コロナで学園祭がない中、開かれた「ニセ」学園祭。なぜ彼らは「反自粛」を掲げるのか。

コロナで学園祭がない中、開かれた「ニセ」学園祭。なぜ彼らは「反自粛」を掲げるのか。

筆者も東京で主催するサークル「大学のお水飲み比べサークル」で企画を出展。関西の学生と多くの交流が生まれた。

 コロナ禍で、学園祭の中止やオンライン開催、無期限延期などが相次いでいる。「自由の学風」で知られる京都大学も例外ではなく、学園祭事務局の奮闘もむなしく7月25日に学園祭の自粛(予定日程での開催取りやめ)を発表。SNS上では、多くの学生の落胆の声が見られた。しかし、そこは反骨精神ある京大生。京大生有志により前代未聞の「ニセ学園祭」が開催され、有名バンドや京大外の団体も巻き込み一大イベントとなった。

◆前代未聞の学園祭、「ニセNF」の盛り上がり

 毎年11月に行われる京都大学の学園祭は「November Festival」の略称からNFと呼ばれる。そのNFの「ニセ」ということでイベント名は「ニセNF」。開催日は本来のNFが開催される予定だった11月19日―22日だ。京大外の団体でも企画を出せると聞き、東京の大学でサークルを主催する筆者も大学の友人らと会場の京大熊野寮フットサルコートに向かった。

 出展数は30近くに及び、大勢の来場者で賑わう。Twitterで1万人のフォロワーを持ち、テレビなどでも取り上げられている「クジャク同好会」、数年で2000冊以上の会誌を売り上げている「サークルクラッシュ同好会」など京大らしいユニークな名物サークルが出展している。

 また、大阪大、京都芸術大、同志社大、上智大など他大学サークルの出展もちらほら。さらに、近所の古物商が露店を出したり、陶器市が始まったり…とまるで地域のお祭りのような雰囲気まで。まさにカオスな空間だが、どの出展者もお互いの団体に興味を持ち交流が盛り上がっていた。大学の友達とだけ話して終わってしまいがちな実際の学園祭より、人とのつながりを作れる場所になっていると感じる。

◆感染症対策やハラスメント対策も

 感染症対策に不安をも持つ読者も多いだろうが、入り口で配布されるパンフレットには「アルコール除菌スプレー/ジェルの設置」「参加者全員へのマスク着用の推奨」などの感染防止策が明記されている。実際、受付に設置された除菌スプレーは入場者から利用されており、同時期に行われていた各地のイベントと同程度の感染症対策は行われていると感じた。

 また、パンフレットには、ゴミの分別、ハラスメント対策ポリシーなどの注意事項が詳細に明記されており、学生がゼロから作り上げたイベントとは思えないほどしっかりしたトラブル対策が行われていることが見て取れる。

 出店で提供される甘酒、たこ焼き、釜飯などに舌鼓を打っていると、中央ステージでバンドの演奏が始まった。人気バンド「マキシマムザホルモン」のコピーバンドや、前衛的なノイズバンド、京大一年生の有志バンドによる演奏などが続く。サークル活動自粛でライブの機会を失っていた一年生にとって、この演奏は貴重な機会だっただろう。フジロックなどにも出演している人気のインディーバンド「本日休演」も登場し、場を沸かせた。入場無料で急ごしらえのイベントに関わらず、プロの人気バンドを呼べるのは運営スタッフの尽力あってのことだろう。

 4日間続いた「ニセNF」は、延べ1000人近くの来場があったという。東京や大阪からも参加があり、コロナ禍で社会から消えている豊かな人と人との交流が広がったといえる。まさに京大的な自由さを体現したイベントだった。

◆ニセNFのテーマは「反自粛」

 公式HPによると、ニセNFのテーマは「反自粛」だという。なぜ今、反自粛なのか。そして、なぜ、ここまでのイベントを作り上げる理由があったのか、京都大学ニセNF実行委員長のホリィセン氏に話を聞いた。

「ニセNFは『手作りの場』を取り戻したいと思って企画しました。京都という町は、様々な文化芸術活動が『手作り』的に作られる町でした。『手作り』感のある個人経営の飲食店や雑貨屋、古本屋などが密集し、そこでの人の出会いが町の魅力になっています。コロナで失われてしまったそれらを取り戻すのが開催した理由です。なので京大のイベントというより、京都のお祭りとして開催しています。」

 イベントでは、地域のお店や幅広い大学からの出展もあり多くの新たな人との交流が生まれていた。まさに、狙い通りの空間だ。コロナでお客さんが離れている地域のお店にとっても追い風になっただろう。しかし、「反自粛」というテーマまで掲げるのは反発もありそうだ。

