熱帯雨林破壊、児童労働、温暖化促進etc.「持続可能」とはとても言えないパーム油利用の闇

熱帯雨林破壊、児童労働、温暖化促進etc.「持続可能」とはとても言えないパーム油利用の闇

親と同じプランテーションで働く子ども(著者撮影)

◆いたる所で使われている「パーム油」

 現在、世界で最も多く消費されている植物油脂「パーム油」。その原料となっているのは「油やし」だ。英語で言うと「オイルパーム」で、採れる油が「パームオイル」、時には「パームやし」なんて言葉すら聞く(「やしやし」ってなに? と思うが)。

 この油やしから採れる油の量はけた違いに多い。単位面積当たりの収量が、大豆種の7倍、菜種の3.2倍に上る。しかも油やしは、採れる油の種類が多い。本体の種を精製すると、透明な油(食品用)も、どろどろした油(工業用)も採れる。しかも価格は安い。

 さらに、種の中に入った実(梅干しでいう「天神様」)の部分からは、ココヤシ油に似た油が採れる。おかげで、他の油を取るための作物と入れ替わってしまうのだ。

 それだけなら誠に結構な話なのだが、それだけに終わらない。世界一生産量が多く、安く、しかも用途が広い。しかも精製後は「無味・無臭・無色」になるため、他の油に混ぜ込まれてもわからず、用途の全体像がつかめないのだ。

 多くは「植物油」という分類の中に隠されてしまう。 それがどの油とブレンドされてしまっているのだろうか。外食やお菓子、お惣菜を買う場合には、使われていないことはないとまで言われている。

 ある時、あの真面目な「生活クラブ生協」に相談してみたことがある。「食品のいたる所に入っているので、使わないのは不可能」だと言われた。「生活クラブ生協」にしてそうなら、他は推して知るべしだろう。

◆学校に通えないプランテーション労働者の子供

 安くて安定していて低価格ならその何が問題なのか。ぼく自身は「油やしプランテーションが熱帯林を破壊している」という話を聞いて、その実態が知りたくて1994年にマレーシアに調査に出かけている。その頃はマレーシアが油やしの最大生産国で、世界で独り勝ち状態だった。今はインドネシアが世界第1位となっているが、それまではマレーシアが1位だった。

 プランテーションで働いている人たちは、ほとんどがインドネシア人だった。マレーシアに比べて賃金が安かったインドネシアから、多くの労働者がビザを持たずに入ってきていた。その人たちは、稀にマレーシア政府が行う「不法入国者の一斉検挙」に怯えながら働いていた。しかしマレーシア政府も、インドネシア人労働者なしにプランテーションが成り立たないことを知っていたからか、厳格な取り締まりまではしないようだったが。

 何より気の毒だったのは、彼らは他に行く場所がない人たちだったことだ。もし工場で働くことができたなら、その方が稼げる。しかしそれは不法移民にはできない。さらに気の毒なのは、働き手だけではなく家族総出で働かなければならないことだ。

 農薬を撒いたり除草をしたりすることは「軽作業」に分類されていて、女性たちの仕事になっていた。さらに細々と散った油やしの種を拾い集める仕事と、切り落とした枝を片づける仕事は子どもの仕事になっていた。子どもたちは家族と一緒に働けるので、楽しそうにしていた。

 しかし、子どもたちは学校に通うことができない。まず物理的に難しいのだ。油やしは、切り落としてから24時間以内に精製しないと良い油にならない。ところがその製油工場一つを稼働させるためには、日本で言うと市町村一つ分の森がすべて油やしのプランテーションになるくらいの規模でないと精製工場が操業できない。

◆一生抜け出すことのできない“緑の監獄”

 その広大な油やしプランテーション内に暮らしていては、学校に行くことが物理的に無理なのだ。彼らの村で聞いてみると、働く人たちは「子どもは学校に行かせたいと思っているよ、でも今の給料じゃとても通わせられないんだ」と答えていた。彼らはさらに、「子どもにも働いてもらわないと経済的に無理だ」と何度も言った。

 すると子どもたちは教育を十分に受けていないので、大人になっても他で働くことは困難になる。すると彼らは結局これまで働いたことのあるプランテーションで働き、同じプランテーション内の誰かと結婚し、そこで次の世代を作る。

