育休取得率0%の男の職場でイクメンを増やした方法とは

育休取得率0%の男の職場でイクメンを増やした方法とは

画像はイメージ(adobe stock)

 厚生労働省が男性の育児休業取得率の向上や子育てへの参加を推進するために発足した「イクメンプロジェクト」は今年で10年目を迎える。

 いわゆるイクメンという言葉自体は広まりつつある一方、企業によっては育児休業の制度が形骸化している側面もある。「キャリア」と「育児」の両立がないがしろにされたり、十分な育児休業期間を取得できなかったり。

 企業側が子育てしやすい職場環境づくりや制度設計を推進しなければ、イクメンとは名ばかりなものになってしまうだろう。

 そうしたなか、厚生労働省が毎年開催している「イクメン推進シンポジウム」が今年も11月20日に行われた。

◆男性の育休取得率が0%から30%に

 シンポジウムでは、男性社員の仕事と育児の両立を推進する企業を表彰する「イクメン企業アワード」のグランプリが発表された。36社の中から選ばれたのは積水ハウスと技研製作所だ。

 建設工事に携わる技研製作所は男性社員が8割以上を占めており、2008年〜2018年度までの10年間男性育休取得率は0%だった。そのような状況を変えるため、アンケートによる意識調査の実施を行い、また社内イントラネットへ育児休業取得マニュアルや育休取得後の収入予測ツールを載せ、男性社員が育休を取得しやすい環境を整備した。

 さらに、役員自らが「男性育休取得推進宣言」を行い、全社を上げて育児休暇を申し出にくい職場環境の改善に取り組んだ。

 その結果、男性育休取得率は30%にまで上昇し、さらに平均取得日数も110.2日と非常に高い水準だったことがグランプリ受賞の決め手となった。

◆収入減や同僚の負担が増えることを懸念

 技研製作所は、どのようにして育休取得率を急上昇させていったのか。

 同社の溝渕千賀氏は「配偶者が出産しても、男性はそのまま働くことが常態化していた社内背景が、プロジェクトを発足してイクメン推進を図るきっかけになった」と話す。

「2008年〜2018年度までの10年間、男性の育休取得率は0%で、男性が子育てに参加するということとは無縁でした。

 その理由としては、男性が仕事を休んで子育てする文化が社内に根付いていないこと、また育児休業を取得することでのメリット・デメリットが可視化されていないこと、収入面や復職した後のキャリアに対する不安が残ることなどがありました。育休を取得したくても申し出にくい職場環境になっていたんです。

 こうした状況を打破すべく、まずは男性育休取得の課題を洗い出すために意識調査を実施しました」

 全社員を対象に男性育休に関する知識や意識調査を行ったところ、子供を持つ男性社員の大半が「思い返せば育休を取得した方が良かった」という考えを持っていたことが判明。

 さらには、育休取得による収入減や同僚への仕事の負担増を懸念し、育休取得に踏み切れないといった課題が浮き彫りになったという。

◆育休取得しやすい風土を作るには社員の意識改革が大切

「こうした率直な意見や要望を吸い上げ、可視化できたことで次のアクションに繋げることができた」と溝渕氏は語る。

「『育休を取ることで、家族を支えるための収入が減ってしまうのでは』という不安を払拭するため、国から支給される育休給付金額を簡単に計算できる独自の育休給付金シミュレーションツールを作りました。収入の変化を把握し、育休後の生活の見通しを立てやすくしたことで、安心して育休取得ができるよう配慮したんです。

また、育休の取得手続きマニュアルやQ&Aなども社内イントラネットに掲載し、育休を取得しやすい社内の雰囲気を作ることに尽力しました」

 そして、職場環境の整備のみならず社員の意識改革に着手したことも、男性育休取得率が改善した要因に挙げられる。

「育休取得対象者の男性社員には、キャリア面での不利益は被らないこと、配偶者の負担を軽減するために育児参加は重要であることを説明しました。上司に対しては部下の育休取得に対する理解や、育休取得することの意義について訴えたことで、誰でも育休を取得しやすい社内風土の醸成に繋げました」

 これらの取り組みが総合的に評価されてのグランプリ受賞となったわけだが、パネルディスカッションに登壇した静岡県立大学の国保祥子准教授は、「製造業という業種で、男性が110日間も職場を不在にしても仕事が回るというのは、並大抵のことではできない」と高評価を口にした。

「育休取得期間が1週間くらいであれば、周りのメンバーがちょっと頑張ればカバーできるかもしれないが、3ヶ月超も職場を離れた場合はそうもいかない。仕事の見える化や業務効率化をしっかりと行い、育休取得社員の業務の引き継ぎや業務を任せるための人材開発など、全てが相成って今回の結果に繋がったのだと思う」(国保氏)

◆コロナ感染拡大の影響は?

 働き方改革の文脈に沿って男性の育休取得促進が語られる中、今年は新型コロナウイルスによって未曾有の状況に転じた。イクメン推進に積極的な企業はどのようにワークスタイルをシフトさせ、柔軟に対応しているのだろうか。

 技研製作所はテレワークを実施することで家事と育児のバランスを保てているという。「通勤時間を削減できた分、家事や育児に充てる時間が増え、ワークライフバランスに繋がっている」(溝渕氏)

 ライフステージの変化に応じた柔軟な働き方、子育てしやすい企業風土、男性の育休に対する意識改革など、イクメンを取り巻く環境は10年前と比べて変化している。

 ただ、今回の受賞企業の取り組みは一例であり、世界から見た日本の男性育児休暇取得率の低さを考えると、より多くの企業が男性の育休取得を理解し、実践していくことが今後求められるのではないだろうか。

<取材・文・撮影/古田島大介>

【古田島大介】

1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。

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