京都のラブホテルは何をウリにしている? 都心と郊外の違いからコロナ禍の影響まで <ラブホテルの地理学>

京都のラブホテルは何をウリにしている? 都心と郊外の違いからコロナ禍の影響まで <ラブホテルの地理学>

祇園の近くにある安井金比羅宮。鳥居の脇と奥にはラブホテルの看板が顔を覗かせている。

◆ラブホとは無縁そうな古都で、ラブホはどう売り込んでいるのか?

 これまでの<ラブホテルの地理学>では大阪のラブホテルを扱ってきた。今回は少しエリアを変えて、筆者が住む街でもある京都のラブホについて紹介しよう。京都といえば神社仏閣の集まる観光都市。一見ラブホとは縁遠いこの街において、ラブホはどのように自らを売り込んでいるのだろうか。テーマは「ラブホテルの地理学」なので、やはり着目したいのは立地との関係である。ラブホは大きく分けると都心型と郊外型の2つがあるが、この違いは営業形態にどのような違いをもたらすのだろうか。

 また、新型コロナウイルスの影響も無視できない。昨年までインバウンドバブルに沸いていた京都は、コロナ禍によって甚大な影響を受けることになった。それはラブホテルも同様である。コロナ以前と以後では、ラブホテルの広告戦略はどのように変化したのだろうか。今回の記事では、ラブホテルの広告文に着目することで、京都のラブホが何をウリにして営業を行っているのか、そしてそれはコロナ禍以降どのように変化したのかを見ていきたい。

◆関西最大規模を誇る京都南IC付近のラブホ街

 まずは、京都のラブホテルについて概観しておこう。次の図は京都市のラブホを部屋数と建物形式で区分して示したものである。

 京都のラブホ街は、なんといっても京都南インターチェンジ(IC)の周辺である。京都南ICは名神高速道路のICとして1963年に設置され、その周辺には70年代から80年代にかけてたくさんの「モーテル」が進出した。風営法の改正によってワンルーム・ワンガレージ型の「モーテル」は規制されるが、その後も京都南IC周辺にはラブホテルの出店が相次いだ。

 27軒ほどが集まる京都南ICのラブホ街は、全国でも有数の規模であり、大阪の郊外型ラブホ街と比べても圧倒的な数を誇る。これは、京都においては都心部へのラブホ建設が難しい上に、郊外のICの数が限られており、そのために限られた場所にラブホが集中せざるを得なかったためと思われる。詳しくは、以前筆者が書いた別の記事を参照いただきたい〈参照:なぜラブホテル街「関西最大」が京都に? ラブホ研究で話題の京大生が読み解く|まいどなニュース〉

 京都南IC以外では、京都府北部へ向かう山陰自動車道の沓掛(くつかけ)IC付近や、京都市と向日市の境界にある羽束師(はづかし)周辺にもラブホテルの集積が見られる。どちらも郊外型ラブホテルの立地としてはオーソドックスなパターンだ。

 中心市街地に目を移すと、歓楽街である祇園の周辺にいくつかのラブホが見受けられる。若者向けの店が多い河原町界隈にラブホがあるのはさもありなんと思えるが、「悪縁を切り、良縁を結ぶ神社」として知られる祇園の安井金比羅宮の周りにラブホテルが集まっているのには驚かされる。このあたりには花街の付帯産業としての「貸席」(時間貸しの座敷)が多く、それらが時代の変化に伴いラブホテルになったというわけだ。

 これまでの記事で紹介した大阪の場合は、私鉄のターミナル駅周辺に都心型のラブホ街が形成されることが多かった。京都で言えば、阪急電鉄の終点・京都河原町駅や、京阪電気鉄道のかつての終点・三条駅の周辺がそれにあたる。しかし、大阪では駅の開業後に周辺が繁華街になったエリアが多いのに対し、京都では先にあった繁華街に後から駅ができたという違いが見られる。すなわち、京都の場合は駅とラブホテルの関係は大阪ほど強くはない。

◆利用形態と価格帯

 次に、料金について見てみよう。各ラブホテルのプランのうち、最も安いものを1時間あたりの料金で示すと次の図のようになる。

 赤が比較的料金の高いもの、青が比較的安いものを示しているわけだが、その分布には明確な傾向が見られる。都心部のラブホは高く、郊外のラブホは安い。そんなこと当たり前だろう、などと言わないでほしい。当たり前だと思っていることが本当に正しいかを確かめることも、こういった分析の意義なのだ。

 この料金の差は、利用形態の違いも示している。郊外のラブホは、都心のラブホよりも最短利用時間が長いことが多い。京都の場合、都心であれば休憩プランは1時間ないし1時間半からが一般的だが、京都南ICなど郊外では2時間からとなっている店舗も多い。都心のほうが遊んだ後にふらっと寄るケースが多く、そのぶん利用時間も短めに設定されている。また、派遣型風俗営業との関係も影響しているだろう。そうなると、1時間あたりの料金は当然都心型のほうが高くなる。

◆ラブホ広告文のテキストマイニングをしてみると……

 さて、ここからようやくラブホテルの広告文の話に入る。筆者がたびたびお世話になっているラブホテル情報サイト「ハッピーホテル」には、各ラブホテルの広告文が掲載されている。例として、祇園周辺にあるラブホテル「T」の広告文を載せたが、ここでは「バブルバスと高級感溢れる家具」といった内装に関する記述や、「?華街河原町も徒歩圏内」といった立地を謳う記述が見られる。これを一つ一つ見ていくのも面白いのだが、いちいち紹介していてはあまりに長い記事になってしまう。

