このままでは「第2の赤木俊夫さん事件」が起きる<特別対談:ジャーナリスト・相澤冬樹×元経産省官僚・古賀茂明>

このままでは「第2の赤木俊夫さん事件」が起きる<特別対談:ジャーナリスト・相澤冬樹×元経産省官僚・古賀茂明>

古賀茂明氏(左)と相澤冬樹氏(右)

◆「手記を読んで私の心は打ち震えた」

 森友学園問題で決裁文書の改竄に関与させられ自死した財務省職員、赤木俊夫さんの妻である雅子さんと、この事件を追い続けてきたジャーナリスト・相澤冬樹氏の共著『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(文藝春秋刊)

 同書に収録されている赤木俊夫さんの手記を読んだ元経産省の官僚・古賀茂明氏は新著『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社刊)のなかで「(手記を読み)私の心はブルブルと打ち震えた」と綴っている。

 今回、相澤氏と古賀氏の対談が実現。赤木俊夫さんの「強さ」や官僚のあるべき姿、そして霞が関に変革を促す方法など、存分に語り合った。

◆赤木俊夫さんは強い人だった

古賀:赤木俊夫さんの上司である池田靖さんの音声データが公開され、大きな関心を集めていますね。

相澤:ええ。赤木さんの1周忌直後の昨年3月に、彼の上司である池田さんが自宅を訪れ、妻の雅子さんに国有地売却や改竄の経緯を説明した時に録音したもので、2時間もの長さがあります。

古賀:池田さんの発言内容は今年3月に、相澤さんが雅子さんを取材し、大阪日日新聞や週刊文春などに記事として詳しく伝えていますが、生の音声データが公開されるのは初めてと聞きました。

相澤:雅子さんは現在、国と佐川宣寿元理財局長を相手に裁判を起こしていて、音声データはその証拠として10月14日に提出する予定でした。すると、そのことを聞きつけた大阪のあるテレビ局が音声データをほしいと言ってきたんです。ただ、1社に出すと、他社もほしいと押しかけてくるだろうと。だったら、どうせ裁判で公開するものだし、地裁内の司法記者クラブに提供して報道してもらおうということになったんです。

古賀:赤木さんは、とても強い人だったと思います。改竄を苦にして自ら命を絶ったために、精神的に弱かったと言う人もいるけど、それは違う。赤木さんが遺した手記を読むと、改竄に至るまでの一部始終を、そして真実を伝えたいという強い思いが溢れている。これって命がけの告発ですよ。こんなすごいことをできる人が弱いはずがない。

相澤:うん、あの手記は遺言なんかじゃありません。事実上の内部告発ですよね。文書の改竄にあたり、誰がどんな発言し、どのように行動したか、実名入りで詳細に記してある。対照的なのが、財務省が事件後に作成した「改竄に関する調査報告書」です。51ページもの分厚さがありながら、個人名はいっさい出てきません。主語は「課長」や「職員」、あるいは「××室」などばかりで、誰が何をしたのか、具体的なことはまったくわからない。それでいて、「新たにわかった事実はなかった」と結論づけているのだから呆れます。真実を明らかにしようと最期まで戦った赤木さんとはまるで覚悟が違う。

古賀:生前に「僕の雇い主は日本国民。国民のために仕事する公務員を誇りに思う」と、周囲に口ぐせのように語っていた赤木さんだからこそ、改竄に最後まで抵抗し、最後は孤立して自死へと追い込まれてしまった。その意味で、私は赤木さんは財務省に殺されたんだと思っています。

相澤:忖度する人にとって、正論を言う人は目障りな存在なんですよ。だから赤木さんも煙たがられ、警戒され、異動願いも無視され続けた。そうやって組織内で追い詰められた。僕も赤木さんは見殺しにされたと思っています。遺族の雅子さんも同じ思いでしょう。誰かが直接手を下したわけではないけど、夫は自死へと追いつめられたんだと考えている。一種の口封じです。ただ、手記が遺されていたので真実の一端を知ることができたというわけです。とはいえ、赤木さんは近畿財務局のノンキャリで現場の人。財務相本省など上部の動きはわからない。だからこそ、雅子さんは真実を知りたいと裁判を起こしているんです。

