「中華航空(チャイナ・エアライン)」も見納めに?新型コロナで進む台湾の「脱CHINA」

「中華航空(チャイナ・エアライン)」も見納めに?新型コロナで進む台湾の「脱CHINA」

中華航空/チャイナ・エアラインの機体(高雄市)。

 台湾のフラッグキャリアであり日本人にもなじみが深い「中華航空/チャイナ・エアライン」(本社:台湾・桃園市、華航)が、新型コロナウイルスの感染拡大の影響により大きく揺れている。

 経営問題が明るみになったなどではないにも関わらず、コロナ禍が原因で永年親しまれた「中華航空/チャイナ・エアライン」という名前自体が消えてしまう可能性が高くなったのだという。果たしてその理由とは――。

◆新型コロナで揺れる「台湾を代表する翼」

 中華航空は1959年に中華民国の政府系航空会社として設立。2020年現在、マンダリン航空(華信航空)、タイガーエア台湾(台湾虎航)を傘下に持つ「台湾を代表する翼」だ。

 1993年に民営化され株式を上場したものの、現在も政府系(財団法人中華航空事業発展基金会・行政院国家発展基金管理会)が株式の多くを保有するなど、その経営には台湾政府が大きな影響力を持っている。

 その中華航空の「名前が消えてしまう」というのは、すなわち「政府の意向で改名させられる」ということだ。

「中華航空/チャイナ・エアライン」は一見すると台湾の航空会社であることが分かりづらく、そのためこれまでも何度か「台湾」を表す名前への改名が検討されてきた。

 しかし、改名をおこなうには塗装の変更など多くの費用がかかるうえ「航空会社」という業種ゆえに、改名によって中華人民共和国や親中国国家との関係が悪化すれば経営に大きな影響があるとして棚上げ状態にあった。

◆コロナ禍で大きく動いた「改名」問題

 永年「棚上げ」であった改名問題が大きく動くきっかけとなったのが、冒頭で述べたとおり「新型コロナウイルスの感染拡大」だ。

 台湾は世界で最も新型コロナウイルスの封じ込めに成功したことで知られている。4月以降の感染者は殆どが海外からの帰国者やビジネスなどでの来台者で、それらを含めても総感染者は11月現在で600人台。こうした「ウイルス封じ込め」は国際的に注目を浴びているにもかかわらず、中華人民共和国の影響力が強い世界保健機関(WHO)からは実質的に締め出されており、中台間の溝は深まるばかりである。

 そうしたなか、台湾が危惧しているのが、台湾内にある「中国」「中華」や「CHINA」を冠した企業や団体、そして「中華民国」政府自体が新型コロナウイルスの発生源とされている「中華人民共和国」と間違われ、国際社会で不利益を被ることだ。

◆すでに新塗装機体の目撃情報も

 もともと「中華民国」は中国国民党が中国大陸での内戦に敗れたことで拠点を台湾に移した政府であり、台湾には歴史的経緯から政府系を中心に「中華」「中国」を冠した企業や団体が複数存在する。日本では、「中華人民共和国」と台湾を統治する「中華民国」が異なった政府であることは周知の事実だが、英語表記が「CHINA AIRLINES(チャイナ・エアライン)」である中華航空は、中国の航空会社であり英語表記が「AIR CHINA(エア・チャイナ)」である中国国際航空(本社:中国・北京市)をはじめとした中華人民共和国の航空会社と混同されることも多かったという。

 台湾政府は、とくに新型コロナウイルスの感染拡大後に中華航空が中華人民共和国の航空会社と間違われることで実際に大きな不利益を被ったとしており、4月には蘇貞昌・行政院長(日本の総理大臣に相当)がこれを問題視。7月には、台湾立法院(国会)で中華航空の名称を正すための法案が通過するに至った。

 11月には米国内で「CHINA AIRLINES」の表記が機体端にかなり小さく書かれた「新塗装」の機体が目撃されているといい、「いよいよ改名準備か」との声が聞かれている。

◆新型コロナで一気に加速する台湾の「脱CHINA」

 台湾政府による「脱CHINA」の動きは中華航空のみに留まらない。

 台湾立法院では、中華航空の名称問題に合わせて台湾のパスポート(旅券=護照)から中華民国の英語表記「REPUBLIC OF CHINA」の文字を外す決議案も通過。9月に発表された新デザインでは、「REPUBLIC OF CHINA」(中華民国)の表記は残されたものの、その文字サイズはかなり小さくなり、「TAIWAN」(台湾)の表記が目立つものとなった。このパスポートのデザイン変更も「新型コロナウイルスの感染拡大後に中国人と間違われて実害を被った」という、複数の海外在住台湾人団体からの要請を受けてのものであったという。

 新型コロナ以前から、現在の台湾与党・民進党(民主進歩党)は将来的に国号から「中華/CHINA」の文字を外して「台湾/TAIWAN」の文字を入れるという「台湾正名政策」を掲げていた。2007年2月には、民進党で初の台湾総統となった陳水扁氏がその一環で郵便組織「中華郵政」を「台湾郵政」と改名。しかし、2008年に中国国民党所属で香港出身の馬英九が総統に選出されると、自身の切手が発行されることに合わせて名称を「中華郵政」へと戻している。このように「台湾正名政策」「脱CHINA」は時の政権の意向や中国の圧力などにより大きな影響を受けてしまうため、「一進一退」が続いていた。

 こうした状況のなか、新型コロナウイルスの感染拡大は「台湾正名運動」を大きく後押しさせることへと繋がった。

◆他の台湾企業にもこの流れは広がるか?

 台湾では、中華郵政のほかにも中華電信、台湾中油(陳水扁総統時代に「中国石油」から「中油」に改名)、中国鋼鉄、中国信託商業銀行(東京スター銀行を傘下に持つ)など、官系・民系を問わず「中国」「中華」「CHINA」を冠する台湾企業や団体がまだ多くある。

 今後も台湾の「脱CHINA」が加速することは間違いないとみられ、数年後、日本人が再び台湾に気軽に行ける時代に戻ったときには「以前と違う名前の飛行機」に乗り、空港で「以前と違う名前の携帯電話会社のSIM」を挿入することになるかも知れない。

<取材・文・撮影/若杉優貴(都市商業研究所)>

【都市商業研究所】

若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken」

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