米大統領選をめぐるフェイクニュースと「新宗教系メディア」の関係

米大統領選をめぐるフェイクニュースと「新宗教系メディア」の関係

都内でポスティングされていた「大紀元」。すでに否定されたフェイクニュースも書かれており、徹底してバイデンを貶す内容。しかし、中国共産党は当初、ロシア同様バイデンに祝辞を送ることを拒否していたことからも「中共はトランプの方が都合がいい?」と言う説も囁かれていた(13日に方針転換)

 アメリカ大統領選をめぐって、バイデン氏に有利にはたらく不正があったとする情報がインターネット上で出回り、すでにそのいくつかはメディアが検証し「フェイクニュース」として扱われている。そのフェイクの発信源としてしばしば語られる「宗教系メディア」について考えたい。

◆報じられた「新興宗教系メディア」の存在

 BuzzFeedは、「バイデン」を含むネット上の記事で多くシェアされたトップ100のメディアのうち、3つが「宗教系メディア」であると伝えている。

 BuzzFeed記事の記事は、〈バイデン氏と中国政府との関係を疑う根拠不明の記事〉を〈韓国の新興宗教系サイト〉とし、その他の宗教系については〈日本国内の団体関係者などのYouTube動画〉〈中国共産党政権を激しく批判する中国系団体〉としている。同記事はなぜか具体的なメディア名や宗教団体名を伏せている。

 フェイクあるいは根拠不明の情報の発信源として日本人のトランプ支持者などが拡散していたフェイクニュースの内、主な宗教系メディアは、統一教会系「ワシントン・タイムズ」と法輪功系「大紀元(EPOC TIMES)」だと思われる。また、日本の統一教会元会長で現在は分派団体「サンクチュアリ協会」の会長が関わっている日本のトランプ支持団体も、YouTubeで情報発信を行っている。

 BuzzFeedが記事で指摘しているメディアや団体がこれらであるのかどうかは不明だ。ファクトチェックなのに具体的な発信源の名称を伏せるBuzzFeedの意図は理解に苦しむが、それはそれとして、上記3つのメディアは、BuzzFeedの指摘する内容と同様あるいは類似の情報を発信している。

◆統一教会系「ワシントン・タイムズ」

 3メディアのうちの1つは「ワシントン・ タイムズ」。有名紙ニューヨーク・タイムズとワシントン・ポストを足して2で割ったような名前だが、両紙とは何の関係もない。「ワシントン・タイムズ」は統一教会(現・世界平和統一家庭連合)の教祖・文鮮明(故人)がアメリカで創刊した保守系メディアだ。

 大統領選とは別だが、今年1月に新型コロナウイルスを中国の生物兵器(中国・武漢にある生物兵器に関わる研究施設から漏れ出したもの)とする説が出回り、その発信源もワシントン・タイムズだった。

 統一教会といえば、日本では「教祖の因縁」などを持ち出して相手を脅し、高額な宗教グッズ等を買わせたり献金させたりする「霊感商法」、90年代に芸能人の入信と参加により物議を醸した「合同結婚式」、団体名や宗教勧誘目的であることを隠して繁華街の路上や大学、戸別訪問などで勧誘活動をする「偽装勧誘」が問題視されてきた。一方で、韓国から日本に上陸してきた1960年代には「国際勝共連合」を組織し、共産主義に対抗する政治運動(反共運動)も展開してきた。

 また統一教会は「世界日報」というメディアも持つ(日本、韓国、ほかのアジア諸国、欧米版などがある)。日本の世界日報は11月10日、〈バイデン氏 不正の疑い拭えぬ「勝利」〉と題する記事をネット配信。また11月21日に配信された〈バイデン氏息子 中国から巨額資金〉とする記事は、ワシントン・タイムズ記事の日本語訳だ。

 さしあたって統一教会系2紙の報道を全てフェイクと断じることは避けるが、フェイクとされているものも含む情報の発信源となっている。

◆統一教会のダブルスタンダード

 統一教会は反共運動の側面を持ち、日本でもアメリカでも保守勢力に加わっている。しかし、鈴木エイト氏が以前の記事で指摘しているように、政治・外交をめぐるスタンスは矛盾している。

 鈴木氏の記事の内容から大雑把にまとめると、統一教会は本国・韓国においては従軍慰安婦問題など日本の戦争責任を追及する立場をとり、日本においてはそれと逆行する保守勢力と強固な人脈を築いている。国際勝共連合その他を通じて、保守系の政治家や活動家とともに政治運動も展開している。

