UIとデザイン、機能の進化が生み出す「取り残される人たち」

UIとデザイン、機能の進化が生み出す「取り残される人たち」

Koshiro K / Shutterstock.com

◆「Google系アプリのアイコン、見分けが付かない問題」

 世の中の洋服の流行は年々変わる。それに負けず劣らず、IT系のデザインのトレンドもよく変わる。少し前に、Googleが提供しているアプリのデザインが変わり、みんな似た感じになって、分かり難くなったと話題になった(Togetter)。

 こうした問題に対して、近年のデザインの変遷で説明している記事がある(freshtrax)。まず、1990年代後半に流行した、現実世界の物体の表現をふんだんに取り込んだスキュアモーフィズム。その後、Windows8で多くの人は体験した立体表現を排したフラットデザイン。その行きすぎの反動から出てきて、フラットデザインに若干の立体表現を加えたマテリアルデザイン。そして最近話題になっている平面でシンプルな要素と、現実的立体を組み合わせたニューモーフィズム。Googleのアプリのアイコンは、こうした近年の表現に、カラフルな色を流し込んだものだと言える。

 さて、どうして冒頭のようなデザイン変更による不満が出たのか。多くの人は、Googleのアプリのアイコンを、色と形で認識していた。今回のGoogleの変更では、アプリのアイコンから色という情報が削り落とされて、情報量が減ってしまった。

 「情報量が減ってしまった」と私が感じたのには理由がある。ITの世界では、時間とともにユーザーインターフェースから情報量が減っていく傾向があるからだ。そうした流れを私は目撃してきた。

 今回の変更は、そのうち変更されて、色の情報が戻るかもしれない。しかし、現時点では色の情報が減っている。

 こうした、情報量の減少について、いくつかの事例を紹介した上で、どうしてそうしたことが起きるのか、『めもりーくりーなー』というオンラインソフトを開発していた私の経験を交えて書いていこう。

◆UIとデザイン、経験の積み重ねと複雑化により 切り捨てられる情報

 まず、多くの人が体験したであろう事例を挙げよう。

 Windows という OS がある。この OS には、左下にスタートボタンがある。このスタートボタンだが、1995年の Windows95 の頃には、「Windowsアイコン」+「Startの文字」+「立体のボタン」というデザインだった(Wikipedia)。

 このスタートボタンは、2007年の Windows Vista でデザインが変わる。「Windowsアイコン」+「丸く大きな立体のボタン」になる(Wikipedia)。スタートという文字の情報が欠落したわけだ。まるで「もう既にスタートボタンだと分かっているから、書かなくてもいいよね」とでも言いたげに、機能を説明していた文字情報が削られた。

 このスタートボタンの情報は、2015年の Windows 10 ではさらに減少する(Wikipedia)。「Windowsアイコン」から色がなくなり小さくなる。また「立体のボタン」の表現がなくなり、ボタンであることを伝える枠も消える。

 この「1色で表現された4つの四角」がスタートボタンだと知るには、マウスカーソルをこの上にのせて、「スタート」というポップアップを表示させなければならない。「ここに、スタートボタンがあることは、もう知っているよね。概念としての記号だけ置いておくよ」とでも言いたげに、情報は大きく欠落している。

 同じような情報の欠落は、Windows のウィンドウの右上にある最大化、最小化ボタンでも起きている(Version Museum)。

 最大化ボタンは、古くは「上辺が太い四角形」+「立体のボタン」というデザインだった。しかし、Windows10では、「ただの正方形」になっている。「上辺が太い」という、ウィンドウを表す情報と、「立体のボタン」という情報が欠落している。

 最小化ボタンは、古くは「下寄せの横線」+「立体のボタン」というデザインだった。しかし、Windows10では「ただの横線」になっている。「下寄せ」という、ウィンドウがタスクバーに収納されている様子を表す情報と、「立体のボタン」という情報が欠落している。

 多くのソフトウェアのユーザーインターフェースでは、最初の時点では説明的であり、徐々にユーザーが慣れることによって過剰な情報と感じるようになり、うるさくないように情報が削られる。長く存在するUI部品ほど、シンプルなデザインになり、情報は具体的なものから、象徴的なものに変わっていく。