「反自粛を掲げるのは、社会の過度な自粛ムードに対してバランスを取るためです。感染対策をすることは必要ですが、居場所や経済活動とのバランスも考えるべきです。コロナ対策では特定の人々が優先され、若者や家庭に居場所のない人々、大学生など対面での接触を必要とする人々はないがしろにされているように思います。もちろん、人命の重さを考えれば感染対策は必要です。しかしそのうえで、ないがしろにされてきた人々の立場のことも考えるべきだと思います。以上より、社会のバランスを取り戻す一助となるために『反・自粛』を掲げています。」

 どの程度の自粛が社会にとって必要か、答えを出すのは難しい。様々な考え方があるだろう。しかし、緊急事態宣言中ならともかく、今は各種イベントについては感染対策をした上でなら行われるようになってきている。会社やお店も、一時期に比べればかなり対面活動が復活している。

 しかし、大学においてはそうではない。大学生は未だほとんどがオンライン授業。サークル活動も厳しく制限され、大学最大のイベントである学園祭は軒並み自粛させられた。大学生は多くの貴重な機会を失っており、「ないがしろにされている」といっていいだろう。

◆背景にある大学の管理強化

「そもそもの話なんですが…。『NFはコロナのせいでなくなった』とは言えないと思います。直接的にはそうですが、以前から大学側の管理は強まっていました。去年のNFは飲酒が禁止になりましたし、4日間開催も潰されそうになっていたんです。大学の管理強化と、私たちが問題に思っているコロナ禍の自粛要請による管理社会化は繋がっていると思います」

 京大では近年、学生の自由な表現方法の一つであった立て看板が禁止されたり、学生の自治によって運営されていた吉田寮に対して大学が立ち退きを命じるなど、大学側の急激な管理強化によって学生との衝突がううまれている。

「京大は、たしかに自由の学風でした。世間の大学が就職予備校化する中で、京大だけは常識的な価値観から逃れられる最後の砦だったといっていいでしょう。しかし、京大も管理社会化の波にのまれ、東大に対抗できるような魅力のない大学に成り下がろうとしています。だからこそ京大の自由さが体現されるイベントだったNFを乗っ取り、管理社会化に抵抗したいという思いもありました。」

 大学生が反自粛を掲げて、勝手に学園祭を開催した。それだけ聞くと、いかにも世間から批判を受けそうだ。しかし、本当に批判されるようなイベントだったのだろうか?

◆閉塞感のある時代に希望を与える「ニセNF」の成功

 ニセNFパンフレットの1ページ目に記載されている、京都大学教授の藤井聡氏の推薦文にはこう書かれている。

「本学は正式にNFを取りやめる決定が下されましたが、本学が発出しているガイドラインの範囲内での学生生活はもちろん、本学として禁止するものではありません。そして、京都大学の校風である学問における自由、そして学問の多様性実践性総合性を鑑みるなら、その範囲での活力ある学生活動は大いに奨励されて然るべきものであります。

 『ニセNF』なる企画が、感染拡大防止について本学が求める十分な対策を図りつつ、旺盛な学生活動の一プロジェクトとして大いに盛り上がることが、学問の本来的な多様性実践性総合性を踏まえた京都大学の学問の自由の気風を大いに継承しつつそれを加速し、活性化し、次世代へと継承されていく機会となりますことを、心から祈念致します」

 現役の京大教授がこう記すように、ニセNF自体はルールに違反するようなイベントではない。むしろ、大学生が理念をもってゼロから大きなモノを作り上げたという点で、旺盛な学生活動の模範とも言える。その意義は、コロナ禍で自粛ムード一色の社会に風穴を開けるようなイベントだったというだけではない。

 既に述べた通り、「自由の学風」と言われた京大ですら急激な管理強化が進んでいる。社会全体が管理社会化していると言われるが、かつて「学問の自由」の名の下に自由な学生の文化活動が許された大学も窮屈な場所になりつつある。

 その中で、上から押し付けられたものではなく学生がゼロから生み出したニセNFの成功は「自由がないなら、自分たちで別の自由を生み出せばいい」という例を示してくれている。学園祭の予定日程での取りやめ発表から、ニセNF開催までたったの4か月。ニセNF実行委員は誰からもお金をとることなく、運営者や参加者の友人からの機材や宿泊所の提供、カンパなどの協力によって開催にこぎつけた。コロナ禍で何も出来ない状況に陥ってる大学生でも、これだけのことが実現可能なのだ。今の時代に閉塞感を感じている若者や大学生に、大きな希望と刺激を与える存在だったといえる。

<取材・文/茂木響平>

【茂木響平】

ライター・イベンター。大学のお水飲み比べサークル会長。現在、上智大学4年生。面白そうな場所に顔を出していたら、なりゆきでライターに。興味分野はネット・大学・歴史・サブカルチャーなど。Twitter:@mogilongsleeper

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