 その世代もまた同じだ。街からさほど遠くないプランテーション内にいて、世代を超えて街に出たことがない人たちがいた。これを称して「“緑の監獄”だ」と彼らは言う。プランテーションの外へ出られる可能性が低いまま、一生働き続けなくてはならない。

 労働者の中には、マレーシア国籍の人もいた。ただし彼らの多くは、他で働くことが困難な先住民の人たちだった。彼らも、“緑の監獄”に閉じ込められるように暮らしていた。

「野菜だけでも育てたらどうか」と聞いてみると、プランテーション内では耕すことが許されないのだという。

“緑の監獄”では、上司たちが海外から来ている私たちのことを監視していた。一見労働者と親しくしているようでも、彼らとは立場が違う。労働者たちも、彼らがいるとうかつなことは言えない。人柄が良く、親切にもしてくれたが、その監視の中での毎日は重く暗いものだった。

◆再生可能エネルギーを潰す「バイオマス」の虚構

 その油やしを原料としたパーム油が、今や日本で新たなバイオマス発電として広がろうとしている。「バイオマス」とは、「動植物から生まれた、再利用可能な有機性の資源(石油などの化石燃料を除く)」のことだ。確かに有機物なのだが、これを広げていいのか疑問が湧く。そもそも最大の疑問は、これを使ったからといって地球温暖化防止のためになるのかという疑問だ。

 ぼくは岡山県に住んでいるが、必然的に中国地方のニュースが多い。ニュースを見ていたら、鳥取県境港市にバイオマス発電所が建てられることになり、起工式が行われたと聞いた。しかしバイオマス発電(パーム油発電所)といえば、先日やっと仙台で中止されたり、京都府舞鶴市で中止されたりしたばかりではないか。それがうまくいかなかったため、遠く離れた中国地方でやろうとするのかと思った。

 テレビで「境港市」と聞いたのでネットで調べてみた。すると何社も出てくる。臭いや騒音、振動があるのに、鳥取県では大丈夫ということか。同じところに数社が、何基も発電所を建てるようだ。しかもどれもFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)目当て。高い固定価格で買ってもらえるから、安心して進めているのだ。

 しかも「容量市場」(将来の供給力を取引する市場)も間もなくお目見えする。ということは、発電した電気もさらに高く買ってもらえるチャンスになる。太陽光や風力などは安定しない発電量だから、安定的に発電して電気を補完するための「発電容量」の分だけ建てようとする。その発電所の費用は、送電線を利用する者に負担させようという仕組みだ。

 具体的にその電気料は新電力の会社が支払う。新電力は「再生可能エネルギー」で電気を供給しようとする会社が多いから、明らかな「再生可能エネルギー潰し」として導入されようとしている。

 そのパーム油発電所は、やしの外殻や油を抜いた後の残滓から作るというのだが、それをFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)を利用して売るのだから、FITの仕組みが「再生可能エネルギー」を潰すということになる。敵のくせに、味方の顔をして近づいてくるのだ。

◆パーム油発電は、地球温暖化対策とはいえない

 もしそれが地球温暖化を防止する効果があるのなら、百歩譲って導入するのも仕方がないことかもしれない。しかしこれについては、政府の「総合資源エネルギー調査会 省エネルギー・新エネルギー分科会 新エネルギー小委員会 バイオマス持続可能性ワーキンググループ」なるものの報告書で決着がついている話なのだ。

 というのは、パーム油であっても「泥炭地(酸性度が高い湿地帯で、木材などの有機物が分解せずに炭化して残っているような土地)」では、それに火が点いて燃えるために、かえって温暖化を進めてしまうのだ。

 現にインドネシアの二酸化炭素排出量は、中国・アメリカに次いで世界第3位。加えてパーム油を絞った後、排水処理を怠っている場合が多いために、二酸化炭素の25倍も温室効果のあるメタンガスを発生させてしまうことも多いのだ。

 その結果、よく管理された場合でも「天然ガスコンバインドサイクル発電所並み」の温室効果を発生させ、悪ければ「石油火力発電所並み」に温暖化を促進する。つまり、化石燃料を燃やすのを止めていこうとして、化石燃料を使った場合よりも温室効果ガスを出す。「馬鹿じゃないか」と思う。

