負担増は「仕方ない」、少子化対策は「お見合いパーティ」!? 炎上した厚労省年金マンガの呆れた内容

負担増は「仕方ない」、少子化対策は「お見合いパーティ」!? 炎上した厚労省年金マンガの呆れた内容

厚生労働省『マンガで読む 一緒に検証! 公的年金』より

 受給年齢引き上げ、17兆円超の運用赤字など、不穏なニュースばかりが目につく年金。そんな年金についてのマンガがSNS上で話題になったのをご存知だろうか。

◆意図は「説明」よりも「洗脳」?

 「酷すぎる」との声が噴出しているのは、厚生労働省が公開している『マンガで読む 一緒に検証! 公的年金』。複雑な公的年金の仕組みをマンガでわかりやすく説明するという作品だ。(参照:厚生労働省)

 まず、年金を納めている大の大人に、マンガで仕組みを説明する時点で小馬鹿にしている気もするのだが……。それはさておき、肝心の内容はマンガだからといって視覚的に複雑な年金の仕組みがわかりやすくなっているわけではない。ほとんどは台詞で説明されており、時折「コミカル」な場面が入ることで、雰囲気が「ゆるく」なっているだけである。どちらかというと、年金の素晴らしさを訴えるプロパガンダに近い内容だ。

 さて、冒頭から「年金子(としかねこ)」なる登場人物が「ねんきんこじゃないですよ!」と寒いギャグをかますこのマンガ。SNS上で特に注目されているのは、第11話「世代間格差の正体 〜若者って本当に損なの?」の一部だ。

◆精神論や建前に終始する内容

 詳しい内容は本編を読んでほしいのだが、以下に話題となっている台詞をいくつか抜粋したい(注:読みやすいよう句読点は編集部で追記)。

「今のお年寄りたちは教育や医療も十分でなかった時代に、自分たちの親を扶養しながらここまで日本を発展させてきました。そのおかげで今の若い世代が豊かに暮らしていることを考えると、若者が損とは言えないと思いませんか?」

 まず、気になるのは都合のいい箇所だけ、やけに精神論が目につくことだ。わかりやすく説明したい意図があるのはわかるが、具体的な数字がまるで登場しないのである。

 上記の箇所はその典型だ。以前の生活水準や収入に比べて、いま年金を納付・受給することのメリット・デメリットは説明されない。ただ、「昔も大変だった」という印象論のみが提示されている。

 こうした年金の是非をオブラートに包む「ふわふわした」描写だけでも考えものだが、さらには開き直りとしか取れないような内容が続く。

「昔は兄弟が多いことが当たり前でしたが、今は一人っ子の家庭もずいぶん多くなりましたよね。また、医療が発達し、お年寄りも長く元気に生きていけるようになりました。それもあり、お年寄りを支えるための個人の負担は昔より重くなっていますよね」

「結局、若い人は大変ってことか……」

「少子高齢化が続けば仕方のないことですけどね」

 そのほかのエピソードでは、経済状況や物価の変動に対応できるようになっていて将来も安心だと公的年金の素晴らしさを説いておきながら、「結局、若い人は大変」で済ませていることには驚くほかない。誰もが破綻しないかと不安に感じている年金制度への疑問を解消するどころか、これでは負担が増加している現役世代への死刑宣告である。

◆結論はまさかの「産めよ増やせよ」

 成長はおろか回復すら見込めない経済状況、少子高齢化という現実的な問題への対応策は示されず、「仕方のないこと」とまさかのまとめがされている第11話だが、オチはさらに強烈だ。

「そうだ。あんたが結婚してたくさん子どもを産めばいいのよ!」

「大丈夫。私ががんばって子育てしやすい街づくりしてあげるから」

「そうですね。日本経済の成長も大切ですし、これからの日本を支える若い人達が安心して子どもを産み育てられる社会にすることも必要ですね」

「そのためにも親の扶養や障害などの心配をせず、生涯にわたって給付が受けられる公的年金制度をこれからも維持していくことが重要なんですよ」

 経済成長は大切、そのとおりだ。子育てしやすい街づくり、そのとおりだ。そんな当たり前のことは誰もが知っているが、それを行うのはこのマンガを発表している国の仕事である。言われるまでもない、というか「お前が言うな」である。

 さらに、こうした問題の解決策が「結婚してたくさん子供を産めばいい」なのだから恐れ入る。「大切さを説いている暇があったら、実際に解決してくれ」と感じた筆者は心が狭いのかもしれない。

 しかし、このマンガを読んで「昔も大変だったから仕方がない。そうだ、子どもを産んで頑張ろう!」と読者が感じると思っているのだとしたら、舐めているとしか言いようがないだろう。

 最後には「バリバリ働いて、今週のお見合いパーティも頑張りましょ!」という捨て…決め台詞まで載っている始末である。

◆加速する責任放棄と「自助」の押しつけ

 低い給料のなかから高額な税金を払い続け、それでも老後はまったく安心できないこのご時世。親の世話ですら不安がいっぱいで、日々の暮らしを賄うだけでも辛いのに、子どものことまで考える余裕なんてとてもないという人は少なくないだろう。

 それに対して厚生労働省の答えは「仕方がない」「バリバリ働いてお見合いパーティ」である。

 また、現実に給付年齢の引き上げが議論されていたり、すでに9月から一部保険料が上がっているにも関わらず、「保険料が際限なく上がるなんてことはありません」「年金が給付されなくなることはありません!」と断言しているのも謎である。まあ、あとから「改ざん」「破棄」すれば済むとも言えるが……。

 莫大な赤字が生まれている年金の運用についても、「常にプラス運用というわけではありませんが、平均すると収益は上げていますよ」と「溶かしている」こと自体には触れていない。

 ここまで読んで「たかがマンガ」と思う読者の人もいるかもしれない。しかし、筆者はそれ以上に、中身のない「自分で頑張れ」というマンガを公の機関が発表することに対して、「たかが国民」と考えている証左だと感じた。

 菅政権が発表したように、国民に自助を押しつけるのはもはや政府の基本姿勢となっている。本来、国民のために働く側がそれを言い始めたら終わりなのだが、こうしたマンガの内容を見るにその動きは加速しそうだ。そういう意味では、この作品は暗い未来への警鐘なのかもしれない。

<取材・文/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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