情報漏洩に騒音問題。新しい働き方で生じた「シェアオフィス・トラブル」

情報漏洩に騒音問題。新しい働き方で生じた「シェアオフィス・トラブル」

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 スタートアップやフリーランスの間で重宝されていたシェアオフィスだが、コロナ禍で状況が一変しているという。リモートワークの普及で一般の会社員が仕事場を求めて殺到したからだ。現場で起きるトラブルとは!?

◆コロナ禍の利用者増でトラブルも増加

 コロナ禍をきっかけに業種を超えてリモートワークの動きが広がるなか、成長分野として期待されているのがシェアオフィスやコワーキング・スペースだ。

 料金体系は各社さまざまだが、デスクやW?i-F?iからコピー機、フリードリンクなどが備えられたスペースを、月々数千円から数万円の会費で好きなだけ利用できるというものが多い。個人で契約することもあれば、会社が会費を負担してくれるケースもある。

 シェアオフィスは新たな職場として注目されているが、コロナ禍により利用者が増えたことでトラブルが増えているのだという。リモートワーカー歴7年のウェブデザイナーは言う。

「コロナ前までは、どこのシェアオフィスも、静寂を好むノマドワーカーばかりでタイピングの音だけが静かに鳴り響くだけでした。ところが、コロナで人口密度が高まり、一気に騒がしくなった。特に大企業の社員と思しき連中は、共有スペースで大きな声で電話したり、会話するヤツらが多い。何度か注意したことがありますが『何がいけないの?』という態度。大企業のヤツはオフィスが広いので、騒音の中での仕事は慣れているのでしょう。キーボードを叩く音もデカいし、迷惑です」

 別の利用者によれば、騒音が原因で怒鳴り合いの喧嘩になることもしょっちゅうだという。さらに手に負えない連中もいる。リモートワークのコストを抑えようとするケチケチ会員たちだ。

「私が利用しているオフィスは会員一人につき同時に3人までゲストを呼ぶことができるのですが、1人分だけ料金を払って毎日、仲間を呼んでたむろしている連中がいます。有料の会議室を利用するのを避け、共有スペースでミーティングしていたりする。ある不動産会社の営業チームと思しき一団は、共有スペースで顧客の個人名を読み上げたり、個人情報保護という概念も皆無のようです」(前出のウェブデザイナー)

◆シェアオフィスで情報を集め、転売する輩も?

 こうした、脇の甘い利用者を狙った情報窃盗は、シェアオフィスでは日常茶飯事だ。教育サービス企業に勤める男性社員は言う。

「営業訪問先の企業リストをエクセルで開いていたとき、後ろから写メを撮っているヤツがいた。注意すると逃げていったのですが、似たような話はけっこうあるんです。シェアオフィスで情報を集め、転売しているのでは」

 SNS上では“人脈づくり”と称してシェアオフィスに潜り込み、同業者がどんなプロジェクトを計画中か探っていることを公言するIT関係者もいるほどだ。

 さらに、もっと手の込んだサイバー犯罪の恐怖も潜んでいる。

「渋谷のあるシェアオフィスで以前、会員専用のW?i-F?iと瓜二つの鍵なしのアクセスポイントがあったんです。気になったので受付に『鍵なしのAPもある?』と聞いたら『ない』と。どうやら誰かが近くで情報を盗み取ろうと偽APを立ち上げていたようです」(メーカー勤務の男性)

 企業としてはこうした情報漏洩が最も神経を尖らせるポイントとなるが、どう対策をとっているのか。全国展開する日本リージャスの広報担当者は話す。

「当社はビルトインファイアーウォールによる、ビジネスレベルのW?i-F?iおよび有線による接続を提供しています。利用者様の個人情報は契約時・一時利用時にお預かりしており、誰がいつどのスペースを利用したかについて把握しております。」

 利用する際はこうした対策をしている会社を選びたいが、一般社団法人損害保険協会によると、保険業界ではリモートワークでのサイバー攻撃被害に対応した新たな商品も出始めているという。

 こうした問題に加え“招かれざる者”の存在もある。最近、世間を賑わせている持続化給付金の不正受給でも、シェアオフィスが舞台となる例があるというのだ。『ルポ 新型コロナ詐欺』(扶桑社刊)の著者・奥窪優木氏が話す。