 これは「再生可能エネルギー」などとはとても呼べない。それが日本の馬鹿な制度の下で推進されそうになっているのだ。それだけじゃない。上に述べた「泥炭地(酸性度が高くて木材などが分解せずに残っているような湿地)」では、そうではない土地と比べて、その泥炭が分解することによって139倍も温室効果ガスを排出するのだ。

 こんなものは地球温暖化対策とは言えない。それなのにFIT(再生可能エネルギーの固定買取制度)によって高値で買い取られてしまう。その財源は、一般利用者の電気料金に上乗せされている「再生エネルギー等促進賦課金」だ。これこそ最も早急に変革されなければならない。

◆持続可能なパーム油の認証制度に抜け穴も

 しかしパーム油によるバイオマス発電をしようとする事業者の側も、批判されて事業が中止にされる可能性からか、いろいろと批判に応えている。

「当社では、事業計画策定ガイドラインの目的、RSPOの持続可能なパーム油の生産と利用を促進することを目的とした取り組み、パーム油最大産油国のパーム油生産・流通を制度化した認証基準(MSPO)マレーシア、(ISPO)インドネシア)など、パーム油に関する問題の解決に向けた世界的な動向に賛成しています。(筆者注:これらは民間企業や各国政府が作成した認定基準で、それぞれ問題を起こさないための基準が定められている)。そして、持続可能なパーム油の調達に、積極的に取り組んでいます」(明和エンジニアリングのウェブサイトより)

 パーム油輸出国第1位のインドネシア、第2位のマレーシアとしては、主要な輸出品であるパーム油生産側に厳しい認定基準はつくれない。これについてNGOの「FOE JAPAN」は以下のようなことを問題点として挙げている。

・認証機関に対するトレーニングができていない。ガイダンスの作成等ができていない

・社会環境配慮アセスメントのガイダンスが弱い

・新地開拓プロセス・新地開拓後のコンサルテーションが弱い

・FPIC(自由意思による、事前の、十分な情報に基づく同意)のガイドラインが弱い

・不正行為の確認・制裁が弱い

・苦情申し立てシステムが弱い

 さらにこの認証制度には、抜け穴もある。「RSPOは、森林を伐採してそこに油やしプランテーションを作るのは規制するものの、すでに農地となったところをプランテーションに転用することは規制していない。つまり、森を開拓してキャッサバ畑などにし、キャッサバ畑を油やしのプランテーションにすれば、RSPO(持続可能なパーム油のための国際規格)認証を得られる(FOE JAPAN)」というのだ。

 もしこの批判をその通り受けとめれば、この認証は「グリーンウオッシュ」(環境に良いものと見せるために、緑色に染めること)ではないかとの疑問が湧く。この「FOE JAPAN」は、歴史も長く真面目なNGOだ。ただ批判しているだけの団体とは違う。そして何より熱帯林が失われたことは周知の事実だ。

 さらに、パーム油そのものをバイオ燃料として使うことに対しては「食べ物を燃料にするな」という抵抗感も大きい。そのため、パーム油発電の事業者側は「燃やすのはバーム油そのものではなく、パームの実の残り部分(PHS)や燃やせない残り部分(EFB)を燃料にしているから問題ない」という。

 しかしそれでも変わらないのは、原料を遠くから輸入してくるため、運送に関わる二酸化炭素排出量が多いことや、実質的に現地でのパームオイル生産地の拡大につながっているということだ。地球の貴重な財産であるはずの熱帯林は、どんどん壊されてしまっている。油やしプランテーションの開発で、森は破壊され、木々は燃やされ、生物は生きる場所を奪われた。

 パーム油発電では、残念ながら温室効果ガスの排出量は減ることはなく、地球温暖化は止まらない。このまま進行させていいものだろうか。

【「第三の道」はあるか 第6回】

<文・写真/田中優>

【田中優】

1957年東京都生まれ。地域での脱原発やリサイクルの運動を出発点に、環境、経済、平和などの、さまざまなNGO活動に関わる。現在「未来バンク事業組合」「天然住宅バンク」理事長、「日本国際ボランティアセンター」 「足温ネット」理事、「ap bank」監事、「一般社団 天然住宅」共同代表を務める。現在、立教大学大学院、和光大学大学院、横浜市立大学の 非常勤講師。 著書(共著含む)に『放射能下の日本で暮らすには? 食の安全対策から、がれき処理問題まで』(筑摩書房)『地宝論 地球を救う地域の知恵』(子どもの未来社)など多数

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