アポ電強盗、売春強要、名義貸しetc... SNSで拡散する闇バイトの落とし穴

アポ電強盗、売春強要、名義貸しetc... SNSで拡散する闇バイトの落とし穴

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「1週間で50万円確実に稼げる」「リスクもない」――SNS上で甘言を弄して募集し、強盗や管理売春などあらゆる犯罪の最前線に送り込む闇バイトは、社会的な脅威だ。人間心理につけ込む悪辣な手口を詳報する。

◆関わったら最後。蟻地獄のような闇バイトの勧誘とは?

 SNSの“負の側面”が社会を脅かしている。犯罪の実行犯をツイッターなどを介して募る闇バイトだ。

 9月10日、大阪府内の民家に防火設備の点検と称して押し入り、住人女性(80代)を緊縛。「殺すぞ」などと脅し、現金やキャッシュカードを取り上げ、数百万円を奪った疑いで男2人が逮捕された。この手口はアポ電強盗と呼ばれ、全国的に流行しているのだと全国紙社会部記者は語る。

「東京、神奈川、千葉でも同様の手口の被害事例が報告され、逮捕者が出ています。いずれもツイッターで実行役を募集し、応募者をテレグラムなど秘匿性の高い通信アプリへ誘導。身分証の写真を送らせるなどして裏切らないよう釘を刺したうえで犯罪現場の“ラストワンマイル”に送り込むのが特徴です。背後に控えているのは半グレグループが主。10〜20代の若年層が彼らに取り込まれ、逮捕リスクの高い犯罪に手を染めてしまっているのですが、いざ強盗が成功しても報酬を支払わないなど悪質極まりない。それでいて逮捕されれば相当の長期刑に服さなければならない。絶対に関わってはいけません」

【世間を騒がせた闇バイトの事件史】

▼闇サイト殺人事件(愛知・2007年8月)

闇サイト「闇の職業安定所」で集まった男3人組が共謀し、帰宅途中の会社員女性を拉致・殺害。死体を遺棄したという凄惨な事件。インターネットで犯罪の共謀者を募った先駆けだ。

▼静岡看護師遺棄事件(静岡・2018年5月)

「爆サイ」という当時日本で3番目に大きかった掲示板にて「サクッと稼ぎましょう」と仲間を募り、静岡県浜松市の看護師を殺害、遺棄した事件。主犯格は自殺し、真相は闇の中となっている。

▼ひととき融資事件(大阪・2019年11月)

ネット上で個人間融資を行う男が、法定金利を超える利息を受け取っていたほか、女性の応募者に対しては「ひととき」と称して性行為を条件に金銭を貸し出していた。

▼覚せい剤密輸事件(カンボジア・2019年12月)

住宅リフォーム業の男が、妻と2人の子どもがいながら借金苦で闇バイトから運び屋を引き受け、覚せい剤約3.3キロ(末端価格約2億円)をカンボジアから密輸しようとしたとして逮捕。

▼出し子女性使い捨て事件(宮城・2020年5月)

22歳の女性が闇バイトで出し子に応募。現行犯で逮捕された際、

イヤホンから「捕まるの早い」「もう使えねえ」などと言われ、「使い捨てだったと、後悔」と供述している。

▼藤井寺強盗事件(大阪・2020年9月)

大阪府藤井寺市の女性宅に上がり込み、女性を縛って現金や通帳を強奪。実行犯はツイッターで、強盗の隠語「叩き」を募る闇バイトに応募。「赤坂」と名乗る男から指示を受けたという。

▼ガス点検強盗事件(東京・2020年9月)

作業着姿でガスの点検員を装い、70代の男性宅を訪問。その後、男性の手足を縛り、口を粘着テープでふさいで布団に寝かせ、財布から現金31万円とキャッシュカードを強奪した事件。

◆個人間融資を入り口に身分証を送らせ、悪事に手を染めさせる

 ツイッターで「闇バイト」「裏バイト」といったワードで検索すると、勧誘を促す投稿をすぐに見つけることができる。最近では警察が対策に力を入れており、該当ツイートを見つけ次第、注意喚起を促すようにもなってきてはいる。

 ただし、闇バイトへの勧誘は直接的なものだけではない。地下経済に明るいZ李氏が実態を明かす。

「#闇バイトなんてハッシュタグで募集しているような連中はレベルが低い部類。それよりも、個人間融資を入り口に犯罪の実行役を募るリクルーターのほうが賢く、巧妙だと思う。目先の3万〜5万円にも困っている層に『ブラックでも融資するよ』なんて持ちかけて貸し付け、その際に身分証を動画セルフィーとともに送らせるんです。この『身分証を撮る』という常套の手口がすごく大きな意味を持っていて、言うことを聞かせやすくなるし、飛ばれる(カネを持ち逃げされる)リスクも格段に減りますから。こうした流れの中で闇バイトに勧誘するっていうのは、よく聞く話ですね」