「私が取材した、不正受給グループに名前を貸したある地方在住の学生はSNSで勧誘されたのちに品川のシェアオフィスで業者と面談していました。新幹線駅直結のオフィスビルの高層階にあり『こんな立派な場所にオフィスがあるなら間違いない』と信用してしまったそうです」

◆オラオラ系マルチがいつも威嚇してくる

 さらに、報告例が多いのが「マルチ商法の巣窟となっている」という指摘だ。奥窪氏が続ける。

「仕事柄、シェアオフィスをよく利用するのですが、コロナ後にはマルチ関係の面々に遭遇する率が増えました。幹部同士でミーティングしていることもあれば、新規勧誘の説得をしていることもある。彼らは大きな声で『アップライン(上位会員)』や『スピルオーバー(獲得会員を自身の下部につけること)』といったマルチ用語を連発しているのですぐにわかります。彼らがこれまで拠点としていたファミレスやカフェなどが近年、相次いで『マルチお断り』になるなか、新たな拠点になっている」

 マルチに関してはこんな話も。

「いつも応接席を占領しているオラオラ系のマルチ集団がいるんですが、僕が近くで作業していると威嚇してくる感じでワザとぶつかったり、舌打ちしてくる。本当にウザい」(フリーのプログラマー)

 ちなみにシェアオフィス運営会社はどこも会員規約で「反社、マルチ、宗教」の入会はNGとなっている。しかし、多くは受付で必要書類に記入して支払いを済ませれば、特に審査などは受けることなく即会員になれてしまう。実態はほぼスルーというわけだ。

 トラブルや問題が増えているシェアオフィスだが、労働社会学者の常見陽平氏は主張する。

「騒音トラブルなどが多いと確かに聞きます。以前からの住人であるノマドワーカーと新参者である会社員の軋轢を避けるために、運営する側も配慮していくべきでしょう。また情報管理においては、コロナ以前の日本企業のリモートワークは、主に育児中の社員など事情を抱えた人や、直行直帰の営業担当を想定したものでした。それがコロナ禍で全社員にリモートワークが一気に広がったので、環境整備が突貫工事になってしまった。安全なチャットツールやファイル共有の仕組み、さらに端末に極力情報を残さない仕組みなど、企業側が整備すべきです」

 急成長するシェアオフィス業界だが、問題も山積のようだ。

◆オシャレなシェアオフィスの実態

▼騒音

共有スペースにおいて、大声で電話や打ち合わせを行う新参リモートワーカーが多数。騒音の中で仕事をすることに慣れた大企業の社員であることが多い。同様に、衆人環視の中Zoom会議を行う猛者も少なからずいる。

▼企業スパイ

シェアオフィス利用者で意外に多いのが生命保険外交員。他社の外交員の電話や打ち合わせの内容を録音したり、PCモニターを盗撮したりして、顧客を奪うという行為も互いに行われているというから、まさにスパイ合戦だ。

▼マルチ

主に渋谷周辺のシェアオフィスに3、4人のグループで出没し、他人の耳も気にせず作戦会議や勧誘行為を行っている。ドリンクコーナーで、ほかの利用者に話しかけて勧誘しようとする者もいて、迷惑がられている。

▼詐欺師

一等地にある大型オフィスビルに入居するシェアオフィスは、情報商材や嘘の投資を扱う詐欺師の「箔づけ」として利用されることも。「こんなところに入居している業者なら信用できる」と考える情弱がターゲットだ。

▼窃盗

SNS上では置引や窃盗被害の報告も散見される。代表的なのは電話やトイレで席を外した際に、財布やデジタル機器を持ち去られるというもの。データが詰まったPCが盗まれたら、会社から懲戒解雇の可能性も。

▼Wi-Fi低速

仕事をさぼってオンラインゲームやネット動画に没頭するリモートワーカー、大人数のビデオ会議をする会社員のせいで、共有Wi-Fiの速度が低速化し、他の利用者の職務に支障が出るという状況も各所で生まれているという。

<取材・文/アズマカン 五月花子>

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