バイデン氏当選で進む大麻の「非犯罪化」。そもそも「合法化」と「非犯罪化」の違いってなに?

バイデン氏当選で進む大麻の「非犯罪化」。そもそも「合法化」と「非犯罪化」の違いってなに?

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 世界中の注目を集めたアメリカ合衆国大統領選挙。激戦を制したバイデン氏は今後、全米で大麻を“非犯罪化”すると考えられています。

 また同時に開催された各州の住民投票では、アリゾナ州、モンタナ州、サウスダコタ州、ニュージャージー州で新たに“合法化”が決定し、合計15州で嗜好品としての使用が認められることになりました。日本では馴染みの薄い非犯罪化(decriminalization)や合法化(legalization)という概念や両者の違いについて、解説したいと思います。

◆非犯罪化とは何か?

 非犯罪化とは、”違法ではあるが逮捕・投獄などの対象にはならない軽犯罪として扱う“ということです。たとえば日本での未成年のタバコ喫煙は未成年者喫煙禁止法違反ですが、処罰は没収に留まっており逮捕されたり、少年院に送られることはありません。他にも自転車の飲酒運転も、法律上は5年以下の懲役に該当しますが、実質的には非犯罪化されている印象があります。

 非犯罪化の理由を一言で言うなら、逮捕しても誰のことも幸せにしないからです。仮に日本で、未成年喫煙を厳罰化することを考えてみましょう。すると煙草を吸う以外には特に問題行動のない生徒が、煙草だけを理由に少年院に送られたり、退学になることが予想されます。処罰は取り返しのきかない社会的ダメージとなり、中には少年院送りを契機に本格的な反社会勢力のリクルートを受ける子も出てくるでしょう。

 確かに未成年の喫煙には将来的に健康を害するという側面はありますが、厳罰化し逮捕、投獄することは本人にとっても、社会全体にとっても、メリットよりデメリットの方が大きいと考えられます。これは大麻でも同じです。

 先日も東海大学の野球部員が大麻を使用していたということで話題になりましたが、大麻の使用以外に目立った問題行動は認められておらず、事件として表面化しなければ、何事もなく卒業して働き、納税していたのではないかと思われます。一方で、仮に刑務所に入ることになれば、一人当たり年間300万円の経費がかかると言われています。取締や捜査にかかる費用を含め、大麻規制は税金の無駄遣いだと、諸外国では批判されています。

◆大麻の非犯罪化を導入している国と地域

 1961年に麻薬に関する単一条約が国連で採択されたため、国連加盟国は大麻を違法としましたが、犯罪として処罰することのデメリットが認識されるようになり、諸外国では法改正が進み、2020年時点でおよそ50カ国で非犯罪化されています。

(非犯罪化が進んでいるのは大麻だけではありません。ポルトガルでは2001年にヘロインや覚せい剤などのすべての薬物の非犯罪化が実施されました。これまで犯罪者として取り締まっていた薬物使用者を、支援の必要な一人の人間として扱う薬物政策の大転換により、結果的に薬物の使用率は大幅に低下したことが報告されています。2020年秋には、合衆国のオレゴン州で同じく全ての薬物の非犯罪化が住民投票にて賛成多数で可決されました。)

◆非犯罪化から合法化へ

 非犯罪化が個人の権利と幸福に焦点を当てた政策だとするなら、合法化は経済的利益配分のためのマクロな政策と言えるかもしれません。

 非犯罪化されている状況下では、依然として大麻の売買は違法です。そのため、一般的な企業は大麻ビジネスに参入することができませんし、政府も課税することができません。

 この状況を改善するべく、2013年に南米の小国、ウルグアイが世界で初めて、国家として嗜好大麻を合法化しました。この政策を導入したのは、“世界一貧しい大統領”の異名を取るホセ・ムヒカ氏です。この業績によってムヒカ氏は2014年のノーベル平和賞にノミネートされています。

 大麻合法化というと、全ての規制を取っ払い野放しにするようなイメージを受けるかもしれませんが、実際には国主導で管理するという意味合いが強いようです。現在、煙草の流通が法律で管理され、課税されているように、大麻を扱うようになると考えると理解しやすいでしょう。

 2020年11月時点で嗜好品としての大麻の合法化を行なっているのは、ウルグアイ、カナダ、アメリカの15州、ジョージア(グルジア)、ルクセンブルクになります。なお合法化が実施された地域では、過去の大麻所持での犯罪歴の削除が求められ、一部実施されています。

◆合法化のメリットと問題点

 他の地域に先行して合法化を行った州や国では、目覚ましい経済効果が報告されています。全米でいち早く2014年から嗜好大麻を合法化したコロラド州では、合法大麻による税収が5年間で1000億円を突破しました。コロラド州の人口は兵庫県とほぼ同じであり、兵庫県における年間たばこ税の総額が52億円であることを考えると、かなりの金額であることが分かります。

 この税収の増加分をコロラド州は教育インフラの整備につぎ込んでおり、古くなった校舎の改修や地元大学生の奨学金として充てられています。

 2018年に国を挙げて合法化を行ったカナダでは、大麻企業も株式市場に上場が可能となりました。中でも、Paypalの創業者としても知られる大物投資家のピーター・ティール氏が出資した大麻医薬品企業、Tilray社の株価は劇的な高値を記録し、2018年の同社のCEOの給与は約280億円で、テスラ・モーターズのイーロン・マスク氏に次ぐ世界二位であったことが注目を集めました。

 日本の一部識者が指摘するような、合法化に伴う治安の悪化や依存症患者の劇的な増加は現時点では確認されていないようですが、このような明るいニュースの裏では、大企業による独占や課税による価格の上昇も問題視されています。

 特に大企業への不信感は非常に大きなものがあります。2020年10月に行われたニュージーランドの国民投票では、嗜好用大麻の“合法化”は2%の僅差で否決されましたが、反対派キャンペーンの主要な論拠の一つは、タバコのように大企業が扱うことによって、青少年をターゲットにした販売戦略が促進される恐れがあるという点でした。

 今回、“合法化”は否決されましたが、仮に“非犯罪化“という第三の選択肢が提示されていたなら、間違いなく可決されていたと考えられます。

 諸外国の政策転換を受けて、国連も重い腰をあげつつあります。12月2日には、国連麻薬委員会(CND)が大麻の扱いの変更に関する投票を行う見込みです。この結果次第では、大麻は1961年に定められた、“医薬品としての有用性が乏しく乱用性が極めて高い物質”としての分類から外れることになります。

 日本でも大麻の単純所持での逮捕者数は年々増加し続け、年間4000人を超えました。毎年、それだけの数の若者が社会的な制約を課され続けていることを自覚すべきです。

<文/正高佑志>

【正高佑志】

熊本大学医学部医学科卒。神経内科医。日本臨床カンナビノイド学会理事。2017年より熊本大学脳神経内科に勤務する傍ら、Green Zone Japanを立ち上げ、代表理事を務める。医療大麻、CBDなどのカンナビノイド医療に関し学術発表、学会講演を行なっている。

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