 これと同じことは「共産主義」をめぐる統一教会の立ち回りにも見られる。

 統一教会、本体は宗教団体だが、関連企業や教祖の親族や幹部らが関わる多種多様な企業等を擁するコングロマリットだ。ワシントン・タイムズや世界日報のようなメディアのほか、出版社、薬品・食品メーカー、医療、自動車製造、旅行・レジャー、リゾート開発。これら営利企業以外にも、無数の教育、文化、政治分野の団体を持つ。

 このうち自動車製造やリゾード開発で、統一教会系企業は北朝鮮と関わってきた。「祖国(南北)統一」という統一教会の旗印とは必ずしも矛盾しないが、「反共活動」とは完全に矛盾する。共産主義体制の北朝鮮を相手に商売をしているのだから。

 統一教会の日米での政治活動だけを見れば保守・反共ではある。しかし、統一教会が保守・反共だからという理由で統一教会系メディアの公正さを疑問視するのは早計だ。むしろ、思想や理念もへったくれもなく、それぞれの国の事情に合わせて強い者に食い込んでいくことが自己目的化しているかの如き集団だ。

 左派やリベラルだけではなく、保守・反共勢力にとっても「裏切り者」である。

◆法輪功が嫌われる理由

 法輪功系メディア「大紀元(Epoch Times)」も、大統領選をめぐってバイデン氏の不正等や中国との関わりを書き立て、日本語記事としても配信している。

 法輪功は、1992年に李洪志氏が中国国内で創始した気功集団。中国当局から弾圧され、李はすでに移住している。大枠では気功集団とは言え、仏教等の影響受けたと思われる道徳の学習や実践も含んでおり、一般的に宗教団体と捉えられている。

 法輪功の主張の細部がどこまで事実であるかは置くとしても、中国国内で弾圧され自由や人権を侵害されてきた集団であることは間違いないだろう。しかし一方で、法輪功は「大紀元」その他のメディアや団体名を名乗り、法輪功であることを明示せずに宣伝活動を行う。相手の話を聞かず、押し付けがましく自分たちの主張ばかりぶつけてくる。ゆえに、カルトと呼ぶかどうかはともかくとして日本でも多くの人々から嫌われている。

 私自身、様々な場面で法輪功に出くわしてきた。チベット問題やウイグル問題等に関するシンポジウムや集会、中国の人権問題に関する写真展などでは、法輪功は主催者の許可を取らずゲリラ的に会場に入り込んでビラを配布するなどしており、別テーマで中国の人権問題に取り組む人々から煙たがられていた。

 つい先日は、日本学術会議問題に抗議して首相官邸前です割り込みを続けている女性を取材している最中に、通りかかった別の女性が片言の日本語で話しかけてきた。

「反中共ですか?」

「はあ? 日本学術会議の問題で座り込んでるんですけど。中共なんか関係ない」

 話しかけてきたのは、法輪功信者だ。「大紀元」を手渡してきて、「学術会議は中国の軍事研究に協力してるんですよ!」と言い始めた。甘利明・自民党税制調査会長の発言に端を発してネットで拡散された、これまたフェイクニュースだ。相手の立場や話に一切関心を持たず、一方的に主張を押し付けてくる。

 私の知人で、目付きの悪い(態度も悪いが)弁護士がいる。彼は海外で、法輪功の集団から勝手に「中国の公安(警察)」と勝手に決めつけられトイレで取り囲まれ詰問されたという。

 ある時、また別の知人が、中国の舞踊等のパフォーマンスを観に行くとウキウキしながら出かけていった。しかし終わった後、「宗教だった……」とがっかりしていた。「神韻芸術団」という団体で、公式サイトを見れば法輪功であることは一目瞭然だが、ネット広告などでは全く明示されていない。

 私自身、かなり昔に法輪功の演劇の舞台を見に行ったことがあるが、農民をいじめる共産党幹部が神の怒りに触れ雷に打たれて死に、虐げられた人々がヒャッハ〜!とばかりに大はしゃぎするという逆プロパガンダ演劇だった。

 中国共産党は情報を統制し人々の自由や権利を奪い、それを正当化するプロパガンダに力を入れる。一方で、それを非難する法輪功も、芸術を用いながら情緒的に中国共産党に対する人々の嫌悪感を煽るプロパガンダの手法をとる。しかも、法輪功であることを明示せずに客を集めた舞台で。