 と、いうわけで、今回はこの広告文をテキストマイニングで分析することにした。京都市のラブホテルを都心に近い区と郊外の区で分け、それぞれの広告文に出現するワードを結びつきの強いもの同士をまとめて表示させたのが次の図である。

 コロナ禍の以前と以後を比較したいので、まずはコロナ禍以前の2019年末の広告文を分析してみた。もちろん過去のデータはもう取得できないのだが、幸いにも以前たまたまこの分析をしたことがあったので、どうにか図を作ることができた。過去の自分に感謝したい。

 まずは都心に近いラブホから見てみよう。もっとも目立つのは、「京都」や「観光」といったワードである。また、「アクセス」や「抜群」の文字も見られる。祇園、八坂神社、清水寺など、観光地が徒歩圏内にあることをウリにしているようだ。ラブホテルでありながら、その内部よりも周辺環境が強調されているのが面白い。宿泊施設としての側面が強く出ているのが、京都の都心型ラブホテルの特徴といえるだろう。

 次に、郊外にあるラブホテルの広告文を見てみよう。先ほどとは異なり、観光に関するワードはまったく見られない。反対に、「お客様」-「満足」-「リーズナブル」-「設備」-「清潔」といった結びつきが目立つ。周辺環境をウリにする都心型とは対照的に、ラブホそのものの魅力を押し出しているのが郊外型ラブホテルの特徴と言えるだろう。個々の広告文では「露天風呂や炭酸泉、岩盤浴」や、「高級シモンズベッド、100インチプロジェクター」など、他にはない設備が謳われている。また、「リニューアル」-「オープン」や、「料金」-「更に」-「得」など、新しさも重要な要素である。

 面白いのが、食べ物に関する広告がいくつか見られる点である。「焼き立てパンのモーニング始めました」(HOTELとなりのクル)や、「期間限定新メニューうどんフェア実施いたします」(HOTELエルミタージュ)など、もはや何が主目的か分からないような広告も見られる。立地面では不利な郊外型ラブホテルは、そのぶんサービスを充実させて差別化を図っているのである。

 このように、広告文からはそれぞれのラブホが立地環境に応じてさまざまな売り出し方をしていることが分かる。都心型ラブホは「外」をアピールするのに対し、郊外型ラブホは「中」をアピールする。また、広告文に神社仏閣が登場するのは京都ならではと言えるだろう。

◆コロナ禍が変えたラブホのセールスポイント

 最後に、コロナ禍以降の変化について述べておきたい。昨年まで京都には多くの外国人観光客が訪れていたが、コロナ禍によって京都の観光地はまったく正反対の状況に陥った。「夜の街」への警戒心はラブホテルからも客足を遠のかせ、休業する店舗も続出した。さらに、風営法に基づき営業している、いわゆる4号営業のラブホテルが持続化給付金の給付対象から外されたことも追い打ちをかけた。これらの変化は、広告文にも現れている。

 一目瞭然。「コロナ」-「ウイルス」-「感染」-「対策」というワードが出現している。よくある感染対策の文言と変わらないものも多いが、各店舗のHPを見ると、感染対策をしているという旨だけでなく、ラブホテル“だからこそ”「安心」であるというロジックでのアピールがされているものもいくつか見受けられる。お互いの健康を把握できるパートナーとだけ接触し、スタッフや他の来店者と接触することはない。本来ならば来店者のプライバシーのためのシステムが、感染対策としても有効というわけだ。

 さらに、ラブホテルの中にはリモートワーク向けのサービスを行っているところもある。京都南ICにある「ホテルゆめや」では、フリーWi-Fiの完備や充電対応といった従来のサービスに加え、PCの無料貸し出しをすることで新たなニーズへの対応を行っている。また、「HOTELロータスオリエンタル京都南店」では「オンライン飲み会プラン」や「ホテルでNO密飲み会プラン」など新しいプランが打ち出されている。「落書きもできるフェイスガードを無料貸し出し!シュールさがSNS受けするかも?」(公式HPより)とSNS受けまで考える周到さ(?)も憎らしい。「新しい生活様式」はラブホテルをも変えようとしている。

 今回は京都のラブホテルについて、都心と郊外の違いを中心に扱った。料金形態や広告の出し方など、そこにはいくつもの違いが存在する。

 いずれにしても、コロナ禍による影響が甚大なのは間違いない。ラブホテルに対して適切な経済支援がなされ、そして一刻も早くコロナ禍が収まってくれることを願わずにはいられない。

<取材・文・撮影・図版作成/重永瞬(都商研)>

【重永瞬(都商研)】

しげながしゅん●Twitter ID;@Naga_Kyoto>。京都大学文学部地理学専修在籍。京都大学地理学研究会第7代会長。京都・観光文化検定試験1級を史上最年少(20歳)で合格。フジテレビのクイズ番組『99人の壁』鉄道旅SP出演でも話題になった。著書に『大阪市天王寺区生玉町におけるラブホテル街の形成と変容 歴史編』 (志学社論文叢書)

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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