最前線から見た、日本の米大統領選不正選挙論。BBQ-BEER-FREEDOMおじさんとその背景

最前線から見た、日本の米大統領選不正選挙論。BBQ-BEER-FREEDOMおじさんとその背景

アメリカのMAGA(トランプ支持者)

 大統領選挙は3日の投票後、7日のペンシルベニア州の当確で、バイデンの勝利で幕を閉じたはずだった。24日には政権移行も開始し、バイデンは選挙の終わりをTwitterでつぶやいた。それでもなぜか、25日になってもトランプ大統領は「不正選挙!」とつぶやき続ける。

アメリカでは過ぎたことになりつつあるこの選挙だが、なぜか日本から沸き起こり続ける不正選挙デマについて現地、NYからリアルタイムドキュメンタリスト、大袈裟太郎が検証していく。

 

◆そもそもバイデンの逆転劇ではなかった

 開票当初、赤い州(共和党地盤)の当確が早々と決まっていく中で、トランプがリードしているとの報道がなされたが、筆者としてはこの報道自体に疑問を持っていた。現在確定したバイデン306対トランプ232という結果ですら、世論調査を元にした私の事前予想との誤差は50州+首都DCの51選挙区のうち、たった2州に過ぎない。

 そして、スイングステートで勝敗が決まることは予想がついたわけだから、確定がもつれることはわかっていた。人口の多い都市部で開票が長引くのは必然であるし、その都市部で青(民主党)が強いのも伝統的に当たり前のことだ。4日間で当確が出たのは私の予想からすれば早すぎるくらいだ。この過程のある時点だけを切り取り、トランプがリードしバイデンが逆転したと報じることは、メディアとして不誠実だと私は考えている。

 今回の結果は世論調査のデータと比較してサプライズと呼べるものではないのだ。それでも選挙直前、そして開票中もトランプ優勢を報道し続けた日本のマスメディアにはやはり疑問が残る。

◆フェイクニュースのもぐらたたき状態

 開票日、深夜。どちらも過半数の270人には到達していない状態でトランプが勝利宣言を行った。この中でトランプが「新しい票を数えるな」と不思議なことを言った。これが犬笛であり、トランプ陣営の不正選挙陰謀論の始まりだったように思える。これ以上開票が進むと自分たちが負けることを見越して、票の集計のストップを匂わせたのである。

 そこから数え切れないほどのデマの嵐が吹き荒れていく。そしてトランプ自身がそれをツイートしていくのだ。(Twitter社から警告を受けながら)

 米国メディアは素早くファクトチェックをするが、この陰謀論者たちの怖いところは、間違っていても謝らない、訂正しない。そしてそのまままた別のデマを拡散していく点にある。デマの波状攻撃、もぐらたたき状態。初めから嘘の伝言ゲームである。そして陰謀論を鵜呑みにしている人々は、既存のメディア自体が信用できないという状態に根本的な思考を乗っ取られているため、いくらファクトチェックしても届かない。ただファクトチェックの重要性というのは狂信的なデマの発信源に対してではなく、それを見て混乱してしまう層へ向けての道標としての機能なのだと今回のアメリカを見て実感している。

 死者が投票した。バイデンが不正選挙組織を作った。中国から大量の票が届いた。投票率が100%超えた。ドイツにあったサーバーを米軍が押収した。ドミニオンが集計を操作した。

 それらは瞬く間にファクトチェックされていった。そしてどの陰謀論にも共通するのが「バイデンはトランプを上回ったが、同じ投票用紙の議会選挙では民主党が苦戦している」という点の説明がつかないことだ。

 デマの発生源はQanon、共和党議員、スティーブ・バノン系メディア、法輪功、統一教会、幸福の科学、などなど、カルト揃い踏みというような有様だった。その辺りの解説は藤倉善郎氏によるこちらの記事に詳しい。

◆BBFおじさんの登場

 会見翌日にはトランプ支持者たちが開票所に集まり圧力をかけ始める。ただ、彼らはバイデンが勝ちそうなミシガンでは「票を数えるな!」と叫び、トランプが勝ちそうなアリゾナでは「票を数えろ!」と叫んだことから、彼らがいかにご都合主義であるかを世に知らしめる珍事となった。

 そしてネバダ州の開票所に彗星のように現れたあるおじさんが時の人となった。会見をいきなりジャックし「バイデンは票を盗んだ!犯罪一家だ!」と叫び、そそくさと去っていったこのおじさんは、着ていたそのタンクトップの文字からBBQBEERFREEDOMおじさんと呼ばれ、不正選挙デマを鵜呑みにする狂信者のアイコンとなった。爆発的に注目され、いじられ、このタンクトップは一時期、販売サイトでも売り切れが続出した。