◆法輪功メディアの危うさ

 この法輪功的な(むしろ中国共産党的な)カルチャーは、法輪功系メディアの活動において同様だ。以前、アメリカの新聞記者と雑談していた際、法輪功の話題になった。

「彼らはSneaky(卑劣)だ」

 その記者はそう言った。法輪功であることを示さずに、メディアの取材と称して近づいてきて、他人の活動や発言を中国批判のための記事に利用するからだという。

 もう8年も前になるが、自由報道協会という記者会見主催団体(現在のNHKから国民を守る党幹事長の上杉隆が当時代表)が、大紀元から持ち込まれた「中国の臓器移植事件について」というタイトルの記者会見を開催した。事前告知では法輪功との関係は一切示されなかった。それが批判を浴びたからか、自由報道協会は当日の記者会見の場で司会者が「法輪功の支援団体である大紀元からの要請により開催」した会見であることをアナウンスした。

 大紀元と法輪功は形式的には別団体かもしれないが、実質的にイコールだ。日本においても、街頭などで大紀元の配布活動をしている人々は法輪功信者である。以前、日本の大紀元で編集長していた人物(故人)と私は何度か会って話をしているが、彼も法輪功信者だった。自由報道協会による「法輪功の支援団体である大紀元」などという言い回しもまた欺瞞である。

 このように、団体の素性や背景を明示しない法輪功の情報発信には、しばしばうかつな人物や団体が加担してしまう。つい最近も、産経新聞記者を名乗る人物から取材申し入れを受けた日本の研究者が、取材を断ったのに、その記者によって大紀元で「接触できた」などとして掲載されたという問題が指摘されている。〈参照:産経新聞記者によって中国"タブーメディア"に実名を晒された怖い話|President online〉

 そしてつい最近、一時的に法輪功に関わっていたという人から、法輪功にはLGBT蔑視の教義があると聞かされた。実際にテキストを見せてもらったところ、こう書かれていた。

〈今の人は利益に目がくらむばかりではなく、一部の人は悪事のかぎりを尽くし、お金のためならどんな悪事でもやりかねません。人を殺すとか、金で命を買うとか、同性愛、麻薬など何でもやります。人は良くないことをする時、徳を失っていきます〉

 法輪功において同性愛は、殺人や麻薬と同列の「カネ目当ての悪事」なのである。これは『轉法輪 日本語版』の一節。著者は、法輪功の創始者・李洪志氏だ。

 中国当局から深刻な人権侵害を受け、それを非難しつつ、一方で自らは他者の人権や尊厳などお構いなし。それが法輪功だ。

◆宗教系メディアは信頼に足らないのか

 ワシントン・タイムズ、世界日報、大紀元。いずれも問題のある宗教団体と関わりが深かったり実質的に一体だったりするメディアで、極端な反中国共産党の立場から、トランプ氏支持あるいはバイデン氏批判の情報を発信している。

 反共団体だの宗教系メディアだのと言われると、左派やリベラルの人々のみならず、新宗教に抵抗を感じる人が多い日本人であれば自動的に信憑性を疑いたくなるだろうし、それらのメディアを引用する人々を軽蔑したくなるだろう。しかし、個別の事実を確かめるのではなくメディアやその母体を理由に否定するのは、諸刃の剣になりかねない。

 菅首相が日本学術会議の会員候補6人について任命を拒否した問題は、日本共産党の機関誌「しんぶん赤旗」によるスクープが発端だった。

 日本共産党と青年組織「民主青年同盟(民青)」は、民青が事実上同党のいち部門あるいはフロント組織であることを頑なに否定し、共産党との関係を隠し、あるいは偽って、政治活動を行うばかりか大学生等を勧誘する。それはさながら、統一教会が霊感商法を「教団ではなく信徒組織がやっていること」と言い逃れしようとし、国際勝共連合について「統一教会とは別組織」だと言い張るのと全く同じ構図だ。

 そして自己矛盾という点でも、共産党は統一教会を笑えない立場にある。2016年の参院選で、「しんぶん赤旗」がかつて「カルト」と名指ししてきた浄土真宗親鸞会の幹部・柴田未来氏を野党統一候補として推薦。赤旗の紙面でも、柴田氏の素性やそれに対する批判に触れることなく柴田氏を応援した。