古賀:裁判を通じて公文書改竄のプロセスが明らかになる意義は大きい。なぜなら、今回の一件は赤木さんの問題だけで終わらせてはいけないからです。すべては霞が関と永田町という政官界の仕組みの中でおきたこと。なぜ改竄が起きたのか、どうして赤木さんが死ななくてはならなかったか、何らかの方法で検証すべきです。それができないと、今の仕組みがそのまま温存され、第2、第3の赤木さんが出てしまう。

◆「手遅れですよ、手遅れ」

相澤:実は今日(10月16日)の対談に先立ち、池田さんの自宅を訪ねてきたんです。音声データが公表されると、彼はメディアの取材攻勢にさらされる。雅子さんは池田さんだけでなく「そのご家族も大変な思いをするのではないでしょうか」と心配していらしたので、そのことだけは彼に伝えたかったんです。

古賀:どんな反応でした?

相澤:驚きました。雅子さんの気持ちを伝えれば池田さんも少しは気持ちが楽になるのかと思っていたんですが、開口一番出てきたセリフは「手遅れですよ、手遅れ」というものでした。音声を公開しておいて、そんな気遣いされても遅い、ということでしょう。しかし、赤木さんは池田さんに休日に呼び出されて、改竄を手伝うはめになったんです。つまり、赤木さんのご遺族からすれば、池田さんは加害側ともいえる。「手遅れ」などという言葉を彼を気遣う雅子さんに直接言えるのか、と憤りを感じましたね。

古賀:何だか、追いつめられていますね。池田さんも赤木さんのようにすべてを明らかにすれば、それ以上追いつめられることもなく、楽になれるのに。もっとも安倍政治を引き継いでしまった菅政権のもとでは、そんなことできるはずもないか。

相澤:日本学術会議の任命拒否問題を見ると、人事権をテコに政権に都合の悪い人を排除しようという政治手法は、菅政権になってさらにバージョンアップしているかのようです。何もできませんよ。ただ、池田さんはこのままでは幸せになれないなあ。彼は加害側とはいえ、近畿財務局の現場の役人にすぎなかった。大きな枠組では赤木さん同様に改竄をさせられた被害者でもあるんですよ。

◆「弱い人」になってしまった官僚たち

相澤:古賀さんも経産省のキャリア官僚だったから聞くんですが、なぜ、官僚はこんな体たらくになってしまったんでしょう? 僕の若い頃の官僚のイメージはいけすかないけど、とにかく優秀な集団というもの。ダメな政治家に代わって日本を支えていると、それなりに敬意の対象だったんですけどね。

古賀:私も同じ問題意識を持っていて、今回、『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』という本を書き上げたんです。安倍政権で今井尚哉前首相補佐官など“官邸官僚”と呼ばれた人たちが官邸を牛耳ってアベノマスクを配ってみたり、菅政権でも日本学術会議の6人任命拒否に、警察庁出身の杉田和博官房副長官が主導的な役割を果たしていたと報じられたりと、世間では官僚を影の支配者のようにみる風潮があるけど、そうじゃない。全体的には「弱い人」の集団に成り下がっていると考えています。

相澤:佐川元理財局長も「弱い人」の典型のひとりですか?

古賀:そう。森友学園の国有地売却に佐川さんはいっさい関わっていない。自分が傷つくことはないんです。だから、問題が発覚した時、自分が知りもしないことに責任なんて負えるか、と居直って森友関連の決裁文書をそのまま国会に提出すればよかった。でも、そうするだけの勇気がなかった。結局は政権に忖度し、自らの判断で公文書の改竄を指示してしまったのです。

相澤:雅子さんがこう言っていました。「官僚はとても難しい試験をパスしてお役所に入った人たち。そんな頭のよい人がたくさんいて、どうして誰も公文書の改竄がいけないこととわからないの。俊夫さんは、学はさしてないけど、改竄がいけないことくらい、ちゃんとわかっていました」と。