 このBBFおじさんの存在が、不正選挙論者のイメージを一気に急落させていく。#BBQBEERFREEDOM は瞬く間に世界中にバズり、日本の不正選挙論者のツイートにも貼り付けられ、彼らのイメージは頓珍漢でポンコツな存在として失墜していった。ちなみに来年のハロウィンの仮装はこのおじさんがブームになるとの噂がある。

◆不正選挙開票所の異様な雰囲気

 しかし、笑ってばかりもいられなかった。私が滞在していたペンシルベニア州フィラデルフィアの開票結果がこの選挙の決着をつける場所となったことで、開票所前では「STOP THE COUNT !(票を数えるな)」と叫ぶトランプ派と、「COUNT EVERY VOTE!(すべての票を数えよ)」と叫ぶ人々の警察を挟んでの睨み合いが続いていた。

 苦々しく敵意剥きだしで「バイデンは共産主義者だ!」と叫び星条旗をふるトランプ派と、DJブースからごきげんな音楽を流し踊る開票派。この現場を見ただけでどちらが民主主義者なのかはおのずと理解できる構造になっていた。

 しかし5日の夜、その開票所から徒歩2分半の場所まで銃で武装したQアノンが迫り警察に拘束される事件があった。彼らもやはり「不正選挙」を主張し、開票所の襲撃を計画していたのだ。一寸先は闇。フェイクニュースが殺人にまで直結することを痛感する、現場にいる者として笑えない事件だった。

 7日昼にフィラデルフィアの結果が出て、バイデンの勝利は確定した。

 昼に開票結果を出したのも、夜に出すと混乱が起こる可能性があったためと言われている。フィラデルフィアの街は大騒ぎだった。誰もがこの4年間のストレスから解放されたことを祝っていた。「異常が正常に戻っただけさ」そんなクールだけれど確かな喜びが街に充満していた。

 そして威勢よく振る舞っていた投票所前のトランプ支持者たちも、この後、完全に無視され、4日ほどで誰もいなくなった。案外脆弱なものだ。

 あれから20日がたった。

 結果は両陣営とも最大の得票数だった。これを陰謀論に結びつける人もいるが、全米の人口がこの10年で2500万人増えていることを考えれば当然だろう。蓋を開けてみれば550万票の大差がついた。不正選挙を叫ぶトランプ弁護団の訴えは35件以上が裁判所に退けられ、責任者のジュリアーニは高級ホテルと間違えて似た名前の造園業者の前(ポルノショップと葬儀屋の間)で記者会見をしたり、脂汗で白髪染めが溶けて黒い汗を流したり、ポンコツじみた話題に事欠かなかった。60億円以上とされるこの弁護士費用をトランプは寄付によって集めているが、その用紙には小さく、半額を選挙費用の借金返済に当てることが書かれている。今のうちに支持者から搾れるだけ搾り取ってやろうという悲しき敗北者の姿がそこに垣間見える。信者と書いて儲かるなわけである。

◆そして日本だけが取り残される不正選挙デマ

 本国アメリカで下火になりつつある不正選挙デマだが、日本からはまだまだイキのいいものが届く。(11月25日や29日にも数寄屋橋トランプがんばれ!と冠したデモがあった)4年間フェイクニュースに抗うことをメインテーマとしてきた私としては、これらの存在を点ではなく線で捉える。するとわかってくるのがこの不正選挙デマに加担している人の多くが、その直前はPCR検査不要論を展開した層であり、常日頃、沖縄の基地建設反対運動に対して悪質なデマを広めてきた人々であった。

 しかしHANADAや虎ノ門ニュースなどのネトウヨ勢に、なぜか今回はリベラル、スピリチュアル系の人々が加わっていることも判明している。Qアノンとれいわ新選組支持者の相性が良いことは以前から注目していたが、これほどとは、、、ましてや今回の不正選挙陰謀論は、沖縄の基地反対運動に参加する人々にまで浸透していることもわかってきた。

 次回記事では、日本の不正選挙陰謀論を信奉する人々の類型を、筆者の観察をもとに分類していこうと思う。

<取材・文・撮影:大袈裟太郎/猪股東吾>

【大袈裟太郎】

おおげさたろう●1982年生まれ。本名、猪股東吾。リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り「フェイクニュース」の時代にあらがう。2020年6月よりBLM取材のため渡米。

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