 共産党は統一教会や法輪功同様に、信用ならない集団だ。赤旗はそのプロパガンダメディアである。ワシントン・タイムズや大紀元による報道を、その母体への評価を理由に全否定するなら、赤旗だって同じ理屈で全否定されてしまう。

 しかし例えば最近では、日本学術会議の問題は赤旗がスクープしたことで世に示され、ほかの多くのメディアや共産党員ではない人々も注目している。私のライフワークである「カルト問題」に関しても、もともとも赤旗は貴重な報道を積み重ねてきた。赤旗の紙面には、党のプロパガンダとも言える記事も多い反面、一般の報道と比べて引けを取らないどころか抜きん出て価値のある報道もある。

 さすがに統一教会や法輪功のメディアと同列に扱うのは赤旗に失礼だとは思う。しかし、メディアのスタンスや背景を踏まえつつも、個別の報道についてはそれぞれの内容や事実関係を踏まえて評価すべきという姿勢は、全ての団体やメディアに対して同等に向けるべきだ。

 「保守系」「反中国」「宗教系メディア」と呼んで漠然と疑ったり否定したりという姿勢は、それはそれでリテラシーが足りないと言えなくもない。

◆中国の人権問題をめぐる分断

 なぜこんな話に字数を割くのかと言えば、中国の人権問題をめぐる議論が、こうした左右の対立や宗教団体の存在に翻弄されてきたからだ。

 2008年のチベット騒乱を受けて日本でも盛り上がった「フリーチベット運動」は、様々な右派団体や人物が支援したり便乗したりしてきた。当時、在特会と桜井誠氏も、フリーチベット運動に混じって路上で中国を非難して見せた。チベット問題に関わる運動の中には、日本会議や国際勝共連合に関わる人物を中心としたものもある。

 東トルキスタン(ウイグル族)問題についても同様だ。宗教団体も含め、右派勢力の支援や連携が目立つ。日本のウイグル人団体の代表者の日頃のFacebook投稿を読んでいると、もはや日本の右翼団体関係者のように見えてしまうほど、「日本バンザイ」「中国憎し」の連発だ。

 これでは、左派の人たちの参入や応援は、なかなか期待しにくい。だからなお一層、これらのテーマが右派や反共集団のフィールドになっていく悪循環だ。

 右派の中には実際「中国ヘイトをしたくて便乗しているだけ」という勢力もいるだろう。しかし、その流れから来る情報発信を全て「右派・反共集団によるフェイクニュース」と片付けてしまうと、現に存在する中国の人権問題やそれを世に訴えようとしている当事者たちの声をも軽視することにつながる。

 たとえば今回取り上げた法輪功。とうてい信用に値しないし、できれば関わらないほうがいい団体だと思うが、彼らが中国で弾圧されてきた歴史までもがフェイクだとは考えにくい。法輪功をカルトと決めつけることは避けるが、雑な言い方をすれば「カルトにだって人権がある」。法輪功が発信する情報を、多少眉に唾して受け止めるとしても、中国当局による法輪功への人権侵害を看過するわけにはいかない。

 だからこそ、アメリカ大統領選をめぐる根拠のない情報やフェイクニュースをめぐっても、「右派だから」「反共・反中国だから」「宗教系メディアだから」という理由で雰囲気的に全否定すべきではない。

 冒頭で紹介したBuzzFeedの記事に対する私の違和感の理由もこれだ。具体的なメディア名や団体名を伏せて漠然と「宗教系メディア」と伝える姿勢は、「宗教」への情緒的な反感や否定に基づいた判断を招く。具体的にどのメディアや団体の何がどう、どの程度問題なのか。常に具体的な事実に基づいて判断する姿勢が必要だ。

<文/藤倉善郎>

【藤倉善郎】

ふじくらよしろう●やや日刊カルト新聞総裁兼刑事被告人 Twitter ID:@daily_cult4。1974年、東京生まれ。北海道大学文学部中退。在学中から「北海道大学新聞会」で自己啓発セミナーを取材し、中退後、東京でフリーライターとしてカルト問題のほか、チベット問題やチェルノブイリ・福島第一両原発事故の現場を取材。ライター活動と並行して2009年からニュースサイト「やや日刊カルト新聞」(記者9名)を開設し、主筆として活動。著書に『「カルト宗教」取材したらこうだった』(宝島社新書)

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