ロックダウン下で目にした民主主義の力。ポーランドの中絶禁止反対デモに参加してきた

ロックダウン下で目にした民主主義の力。ポーランドの中絶禁止反対デモに参加してきた

時間が経つにつれて、参加者の数はどんどん増えていく

 冷たい雨が降るなか大勢の人々が街に繰り出し、プラカードを掲げながら権利を叫ぶ……。コロナショックのさなかに「民主化運動以来」とも言われる大規模なデモが発生しているのは、ポーランドだ。

◆ロックダウンでも示される「民意」

 これまで当サイトでも紹介してきたように、ポーランドではここ数年、人工妊娠中絶を極度に制限する法案がたびたび取りざたされてきた。そのたびにデモや議会での激しい反対によって法案は阻止されてきたのだが、ついにどう法案が可決され、先月末にはワルシャワを中心に最大規模の集会が行われたのだ。

 中絶禁止法案を巡ってはSNSなどでも活発に議論が交わされ、メディアでも連日デモの様子が報道されていた。現在、ポーランドでは秋のコロナショックが押し寄せており、1日に2万人近い感染者が出ている日もある。飲食店などは再びデリバリーなどに限定され、人通りは目に見えて減っているが、それだけに今回の大規模デモの様子は衝撃的なものだった。

 筆者が暮らしている中世都市トルンでもデモが行われており、本項ではそのただならぬ空気をお伝えしたい。

◆参加者の中心は20代女性

 デモが行われたのは夕方18時から。あたりはすっかり暗くなり、あいにくの雨模様となったが、次々と人々が世界遺産にも登録されている旧市街に向かっていく。

 パッと見の印象では、参加者の多くは20代の女性だが、小さな子どもを連れた女性や「男性もデモを支援します」と書かれたプラカードを持った男性の姿も少なくない。いずれも2〜3人のグループで参加している人が多かった。コロナが猛威を奮っていることもあり高齢者の姿はほとんど見当たらないが、別な状況だった場合、保守的と言われる高齢層がどのような反応をしたかは気になるところだ。

 デモの参加者が集ったのは、ランドマークとなっているコペルニクス像の周辺。その側には何台ものパトカーが停車していたが不穏な空気はなく、平和的な雰囲気だ。

 唯一、不安を感じたのは、市庁舎を挟んだ反対側にある教会の周辺だ。ポーランドでは今回のデモを受けて、過激化した参加者が教会に押し入ろうとする事件が発生。そのため、各地でサッカークラブのサポーターたちが「人の壁」を作って教会を取り囲む事態に発展したのだ。

 ポーランドのサッカー界は長年フーリガンの問題に悩まされており、無関係の市民への暴力事件も少なくない。そんなサポーターが介入してきたことによって、デモ参加者との衝突が発生したケースもあったようだ。

 女性を中心とした参加者のすぐ近くに、ミリタリーブーツや迷彩のパンツを履いた男たちが集まっているのは、傍目に見ても異様な光景であったことは間違いない。

◆デモや政権への市民の声

 拡声器などを使ってシュプレヒコールを促す参加者もいたが、筆者が感じたのは非常に「民主的」な空気というか、デモが参加者一人一人の意志の集合体であった点だ。

 途中から参加する人もいれば、反対にしばらくすると家に向かう人もおり、「決まりごと」のようなものは感じられなかった。あくまで各個人の意志の発露であるという点は、民主主義の根幹とも言えるだろう。取材では、次のような意見が出た。

「今のような(コロナショックの)状況でこんな法を通そうとするのは、国を舐めています。国民をどう見ているか、よくわかりますね。これまで法案を押し通そうとするたびにデモが発生していましたし、こうなるのはわかりきっていたことです。そもそも、こうした法案は一部の専門家だけでなく、心理学者や新生児学者など、さまざまな医師の声を集めたうえで議論するべきです。議会で議論しても勝てないからといって、強行的に通すべき法案ではありません」(女性・30代)

「この法案自体も問題ですが、このデモはそれだけでなく、現政権に対する怒りの現れです。妊娠中絶禁止法案の陰では、できてもいないし、どのような副作用があるかもわからない、ワクチンの強制摂取などの法案も進められています。デモの騒動に乗じて、さまざまな法案を通そうとしているので、国民は政府の動きを注視する必要があります」(男性・30代)

「仕事があるのでデモには参加しませんが、法案には反対です。『デモの参加者はノリで集まっているだけの意識高い系』なんて批判する人もいますが、いろんな事情があって参加していない人の声も集めたら、むしろ反対の声はより大きくなると思います」(女性・20代)

◆各地で異なるデモの様子

 コロナの影響ですっかり人通りの少なくなった街に人が溢れている……。そんな光景だけでも、今回のデモがどれだけ力に溢れているか痛感したが、帰宅してテレビをつけると、よりその影響力が感じられた。

 ニュース番組で全国各地のデモの様子が生中継されていたのだが、首都ワルシャワではいったいどれだけの人が集まっているのかもわからないほどの人波が起きていた。約10万人と報道するメディアもあったが、空撮映像ではそれ以上とも思える人の数だった。

 数千人規模の行進を行なっている街もあれば、音響設備やレーザーを使って音楽をかけながらリズムに合わせて踊っている街もあり、デモのテーマは同じだが、抗議の仕方はさまざまだ。

 「ザ・ガーディアン」など欧米メディアも伝えるとおり、ポーランドでは、こうしたデモ、そして国民一人一人の声により、事の発端となった妊娠中絶禁止法の導入は遅れている。はたして、強制的に施行されるのか、廃案となるのか……。(参照:The Guardian)

 今後、どうなるかはまだ不明だが、政治や司法が国民の声に向き合わなければいけないことは間違いないだろう。その声の大きさは、今回のデモによって示されたのと同等、もしくはそれ以上のものとなるはずだ。

 普段、その恩恵に与りながらも、なかなか実感する機会のない民主主義の力を、目で、耳で体感させられた。

<取材・文・撮影/林 泰人>

【林泰人】

ライター・編集者。日本人の父、ポーランド人の母を持つ。日本語、英語、ポーランド語のトライリンガルで西武ライオンズファン

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