性嫌悪でも結婚したい。30代童貞男性が抱え込む「ねじれ」の正体

性嫌悪でも結婚したい。30代童貞男性が抱え込む「ねじれ」の正体

大江健太さん(仮名)

 大江健太さん(仮名・32歳)は都内有名大学を卒業後、マスコミ関係に就職し、年収も決して低くない。飾らない外見ではあるものの、清潔感もあり物腰も柔らかく、コミュニケーションも問題なく取れる。しかし、彼はすでにいわゆる「妖精」……30代を迎えても、童貞を守り抜いているという。

◆性に対する嫌悪感

「今までの人生で、女性からのアプローチが全くなかったわけではありません。そして自分も、女性に好意を抱くことはあります」と語る大江さん。機会がなかったわけではないのに、彼が童貞を守り続ける理由が、シンプルに気になった。

「端的にいえば、恋というものが何なのか、よくわからないんです。性に対する嫌悪感が思春期の頃からあって、女性と身体の関係になることに抵抗がある。とはいえ、身体が反応しないというわけではないので、その自分の不純さを許せなくなってしまう。だから、アダルトコンテンツは自分からは見ません。風俗にも行ったことがありません」

 そもそも性行為に嫌悪感を抱くという彼は、風俗で童貞を捨てようと思ったことすらないという。思春期に多くの人が頭で考える前に支配される「性欲」という大きな欲を、彼はずっとプラトニックすぎる理性で制御してしまっているのだ。

◆思春期の挫折経験で下がりきった自己肯定感

 ある意味、人の本能と逆行しているともいえるその感情は、どこからやってきてしまったのか。

「他人が自分のパーソナルスペースに踏み込んでくることがとても怖いんです。それと、高校時代に、部活動で挫折を経験しているし、大学受験でも失敗して浪人もした。挫折ばかりの人生だったので、劣等感がすごく強いんです。自分に自信が持てないから、本当の自分を知られるのが怖い。

 たとえ相手から好意を向けてもらっても、返せるものがないと思ってしまいます。だから結局、好意を持った女性にも自分からアクションを起こしたことがないし、そもそも恋愛の優先順位も低いんです」

 平均より高い学歴と年収。でも上を見ればもっと上がいる。学歴が高い人ほど、そもそもの理想や目標の設定が高く、今の自分の現状を受け入れられないという人も多い。自分が設定した目標をクリアできなかった過去は、靴の裏についたガムのゴミのように、長い間彼にへばりついているようだった。

◆恋愛は諦めた。けど結婚は……

 性的なことに嫌悪すらあるという大江さんだが、恋愛の先にある「結婚」には興味があるという。

「一人が好きだし、一人暮らしが向いていると思っていました。でも最近は、一生一人で過ごすのはつらいかもと思うようになった。一人の生活は自由だけど、やっぱり結婚した方が、社会的に認められやすいとは思うんです。自分でもなんとなく、一生独身の生活には宙ぶらりん感を感じる。人生の就職先が決まる安定感がほしい」

 結婚に関しては恋愛的要素を取っ払った、実利的なメリットに魅力を感じているような語り口だ。今の時代、恋愛に重きを置かずとも、適切な探し方さえすれば結婚することもできるような気がする。しかし……。

「出会いはありませんが、結婚相談所のような結婚を目的にするための場所で相手を探すのには違和感を覚えます。恋愛にしろ、結婚相手にしろ、あくせくして探すようなものではないし、どこか運命的であってほしいと思ってしまう」

 恋愛には興味がない、諦めていると言いながらも、深掘りしていくとロマンチストな側面も見える。スペックはありながらも、女遊びもせずに童貞を守り抜いてきた彼。口では「自分は恋愛に向いていない」と言いながらも、いざするとなればそこには期待があるのだ。

 日本には疑似恋愛コンテンツが世に溢れているし、テレビやマンガで気軽に触れるものほど、プラトニックで運命的だ。そんなものを小さい頃から見ていれば、誰でも恋愛に期待してしまう。現実の恋愛を知らないなら、なおさらなのだ。

◆ピュアさが彼をよりこじらせる…

 周りからも「早く童貞を捨てろ」と野次を飛ばされることも多いという。はたから見ると彼は早く童貞を捨てた方が幸せになれるように見えるのだろう。

「実際に童貞いじりされてみると、傷つく瞬間もある。自分ではあまり気にしていないつもりだけど、やっぱりどこか欠如感を感じるんだと思います。普通の人にできることが、自分にはできないから」

 童貞でなくなれば、彼は変わるのかもしれない。しかしそれは、一夜だけを共に過ごすような相手でなく、彼にとって運命的な相手でないといけない。その理想の高さが、彼のことを苦しめている。

 自己肯定感の低さと、自信のなさ。女性なら、この要素を持っていても性行為の機会はあるし、むしろ恋愛体質になったりする。しかしこれが男性になると、途端に拗らせる。世の中で求められるであろう「男らしさ」から逆行していることが、より本人の自信を喪失させる。

 世の中の全ての女性が男らしさを求めているわけではないとしても、現場経験がないからこそ、彼らは女性に好まれるのはよりステレオタイプな男性であると思い込んでしまうのだ。そしてそうではない自分を責めて、恋愛を遠ざける。

「結婚という『内定』はほしいけれど、努力して勝ち取りに行こうとは思えないんです。結婚できなくても死なないし」と彼は悟り顔で語る。でもその実、恋愛にも結婚にも、彼なりの期待や理想があって、その上で「自分はその理想にかなわない」と自己卑下している。彼の場合頭がいいからこそ、そういう自分をより客観的にとらえてしまい、人に言われる前に「恋愛には興味がない」というシールドを張っているようにも見えた。

 恋愛も結婚も、普通に人と関わっていく中ではなかなか避けて通りづらいトピックではある。その世間からの目そのものも日本の生きづらさの一つではあり、そこにさらされ続ける限り、自己肯定感が低い人の未婚の人生は、つらい選択となってしまうのかもしれない。

<取材・文/ミクニシオリ>

【ミクニシオリ】

1992年生まれ・フリーライター。週刊誌などにアングラな性情報、最新出会い事情など寄稿。逆ナンや港区合コンの現場にも乗り込み、恋愛経験を活かしてtwitterで恋愛相談にも回答。カルチャーにも素養がある生粋のサブカル女子。Twitter:ライタ〜ミクニシオリ

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