古賀:官僚をやっていると、こっちに行けば国民の利益になる。でも、もう一つの道を選べば国民の利益にならないけど、自分や省の利益になる。さて、どっちを選ぶというシーンによく出くわすんです。特に天下り先の利権を守る時なんてそうです。官僚は一部でなく、全体の奉仕者ですから、そういう時は自分や役所が損しても国民全体のためになる道を選ぶべきでしょう。その強さと覚悟が官僚には求められているんです、なのに、それができない公務員が多いというのが実情です。その結果、彼らの行動が国を壊してしまっている。本のタイトルにもなっている「弱い人」とは自分を律することにおいて「弱い」という意味なんです。例えば、佐川元局長も本心では「改竄はまずい」と思っていたはずなんです。でも、忖度をして改竄をやり、政権を守った。そうすると国税庁長官に出世するわ、麻生太郎財務大臣からは「適材適所の任命」とベタほめされるわで、引き返せなくなった。すべては自分を厳しく律することができなかったために起きたことです。

相澤:佐川元局長から自責の言葉が聞かれないのが残念です。佐川さんは18年3月12日に国税庁長官を辞任していますが、その辞任理由に赤木さんを死なせたことへの反省はない。でも、辞任は赤木さんが自死した3月9日の直後のこと。誰が見ても辞任と赤木さんの自死は直結している。だけど、それはおくびにも口にできない。自分を律せなくなったとしても、せめて辞め際には部下を自死に追いやったことへの反省の言葉がほしかったと、今でも思いますね。

◆「弱い」を前提に官僚組織を再構築する

古賀:行政官としてそれなりの権限を持つ官僚は普通の民間人よりは強い存在――自らを律することのできる人でいてもらわないと困ります。とはいえ、前政権やいまの菅政権のように政権の言うことをハイハイと聞く官僚は出世、逆らうヤツは左遷というような人事を繰り返すと、官僚は抵抗できなくなってしまいます。だから、官僚は「弱い人」ということを前提にして、霞が関の仕組みを再構築しなくちゃいけない。

相澤:なるほど。

古賀:なぜ、官僚が公文書の改竄という犯罪に手を染めてまで上を守ろうとするのか、その理由をよくよく考えてみたんです。それは端的に言ってしまうと「辞められない」から。官僚は辞めてしまうと、損失が莫大になります。現役時の給与は悪くないし、民間企業のように早めの役職定年もない。キャリアならば、天下りして70歳までかなりの高給ももらえる。安泰な暮らしが保障されているんです。逆に、途中で辞めたら役所以外ではただの人になってしまい、とても官僚時代の給料は稼げない。つまり、肩書は有っても実力がないことを自覚しているんです。これでは「辞められない」。だから、まずはいつ辞めてもかまわない、理不尽な要求があれば、いつでも辞めてやるという役人を増やすしかない。

相澤:そんな方法がありますか?

古賀:採用試験で人員を確保するのでなく、民間から能力のある人をたくさん採用し、局長や課長などの幹部ポストに起用すればいいんです。こういう人はもともと民間で活躍していた人なので、役所を辞めてもまた引く手あまたで再就職できる。いつでも辞められるんだから、不正をしてまで忖度する必要はない。周りに不正を行おうとする役人がいれば公然と反対できるから組織全体がオープンで公正なものに変わっていく。政治家もそんな役人には公文書の改竄要求を匂わすこともできませんよ。

◆内閣人事局は「悪」と言えるのか?

相澤:政治主導の名のもと、内閣人事局が各省庁の審議官や局長など、600以上の幹部ポストを差配するようになってから、官邸に官僚が過度な忖度をするようになったという指摘があります。内閣人事局の仕組みは改善する必要はありませんか?

古賀:もちろん、忖度を強いるような過度な政治主導のあり方は改める必要があるでしょう。ただ、やっぱり適切な政治主導は必要で、内閣人事局が諸悪の根源という見方を私はしていません。例えば、安倍政権は憲法解釈を変更して集団的自衛権を行使できるようにするため、13年8月に法制局とは無縁の小松一郎フランス大使(故人)を法制局長官に抜擢する異例の人事をやってのけています。小松さんは熱心な集団的自衛権容認論者でしたからね。でも、この時に内閣人事局はまだ発足していない。公務員の人事権は大臣が握っています。つまり、内閣人事局なんてなくても、所管大臣がその気になれば、官僚のポストなどいくらでも差し替えできるんです。ただ、それまでの歴代政権はいくらかの良識があって、そんな乱暴なことはしなかった。だから、内閣人事局の制度の乱用を防止するなら、先ほど言ったように、民間からの登用を大幅に拡大して、おかしなことを言う政権に対抗できる官僚を増やしてバランスを取るのが有効です。そのために、例えば課長以上は「民間から公募で登用する」というルールを追加すればよいと思います。

相澤:どういうことですか?

