「微表情の観察は、洞察を得る窓口」表情研究の大家マツモト博士が語る、微表情分析の魅力と活用

「微表情の観察は、洞察を得る窓口」表情研究の大家マツモト博士が語る、微表情分析の魅力と活用

微表情は顔全体に0.5秒だけ生じ、普通の表情は顔全体に0.5~4、5秒生じる。 一方、微細表情は顔に部分的に弱い顔面筋の動きを伴い生じる。

 こんにちは。微表情研究家の清水建二です。今回は、前回に引き続き、表情分析の大家であるディビッド・マツモト(David Matsumoto)博士にインタビューさせて頂いた様子をレポートします。

 ディビッド・マツモト博士は、サンフランシスコ州立大学の心理学教授であり、Humintellの代表取締役でもあります。表情研究を始めとした非言語研究で世界的に最も有名で多産の研究者です。研究から得られた科学知見を実世界に応用し、法の執行官、ビジネスマン、マーケター、マネージャー含め、あらゆる層の方々に使える科学を教授されています。

◆「微表情」と「微細表情」。その違いとは?

 前回、表情を観察することの優位性、万国共通の表情、表情の万国共通説を支持しない研究の方法論上の問題、日本人の表情の特徴などについてお話を伺いました。今回は、微表情・微細表情について伺ったことを紹介します。

Q.微表情と微細表情について教えて下さい。

 研究するなら、微表情と微細表情の定義をつけなくてはいけません。普通の方々の中でも研究者の中でも両者が曖昧なことが多いと思います。私の定義としては、微表情とは0.5秒以下の表情のことです。微細表情とは、顔面筋の動きの強度が弱い、あるいは顔に部分的に表れる表情のことです。学習する順番としては、微表情から学ぶと微細表情が見えてくるので、この順がよいでしょう。なお、感情を抑制せず、普通に顔の生じる表情は、0.5秒から4、5秒くらい続きます。

◆微表情は、家庭生活、交渉・商談、取り調べなど相手をより深く理解したいときに役立つ

Q.微表情の観察はどんな場面で活かされていますか?

 人と話をする、あるいは人を観察して、その人をよりよく知りたい場面、その人が話している言葉以上にその人を理解したい場面において、微表情の観察は有効だと思います。それは家庭でも、誰と話していても、ビジネス交渉でも、政府に関係する仕事でも、上司・部下間でも、色々な場面で使えると思います。そして、微表情を観察し、それをとらえたうえで、どうするか。それは私たちの役割、警察なら警察の使い方、営業なら営業の使い方、交渉なら交渉での使い方と役割に応じて異なりますが、微表情を観察するスキルは同じです。私の会社Humintellでは、警察や政府関連のオファーが多いです。

〈※筆者注:なお、博士の会社では、政府の仕事を多くしている関係で、マッチングアプリ、刑事事件弁護士、ポーカー関連の依頼は受けないようにしていると仰っていました。他の会社が微表情を利用してこうした仕事をすることは自由だとも仰っていました。アメリカでは、相手の微表情やボディーランゲージを見抜き、ポーカーで勝つ戦略といったセミナーや書籍を多々目にします。私はギャンブルをやらないので詳しくありませんが、もの凄く大きなマーケットのようです〉

◆微表情からウソを推測するときに気をつけたいこと

Q.微表情からどのようにウソを推測するのでしょうか?

 抑えようとしている感情が突然現れる表情を微表情と言いますが、ほとんどの方にとって訓練なしでは検知することは出来ません。微表情をとらえることが出来てもそれが何なのか明確にわからないということもあります。ですので、まずは、微表情が検知できるように研修を受けることが必要です。微表情を見た後、どう解釈するかは別の問題です。微表情=ウソと考えるのはやめた方がよいでしょう。

 例えば、私は7年前から空港のセキュリティー職員向けに研修をしていますが、セキュリティーチェック中に恐怖の微表情を検知するとします。これを怪しいと思ってはいけません。恐れを生じさせた刺激が頭の中にあることは確かでしょう。しかし、それは何なのか。そこで、会話をしてその恐れの原因を探ります。実は、駐車場に置いてきた車のランプを消してきていなかったかも知れないという理由で恐怖を抱いていた、そんな事例がありました。むしろこういう事例の方が多いのです。ウソに伴い微表情は生じますが、微表情=ウソではないのです。真実の話をしている方の顔にも微表情が生じることはあります。ウソを推測するには、微表情の観察から始まりますが、解釈の仕方や会話の進め方は次の段階となります。微表情の観察は、洞察を得る窓口となります。

〈※筆者注:これに関連して、マツモト博士は、「人は関心を持ってくれる人に本音を吐露しやすいという性質がある」とも仰っておりました。マツモト博士の最近の研究を追いますと、犯罪取り調べ状況におけるラポール形成(信頼関係の形成)の有効性や微表情・ジェスチャーと質問法との相乗効果について研究されています(※1※2)。相手に関心を向けるからこそ、相手から信頼を得ることが出来、相手に適切な質問をするからこそ、真実が開示される可能性が高くなる、そんなふうに思いました〉

Q.微表情を意図的につくり、相手に与えたい印象を形成したり、相手に影響を与えることは出来ますか?

 微表情は意図的に作れないと思います。前々から研究したいのですが、まだ研究できていません。意図的に作ろうとすれば、人工的な表情になります。タイミングやスピードなどが自然な微表情とは全て異なります。

◆今まで閉じられていた世界が開かれる感覚を得ることが出来る微表情を読むという視点

Q.最後に表情に興味を抱く日本人へメッセージをお願いします。

 表情に興味を持って頂きありがとうございます。色々な観点から、勉強したり研究したりすると、何でもそうですが、勉強すればするほど奥は深い。こうした知識を掘り出すプロセスが好きな方にとっては、微表情や表情の勉強は向いていると思います。そして、くり返しになりますが、微表情を読みとるスキルは非常に役に立ちます。ただし、そのスキルをどう使うか、あるいは微表情を読みとった後にどう解釈するかは上手に考えなくてはなりません。そうしたことをクリア出来れば、今までクローズドだった世界が自分にはオープンになる。これは非常に素晴らしいことだと思います。どこの職場の方でも、何らかの専門家であっても、家族内であっても、非常に大事なことであると思いますので、みなさん、勉強、頑張って下さい。

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 微表情検知や表情分析に関心のある方は、マツモト博士が経営するHumintellのサイトを覗いてみることをオススメします。微表情や微細表情、そして危険表情(犯罪・暴力行為を意図している表情)を検知できるようにするためのトレーニングツールや異文化理解力を高めるウェビナー講義、ウソ検知力を高めるためのウェビナー講義など豊富なラインナップが揃っています。また、昨今の事情に鑑み、マスク下の表情を読みとるためのトレーニングツールなどもあります。今秋、新しい世界に飛び込んでみませんか?

●関連サイト

HumintellのHP

マツモト博士のHP

※1Matsumoto, D., & Hwang, H. C. (2018). Social influence in investigative interviews: The effects of reciprocity. Applied Cognitive Psychology, 32, 163-170. First published online 19 February 2018. DOI: 10.1002/acp.3390

※2 Matsumoto, D., Hwang, H.C. Clusters of Nonverbal Behaviors Differ According to Type of Question and Veracity in Investigative Interviews in a Mock Crime Context. J Police Crim Psych 33, 302?315 (2018). https://doi.org/10.1007/s11896-017-9250-0

<文/清水建二(しみずけんじ)>

【清水建二】

株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。

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