 このようにデザインがシンプル化して、情報が削られるのには、ユーザーの慣れ以外に、もう1つの要因がある。それは機能の複雑化だ。

◆時間と共に増え、複雑化していく機能

 多くのソフトウェアでは、時間とともに機能が増える。最初は1画面で見せられていた情報が、だんだん1画面に収まらなくなり、画面をはみ出したり、表示を小さくしたりしなければならなくなる。そうなると、情報を上手いこと削り、シンプルに見せる必要が出てくる。ユーザーにとって既知の情報は削られて、象徴的なものになっていく。

 また、この複雑化の影響として、情報は階層構造になっていく。その結果、奥深くに配置された機能を、ユーザーは見付けにくくなる。

 こうした複雑化の圧力が絶えず働くことは、私自身『めもりーくりーなー』というソフトを開発して、機能を追加し続けたことで経験している。最初は、1画面に全ての機能が入っていたが、徐々に複雑化して、設定画面ができ、項目が増え、ボタンからは説明が消えて、頭文字だけが残るようになった。

 では機能を追加しなければよいだろうと言いたくなるが、これはなかなか難しい。機能を追加することで話題が生まれ、ユーザーは増える。ソフトウェアの機能追加は、広報的な側面も強い。何か機能を追加し続けなければ、死んだソフトと見なされるのだ。

 この「慣れによるシンプル化」と「複雑化による階層化」が組み合わさると、初見ではどこに何があるのか分からないユーザーインターフェースが出来上がってしまう。ソフトウェアのユーザーインターフェースは、時間が経つにつれて分かり難くなる圧力を、絶えず受け続ける。

◆坂道と階段、デジタルデバイドの誕生

 こうしたユーザーインターフェースの難解化は、最初からずっと付き合っていれば、それほど苦労は感じない。しかし、新規に使い始めると戸惑ってしまう。

 こうした現象は、坂道と階段のメタファーで表すことができる。坂道をゆっくりと上がっていれば登れる斜面も、階段の各段の高さが異様に高ければ登ることができなくなる。こうした、ユーザーインターフェースによるデジタルデバイドは、これまで電子機器を積極的に利用していなかった高齢者などに存在している。

 画面だけでなく、徐々に増えてきた操作方法も、初見では分からないことが多い。たとえば、スワイプやピンチなどは、誰かがやっているところを見なければ、なかなか気付きにくい。スクロールも、概念を知らなければ難しいだろう。最近は、スクロールバーが省略されるケースが増えてきているために、特に気付きにくくなっている。

 音声入力も、知らなければ画面を見ても気付きにくい。携帯電話からスマートフォンに買い換えた人で、この入力方法を活用していない人も多い。そもそも、存在に気付いていない人も一定数いる。

 そこに音声入力があるのが分かっている人には、ことさら強調しないように入力方法のデザインは簡略化されていく。そのため、シンプルになったあとに手に取った人は、気付かなかったりするのだ。

 アイコンのデザイン変更の話題を見て、デザインの流行以外の要素を感じたので、こうした話を書いた。世の中の多くのサービスは、分かっている人向けに簡略化され、階層化されていく。その変化が一定量を超えると、新規参入者には使いにくいものになる。

 こうしたデジタル機器やソフトウェアの、時間経過による難解化を、今後どう分かりやすく伝えていくかは、念頭に置いておく必要があると感じている。

<文/柳井政和>

【柳井政和】

やない まさかず。クロノス・クラウン合同会社の代表社員。ゲームやアプリの開発、プログラミング系技術書や記事、マンガの執筆をおこなう。2001年オンラインソフト大賞に入賞した『めもりーくりーなー』は、累計500万ダウンロード以上。2016年、第23回松本清張賞応募作『バックドア』が最終候補となり、改題した『裏切りのプログラム ハッカー探偵 鹿敷堂桂馬』にて文藝春秋から小説家デビュー。近著は新潮社『レトロゲームファクトリー』。2019年12月に Nintendo Switch で、個人で開発した『Little Bit War(リトルビットウォー)』を出した。

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