11月時点で19人が暗殺! メキシコのジャーナリストにとって2020年は最悪の年となった

11月時点で19人が暗殺! メキシコのジャーナリストにとって2020年は最悪の年となった

Photo by Jair Cabrera/NurPhoto via Getty Images

◆今年11月までにジャーナリストが19人暗殺されたメキシコ

 麻薬組織カルテルと犯罪グループが蔓延るメキシコでジャーナリストが暗殺される事件が多発している。スペイン紙『El Pa?s』メキシコ支局からの11月25日付報道によると、今年は11月の時点で19人が暗殺され、これはこの10年間で最大の記録だという。また暴行事件も今年は224件となってこれも2015年以来最大の件数となっているそうだ。

 更に同紙は2010年から数えると138人のジャーナリストが暗殺されている、と指摘している。その内訳は13%が女性、87%が男性となっている。暗殺事件が多発しているのはベラクルス、オアチャカ、ゲレロ、タマウリパス、チウアウアの5つの州だと報じた。

 例えば、ベラクルス州の例を挙げると、この15年間で27人が暗殺され、6人が行方不明になっているとスペインを代表する通信社『EFE』の情報を電子紙『20Min?tos』(9月19日付)が伝えている。

◆政治家とカルテルの癒着を報じることへの報復

 ベラクルス州はカルテルのひとつロス・セタスが勢力を張っていたところであった。ところが最近は5つのカルテルが同州でも縄張り争いを拡げるようになり、カルテル同士の戦いや政治家との癒着などを報道しようとするジャーナリストがその犠牲になっているということだ。

 また警察も信頼できない。カルテルと癒着して安い給料を補う形でカルテルの犯罪を隠れて支援している警察も多くいるからだ。

 ゲレロ州の場合だと、2000年から数えると25人のジャーナリストが殺害されていることを『EFE』(10月17日付)が報じた。さらに同通信は今年8月には地元電子紙「Iguala PMニュース」の発行責任者パブロ・モルガレスが暗殺されたことを取り上げて、彼は「ジャーナリストを守る人権保護組織」から保護を受けていたにもかかわらず暗殺された、と報した。

 パブロ・モルガレスは死の脅迫を受けていたからこの保護組織に加盟していた。しかし、一度脅迫されるとそれが必ず実行されるというジンクスを前に、ジャーナリストの一人、匿名希望者は「私の人生は全く変わってしまった。今では人生を生きがいのあるものにすることを考えるようになっている。そして私の息子たちと愉しむことだ。私のプランは家族を連れてメキシコを離れることだ。私の家族を犠牲にするような危険は冒したくない」と同通信の取材に答えたことも掲載されている。

 ゲレロ州で活動しているカルテルと犯罪グループはロス・ゲレロス・ウニドス、ロス・ロホス、ラ・ファミィア、カルテル・インデペンディエンテ・デ・アカプルコ、ロス・マルキナ、カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンで、彼らの間で縄張りを争っている。特に、カルテル・ハリスコ・ヌエバ・ヘネラシオンというのは急成長しているカルテルで、もともとカルテルシナロアの分派だった組織で最も狂暴なカルテルだとされている。

◆「ジャーナリストになることは歩く死人になること」

 その一方で、収監されて拷問も受けた経験のあるジャーナリストのペドロ・カンチェは「彼らは我々を絶滅させようとしている。ジャーナリストになるということは歩く死人になることだ。我々は死の宣告を受けている。しかし、犯罪によって死ぬのではない。我々の務めである仕事をしたことによって死ぬのだ」と語っていたことが2017年5月の地元電子紙『SinEmbargo』で掲載されたが、真実を伝えるという使命感を強くもったジャーナリストもいる。

 同様に麻薬について権威的な存在だったジャーナリストのハビエル・バルデスは彼の同僚だったミロスラバ・ブリーチが暗殺された時に、その翌日ツイッターで、「ミロスラバは詳しく報道するので暗殺された。地獄のことを報道するというのが罪で死の判決が下されるのであれば、我々全員を暗殺したらどうだ。沈黙することなど御免だ」と開き直って綴ったのも同じく同電子紙の同月別紙で掲載されている。しかし、彼もその後暗殺されてしまったという……。(参照:『SinEmbargo』)

◆労働条件も過酷なメキシコのジャーナリスト

 ジャーナリストに注意を払い保護する為に国が運営している委員会が200人のジャーナリストを対象にしたアンケート調査したところ、彼らの80%が8時間以上の勤務をしていると答え、週末に休むことは少ない、残業手当を支給されているのは8%、バケーションを取っているのは24%と答えたことも前述の『20Min?tos』が報じている。そして、73%のジャーナリストが平均給与として7500ペソ(3万9000円)しか受け取っていないことも明らかにした。

 このように給与が低いので、一人のジャーナリストが例えば4社の報道を兼ねて働いたり、または副業で働いて収入を増やすというのは一般化しているという。

 もともと、メキシコは労賃が低い国としてよく知られている。これは政府の政策によるもので、また労働組合も昇給を要求するための力がない。労賃の安さが外国からの企業の進出を容易にさせて米国への最大の輸出国となった要因でもある。

◆資金不足のジャーナリスト人権保護組織

 テーマをジャーナリストが受ける脅威という点に戻すと、2年前の2018年9月の地元電子紙『Animal Pol?tico』がメキシコでは10人のジャーナリストの内の8人が脅迫を受けた経験があることを指摘している。だから、事実を隠すことなく報道するということに困難を伴うことが多くあると指摘している。隠すことなく報道するという行為は自らの死を意味するようになる可能性があるからだ。脅迫には電話、ワッツアップでのメッセージなどを介して知らせて来るそうだ。

 電子紙『Niusdiario』(11月26日付)によると、2018年12月にアンドレス・マヌエル・ロペス・オブラドール(アムロ)が大統領に就任して以来現在まで38人のジャーナリストが暗殺されているそうだ。

 その内の6人は「ジャーナリストを守る人権保護組織」に加盟していた。現在までこの組織に加盟しているジャーナリストは798人いると報じている。

 しかし、この組織への予算は十分ではなく、加盟者を十分に保護できていないのが現状だという。だから、それぞれジャーナリスト自身が注意して行くしかない。しかも、アムロは就任してからそれまでの大統領と比較してカルテルや犯罪グループへの取り締まりを緩めた。彼らへの取り締まりを緩める代わりに彼らの方で自主的に無用な犯罪を避けるように対話を強調しようとしたからである。しかし、犯罪グループにそのような方針を示しても彼らは逆にそれを悪用して犯罪をますます過激化させていった。それに気づいたアムロは軍隊と警察から優秀な隊員を募り、彼らのを給与も上げて編成した防衛隊を組織したが、まだその組織力は十分に発展しておらずカルテルらとの戦いにも十分な成果を挙げていないのが現状だ。

 メキシコのもう一つの問題は犯罪が起きてもその証拠を集めることが容易ではなく、公判に持ち込めない、あるいは公判になっても証拠不十分で容疑者が処罰されないというケースが8割以上あるということだ。

 イグアラ市で2014年に起きた43人の学生が失踪したという事件について証拠不十分で未だに公判を開くことができないでいる。これには同市の当時に市長そして警察がこの事件の犯罪に絡んでいるのは明白だとされているが、6年経過した今もそれを裏付ける証拠が揃わない状態のままである。

<文/白石和幸>

【白石和幸】

しらいしかずゆき●スペイン在住の貿易コンサルタント。1973年にスペイン・バレンシアに留学以来、長くスペインで会社経営から現在は貿易コンサルタントに転身

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