトリプルパンチ。裁判傍聴が日課とはいえ、私は法律に関してまだ無知だ。字面的に性犯罪だとはわかるが青少年とある。幼い男の子に手を出してしまったのだろうか。いや、たしか青少年といっても男の子に限った話ではなかったかも。

 しかし、性犯罪の裁判というのはいつ見ても人気である。以前、「JR新宿駅構内で後ろから女性に抱きつき『飲みに行こうよ』などと言いながらディープキスをしようとしたものの女性が拒否したために結果的に被害者の唇を舐め回すかたちになった男」の裁判を傍聴したが、その日も傍聴席は満員御礼だった。

 今日もほぼ満員。そして性犯罪の傍聴の特徴のひとつは女性の傍聴人が多いことだ。女性のほうが性犯罪の被害に遭う可能性が高いのは自明であるし、やはり気になるところなのだろう。単純に「許せない」という気持ちで傍聴をしているのかもしれない。男性の傍聴人はどこか好奇心が薄く見える顔をしているが、女性の傍聴人はこの不健康男のことを厳しい目で見下している。

◆刑務所で肩身が狭い性犯罪者

 以前、大阪市西成区あいりん地区で知り合った前科9犯(覚せい剤7回、傷害2回だった、たしか)のおじさんは刑務所のなかにはヒエラルキーというものがあると私に教えてくれた。そのおじさんによれば、「刑務所のなかでもっともヒエラルキーが低いのは性犯罪者」。殺人犯は英雄というわけではないが、勇気がなくちゃできない犯罪、そんな考え方らしい。

 刑務所内で囚人たちがもっとも熱中する遊び、それは「いじめ」だという。なかでも下着泥棒なんかで捕まった日には格好の餌食となる。刑務所内でのあだ名は「おパンツ泥棒」。「やあ、おパンツ泥棒さん」と話しかけられ、遠くからは「おい、おパンツ!」と揶揄される。ロリコン系の性犯罪に関しては刑務所のなかでも人間失格レベルらしい。おパンツいじりなどまだまだ優しいほうで、ロリコンなど誰も相手にしない、存在自体を否定する、そんな待遇が待っているという。

 そしてこの不健康男がなにを隠そうロリコンであった。男は相手が18才以下と知りながら、15才の少女と性行為に及んだ。こんな男が一体どこで少女と知り合うのか。それはTwitterだ。Twitterで援助交際を持ちかけ、カカオトークへと移行し、後に二人きりで会うのだという。自由恋愛などではなくもちろん援助交際である。つまりは、少なからず生活保護費の一部が援助交際代に消えていたということだ。もう最悪である。

◆100人のうち50人が未成年だった

 今回性犯罪で男が起訴されたのは1件のみ。しかし検察の話では、「ネットで10代20代とセックスを繰り返し常習性がある」とのことだ。その数は耳を疑うものだった。なんと、10年間で約100人、そのうち半分は未成年との性行為であったという。

「今回逮捕され、後でゆっくり考えると間違った判断だと思いました。両親にも、もう迷惑をかけないよう暮らしていきます」

 なんだ「ゆっくり考えると」って。ゆっくりゆっくりTwitterを巡回しながら日々金で餌食になりそうな少女を探していたんじゃないのか。援助交際している少女もどうかと思うが、この男は50人の少女の体を貪った。そんな息子を父のあなたはどう思うんだろうか。

「息子が東京に出てからは週に1回は電話しておりました。年に4〜5回は帰省もしていました。今回の件はとても残念に思います。二度とこのようなことをさせないよう、息子を四国の実家に戻し監督します。いまは無職なので四国でやり直そう、本人も同意しています」

 しっかりと監督するので執行猶予にしてください、というのは証人に立った者が口を揃えて言う定石のようなもの。しかし、息子が50人の少女の体を金で買ったのである。もう少し感情的な言葉も欲しいところだ。「長いので手短に」と裁判官が合いの手を入れるくらいには。

◆新宿区役所で大暴れ

 男はさらに「公務執行妨害」「傷害」でも起訴されているが、こちらに少女は関係なし。新宿区役所を訪れた際、生活保護の担当者に、「いま住んでいる物件は家賃が高額なので引っ越したらどうか」と注意を受け逆上。男は「そんな高圧的な言い方しないでくださいよ」とキレ、担当者を素手で殴った。

「注意の仕方が嫌で、心にグサッときました。腹が立って殴ったのだと思いますが、そのときの状況を覚えていません。カッとして人を殴るなんてことは今までありませんでしたが、生まれてはじめてくらいに興奮しておりました」

 現場には力の弱い女性職員もいたことだろう。高齢者の利用者もいたかもしれない。区役所にある武器といえばボールペンぐらいかもしれないが、ペンでも思い切り刺されたら死んでしまいそうである。そして何より、この青白い男が我を失うくらいにキレるっていうのが怖い。キレたヤクザや半グレのほうが何百倍もまだ話がわかりそうである。すぐに周りの職員が駆け付け、後ろ向きに倒され、大勢に机ごと押さえつけられた。5分後に警察が到着し逮捕。男は左足と左手の小指を骨折した。

「とても痛く無抵抗だったのに、『絶対にゆるめるなよ!』と押さえ続けられました」

 男は不服そうに過剰防衛を訴えた。

◆ネットじゃなくても俺は女を抱ける

 ここまでくると、傍聴席にいる女性陣たちの眼差しはかなり鋭いものになってくる。ゴキブリを通り越して生ゴミを見ているような感じ。生き物として認めていないのかもしれない。自分がもしも性犯罪に問われ、法廷に立つとなったらどう思うだろうか。やはり傍聴席に女性はいてほしくないだろう。これほど重い犯罪であればもはや女性も男性も関係ないだろうが、仮に「おパンツ泥棒」だとしたら。なんでおパンツを盗んだんですかって。そよ風に乗っていい匂いがしたのでつい……とかだろうか。

 もし自分が「おパンツ泥棒」で逮捕されたとしても、そこらへんにいるオヤジに知られるくらいならまだ平気だ。しかし、女性に見られるのはツラい。そして、今後同じ犯罪をしないようにどうするかと聞かれるのだ。「今後はもうおパンツのことは考えないように努力します」。それくらいしか思いつかない。では、被告人は少女に欲情しないためにどうするっていうんだろう?

「18才未満の女性とは関わり自体を持たないようにします。今後は実家に戻りイチからやり直したいと思う。18才未満も以上も、ネットではこれ以降、体の関係は持ちません。ネットで会おうとしなくてもできると思っています」

 なんと男は、ネットを使わなくても女性と関係を持つことはできると思っていると強気の発言。はたしてこの不健康男は四国で真実の愛を見つけることはできるのだろうか。前科者でも恋愛するのは自由だが、まずは四国八十八ヶ所でも巡って煩悩を消し去ってからだと思う。もちろん徒歩だ。

 1週間後、判決を聞きに同じ法廷を訪れると、ダボダボのスラックスにヨレヨレのワイシャツ。顔色は真っ青で目は半開き、腰を折り曲げながら座る男の姿があった。前回とまったくもって同じである。判決は安定の、懲役1年6カ月、執行猶予3年だった。立件は1件とはいえ、約50人の未成年を買春しているのである。ノコノコと四国になんか帰らせていいのだろうか。甚だ疑問である。

<取材・文/國友公司>

【國友公司】

くにともこうじ●1992年生まれ。筑波大学芸術専門学群在学中よりライター活動を始める。著書に『ルポ西成 七十八日間ドヤ街生活』(彩図社)。Twitter:@onkunion

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