 個人間融資の勧誘についても、ツイッターでそれと覚しき投稿をすぐに見つけることができた。藁にもすがる思いで借りたいと思う側は、まさかその先に悪事に手を染めさせられる未来が待っているとは予見できないはずだ。

「個人間融資を入り口に、10代の少女が気づけば援デリ組織で売春を強要されていた、というケースもあります。携帯電話の料金が払えない、ツイッターで貸してくれる人を見つけた……という流れでつい借りてしまったのでしょうが、たったそれだけのことから管理売春という落とし穴にはめ込まれてしまった」(前出の記者)

◆小さな犯罪に加担させて脅迫。奴隷に仕立て上げる

 一方、著書に『老人喰い』などがあるルポライターの鈴木大介氏も、闇バイトの勧誘手口の巧妙化を危惧する一人。昨今のトレンドについてこう語る。

「一度小さな犯罪と思しき行為に加担させられ、それをネタに脅迫されて裏稼業の手伝いをさせられるパターンが増えているように感じます。例えば、一番最初は『池袋駅で受け取ったカバンを新宿駅のロッカーに入れるだけのお仕事。報酬2万円』って話で、なんか怪しいなと思いつつもやってしまうとする。すると終わった後で『お前が運んだのは詐欺のカネだ』『俺らはバックがあるから捕まらない。でもお前は一発実刑だ』と脅しをかけ、『今後も手伝い、よろしく』と言いなりにならざるをえない関係を強要されるといった具合。その後、犯罪に使う銀行口座の名義人をはじめ、さまざまな下働きを強要されることが多い」

 変わった手口では、ツイッターでよく見かける現金プレゼントも闇バイトの入り口になっているというから恐ろしい。前出のZ李氏が明かす。

「RTしたら100万円、みたいな企画に応募してくる主婦なんかが標的にされてて、『当選させるから90%現金を戻してくれませんか? 10分で10万円になりますよ』なんてDMで持ちかけるんです。当然、身分証も撮って。それで聞いた口座をまんま振り込め詐欺に使うんです。これだと出し子もいらないし、主婦は旦那にバレるのが怖いから飛ばない。詐欺の省エネ化としては高得点ですが人間としては0点ですね」

 跋扈する闇バイトの勧誘手口は、蟻地獄のようだ。相手の手の内を知る以外、防衛策はない。

◆専門家が指摘する“不敗神話”の嘘。テレグラムで証拠隠滅は不可能

 テレグラムやシグナルといった通信アプリでやり取りを行えば、悪事が明るみに出ない――。そんな悪徒の“不敗神話”は、喧伝されているほど盤石ではないという。ネットワークセキュリティに詳しい神戸大学大学院の森井昌克教授に話を聞いた。

「テレグラムやシグナルは、エンドツーエンドのインスタントメッセージプログラムです。要するに、本部のサーバーを介さず、端末と端末の間のみで文字の暗号化が行われるということ。これは本部でも解読することができないため、極めて秘匿性が高く警察にもバレにくい。よって、犯罪者はこぞってテレグラムやシグナルを利用しています。しかしその実、端末の中にはやり取りの記録が残っている場合があるため、スマホを押収した捜査当局が履歴を復元できる可能性はゼロではありません」

 テレグラムならシークレットモードで、シグナルなら標準装備で使えるメッセージ記録消去機能。一見、アプリ上では証拠が隠滅できたように見えても、「暗号を解いた」という記録はハードディスク上にあり、インデックスに残っているという。

「ハードディスク上の記録を完全に消去するためには、履歴を上書きしきるしか術がありません。運よくそれができる場合もありますが、意図的に上書きを行うのは相当なITスキルが求められます」

 とはいえ、かろうじて端末にデータが残っていたとしても、その復元作業には膨大な時間と労力が必要なため、警察は情報収集に四苦八苦しているというのが現実だ。

「また、端末を物理で破壊してしまえば、データを掘り出す手立てがなくなってしまうため、証拠は完全になくなります」

 現状では法規制も難しく、端末ごとにしかデータが取れないことから、グループの一部を摘発しても蜘蛛の子のように散るすべての残党を捕らえるのは困難を極める。

 本来、テレグラムやシグナルはプライバシー保護の観点から民主主義の象徴だった。しかし、こうした通信アプリは今や犯罪者たちの温床となっている。この現状をいかにして打破していくのか。早急な対策が求められている。

【Z李氏】

地下経済やアングラ事情、ギャンブルに精通。「新宿租界」オーナー。座右の銘は「給我一個機会、譲我在再一次証明自己」

【鈴木大介氏】

犯罪や貧困をテーマに、取材を続けるルポライター。『老人喰い』『振り込め犯罪結社』等、著書多数。小説、漫画の原作も手がける。

【森井昌克氏】

大阪府出身。神戸大学大学院工学研究科教授。専攻は情報通信工学だが、近年はその利用に絡む社会問題等の研究も行っている。

<取材・文/櫻井一樹 片波 誠>

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