古賀:実は内閣人事局の条文を最初にを作ったのは私なんです。麻生政権で公務員改革を手掛けている時のことです。当時私は、政治主導の強化を行うにはそれとセットで、官民交流の抜本的拡大が欠かせないと考えていて、それで課長級以上のポストはすべて公募するという条文を各省に提示しようとしました。ところが、各省庁と族議員による猛烈な反対運動が起きて法案自体が潰されかける事態に陥ったのです。そこで、「公募ポスト数を公表すること」とトーンを弱めて何とか法案に盛り込むことに成功しました。これなら公募のポスト数が周知されることで「残りのポストになぜ、民間人は起用できないのか?」と疑問の声が上がる。そうなれば、しめたものです。そもそも、民間人を起用できない理由なんてないわけですから、批判を避けようと各省庁が公募ポストを増やすだろうと期待しました。ただ、このルールが入った法案は民主党の反対で廃案となり、さらに、第二次安倍政権でこの法案が復活したのですが、内閣人事局はそのまま生き残ったのに、公募のルールは完全に削除されていたのです。結局、幻の条文になってしまったということです。

相澤:キャリア制度の見直しも必要ではありませんか? NHK勤務時代、警察回りを担当したことがあるんですが、経験のない若いキャリアがいきなり課長として赴任してくる。その一方で、どんなに優秀で人望がある警察官でもノンキャリ組の昇進は最高で県警の刑事部長どまり。キャリア組はガチガチの人事制度で守られているわけで、こうした仕組みがあるかぎり、官僚組織は既得権益にしがみつきたい「辞められない」人ばかりになってしまいますよ。

古賀:それはとても大事な論点です。ノンキャリでも優秀な人はたくさんいますよね。22歳の公務員採用試験の成績で、その後のキャリアが決まるなんてナンセンスです。大器晩成型の人もいるわけで、民間ならありえないシステムだと思います。

◆内部告発の窓口を日弁連に委託せよ

古賀:もうひとつ、「弱い人」を前提とした霞が関改革のメニューがあります。それは内部告発制度の改善です。企業の不正行為を内部の社員が公益目的で通報した場合、その身分が保護される「公益通報者保護法」などが整備されていますが、省庁の場合、その窓口はだいたい大臣官房にあるんです。一応、監察官もいて秘密厳守という建前になっていますが、そんなことを信じる職員はいません。霞が関の文化では内部告発は裏切り、反逆なんです。告発したら最後、出世なんてありえない。

相澤:別の中立公平な窓口が必要となりますね。

古賀:私は、日弁連はどうかなと思っているんです。告発窓口を日弁連内に設けて、政府が予算を支出するけど、独立性と秘密性は日弁連が担保する。法律家の集団だし、これなら公務員も安心して通報できるはずです。

相澤:ああ、実は僕もそれは日弁連くらいしかないと考えていました。ぜひ、そのアイデアを実現させたいですね。

【相澤冬樹】

1962年生まれ。宮崎県出身。東大法学部卒、87年NHK入局。2017年、東住吉冤罪事件を扱ったNHKスペシャルで取材を担当。18年、森友事件の取材の最中に記者職を解かれNHKを退職。著書に『安倍官邸vs.NHK 森友事件をスクープした私が辞めた理由』、赤木雅子さんとの共著『私は真実が知りたい 夫が遺書で告発「森友」改ざんはなぜ?』(ともに文藝春秋刊)

【古賀茂明】

1955年生まれ、長崎県出身。東大法学部卒。元経済産業省の官僚。産業再生機構執行役員、内閣審議官など改革派官僚として活躍したが、当時の民主党政権と対立し2011 年に退官。テレビ朝日「報道ステーション」コメンテーター、大阪府市統合本部特別顧問など政策アドバイザーとして活躍。『日本を壊した霞が関の弱い人たち 新・官僚の責任』(集英社刊)が発売中

<構成/姜誠> <撮影/榊智朗>

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